【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
僕が集まった枢機卿たちの品定めを終えて選んだのは、もっとも人徳のある聖職者でもなければ、もっとも政治に長けた知謀の徒でもなかった。
あえて、彼らの中で『もっとも強欲で、もっとも愚かな男』――ストゥパヴィード枢機卿を、次期教皇候補としてユリウス6世に推薦することにしたのだ。
『ふふ、あの上品な法衣を着ただけの豚ね。金と権力にしか目がなくて、自分の頭では何一つクリエイティブな決定ができない無能。……私たちの傀儡としては、これ以上ない最高の人材だわ』
((ああ。彼が優秀である必要なんてどこにもない。むしろ、その底知れない愚かさこそが、僕の真の目的を果たすための最高の鍵になるんだよ))
薬物によって完全に思考と自我を奪われたユリウス6世の耳元で、僕はそのソプラノの声を優しく、甘く響かせた。
「さあ、猊下。神がお望みの次期後継者の名です。ここにサインを……」
「ああ……神の、天使の、仰せのままに……」
寝言のように呟く教皇の手を執り、正式な指名書へと署名させた。
そして間もなく、度重なる薬物の過剰摂取によってユリウス6世が静かに息を引き取ると、すべては僕の描いた譜面通りに進行した。
あの愚鈍な枢機卿が、厳かな鐘の音と共に聖座へと即位したのだ。
新教皇は、自分が世界の頂点に立ったと勘違いして、金ピカの玉座の上で悦に浸っていた。
だが、彼が日々発布する数々の聖断は、すべて僕が夜の帳の中で起草し、彼の枕元に置いておいたものだった。
「ほほう、カース殿。これを私が発布すれば、さらに信徒からの寄付金が集まるのだな?」
「ええ、間違いありません。あなたの威光は世界に轟くでしょう」
彼が疑いもせず署名したその政策とは、彼のような強欲な男が自発的に行うはずもない、歴史を覆すほどの『民衆に寄り添った素晴らしい宗教改革』の数々だった。
免罪符の事実上の廃止、貧困層への大規模な救済、聖職者の不正蓄財に対する容赦のない摘発――。
教会がこれまで貪欲に溜め込んできた巨万の富を、大胆に民衆へ還元するその奇跡のような大改革に、国中の人々は涙を流して熱狂し、新教皇を『生きる聖人』と崇め奉った。
だが――。
勘の良い者や、真に権力闘争の核心にいる一部の智者たちは、すぐに違和感を覚え、気づき始めたのだ。
あの無能で私欲の塊だった男が、これほど美しく、かつ冷徹で完璧な大改革を主導できるはずがない。
その裏で、すべての糸を引き、教皇庁という巨大な怪物を完全にコントロールしている『真の支配者』が誰なのかを。
((民衆を救っているのは神ではない。ましてや、あの玉座で鼻を鳴らしている教皇でもない。……この僕、『カース・ディ・トラッド』だという事実を、いずれこの国中に知らしめてやるんだ))
神の威光を盗み、影の王座に腰掛けた少年は、美しく残酷な微笑を浮かべながら、世界という名の盤面を冷徹に動かし続けるのだった。