召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、弟子を取る?(後編)
が初めて物部かすみに連絡を入れてから一週間後、再び神室霊華からかすみの所に連絡があった。本当は直ぐにでも行きたかったがこちらの予約案件を処理するのに時間がかかったことをかすみに詫びて、その後どこに向かえばいいのかを教えてもらい、早速翌日には東京から新幹線と在来線とタクシーを乗り継いで美土路神社にやって来た。丁度、玲とかすみが社務所で雑務を処理しているとき、神社の石段を大きなスーツケースを手にした神室霊華が登って来たのをかすみが目に留めた。
「あ、玲、彼女来たから
ちょい迎えに行ってくるわ~」
と玲に言うや否や、かすみは神室霊華の元に駆け出して行った。丁度その時、かすみの方に向かって歩いて来る神室霊華の黒いロングコートの裾が風に乗って舞い、腰まで流れる髪がしなやかにたなびくその姿を見て、かすみは何やら神秘的な感じを抱いた。夕方のこの時間、神室霊華の背には、季節の終わりを惜しむかのように、夕陽がやわらかく差していた。彼女の装いはほぼ一貫して黒なのだが、ただしかすみが先日神薙家で会った時の妖しさ漂う黒い衣装ではなく、光の角度によって艶を変えるその生地が、神社の荘厳さに不思議と溶け込み、彼女の神秘さをより際立たせていた。そんな神秘的にも思える神室霊華だが、前回会った時のように黒いベールで顔を隠すことなく、切り揃えた前髪から覗く切れ長の目元が、かすみが抱く理想的な大人の女性の雰囲気を醸し出していた。かすみはそんな神室霊華を見て、ついつい見惚れてしまうのだった。
「霊華さん、お久しぶりですね。
長旅でお疲れでしょう」
「かすみさん、ご無沙汰しております。
今日から宜しくお願いいたします」
と言って、神室霊華はその場で深々と頭を下げた。これにはかすみも恐縮してしまい、
「霊華さん、頭を上げてくださいよ。
もっと気楽にいきましょう」
と言ったのだが、神室霊華としては物部かすみに弟子入りする覚悟でいるので、これは師匠に対する礼儀ですと言うのであった。ここに、神室霊華は物部かすみの一番弟子となった。
その後社務所にて最神玲と挨拶を交わし、かすみの案内で一先ず神室霊華のスーツケースを神職用住宅の空き部屋に入れてもらうことにした。なお、まだ社務所を閉じるまで少し時間があるため、かすみは神室霊華を連れて、美土路神社を案内することにした。と言っても、そんなに案内するところはなく、明日から始める神職に関する簡単な説明をするのだった。
さて、玲とかすみは、神室霊華の簡単な歓迎会を催して3人での食事を楽しんだ。ところで神室霊華は一つ気になることがあるようで、かすみに尋ねることにした。
「かすみさん、リビングに飾られている写真ですか、
あそこに写っている方ってもしかして」
タチアナさんですよ、と軽い感じで答えたかすみである。だが、名実共に御令嬢である神室霊華としては、高級ファッションブランドのトップであれば皇族か著名人との付き合いを想像するのだが、どう見てもここにいる2人からはそのような雰囲気が見られない。この矛盾が神室霊華を惑わしているのだが、かすみの説明によると、隣に居る玲とタチアナさんが親しく、それで付き合いがあるということだ。どうやら、タチアナの秘書と最神玲が親しく、その関係からタチアナとは馬が合ったのか親しく付き合うようになったというが。でも確かにそれを物語る写真があるため、それを認めざるを得ない。それは、この家で撮った3人のスナップショットである。これって、
「あー、これはね、タチアナさんが
お忍びでここに遊びに来たことがあったんよ。
その時に撮ってん」
と友人がやって来たから一緒に撮りました、と言うニュアンスで説明するかすみである。それ位に彼らの間には親密な関係があるのだろう、と想像するしかない神室霊華であった。だが、これでかすみのセレブな雰囲気と、だが金銭的なことには興味がなく金持ちの道楽の印象を与えられた点については、これで納得したのだった。
その後、神室霊華は自分用にがわれた部屋で寛いでいた時、部屋にかすみがやって来て、早速召喚術の準備をすると告げられた。え、いきなり?何かとか何かしないといけないのでは?とまだ心の準備が整っていない神室霊華であるが、そんな彼女の心情を知ってか知らずか、かすみはある物を自分の手元に出現させた。それは神室霊華から見て、どう見ても本である。だが、一体どこから現れたのか?もしかして手品なのか?と疑問が尽きないが、とりあえずかすみの説明に集中することにした。
「うちらが使うのは召喚術なんやけど、
そのためには、この召喚の書が必要なんよ。
これが出せればほぼ終了なんよ。
ははは」
え、そんなに簡単なことなの?と何か騙されているようなわれているような、腑に落ちない表情になる神室霊華である。だが、かすみの説明は間違っておらず、召喚の書が出てくれば、実は召喚術師としてはそれ以上何か準備するとこはないのだ。そこで、かすみの言う通りに発音したところ、
「え、これが召喚の書なんですか?」
と神室霊華の手元にはかすみと同じような本が出てきた。そこで、かすみは一旦部屋を出ていき、暫くしてから玲を伴って戻って来た。
「ほー、やっぱり召喚出来たんだね。
おめでとう。
かすみの指導にしては上出来だね。はは」
ん、何か私のことディスってない、玲、と少し切れ気味になるかすみである。そんなかすみの反応にお構いなしに玲は続ける。
