【第一章完結】霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~
「う……うおおおおっ! エリシオー!」
ギヴォスが吠える。
俺がスッと拳を上げると会場は割れんばかりの歓声に包あまれる。
ちょっとだけ気分が良いことは否定できない。
クルステスが悔しそうな顔をして俺のことを睨みつけている。
弱小ファイトクラブの逆転劇。
ほとんど奴隷が気にすることもない小さな奇跡の話。
しかし確かに俺の物語が始まった。
「おおおおおおっ! やったじゃないか、このやろう!」
ギヴォスがリングに上がってきて俺をギュッと抱きしめる。
足がつかないほどに持ち上げて、ブンブンと振り回す。
「どうだ、見たかこのクソやろう! これがまた俺様のファイトクラブの実力じゃー!」
俺の力による辛勝だった。
それにもかかわらず、ギヴォスは頭を真っ赤にしながらクルステスに向かって勝ち誇る。
「がっはっはっ! こりゃ気分が良い! うちの勝利だー!」
あんたのおかげじゃない。
そうは思うものの、ギヴォスの喜びようを見ているとそれでもいいかと感じるのだった。
ーーーーー
「よう、逆転の変則格闘家」
「クイラーデ、なんだそれ?」
ファイターも俺の仕事であるけれど、会計の仕事も俺の立派なやるべきことだ。
割とやるべきことは多い。
給与や数日分の収益の計算、上納する税金、あるいは壁内外での取引についても記帳している。
金の流れが多すぎて、なかなか全てを把握することは難しい。
コツコツと給与を計算する俺にクイラーデが声をかけてきた。
いつも気だるげにしている先輩は計算が早く、頭が良くて、特に周りと談笑なんかもしないような、俺としては付き合いやすい人だった。
「逆転の変則格闘家……ってなんですか、それ?」
聞き慣れない呼び名に俺は思わず眉をひそめる。
「先日のファイトだよ。三人抜きして勝ったろ? 戦い方もあまり見ないようなやつで、一部ではそう呼ばれてるんだよ」
「観に来てくれたんですか?」
「お前が出るって聞いたんでな」
クイラーデは目を細めて笑う。
そんな変なあだ名つけられているのかと驚くが、クイラーデが見にきてくれたこともまた驚きだった。
「お前にかけさせてもらった。おかげで一儲けだ」
「お金を扱う人がそんなんでいいんですか?」
「構いやしないさ」
クイラーデはニヤリと笑って俺の前に小さい包みを置いた。
中にはお菓子が入っている。
別に高級なものではないが、奴隷の国では貴重品だ。
こんなものを渡してくるということは、よほど俺で儲けたらしい。
「次の試合も教えてくれ。また一稼ぎしたい」
「いいですよ」
「それにしても仕事は慣れたか?」
「ええ、だいぶ」
「お前は物覚えもいいし、計算が早くて助かる。前にいた奴はたまたま雇われたけど、頭の悪い奴だったからな」
クイラーデはお菓子を食べる。
甘さの少ない固いカステラみたいなお菓子だが、俺もありがたくいただく。
「日々お金が動いてますね。外と取引してるところもあるんですね」
「ああ、どうしてもここだけじゃやってけないからな。ファイトクラブだって外から客呼んでるところもある」
「死体処理なんかは誰が引き受けてるんですか? 金にもならなそうですけど」
「死体の処理? 上納金持ってってる連中が雇ってそういうことやってるよ。税金みたいに金巻き上げてるんだからそれぐらいはな」
「サンマリルス一族ですか」
奴隷は基本的に一代で死んでいく。
結婚するような相手もいないのだからしょうがない。
ただ奴隷の中にも女性はいるし、血脈を繋いでいる奴らもいる。
そして奴隷の中の王、支配者層となる奴隷は奴隷の国で子を成して一族して君臨していた。
かなり謎の多い一族で、今やほとんど姿も見せない奴らとなっている。
サンマリルス一族の金の流れを知りたくても、こんなところで管理しているはずもない。
ただ、かなりの怪しさを感じずにはいられない連中だと俺は睨んでいる。
やはりというべきか、奴隷の国におけるほとんどの人は悪魔や魔物の存在なんて疑ってすらいない。
関わっているような人もほとんどいないはずである。
少しずつ奴隷の国の中身が見えてきたような気がする。
しかしわかるほどに闇が深く、全てを見通すことなど到底できない。
「サンマリルスか……今いる奴でサンマリルスにあったことあるような奴はいないだろうな。ただお前ならチャンスあるかもな」
「チャンスですか?」
「ファイターでトップまで上り詰めるとサンマリルスに目をつけてもらえる。上手くやるとそのまま外に出してもらえるらしい。トップになった途端帰ってこない奴も多いからな」
「へぇ……」
本当に外に出て帰ってこなかったのか。
そんな疑問が俺の中にはあるけれど、クイラーデにそんなことを聞いても答えは得られないだろう。
「俺としてはお前にいてほしいところだがな。仕事、意外と大変だろ? 内容は楽でも量が多い」
「確かに面倒ですね」
「しかし……頭もいいのに強い、か。なんでそんなんで奴隷落ちしたんだ?」
「顔が良すぎて妬まれるんです」
「性格が悪かったか」
会計仕事の方では成り上がるような余地もない。
こちらで生活基盤を安定させつつ、このままファイターとして成り上がっていこうと俺は決めたのだった。