召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲、救世主になる?(後編)
物部かすみが東京の本部にやって来た翌日の正午になって、東京の教団本部に居る信者、世話人、宣教師全員が体育館に集められた。とは言え、態々新入会員のためにこのような催しをする訳ではない。実際は、彼らが言うところの[信賞必罰の儀]が行われるのだ。まず[信賞]に関しては、信者の中から素行がよく皆から信頼される人物に対して、世話人を命じたり、あるいはカウンセラーと言う名のスカウトになったりする、要するに教団内で出世できるのだ。世話人やスカウトになると、自由に教団の外に出られるのは勿論、一般の生活を送ることが可能となる。ちなみに、かすみを連れてきたカウンセラーのはスカウトであり、かすみの(偽の)相談に親身になってのってくれたは世話人であった。一方、[必罰]に関しては、修行を真面目に行わない、問題行動が多い、無断で教団敷地の外に出る、と言った場合が該当し、降格処分と1週間の独居室での修行と言う名の監禁が行われる。加えて、宣教師に逆らって意見するなどもこれに該当し、実際[サモネル被害者の会]の代表である山本義明は、この処分が下され世話人からの降格となった。だが、実は更に重い罰がある。それは脱会行為である。教団を勝手に抜け出して逃げてもし捕まった場合、その信者はある場所に転移させられると言われている。残念ながらその場所はこの教団の誰も分からない。宣教師は唯言われるがまま、その人物を指定した場所に転移門で送るだけなのだ。
さて、黒いカソックに身を包んだ宣教師達がステージ上に姿を現した時、館内は一瞬で静まり返った。この時かすみは、紹介される新入会員の一人としてステージ下の最前列にステージ側を向いて立っていた。そして東京の教団本部を管理する宣教師のが前に出てまず新入会員の紹介を行った。かすみ達新入会員はステージに上がり、そこで紹介を受けた。そしてまた元の場所に戻り、今度は[信賞必罰の儀]に話題が移った。まず[信賞]であるが、幾人か名前が呼ばれ、その後ステージに上がって久米から新たな役割を与えられるのだが、その中にかすみが探していた迫畑久美子が含まれていた。かすみはその名前を聞いた時、顔には出さないものの、驚いたことは言うまでもない。そして迫畑久美子が賞された理由は、多額の寄付金であった。要は、教団の布教のために熱心に寄進した行為がヴェルハム様に認められた、などとく理由で認められたにすぎない。だが、これでかすみが探していた人物がこんな形で見つかったのは僥倖と言うべきか。
次に、[必罰]に移るまさにその時、今まで陽光が差していた体育館の2階の窓が急に明るさを失い、体育館内は闇に包まれた。一体何が起きたのか館内は騒然としていたが、その時ステージ上の一角が少しずつ明るさを増してきた。それと共にそこには一人の人物が徐々に姿を現したのだ。それと同時に、騒然とした館内は一瞬で再び静寂に包まれ、全員何が起きるのかを固唾を飲んで見守っていた。
「皆さん、こんにちは。
驚かせてしまいましたか」
と黒いスーツに身を包んだにこやかな表情で語る一人のグレイヘアーの初老の男性がそこに立っていた。そして、
「先ずは自己紹介をしましょう。
私はヴェルハム様の弟子の一人のシルバと申します。
さて今回私がここに来た目的は...」
ヴェルハムに代わり必罰を行うためにここに来た、とシルバは語った。なおシルバのそもそもの任務は、ヴェルハムの教えをこの国に浸透させることであったが、どうも上手くいっていないため、調査することが目的であることも伝えた。だが、
「とは言え、本当にヴェルハム様の弟子か
どうか疑う方もおられると思いますし、
それは至極当然でありましょう。
そこで、一つ皆さんに奇跡をお見せしましょう」