「まあ、かすみの初期バージョンと比べると、
神室さんの方がレベルは高いから、
当然と言えば当然だけどね」
と益々かすみを挑発する言動を続ける玲である。本来ならかすみはここで玲に二言三言のクレームをするのだが、こと召喚術に関しては、玲に逆らわないことにしていたかすみは、ここでじっと我慢することにした。まあ、確かに自分で言うのもなんだが、神室霊華の方がこの分野ではキャリアが上なのは確かだから、それは仕方ない。
「で、かすみ、これからどうするの?」
「うーん、やっぱアレ出して練習せな
アカンかな~って思ってんけどな」
「かすみ、出せる?」
「いや、知らんし!てか玲、
そんくらい手伝ってくれてもええやん!」
と何やら自分は蚊帳の外に置かれた状況で玲とかすみのやり取りをただ見つめるだけの神室霊華だが、そのとき、玲が目の前にまるで手品でもしたのかと思うように、いきなり人形のような物を出現させた。
「えっ、これって、うちの時のと
ちゃう気ぃするんやけど?」
とかすみは何やら疑念を抱くのだが、玲は
「あー、あれから少しだけ改良したんだ。
これはね、怨霊を扱えるモードを備えてるんだ。
ただし、いつ怨霊が出るかは分からないから、
結構ドキドキするよ」
えー、何それ、そんなことできるんだったら、早くやってよね!と、いきなり駄々をこねるかすみであるが、その時はこんなことを想像することはなかった玲なので、これは仕方ないだろう。しかし、
「怨霊モードとかあるんやったら、
それってなんかヤバいこと
起こったりせぇへんの?」
と当然の疑問が沸くかすみである。これに対し
「術者に対し何か悪さすることはないよ。
ほら、怨霊とか悪霊だと、
なかなか霊界に帰ってくれないだろ。
あれを模擬しただけなんだよ」
なんだ、そう言うことか、と納得するかすみだが、神室霊華は何も理解できず、唯々彼らの話について行くので精一杯だった。そしてかすみは、神室霊華に向き直って、
「霊華さん、これで暫くは
降霊と除霊の練習をしますよ。
やり方はね...」
と言って、神室霊華の目の前で召喚門を呼び出して、そこにその物体を呼び出したり引っ込めたりし出した。
「すいません、かすみさん、
まだ私の頭では付いていけないのですが、
まずこれは何ですか?」
あっ、ごめんね、その説明かまだだった、はは、と笑いながら説明を始めるかすみである。この師匠について大丈夫なのだろうかと心配する玲である。
「これはね、練習用の霊体なの。
それをね、こっちに出したり入れたりするの。
あ、そうか、分かり難いので、
私たちは、お迎えするとお見送りすると
言い換えてるけど、そんなことを練習するのよ」
とかすみは説明するが、神室霊華はキョトンとした表情のままだった。これに業を煮やしたというか、呆れてしまった玲がかすみに注意する
「か、す、み、さ、ん
まずは、召喚術が何なのかが分からないと、
その説明しても分かり難いと思うけど」
それに対しかすみは、はっ、と思って顔を赤くして俯いてしまった。どうにも先走り過ぎて肝心のことを言い忘れていたことに漸く気付いた。そこで、改めてかすみは神室霊華に召喚術がどんなものかについての説明を行った。
かすみの説明を聞いて漸く理解できて納得した神室霊華は、その内容の凄さに心底驚いたのは言うまでもないだろう。そんな技術と言うか能力があること自体、初めて目にするし耳にするのだから。そして、かすみの言うように、まずは降霊召喚門を召喚する方法を学び、それを使って、先ほどの練習用霊体を呼び出した時、
「え、こ、これって、私がやったんですよね。
何か出てきたんですが」
と興奮しながらも戸惑う神室霊華である。そして、その霊体を今度はお見送りすると、
「あー、これが、かすみさんが行っていた
除霊なんですね。
でも、こんな簡単に出来るなんて...」
と何やら考え込んでしまった。それもその筈、自分が今まで苦労して身に着けた除霊の技術がいとも簡単に行えたのだから、やはり複雑な心境なのであろうことは想像に難くない。そして再び呼び出そうとした時、玲がかすみに何かを囁いた。かすみはその時、はっ、とした表情になり、急ぎ自分の部屋に戻って行った。一体何があったのか不安になる神室霊華であるが、その後かすみが戻って来た時、何やらペンダントらしきものを手にしていた。
「ごめんね、霊華さん。私手際が悪くって。
これなんだけど...」
と言って説明したのが、かすみが以前使っていた召喚エネルギーの測定器である。これを腰に巻いて召喚すると、自分の召喚エネルギー量が測定されて、赤い色は要注意だが、これが深紅になると危険なのでその時は召喚をストップして召喚エネルギーの回復に努めること、これをしないと死にますよ、と脅された。それ位、召喚術は危険なんだということを、神室霊華は漸く理解した。そこで、これを巻いて召喚術を再開することにした。
さて、初日は色々とトラブルがあったりしたが、無事に召喚術の基礎を身に着けることが出来た神室霊華である。腰に巻いた測定器が赤くなったところで、忠告通り召喚を止めて、後は回復に努めることにした。その後風呂に入って体を休めて、後は暫しかすみと歓談して、漸く眠りについたのが午前零時手前であった。何か興奮して寝られないだろうと懸念したが、それ以上に体力と精神力が限界にあったようで、ベッドに横たわった途端直ぐに眠り落ちた。そして、神室霊華が召喚術師に目覚めたことで、ここに地球人2人目の召喚術師が誕生したのだった。