【本編20万字完結】カストラート 〜傾国の歌劇(オペラ)〜【幕間更新あり】
統一暦783年9月16日(晴れ)
私がエルザ奥様のお産をお手伝いしてから、もうあっという間に一年が経った。
産後の奥様のお身体もすっかり良くなり、カース様もジュリアス様も大きな病気ひとつなさらずすくすくとお育ちで、屋敷の使用人一同、胸を撫で下ろしている。
「ずっと仲良く育ってほしい」という奥様たってのご希望で、本日よりお二人を同じお部屋でお世話することになった。
それに伴って少し広いお部屋へお引越しをしたのだが……たった一歳にして、新しい生活に対するお二人のお姿がまるで違っていて実に興味深い。
お二人ともすでに伝い歩きができるようになられているけれど、カース様は好奇心が抑えきれないご様子。
広く新しいお部屋を早く探検したくてたまらないのか、あえてハイハイで大胆かつ自由奔放に動き回っていらっしゃる。
一方のジュリアス様はというと、とても慎重で努力家なご様子。
まずは壁を伝ってじっくりとお部屋を一周。
安全を確認されてから、部屋の中央に向かって「えい」と手を離して歩こうと挑戦されている。
その時だった。
少し不安定ながらも一歩一歩着実に進まれるジュリアス様の足元へ、ハイハイのカース様が元気よく飛び込んでしまい、お二人が鉢合わせてしまったのだ!
万が一転倒して大怪我でもされたら大変と、私をはじめ侍女たちは肝を冷やして生きた心地がしなかったけれど……。
お支えしようと咄嗟に飛び出した私たちの目の前で、ジュリアス様はカース様のお背中に両手をつき、見事に転倒を免れてみせたのだった。
突撃されて驚かれたのか、手離し歩きに挑戦してお疲れなのか、その後すぐにジュリアス様は床に座り込まれ、ご不満そうなお顔で少しの間溜め息を吐かれていた。
けれどそこに、カース様が、まるで先ほどぶつかってしまったことを謝罪するかのように、その小さな両手に握られる分だけでなく、お口にまで玩具を咥えて戻ってこられたのだ。
すると、お二人で見つめ合い、もしや『双子語』というものであろうか、私たちにはわからない言葉で何か一言二言を交わされたかと思うと、声を弾ませて「きゃっきゃっ」と笑い合い始められた。
あぁ、仲良く顔を見合わせて笑うお二人のお姿は、この屋敷の一番の癒やしだ。
お二人を同じお部屋にするという奥様のご提案、大成功のようで乳母として本当に嬉しい。
このまま末永く、仲の良いご兄弟でありますように。