【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
オーギュストが去った直後、まるで限界まで張り詰め切った弦が激しく弾けたかのように、僕が最も恐れていた最悪の事態が勃発した。
新憲法と王を戴く【王党派】。
そして、かつての特権奪還を血眼になって叫ぶオーギュスト率いる【貴族派】。
周到に準備されていた彼らの反乱軍は国境や地方で一斉に蜂起し、凄まじい勢いで王国全土を巻き込む内乱の焔となって燃え上がった。
せっかく僕と『私』が十数年の歳月を費やして豊かにした、美しく平和な国土が、再び血と硝煙の黒煙に包まれていく。
「カース、貴族派の進軍速度が早すぎる!各地の元領主や不満分子どもが、まるで最初から決まっていたかのように、一斉にオーギュストの呼びかけに呼応しているんだ!」
王宮の作戦室。
ミハイルが焦燥に駆られた声を上げ、戦況報告の書類を机に叩きつけた。
僕は机の上に広げられた、赤く染まっていく戦況地図を見つめながら、こめかみを押さえて深く頭を抱えていた。
予想以上の手際だ。
あのオーギュストという青年、ただの操り人形ではない。
『カース、落ち着きなさい!私たちが十数年かけて教育し、鍛え上げてきた常備軍の力なら、元貴族たちの集めた烏合の衆なんて必ず鎮圧できるわ。……でも、まさかあのジュリアスの息子が、これほどの怨嗟の核になるなんてね。血の呪いは、どこまで行っても私たちを追いかけてくるのよ……っ』
脳内で『私』が、悔しげに、そして強い警戒を露わにして叱咤する。
((ああ、分かっているよ、『ミーナ』。ここで僕が怯んだら、今度こそアイシャや娘が危ない。僕の過去のツケだ。僕の手で、あの不吉な芽を完全に摘み取らなければ……))
僕が、敵の総大将である甥の暗殺という冷酷な決断を下そうとした、まさにその時だった。
——バンッ!!
作戦室の重厚な扉が激しい音を立てて乱暴に開かれ、衣服を血と泥で汚した伝令の兵が室内に飛び込んできた。
「報告します!反乱軍の本陣にて、信じられない事態が発生しました!」
「……何があった。落ち着いて報告しろ」
僕が冷えたグラスのような硬質のソプラノを響かせると、息を切らす兵士は恐怖にガタガタと唇を震わせながら、僕の計算を遥かに超越した、悍ましくも信じがたい凶報を口にした。