【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
シンと静まり返る室内。
あまりに重苦しい空気に耐えかねた僕は、気まずさを誤魔化そうと、ふと思いついた話題で話を逸らしてみた。
――が、これが再び、ミハイルの鋭い警戒網に引っ掛かりそうになる。
「そ、そういえばカストラートでも、子孫が残せなくても皇帝になれるんだね……!?レオンが新皇帝だなんて、僕、本当にびっくりしちゃったよ……あははは……」
「……は? カース、何を言っているんだ?あいつ、普通に声変わりしていただろう。最初から去勢なんてしてなかったんだよ」
ミハイルが怪訝そうに眉をひそめた。
「まあ、僕も、つい先日軟禁が解かれた後に宮廷の声明文を聞いて初めて気付いたんだけどさ。……それにしても、おかしなことを言うね、カース。君、レオンと直接会って交渉したのに、本当に今の今まで気が付かなかったのかい?」
ギクリ。
背筋に冷たいものが走り、顔が引き攣る。
完全にやらかした。
王宮の地下牢で決別して以来、戦場でもあの調印式でもレオンの姿は遠目にしか見ていなかったし、今回はジュリアスの処理に手一杯で直接会ってなどいない。
だから、レオンが最初から去勢されていない偽カストラートだったなんて知りもしなかったのだ。
交渉したという嘘がバレる……!
本当はどこで何をしていたのかと、徹底的に問い詰められる――!
僕と脳内の『私』が脳内で冷や汗をダラダラと流しながら、大慌てで「ああ、いや、彼は常に喉を隠すような格好をしていてね!?」などと最悪な言い訳を必死に考えていると。
しかし、ミハイルはあっさりと、実に失礼な理由で一人で納得してしまいやがった。
「……はぁ。まあ、初めて出会った音楽院の頃から貴族らしくない突飛なところはあると思っていたけれどね。君って本当に、どこか決定的に抜けているというか……。天然で、楽観的で——。……!そうだ、致命的に警戒心が無さすぎるんじゃないか?」
「み、ミハイルーーーーッ!!?」
初めて出会った寄宿舎の部屋割り発表の時からずっと、この生真面目で優等生な、僕の生涯の親友兼ライバルから『アホの子』だと思われていたとは。
あまりの衝撃に、権天使の威厳も復讐者の冷徹な仮面も、何もかも吹き飛んで結構本気でショックを受ける。
けれど、今回ばかりは脳内の『私』もミハイルの味方らしい。
つい先ほどまで、必死にカモフラージュの言い訳を捻り出そうと共闘していたはずなのに、なんと素早い掌返しか。
『そうよ!もっと言ってやってちょうだい、ミハイル!カース、あなたは本っ当にしっかり反省しなさいよ!まったく、いっつも頑固で無鉄砲で……私の心臓がいくつあっても足りないくらい何度も死にかけてるんだからね!?』
「うう……っ」
結局、僕は騙し通せた安堵よりも理不尽なショックの勝る中、脳内と脳外の両方から、長々とありがたいお説教を受ける羽目になってしまうのだった。