【第一章完結】霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~
「これぐらいならいけそうだな」
別に強いのも困るが、多少ファイトっぽくならないとそれもそれで困るだろう。
奴隷に落ちるような奴なんてせいぜい町の喧嘩好き程度のものであって、ちゃんとした格闘技の体系もなく体をただ鍛えているだけのようだった。
もったいないなとは思う。
少し技術的なこと教えてやればきっともっと色々と発展するのだろう。
しかし不思議とそうしたものが発展しない世の中なのだろう。
多分ちょっと肉体的に強くなると悪魔や魔物がエサと目をつけてしまうから、というところもあるのだ。
「ふん、あいつは油断しすぎたようだな。こんな奴にやられるなんて……金でも払ったのか?」
次にリングに上がってきたのは細めの体格をした男だった。
あまりに一瞬で終わってしまったために、俺の実力には気づいていないようだ。
たまたま運悪くアゴにパンチが当たったとでも思ってるのかもしれない。
「今度はちょっとばかり……興行っぽくしてやるか」
一応見せ物にもなっている。
あまり簡単に終わらせると、それはそれでつまらないと思われてしまう。
「オラオラ! どうした!」
少し試合っぽく見せてやろうと思った。
俺は相手の細男のパンチをかわす。
軽く一、二発受けた感じではそんなに重たいパンチでもなく、ガードを下げたままかわし続けてやる。
「ふぐっ!?」
俺は相手の男の脇腹を殴り飛ばす。
なんとなく回帰前を思い出していた。
人の強い前向きなエネルギーは少しだけ幽霊を遠ざけてくれる。
そんな経緯があって、俺は格闘技のジムに近づいた。
死んでまでジムで鍛える奇特な幽霊はいない。
ただお金もないし、会費も払えなかった俺をジムの会長が受け入れてくれた。
今の精神的図太さの一部はジムで鍛えられたものだろう。
「このやろ……!」
幽霊に格闘技は通じないが、体を鍛えると精神に余裕ができた。
狼狽えることなく堂々とする。
これだけでも幽霊に対して有効だった。
幽霊が元になったトラブルで喧嘩することもあったが、鍛えていたので乗り越えられた。
ちょっと体を鍛えただけの奴らになんか負ける気はしない。
「クハッ……」
今回は派手に一発を顔面に沈めた。
「期待外れ。あとは一人か」
「おおっ、あいつ強いぞ!」
「全然余裕じゃねえか!」
「八百長じゃねえのか!」
俺の勝利で周りの奴隷どもの熱も上がる。
このまま負けだろうと思っていたのに、期待していなかった俺が二連勝したものだから、否が応でも期待値が急上昇だ。
「うおおおおーっ! いいぞ、エリシオー! お前はうちの期待の星だーーーー!」
特に期待をしてもいなかったのはギヴォスも同じだろう。
しかし今や頭を赤くし、拳を振り上げて俺を応援している。
性格は良くないが、ある意味純粋とも言えるようなまっすぐさはある。
「ゲルド! あいつを潰せ!」
いよいよ大将戦。
最後の一人がリングに上がる。
二十代後半ぐらいだろうか、比較的若めな筋肉質な男。
他の奴らと違って、俺を馬鹿にしたような目をしていない。
「今日も出番なく終わると思ったんだがな……」
「悪かったな。すぐに終わらせてやるから」
「ふっ、生意気だな。なら力を見せてもらおうか!」
ゲルドが俺にかかってくる。
他の二人と違って腕を上げてファイティングポーズをとっているところを見るに、大将にいるのも伊達ではないようだ。
「ふっ!」
「はっ!」
ゲルドが先に手を出す。
俺もそれに合わせて、ゲルドの頭を狙う。
互いが互いの拳をかわした。
「やるじゃないか」
「あんたもね」
ようやくまともそうな相手と戦える。
一進一退の攻防。
ゲルドは目も良さそうで、俺のパンチをかわす。
だけど俺もゲルドの攻撃をかわして、だんだんと周りの応援にも熱が入ってくる。
ゲルドへの応援は当然デカいが、劣勢の中に突如現れた新星の俺への声援も意外と聞こえてきている。
「ふぅ……元々何をやってんだ」
動き回って少し汗をかいてきた。
対してゲルドの方は俺の倍以上は汗をかいている。
「よく走らされたり、無茶なことさせられてたんでな」
体力作りだっていって二十周走らされたりしたのだから体力には自信がある。
怖い師匠を持つと、か弱いのに魔物と戦わされたりもする。
命の危険も感じないこんな試合では、まだまだ俺に余裕があった。
「そろそろもう一つギア上げますよ」
「こいっ!」
俺もまだ本気じゃない。
「……ぐっ!?」
ゲルドは真っ直ぐに突っ込んだ俺の拳を手で受け止めた。
ただ続く攻撃まで防げなかった。
「蹴り……だと!?」
ここまで素手、つまりは拳のみで戦ってきた。
しかし俺は別に殴り合いが専門ではない。
「ぐあっ!」
蹴りで怯んだ隙を突いてゲルドを投げ飛ばす。
殴る蹴る投げる、オールマイティな戦いが俺のやり方だ。
まあ、ゲルドの人はムカつく感じじゃなかったので、締め技関節技は無しで戦ってやろうと思う。
「なんだと……うっ!」
まともに受け身も取れていないゲルドはすぐに起き上がれなかった。
俺のボールでも蹴るようなキックをギリギリでガードして、後ろに転がる。
「なかなかだったけど……格闘技に対する備えは甘いな」
起きあがろうとしているゲルドの頭を掴み、俺は膝を叩き込む。
鼻に容赦ない膝がめり込み、鼻血を噴き出しながらゲルドは大の字に倒れた。