異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
リッターくんが顔を上げる。「すまない。お前達にまではじをかかせることに……」
ユス商会のひとは顔色が悪い。
エンバーダートにファバーシウス、どちらもシアイルにまで名前が通っている(不勉強を自称するユラちゃんも知っていたし)。その二家の子女にまではじをかかせたとなれば、顔色くらい悪くなるだろう。
ユス商会のひとは床へ這いつくばる。「申し訳ございませんでした!今後、誠心誠意応対させて戴きます!」
「まあ、図々しい」
ジーナちゃんがぼそっと云った。「今後があると思っているのかしら……」
「マオさん、どうするんですか?」
サキくんがにこっとして訊いてきた。俺は首をひねる。
「えと。リッターくんは別に悪くないと思うし……俺としては、昆布とかつおぶしがちゃんと買えるならそれでいいんだけど」
「すぐにも用意いたします!まことに申し訳ございませんでした!」
ユス商会のひとはそう云って立ち上がると、走って出て行った。
リッターくんがゆっくり立ち上がる。頭を下げられた。
「寛大な言葉、感謝する」
ううん、と頭を振った。実際、昆布とかつおぶしを買えるのならなんでもいい。
ミューくんがリッターくんに恢復魔法をかけた。「あの格好は膝によくないよ」
「……ありがとう」
リッターくんがミューくんの手をとろうとすると、ジーナちゃんとサキくんで間に割り込む。「リッター、あなたね」
リッターくんが首を傾げる。サキくんは苦笑い。
「あ、リッターくん、朝ご飯は?食べた?」
「……食べていない」
こいつ。
サキくんとふたりがかりで、両腕を抱え込むみたいにしてリッターくんを連行した。厨房へと引き摺っていく。「リッターくん、ほんとに、何度云っても改まらないよね」
「すまん。今朝方、ユス商会でのことを聴いて、驚いて飛び出してしまった」
「リッター、人間は飲み食いしないと死ぬんだよ」
サキくんの云うことはただしい。リッターくんは仙人じゃないんだから、かすみを食べるって訳にもいかないんだぞ。
厨房にリッターくんを連れこんで、椅子に座らせた。トレイをテーブルへ置く。「はい、食べて」
「ああ……ありがとう」
「そうだ、これあげる」
お握りを包んだへぎをとりだす。「お握りだよ」
リッターくんが包みを両手で押し戴いた。お握りめちゃめちゃ好きなんだな。
ついでに、サキくんとミューくん達にもご飯を用意した。リッターくんは端っこの席に着いていて、その隣がサキくん、その隣がミューくんだ。サキくんはジーナちゃん同様、ミューくんとリッターくんの間に積極的に割り込んでいる。うーん、リッターくん誤解されてるよ。リッターくんがミューくんと仲好くしたいのは、友達としてだもの。サキくん、リッターくんが、ミューくんとジーナちゃんの邪魔になると考えてるんじゃないかな。