【第一章完結】霊が導き、霊を導く悪魔祓いの異世界霊能者~異世界で霊視持ちの俺、聖魔の力で悪魔祓いやってます~
「よう、ギヴォス」
控え室となる部屋に入ろうとしたところで、男が声をかけてきた。
大柄なギヴォスにも負けないぐらい体つきのいい男はニヤッと笑う。
「チッ、何の用だ、クルステス」
対してギヴォスは嫌そうな顔をする。
「おいおい、そんな顔するなよ。せっかく今日の興行に呼んでやったんだから、ありがとうぐらいあってもいいだろ?」
クルステスは今回会場ともなっているファイトクラブを持っていて、ギヴォスとはライバルのような関係にある。
「今回負けたらお前たちは危ないかもな。解散したらどうだ?」
ただ力関係はギヴォスの方が劣る。
ここ最近負け続けのギヴォスと会場となるリングまで持っているようなクルステスの差は歴然だ。
試合があれば金が入ってありがたいのだけど、負ければそれだけリスクもある。
ギヴォスを呼びつけたのだって、確実に勝てそうだからなんてのが顔から透けて見える。
「今回はお前のところのファイターボコボコにしてやるよ」
「変わらない顔ぶれで何を言ってる……クロウジイはどうした? あいつは殴られる様は見ものなんだがな」
「あいつは今日は休みだ」
「やすみぃ? おいおい、どうした? お前のところ常に人不足のはずだろ」
わざとらしく驚いて見せるクルステスに対して、ギヴォスは怒りを堪えるように拳を握り締めている。
「今回は期待の新人がいるんでな……」
ギヴォスは引きつった笑みを浮かべて、俺の肩を痛いほどに掴む。
「新人……? なんだ、てっきり雑用かと思った」
いちいち鼻につく男だなと俺は思った。
「まあいい。完膚なきまでに叩き潰させてもらうぞ」
笑いながらクルステスは去っていく。
「ふうう……お前ら、負けたら全員ぶっ殺すからな!」
ファイトクラブ選び間違えたかもしれない。
今更ながらそう思ってしまったのだった。
ーーーーー
「試合は勝ち抜き戦。勝てば残って次と戦う。先鋒から大将まで五人。最悪の場合……一人でも五人抜きすれば勝てる」
「んな無茶言わないでくださいよ」
ギヴォスは燃えているが、ファイターたちはやや引き気味だ。
膝を痛めたらしいギヴォスはもうファイターとして戦っていない。
他にも中小ファイトクラブが集められているが、俺たちの相手はクルステスのところである。
小ではないにしろ中ぐらいの規模のところで、ファイターもそこそこ強い。
ギヴォスがファイターとして戦っていた頃ならともかく最近は負け続きで、すっかり負け癖がついている。
離れたところから歓声が聞こえてくる。
他の中小ファイトクラブの試合が会場を盛り上げている。
娯楽のない中で、人の殴り合いや殺し合いは大きな楽しみの一つになってしまうのもしょうがない。
「そろそろ準備お願いします」
控え室のドアがノックされて若い男が呼びにきた。
「流石に試合となると熱気が違うな」
木の板で簡単に作ったような粗末な椅子に座る小汚い奴隷たちに囲まれたど真ん中にリングがある。
八角形のリングは鉄のフェンスに囲まれていて、物々しさを感じさせる。
「お前は……大将だ」
「俺がですか?」
いきなりの大役。
ちょっと驚いてしまう。
「クロウジイを倒したんだから少なくともそれ以上は強いんだ。あんな言い方されたが、素手ではあいつ割と強いんだ」
「そうですか。じゃあ俺はのんびり観戦してますか」
急な大将任命だが、他のファイターの奴らを見ていたらしょうがないと思えてしまう。
負け犬顔をしている。
後ろで余裕をこいてる暇などなさそうだと思うのだけど、大将ってやつはどっしり構えるものだ。
「……………………はぁ」
ということで試合が始まった。
どんなものかと見ていたのだけど、ひどいものだった。
出番が俺まで回ってきて、こちらの結果は二勝。
つまり相手は三人も残って俺に回ってきてしまった。
「そりゃ毎回負けるわな」
クロウジイの実力を考えた時に三連戦は辛いだろう。
「ただ……今は俺がいるからな」
観客たちは俺を見て罵声を飛ばす。
大将にふさわしくないような見た目のやつが出てきて、諦めたのかとブーイングに近いものが巻き起こる。
「クロウジイがいないかと思ったらこんなやつが相手とはな。ギヴォスの野郎、とうとう頭がおかしくなったか?」
相手の中堅は背の低い髭面オヤジ。
破壊力のあるパンチにうちの副将はやられてしまった。
ただ副将も次鋒は倒したんだから最低限の仕事はした。
「髪なくなってしばらく経ってそうだし、守ってくれるもんがないからおかしくなってもおかしくないな」
「はっ! なかなか面白いやつだな」
俺が戦うのは相手の中堅、つまりは三人目から。
「さぁて、俺の伝説の始まりだ」
「始め!」
審判の号令で試合が始まる。
「一撃で終わらせて……」
「じゃあ俺も」
今からパンチしますよ。
まるで通知してくれているように大きく腕を引いて、大きく体を回すように殴りつけてきた。
こんなもの寝ていてもかわせる。
俺は軽く相手のパンチをかわしながら、反撃を繰り出した。
ガラ空きのアゴを撃ち抜く。
一見すると軽い攻撃に見えたかもしれない。
しかし頭が横を向くほどのパンチを受けた相手はそのまま倒れて動かなくなった。
「町のヤンキーレベル。しかもケンカもしたことないような」
本気ではなかっただろう。
俺を見て明らかに舐め腐っていた。
ただ実力はそれほどでもなかった。
クロウジイでも倒せそうだ。