召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、弟子を取る?(前編)
皆さんは、と言う女性を覚えているだろうか?以前、物部かすみが叔父のからの依頼で幽霊画の鑑定を行った時、そのうちの一つを買い取りたいと申し出た人物である。そしてこの女性は、日本では有名なトップクラスの霊能力者である。更に、本名はと言い、その紀家は、皇族とのを持つ旧華族であり、そして現在の紀家は事業の成功で莫大な資産を持つ。まさに神室霊華は、文字通りの名家の御令嬢である。そんな御令嬢が今ある深刻な悩みを抱えている。それは自分が霊能力者としては限界に来ていることである。神室霊華は幼いころに霊能力に目覚め、家族やその周囲の者達からは、「この子は神が遣わした子だ」と畏敬の念を持って育てられてきた。そして現在では、実家の紀家の支援があるにしても、政財界からの支持が厚く、自他共に認めるトップクラスの霊能力者であると思っていた神室霊華だったが、ある出会いを切っ掛けに、自分の霊能力の限界を知るに至った。そしてその限界を知らしめた人物こそが、物部かすみであった。かすみが目の前で繰り広げた除霊法は、その正確さとスピード共に自分よりも遥かに勝ることは見て分かった。しかもかすみは、神室霊華ですら行えない降霊術も行えるという。それも5万円という破格の安さで。自分が知る降霊術師の知り合いによると、自分が除霊する時と同様、身の清めから始まり、実際に霊を呼び出すまでに数時間、場合によっては半日かかることはよくあると聞いたことがある。勿論その分、降霊術の料金は数十万円が一般的だそうだ。それをたった5万円で簡単にできると、物部かすみは神室霊華に伝えた。今の所真偽の程は分からないが、除霊の手際のよさから判断して、そこに嘘偽りはないと確信していた。やはり物部かすみは、我々の常識では測りしれない存在だ、と言う認識に至った。そして、かすみの行為を目にした途端、自分の今までの努力が全て無駄なのではないかと言う疑念を抱くに至り、遂にはそれが水泡に帰すような感覚を味わった。これは、まさに喪失感であり挫折感である。果たして自分はこのまま霊能力者としてやっていけるのだろうか?
そんなことを考えて毎日悶々としながら悩んでいたある日、知り合いの霊能力者から、ある心霊動画のDVDが送られてきた。[ちょっと気になるので、神室さんに報告させてもらいました]、という簡単な手紙が同封されていたが、それよりも気になるのがそのDVDのタイトルである。タイトルは[心霊怪動画蒐~特別編~]とあるが、以前別の巻で問題になった、見ると呪われる動画が収められていたあれと同じところのDVDだな、と直ぐに分かった。そう、最神玲と物部かすみがその解決に携わった件である。あの時も、そのDVDを見て何かに憑りつかれた人物から除霊の依頼をされたことを思い出し、しかもその後数件ほど同じような依頼があったので、そのDVDには注意を払うことにしていた。そして、今彼女の手元にはその最新版が送られてきたのだった。また、あの呪いの動画の件なのかと疑いながら、そのDVDを自室の大型テレビで鑑賞することにした。
そして、約1時間後、DVDの再生が終わった後も、神室霊華はじっとテレビ画面を見つめ続けていた。そのDVDには、俄かには信じられないようなことが数多く収録されていた。恐らく普通の人の目には数体の霊体が見える程度だろうが、神室霊華であれば、更に多くの霊体を目にすることが出来る。それよりも、彼女が驚愕したのが、その除霊法である。数十体の霊体を一瞬で消滅させたのだ。それは映像のトリックではなく、まさに現実としてである。そんな芸当は自分には絶対にできない。では彼らは一体どこの誰だ?と言う思いから、もう一度再生して、今度は霊能力者と思しき女性と男性に注目した。すると、
「え、あの女性って、物部かすみさん?」
かすみも玲もDVDではモザイクが掛けられていたが、その服装は見る者が見るとロムリアブランドであることは一目瞭然である。そんなロムリアの衣装を着こなしての降霊術と除霊、まさしく物部かすみにしか見えないのだ。そして、神室霊華が更に驚愕したのが、彼らが除霊する時、あるいは降霊する時にその場に展開される不思議な模様。あの時、神薙家で物部かすみが目の前で除霊したときに見たあの模様、彼女はあれはこの世とあの世を隔てる門だと言っていた。残念ながらDVDの中の門はぼやけた感じでしか映っていなかった。いや、恐らく普通の人の目には、あれは見えないだろう。そう言えば、物部かすみと会った次の日くらいだったか、気になってあの模様と言うか門の形を調べたことがあった。あれは呪術とかで使われるサークルではないかと、何かの本で見た記憶を頼りに導き出したが、それを使って彼らは霊体を文字通り処理していたのではないかと推測した。そんなことが果たして可能なのか、もし可能なら自分に出来ないのか、そんなことを思うようになった。そしてDVDを見た翌日、神室霊華は意を決して、DVDの発売元である映像制作会社のジーエックスにコンタクトを取ることにした。
ジーエックスのスタッフルームは、今日も明るい雰囲気が漂っている。心霊動画を扱うのに明るい雰囲気とは似つかわしくないが、その理由は彼らが発売した[心霊怪動画蒐~特別編~]、それが予想以上に売れているためである。お陰で、社長兼プロデューサーのからは臨時ボーナスが出るし、まさにスタッフルームは明るい雰囲気に包まれたのだった。そんなスタッフルームに一本の電話が入った。たまたま傍に居たディレクターのが電話に出た。
[もしもし、こちら映像制作会社の
ジーエックスです。ご用件は何でしょうか?]
