異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
テーブルでは、ミューくん、ジーナちゃん、サキくんがお喋りに花を咲かせていた。リッターくんはお握りをかみしめている。俺は微笑んで、お茶のおかわりを注ぐ。うかっていた安心か、亢奮かで、リッターくん以外の口は軽い。
「君らの話を聴くと、試験ってのは随分厳しかったみたいだな」
「本当にそうだよ」
サキくんは片肘をつき、隣に座るミューくんの髪の毛を指でくるっとやる。「ミュー、君くらいの才能が僕にもあればね」
「ふざけてるな、君?」
「ふざけるものか。僕は心底、君が羨ましいんだ」
サキくんは感情を込めてそう云ってから、笑みを浮かべる。ちょっとばつが悪そうだった。羨ましいのはミューくんの才能ではなくて、ミューくんの立場、と云うか、ミューくんそのものなのだろう。
ジーナちゃんがお握りをフォークで食べる。
「実技試験では、走りまわらされたり、戦わされたり、凄く疲れたわ。サキは還元士志望だから、尚更大変だったでしょう」
「ああ、魔力切れを起こすことはなかったけどね。ジーナはなにを志望しているの?きいていなかったね」
「出していないの」
「でも、二年目は戦士科へすすむんだろう?」
「そうね。わたし、魔力が低いから」
「そう云うつもりじゃ……」
サキくんが狼狽えた様子で姿勢をただし、ジーナちゃんは微笑む。
「解っているわ。あなたはそういう冷やかしをするひとじゃないもの。サキは還元士になるのだから、魔導士科よね」
「……そうなるのかな」
サキくんはちょっと沈んだ声を出して、ぱっとリッターくんを振り返る。
「リッター、君は護衛士だったよね?志望は」
「ああ」リッターくんは両手でお握りを掴んでいる。「ランツィスのようになりたいからな」
見詰められたミューくんが目を逸らす。ジーナちゃんがフォークの先をリッターくんへ向ける。「ロヴィオダーリ卿」
「なにか問題があったか」
「ミューを怯えさせないで。それからミューは魔導士科へすすみますから、お生憎さま」
「生憎?なにがだ」
「だから、ミューとは科が違うでしょう」
「それがなにか?」
ジーナちゃんは疲れたみたいに息を吐いた。
「おいしいですわあ」
ふんわりした声に目を向けると、ヤーヌさんがメロンパンをもぐもぐしていた。俺はツァリアスさんと、オーブンからクロワッサンをとりだす。うん、巧く焼けた。本当のクロワッサンよりはちょっと繊細さに欠けるかな。クロワッサンふう、というべきか。でも、おいしそう。
ユラちゃんはまだ、お菓子パンを食べている。ご飯を食べる気はないようだ。「マオ、それも食べたいわ」
「いつつで銀貨1枚」
ユラちゃんは銀貨をじゃらじゃら云わせて、調理台へ置いた。毎度。