リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり
1
インドラよ、汝はすべての神々の王なり。
アスラ(強大な神)よ、人々を護り、
我らを保護し給え。
英雄らの主、我らの救済者たるマガヴァンよ、
汝は忠実にして、きわめて富み、
勝利を授ける者なり。
2
インドラよ、汝は非難の言葉を語る種族らを挫いた、
彼らの避難処たる、
七つの秋の砦を粉砕することによって。
咎なき者よ! 汝は波立つ水流を揺り動かし、
若きプルクツァに、
その敵を餌食(獲物)として与えたのだ。
3
インドラよ、大いに拝礼されし者よ、
英雄らを主とする軍勢を駆り立て、
今や昼の光をもたらす汝は、
彼らとともに、
我らの耕作地と我が家(住処)に住まうため、
ライオンのごとき、
荒らし回る活動的なアグニ(火神)を護り給え。
4
インドラよ、汝の槍の偉大さによって、
人々は汝の称賛に向かい、
この地上の拠点に休らうだろう。
水流を解き放ち、
牛らを求めて戦いに赴くため、
彼は大胆に己の栗毛馬らに跨がり、
戦利品を掴み取ったのだ。
5
インドラよ、クツァを運び給え、
汝が歓喜する彼を。
風の暗赤色の馬らは従順なり。
太陽に、その戦車の車輪を我らの近くで回転させよ、
そして雷電を放つ者に、
敵どもを迎え撃たせよ。
6
栗毛馬の主インドラよ、衝動によって強められ、
汝は己の友らを苦しめる、
(祭品を)与えざる者らを殺戮した。
生者(人間)の傍らに友を見た者たちを、
前進して乗騎を駆る彼らを、
汝は傍らへと投げ捨てたのだ。
7
インドラよ、詩人は霊感の中で高らかに歌った。
汝は大地をダーサ(敵対者)の覆い(墓標)とした。
マガヴァンは湿り気に輝く三つの領域を創り出し、
クヤヴァーチを自らの家へと連れて行き、
彼を打ち殺したのだ。
8
インドラよ、これら汝の古き偉業を、
新しき詩人たちは歌った。
汝は無数の種族らを永久に征服し、縛り上げた。
砦を打ち砕くがごとくに、
汝は無神(信仰なき)の種族らを叩き潰し、
無神なる嘲笑者の致命的な武器を屈服させた。
9
嵐を呼ぶ者よ、汝は嵐の水流を、
流れる河川のごとくに流れ降らせた、インドラよ。
英雄よ、汝が水流を越えて彼らを運んだ時、
汝はトゥルヴァシャとヤドゥを、
安全に保ったのだ。
10
インドラよ、あらゆる機会において、
汝が我らのものとならんことを。
人々の保護者、最も情け深き心を持つ者よ、
我らにあらゆるライバル(宿敵)に対する勝利を与え給え。
我らが十分な豊穣の中に、
活力を与える食べ物を見出さんことを!
解説
第174讃歌は、神々の王であり、人間を庇護する武勇の神インドラに捧げる全10節の讃歌だ。
七つの秋の砦を破り、邪悪な非アーリヤ(ダーサ)を大地の下へ押し込め、洪水からトゥルヴァシャとヤドゥの二大英雄を渡して救い出すなど、数々の古代伝説と戦功が歌われる重厚な一曲です。
全10節の中に、最高神インドラが残した数々の戦功(敵の秋の砦の打倒、暗雲の水流の開放、英雄たちの渡河救出)がダイナミックに凝縮されています。
* 1–5節:七つの砦の破却と、風の馬駆るクツァの救済
1〜5節では、神々の王インドラが無礼な敵の拠点である「七つの秋の砦」を破り、若き英雄プルクツァやクツァを救出する場面が描かれます。風神ヴァーユの赤馬と太陽の車輪を引き合いに出し、雷電をもって敵を迎え撃つダイナミズムが炸裂します。
* 6–10節:大地を敵の墓標とし、トゥルヴァシャとヤドゥを救う渡河の奇跡
6〜10節は本讃歌のハイライトです。神々を嘲笑する信仰なき敵を壊滅させ、「大地を敵の覆い(土の墓)」に変えてしまう圧倒的な武力が歌われます。さらに、激流の中で濁流に呑まれかけた英雄トゥルヴァシャとヤドゥの二大部族を安全に渡岸させた奇跡の偉業が称えられ、あらゆる宿敵に対する勝利の祈りで締めくくられます。