[もしもし、私、神室霊華と申します]
ん、神室霊華?何か聞いたことのある名前だぞ、となかなか思い出せずにいる山崎は、そのまま神室霊華と電話を続けた。そして神室霊華の用件とは、今回発売したDVDに映っている霊能力者の女性についてである。ただ残念ながら先方の希望で名前は出せませんと山崎は断りを入れたが、神室霊華から思いもしない名前が飛び出した。
[その女性ですが、物部かすみと仰られませんか?]
[え、何でご存じなんですか?]
と答えた途端、山崎は、しまった、と言う顔つきになったが、後の祭り。そのため、渋々だが先方の話に付き合うこととなった。
[実は物部かすみさんとは以前別の件で
お会いしたことがありまして、
その時にちゃんとお礼を伝えきれてなかったもので。
それで今回偶々御社の最新のDVDを拝見したときに、
彼女が映っていたのを目にしたので、
もしかしたら御社であれば彼女とコンタクトが
取れるのではと思い連絡いたしました]
と丁寧な言葉使いで山崎に説明した。この時点で漸く山崎は、神室霊華が何者かに思い至り、あの霊能力者の神室霊華様からの電話だ、どうしよう、と言う心境になった。と同時に山崎の言葉使いもやたら丁寧になったのだ。
[か、か、神室霊華様ですか、大変失礼しました。
はい、あのDVDに映る女性は物部かすみさんです]
やはりそうだったか、と納得する神室霊華である。そして物部かすみの連絡先を教えて欲しいとお願いしたのだが、個人情報云々で駄目だと言われてしまう。実際は、物部かすみ個人の連絡先を知らないだけなのだが。そんな事情を知らない神室霊華は、これを持ち出されると流石にどうしようもないため、別の方向から攻めることにした。それは、
[では物部かすみさんの所属している組織か
何かは教えて頂けますでしょうか?]
これに対し山崎は、彼らの営業にもプラスになるのではと、勝手に思い込み、
[M M超心理学研究所と言う組織です。
恐らくホームページとかあるかと思います]
と回答した。そして神室霊華はお礼を述べて電話を切った。その時山崎は、あの2人が神室霊華と繋がっているとなると、これはまた面白い企画が出来そうだぞ、と再び皮算用に入ったのだった。
さて、神室霊華は早速スマホでM M超心理学研究所を検索した。すると確かにホームページは存在した。だが
「え、何これ。シンプル過ぎない?」
とどこの誰に対してでもなく一人呟いた。確かにかすみは、M M超心理学研究所のホームページを作成していたが、ほぼ目的と仕事内容と金額、後は連絡先だけを記載した、ホームページ制作初級講座の教材かと言うくらいのシンプルな作りであった。ちなみに、かすみに言わせると、これでも一生懸命作ったというのだ。だが、神室霊華としては連絡先が分かれば十分なので、そのホームページとしての役割は十分に果たせたといえよう。そこで早速、そこに書かれていた連絡先に電話をすることにした。すると、
[もしもし、最神です。ご用件はなんでしょうか?]
あれ、M M超心理学研究所ではないのか?間違い電話だったかと思ったが、念のために[M M超心理学研究所でしょうか]と尋ねると、[はい、そうです。何かご相談でしょうか?]と返って来た。そうか個人の携帯電話が連絡先を兼ねているのか、と納得した。そこで、
[私、神室霊華と申します。
そちらに物部かすみ様はお見えでしょうか?]
と尋ねた所、[少々お待ちください]と言われて、暫し待つことになった。ただし、玲はスマホを持ったままかすみを探している様子がそのまま相手に筒抜けになっており、神室霊華はてっきり受付に繋がったものと思い込んでいたので、この様子に少し戸惑うのだった。そして、[かすみ、電話だよ]と言う声が届いた後で、
[もしもし物部ですが、
えっとどちら様でしょうか?]
