【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
枢機卿。
濃紺の法衣を纏った彼らは、次期教皇を選ぶ権利を持つ、教皇庁でもっとも貪欲で、政治的な人間たちだ。
彼らの多くは、現在の教皇が薬物によって正気を失っていることにも、そしてその背後に『カース』という去勢された少年が影のように立っていることにも、すでに薄々と気づき始めていた。
――だが、それでいい。
むしろ、彼らのような権力欲の塊こそ、僕にとっては一番扱いやすい『駒』だった。
「おお、カース殿、本日も実に麗しく……。——して、現在の聖下は、我々の提案した新たな聖堂の予算案について、何と仰せでしょうか?」
豪奢なサロンで僕を出迎えた老枢機卿が、その瞳の奥にある下卑た下心と野心を隠そうともせず、僕の白い手を握ってすり寄ってくる。
「聖下は『すべてカースの望むままに』と仰っていますよ、枢機卿。あの方にとっては、今や僕の言葉こそが神の託宣なのですから」
僕は世界を魅了するソプラノで優しく囁き、握られた手を拒むことなく、むしろその老人の耳元へとそっと顔を寄せた。
「次の聖座に誰が座るべきかについても、聖下は僕の意見を何よりも尊重してくださるでしょうね。……もし、あなたが僕の良き理解者であり続けてくれるのなら、僕も聖下の耳元で、あなたの名前を最も美しく響かせる用意がありますよ?」
極上の毒を仕込んだ条件を提示された老枢機卿の顔が、歓喜と野心で歪んでいく。
脳内で『私』が、その醜い欲望を冷ややかに見下ろす中、僕は教皇庁のトップたちを次々と僕の歌声で飼い慣らしていくのだった。