異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
サキくんの予測は的中した。ユス商会のひとがもの凄く狼狽えたのだ。「ろ、ろ、ろ、ロヴィオダーリ卿……」
「この通りだ。ゆるしてもらえるとは思っていない。それで気が済むなら罵るなり魔法をかけるなりしてくれ」
え、これ俺どうしたらいいの。やべー、俺がなにしたらいいのか解らない。それにしてもリッターくん、役者だな。
ジーナちゃんがかすかに顔をしかめている。
「まあ、なんてみっともないのかしら。ロヴィオダーリ卿、なにがあったのかは存じませんけれど、時と場所を弁えてはいかが?大体、家を代表して謝るなんて」
「それほどの過ちがあった」
「過ちときたか」ミューくんが肩をすくめる。「ロヴィオダーリ卿、マオさんにどんな無礼を働いたんだ?」
「料理に必要なものをユス商会で買えるよう手配すると約束したのに、できなかった」
あ、ジーナちゃんがミューくんの腕をつねってる。どうして?
「あら、ロヴィオダーリ家と謂えど、それくらいのこともできないのね……それにしても約束を違えるなんて、信じられないわ」
「ああ、まったく、不愉快な話だね」
「無礼で、失礼で、マオをばかにしているわ……」
「マオさん、こんな無礼を働かれたら、謝られてもゆるすことはありませんよ。これが家と家との約束だったら、戦いが起こってもおかしくはない」
「まったくその通りだ」リッターくんが頭を垂れる。「面目ない」
ジーナちゃんが考えこむように宙を見る。
「それにしても、どうしてそんなことになったのかしら。あなたがそんなにいい加減で不誠実な人間だとは思えないのだけれど」
「慥かに彼は真面目なやつだね」
「そうでしょう?おかしな話だと思うわ」
ミューくん達は少々声を高くして、まるでまわりに説明するみたいに云った。リッターくんは俯いたままだ。「いいわけになるようなことは云えない。なんにせよ、約束を違えた。それはロヴィオダーリ家に責任がある」
「ロヴィオダーリ卿、お、おやめください」
あわあわしているだけだったユス商会のひとが、震える声で云って、俺の前に両膝をついた。「ロヴィオダーリ家にはなんの責任もございません、悪いのは手前どもユス商会で」
ミューくん達が冷ややかにそれを睨んだ。
「申し訳ございません、ロヴィオダーリ家レフオーブル家より依頼があったにもかかわらず、手前どもの怠慢で追い返すような無礼を働くことに」
「まあ」ジーナちゃんが口許を覆った。まんまるな目でリッターくんを見る。「ロヴィオダーリ卿の責任ではないじゃないの」
「ロヴィオダーリ卿、きちんと説明してくれなくては。俺達は君を悪く云ってしまった」
ミューくんが額に手を遣ってそう云った。
「いや、俺にも責任はある」
「いいえ、わたし、よく知りもせずに酷いことを云ったわ。エンバーダート家の者としてはずかしい。ごめんなさい」
「俺も、ファバーシウス家の者として至らなかった。すまない」
エンバーダート、ファバーシウス、に、またしてもざわめきが起こる。本家だ、と驚いたらしい声が聴こえてきた。金髪のファバーシウスは本家、というのは、有名な話なんだな。