召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲、救世主になる?(番外編)
サモネル教団での事件から数日後の神社の神職用住宅では、最神玲と物部かすみが2人だけのパーティーを開いていた。今回の件の打ち上げか?と思われるが、そうではなく、最神玲の誕生日パーティーであった。実は彼の誕生日は数日前、丁度かすみが東京にあるサモネル教団に入会した日だったのだが、そんな時に玲の誕生日を祝う余裕は彼女には全くなく、後日までお預けとしていたのだ。そして今日、2人だけのささやかなパーティーをしていたのだが、どちらかと言うと誕生日祝いよりも、やはり今回の任務の慰労会と言った方が適切かもしれない。
「ひかひ、わたひの演技も
まかまかなもんやったけど、
玲の演技ちゅうか、けは、
まひゅ、びっくりひゅたわ。あれは何にゃん?」
とかすみは口の中にマグロの握りずし2巻を頬張りながら玲に問い掛けた。かすみ、食べるか話すかどちらかにしろよ、と注意するも、かすみは食べることにも夢中だし、話すことにも夢中なので、「それにゃむりゅ(それは無理)」と速攻拒否した。続けてかすみは、口の中が空っぽになったところで
「まぁやっぱなー、今回の仕事うまいこといったんは、
うちの演技あってこそやろ〜」
と自画自賛し出した。これには負けじと、玲も
「いやいや、僕の方の演技と仕掛けでしょう。
あれがあったからこそ、
かすみの演技が光ったんだよ」
「はぁ? 玲さん、自分うちの演技見てへんくせに、
ようそんなこと言えるな〜」
と2人して、今度はどちらが演技が上手かったかについての言い合いが始まった。もうお分かりかと思うが、全ては玲とかすみが仕掛けたことだったのだ。
まず玲とかすみは、教団自体を解散に追い込むことを考えた。こういうカルトっぽい教団では、叩けば埃が出ること間違いないだろうということで、玲が責任者の魂の尋問を行ったが、その結果その責任者、宣教師のは自分の欲望のために信者達に金銭を要求していたことが分かった。そこでこれを突破口にして、先ずは責任者を追及することから始めることにした。だが、責任者の追及には、そのさらに上の者の存在が必要不可欠である。そこで、玲はサモネル教団が信奉するヴェルハムなる人物を装うことを考えた。だが、そもそも誰も見たことがないし、本人ですと言っても信じてもらえないのは目に見えている。しかも、てはなぜ東京に現れたのかの説明が出来ないし、説明できたとしてもそれを日本語で話すヴェルハムは、非常に怪しすぎるだろう、という疑念を生む。残念ながら後者に関しては、そもそも玲が日本語とサモナルド語しか話せないため、[ヴェルハム本人なりすまし計画]は土台無理な話だった。
そこで玲は、日本におけるヴェルハムの弟子と言う設定にした。そしてヴェルハムの弟子が信者の目の前で数々の奇跡を見せることで信用させ、その段階で宣教師の久米を追及することで、久米の信用を失墜させることが出来ると考えた。だが、そうすると今度はヴェルハムの弟子が責任者として祭り上げられる危険性があるため、これを処分する必要が出てきた。それが最後の演出であった。この筋書きを玲はかすみと共に練り上げて当日を迎えたのだった。
玲は、教団での催しが始まる少し前に体育館内の倉庫の一角に既に転移していた。その後、[信賞必罰の儀]の[必罰]が行われようとしたまさにその時、転移門の別の使い方である[演説モード(と勝手にかすみが名付けた)]を使った。これは、転移門に乗った演説者が、その姿形を複数の別の転移門に投影する機能である。ところが、玲はこの機能に更に改良を加え、演説者を好きな性別や姿形に変更する機能(要するにネット上でVtuberが作るアバター機能)と、そのアバターに質感を持たせる機能を追加した。特に後者の機能は、自身の召喚エネルギーを多く消費することが必要になるが、玲の場合は大量に消費しても全く問題ないため、それで漸く可能になった機能である。そのお陰で、まさにその場所に当人が居るような錯覚をその場にいる全員に見せることが出来たのだ。なお、複数体のアバターが動き回る場合、その光景は当然玲の脳にも伝えられるが、10人の異なる景色を同時に処理する能力は流石の玲も持ち合わせていない。そのため、その時だけは全てのアバターから送られてくる視覚情報を遮断することにしていた。そしてカフリングを通したかすみからの合図を待って、複数体のアバターを順次召喚解除したのであった。
その後、宣教師の久米が数珠を取り出したが何の効果もなく、シルバこと玲のアバターがそれを取り上げたが、実は久米が持っていた数珠はその前の晩にかすみが彼の部屋に転移で侵入し、自分が召喚した偽物と交換していたのだった。そして本物の数珠については、玲の所に転移で送り届け、玲はそれをロムリアからの転移者でアーティファクトに詳しい人物に届けて調査を依頼していた。なお、この調査の結果は後日玲の所に報告されたが、どうやらタチアナが作った同様のアーティファクトよりも構造が単純で、しかもかなり古い仕様であることがわかった。つまり、これを作った人物は、ロムリアの時代よりもさらに古い時代の召喚術師である可能性がでてきたのだ。そう、降霊召喚門に見られるバレル型の召喚門と時代が同じ可能性があるのだ。