まあ、確かに電話から漏れ聞こえた音声からも、誰からと言うのは言って無かったよね、と思い直し改めて名前を名乗った。すると
[ん、神室霊華さんですか。えーと、すいません、
どこかでお会いしましたでしょうか?]
えー、覚えてらっしゃらないんですか、と少し、いやかなりショックを受けた神室霊華である。だが、そんなことではへこたれないぞ、と自分に気合を入れて、神薙家での幽霊画の時にお世話になりました、と伝えた。すると、
[あー、あの時の、はいはい、思い出しました。
すいません、物覚えが悪くて]
と漸く話が進みだすことになった。ここまで来るのに長かったが、漸く神室霊華は少し安堵した。そして早速用件を切り出した。
[実は本日、物部様にお電話差し上げたのは、
折り入って相談がありまして]
と言って、まずは深呼吸をして、そして覚悟を決めて
[物部様が使われている除霊の方法を
私にも教えて頂けないでしょうか?]
そこで暫しの沈黙があった。あー駄目なのか、と諦めかけた時、
[そうか、召喚門が見えたんでしたっけ?]
召喚門とは分からないが、あの時の霊界とこの世界を繋ぐ門のことなら見えましたと伝えた。すると、
[それなら、多分大丈夫ですよ]
一瞬耳を疑った神室霊華である。てっきり拒否されるものと覚悟していたのだが、あっさりとOKが出たようだ。だがまだ信じられないため
[え、ほ、本当にいいんですか?]
と問い返さざるを得なかった。その時かすみは、見えない人には無理だけど、見えた人なら大丈夫と、うちの相棒の玲が言ってました、と伝えてきた。玲と言うのは、先ほどの方かと想像するが、今はそれよりも、自分もあの除霊法を学べられるのかと思うと、心の底から湧き上がる喜びに胸が満たされていくのを感じた。そして、かすみとどこでお会いできるかを尋ねると、神薙家のある差間見町の美土路神社にいるから、いつでも来てくださいと言われて、電話を切った。神室霊華としては、明日にでも現地に向かいたいが、流石にこちらの用事を全てキャンセルする訳にはいかないため、まずはこちらの仕事をすべてこなしてからになる。それでも、自分もあの除霊が出来るようになるのかと思うと、胸の中の高揚感が益々高まってくる。そのため、床に就いてもなかなか眠ることが出来ず、漸く明け方近くになって目を閉じたのだった。
さて、かすみが神室霊華からの電話を受けた時の美土路神社では、かすみが玲に対し文句を言っていた。
「玲、電話の件だけど、
誰からなのかちゃんと伝えてよね。
もう、恥かいたよ」
これは確かに玲が悪いため、ぐうの音も出ない。それよりも、玲が以前かすみに言っていたように、神室霊華はかすみにコンタクトを取って来た。それだけでなく、どうやら召喚術に興味があり自分にも教えて欲しいという。このことを玲に伝えると、
「うーん、まあ、かすみが自分で
何とかする分には僕は止めないよ」
であった。えー、手伝ってくれないの、と訴えるも、かすみが自分で決めたことなんだから、最後まで責任持たないと、と言われると、かすみもそれ以上何も言い返せなかった。確かに、玲に相談せずに決めたのはかすみである。仕方ない腹をくくるか、と言うことで神室霊華を迎える準備を進めるのだった。ただ、神室霊華の身分をどうするかだが、かすみの弟子になる以上、美土路神社の手伝いは当然すべきであり、加えて日々の生活で玲と分担している仕事も負担してもらう必要がある。とりあえず、神薙家に神室霊華を迎えることを伝えて了解を得る必要があるなと感じたかすみは、早速叔父の宗座衛門に電話で相談した。その結果、特に問題ないよ、と言う了解は得られたので、後は神室霊華からの連絡を待つことにした。
さて、神室霊華だが、自分が抱えている除霊の案件を片付けるのは第一だが、それ以上に家族を説得することが何よりも重要であった。とにかく、神室霊華が抱える除霊の大半は、神室霊華の生家である紀家と言うブランドのお陰である。そのため、紀家の意向は最優先せざるを得ないのだ。そこで、神室霊華は今の自分の限界について包み隠さず説明し、そのうえで更なる高みを目指すには修業が必要だということを強調した。ここで少し嘘を混ぜたが、それは修業先として差間見町の神薙家所縁の者のところであることを伝えた。確かにかすみは所縁の者だから間違いではないが、どちらかと言うと神薙家を強調したため、まあ、あそこであれば、と言うことで許可が出た。これで漸く神室霊華は心置きなく修業を始められるのだった。