【第一章完結】霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~
「ふん……お前みたいなのに、ファイターが務まるとでも?」
ギヴォスというスキンヘッドの頭に刺青を入れた巨漢の男は、俺のことをジロジロと見て品定めする。
手製のトレーニング器具が所狭しと置かれたファイトクラブは、なんだかちょっと汗臭い。
「上のやつに見る目がないと、下のやつは大変そうだな」
「なんだと? いいだろう。お前のことを試してやる。クロウジイ、相手してやれ!」
「ういっす」
前に出たのは坊主頭に角ばった顔をした体格のいい男だった。
腫れぼったい目をしていたクロウジイは、俺のことを横目で睨むとリングに向かっていく。
「ルールは無し。気を失うか、降参するまで戦いは続く」
「顔がいいんだ、男娼でもやったらどうだ?」
「お前こそ顔は悪くないぞ? サンドバッグにちょうどよさそうだもんな」
「こいつ……!」
そっちが先に挑発してきたのに、軽く返すだけで怒ってしまった。
それなら最初から挑発なんてしなければいいのにと内心で呆れてしまう。
「ぶっ殺してやる!」
ぶら下げてある金属の鐘を打ち鳴らして戦いが始まった。
開始と同時にクロウジイが殴りかかってくる。
「ブッ……!」
「遅いな」
しかしクロウジイの動きはドタドタとして鈍い。
俺はクロウジイの拳をかわして、お返しに顔面に一撃加える。
この世界、接近格闘術の発展が非常に遅れている。
昔から悪魔がいる世界なので剣で戦うことがほとんどで、剣術に関しては扱える人が多い。
しかし悪魔や魔物に対して素手で戦うのは効率が悪く、それなら未熟でも剣でも持っていたほうがマシになってしまう。
そのために素手で戦う技術があまり発展してこなかった。
「へぇ、結構打たれ強いな」
対して俺は割と素手でのやり合いが得意だったりする。
この世界に来る前の俺は幽霊に悩まされた。
対策というほどでもないが、自分の身を守る必要があった。
そのために体を鍛え、戦い方を学んだりしたこともあったのだ。
「くそっ……」
クロウジイが一発殴る間に、俺は回避して二発殴る。
見た目の厳つさの分だけクロウジイの頑丈さは流石ものであった。
逆に俺の拳が痛くなりそう。
「そろそろ終わらせるか」
ある程度実力は見せつけた。
相手を痛めつける趣味はないので、終わらせてやろうと思う。
「なに……!」
クロウジイのパンチは大振りでかわすのは難しくない。
横に振られた拳をかわしながら体勢を低く保ち、クロウジイに突っ込む。
腰に手を回して掴み、ぐっと体を持ち上げで床に押し倒した。
「この!」
下から殴りつけようとした拳が俺の頬をかすめる。
俺は頬の痛みも気にせずクロウジイの上に乗って顔面を殴りつける。
「う……くっ……!」
クロウジイは腕を折りたたんでひたすらガードする。
「降参するか?」
気絶するまで殴ってやってもいいが、意外とガードが固い。
負けを認めくれたら楽なのに。
「舐め……んなよ!」
ただクロウジイにもプライドはある。
力づくで俺のことをひっくり返そうとする。
「しょうがないか」
俺は軽くため息をついて、クロウジイの腕を取る。
そしてそのまま関節を決める。
「がぁっ!?」
もちろん関節技なんてのもあまり使われない。
右腕の関節を決められてクロウジイは痛みに顔を歪ませる。
「降参、するか?」
「誰が……するか……」
「じゃあ……」
本当なら一般の人を傷つけたくはない。
しかしここは奴隷の国だ。
隙を見せれば喰われてしまうような現実の地獄といっていいような場所である。
相手を攻撃できない優しさはファイターとして致命的ともなってしまう。
だが、俺は悪魔祓いだ。
悪魔を無慈悲に倒すことが仕事であり、そのためには時に無情にもなる。
「ああああああっ!」
俺はクロウジイの腕をそのままへし折った。
鈍い音がして、クロウジイの痛みにうめく声が響き渡る。
「ふっ! ぐぎぎ……」
腕を折られれば普通は戦闘不能になるはずだけど、地獄の戦いはこれで終わりじゃない。
俺は腕を押さえるクロウジイの首に後ろから手を回す。
そのまま首を締め上げると、みるみるクロウジイの顔が青くなっていく。
タップする、なんて文化はここにはない。
クロウジイの目がグルンと上を向き、抵抗する力が完全になくなった。
「……さて、次はどいつが遊ぶ?」
気を失ったクロウジイから手を離し、俺はリングの真ん中に立ってギヴォスに余裕の表情を向ける。
「……………………いや、歓迎するよ」
ギヴォスの表情は複雑だった。
新たなスターを見つけた喜びか、はたまた自分のところのファイターがあっさりやられた悔しさか。
なんでもいい。
ひとまず俺は奴隷の国で上手くやってますよ。
ただこの国にも、どこかに悪魔がいる。
俺はそれを見つけ出す。
「待ってろよ……さっさとこんな国おさらばしてやるからな」