さて、話を玲とかすみのことに戻すが、後はそこにいるヴェルハムの自称弟子であるシルバをどう処分するかであった。実はこの時、玲は新しく作り出した召喚術を使うことにした。それは召喚門を曲げる機能である。信者達が集められている体育館は古い仕様のせいか、屋根が平面ではなくかまぼこ型に膨らんでいる。そこで屋根の一部の膨らみにフィットするように降霊転移門を設置した。なお、降霊転移門は実際に開閉するととんでもないことになるので、代わりにあたかもそこが開いていくような映像を投影した。そう、プロジェクションマッピングのデバイスを同時に召喚していたのだ。そして、やはり光の筋に関しては、降霊転移門に強力なサーチライトを設置し、それを使うことで再現した。なお、それが槍になってシルバに突き刺さっていたが、あれはそのようなシルバを用意して入れ替えただけである。ただしそのまま入れ替えると不自然なため、サーチライトの照射強度を上げつつ、音響効果を取り入れてそちらに全員の視線を集めることで簡単に入れ替えれたということである。地球の技術であれば、映像に限ればCGで如何様にも作れるが、実際の現場で見せて体験させるには、やはり召喚術に頼るしかないだろう。だが、こんな複雑なことも、玲ことカーンは、楽しそうに行っていたことを最後に付け加えておこう。
後日、かすみの母の物部京子が美土路神社にやって来て、から娘の脱会のお礼とその後サモネル教団がどうなったかの経緯を聞いたということで、玲とかすみに次のような話をした。
迫畑久美子はあの騒動により洗脳が解けて、ステージ上で「お金を返して」と叫んでいる様子がかすみによって目撃されていた。その後、迫畑久美子を含む信者全員は、最寄りの警察署に駆け込んで保護を求めだした。だが警察も、流石に2000に近い人達を全員保護できる体制はないため、一旦元の教団施設に戻ってもらい、ただしその施設には警察官が数十人体制で警備にあたることで、信者達は落ち着きを取り戻した。その後迫畑久美子は事情聴取などで東京に残っていたが、単身赴任中の父親と再会した途端、「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝りながら泣き崩れてしまった。そして今は父親と一緒に差間見町に帰宅して親子3人で親戚を回って謝罪行脚の最中だということだ。なお、久米が集めていた金は、玲が[サモネル被害者の会]に匿名で情報を提供したお陰で、被害者の会の弁護団が急ぎ資金の流出を防ぐべく対応を行ったことで、最終的には半分近い寄付金が迫畑久美子を始めとした信者の手元に何とか戻って来た。なお、今回玲とかすみの手元には何も入らなかったが、実は玲とかすみは、かすみの発見したバレル型による新しい術式がお金以上の価値を齎したとみて、これには大満足だった。特にかすみにとっては、玲に教えてもらったバレル型の術式が、玲が苦心して改良した降霊転移門経由の召喚術と比較しても召喚エネルギーの消費量を同程度に抑えることが分かったことで、以後このバレル型の召喚だけを使うようになった。
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同じ頃、あるバーで男とマスターが会話をしていた。この日も店内には彼ら以外誰もいない。
「マスター、日本支部が壊滅しました」
「ああ、既にその報告は聞いている。
それで原因は何だったんだ?」
とマスターは苛つきながら男に問い質した。男は、支部長のクメが私腹を肥やすために信者から違法に献金を受けていて、それが日本の出資法に違反するということで逮捕されたこと、その後信者の反乱により脱会者が後を絶たなくなったことを原因として挙げた。だが、
「それよりも、日本支部との連絡役の話だと、
ヴェルハム様の弟子を名乗る人物が
現れたとの情報があるが、
その後の調査はどうなったんだ?」
と更に怒気を孕む言い方で男に詰め寄った。この教団の創設に関してヴェルハムから直々に声を掛けられた自分が、その弟子の存在を知らない訳がない、何かの間違いかペテンだろうと当初は考えていたが、その場で見ていた連絡員の話では、想像を超えるような奇跡があったということだ。ただし、最後は何やら神ののようなものに撃たれて命を落としたらしいが。そんな話を俄かに信じることはできないが、その場で大勢の信者が同時に目撃しているという。尤も集団催眠でもかければ出来なくはないだろうが、1人の失敗もなく2000人もの信者に集団催眠を行う技術がこの世界にあるのかも疑問に思えたのだ。だが、そんなことを考えている場合ではなく、今は日本支部をどうするか、あるいは場合によっては他の国でも同じ事が起きるのではないかと言う懸念に対処する必要がある。
「マスター、調査に関しては継続中ですが、
それよりももっと厄介なことがありまして...」
実は日本支部からの転移先となっているフランス国内の農場の地下倉庫、あそこに設置してあった召喚門がいつの間にか消えて無くなってました、という驚くべき情報が男から伝えられた。外に設置されるあの召喚門は時限装置が作動しており、時間が来ると自然に消滅するようにはなっている。ところが、あの場所の召喚門にはそのような処置は施されていない。それは、あの召喚門はマスター自らが設置したからである。ではなぜ消滅したのか?残念ながらマスターを始め、サモネル教団の関係者は誰もその方法は知らない。知っているのは彼らが崇拝するヴェルハムだけである。何時も沈着冷静をモットーにしているマスターも、この時ばかりは顔に出るくらいに狼狽していたのだった。順調かと思われた計画に狂いが発生し始めたのではないかという、大いなる懸念と共に。
「先ずは、教団内部にスパイが居ないかの確認を急げ。
それと信者の引き締めを強化しろ」
とマスターは男に指示を出した。男は「分かりました」と言って、カウンターに金を置いてそのまま出て行った。一人残ったマスターは、場合によっては、今コンタクトを取っているあの国に保護してもらうことも視野に、今後の方針を立てるのだった。