と言うや否や、ステージ上にもう一人のシルバが現れ、更に続けて、ステージ下と体育館の両サイドと後ろにも複数体のシルバが出現した。そしてこれでもか、と体育館の2階の観客席にも複数体のシルバが出現した。これを見た信者たちは、悲鳴を上げたり、何かに対し一心に祈りを捧げたりと、殆ど収拾がつかない状況になって来た。そして、
「そうですね、私がホログラフか何かと
疑う方もおられるでしょうから」
と言うことで、1階のシルバ達は、そのまま信者の中に入って行き、信者達と握手をし始めた。当然ホログラフであれば握手など出来るはずがない。ところが、シルバと握手した信者たちは、その手の柔らかさと温もりを感じた。そしてそれが引き金になって、握手した者達は皆シルバの足元に自然と跪く姿を示したのだ。
そして一通り信者達と握手をしたところで、最初のシルバを残して、全員姿を消していった。
「さて、私の奇跡をご覧頂いたところで
早速本題に入りましょう。
今回、私が必罰すべきと
判断した人物は、あなたです!」
とシルバが指をさしたのは、ステージ上で呆けた表情で立ち竦んでいた人物、東京の教団トップの久米充尚であった。だがシルバから指をさされた久米は事態を理解しておらず、ただシルバを見つめるだけだったが、シルバとそこに集まった全ての信者の視線が自分に向けられていることを理解した途端、全身から汗が噴き出るくらいに緊張で震え出した。
「私が言いたいことは分かりますか?」
久米は、緊張で口の中が乾いてしまったのか、「いいえ」と答えたものの殆ど声には出ず、口をパクパクさせたまま結局はただ首を振るだけとなった。そして
「あなたは、我が教団は人が欲しいと
言っていたにも関わらず
なぜかお金を信者達に要求してましたね。
なぜですか?」
そう尋ねられた途端、久米は「し、しらん、そなんこと知らん」とかすれた声を出してしらを切り出した。そして突然、懐から数珠を取り出し、それで何やら呪文を唱え始めた。だが、何も起きない。久米は怪訝な表情のまま只管唱え続けるも何も起きない。そのうち、額から汗が滴り落ちて、相当焦っていることが目に見えるようになった。シルバは首を振りながら、「そんなことしをしても、無駄ですよ」と言って久米に近づいてその数珠を取り上げ、その場で引き千切った。流石の久米も、もはや抵抗する手段がなく、口を開けたまま力尽きてその場に両膝をついて崩れ落ちた。
「皆さん、我々はあなた方に
金銭は一切要求しておりません。
それなのに、この男は、
我々の顔に泥を塗ったのです。
これは許せることでしょうか?」
とシルバは信者達に問い掛けた。そして「罰を与えろ」「私のお金を返して」などと一斉に声が上がった。その時、かすみはステージ袖に下がっていた[信賞]を受けた信者達、特に迫畑久美子も久米に対し必死の形相で「お金を返して」と叫ぶ姿を目にしたことで、彼女の呪縛はこれで解けたのかな、と少し安心した。だが、ステージ上ではまだ必罰は続いている。
「この男の処分は皆さんに任せましょう。
それよりも私としては...」
本来の目的である人を要求します、とそう宣言した。人を要求するという意味が理解できない信者達は、次第に不安な気持ちになって来た。そこで、意を決してかすみが、
「ひ、ひ、人を要求って、
ど、ど、どういうことでしょうか?」
と不安げな表情で尋ねた。すると、
「言葉通り、人が欲しい、
と言うことですよ、お嬢さん」
とシルバは薄く口元を吊り上げた。だが、その瞳には冷たい光が宿り、一切の感情が感じられない。まるで仮面のようなその表情は、人の形を借りた何か別の存在のように見え、かすみの背筋にじわりと冷たいものが走った。そしてかすみは恐ろしさから目を瞑って下を向いた。そのままの状態で
「そ、それって、い、生贄ということですか?」
と震える声で尋ねると、シルバは更に歯を剥き出してニコリと笑って「おめでとう、正解です」とかすみに拍手を送った。生贄と言う言葉を聞いた途端、その場にいる全員が息を飲む音が聞こえるくらいの緊張感に包まれたが、やがて、どこからか「いやだー」「助けて」の悲鳴が上がり始めた。そして、一部の信者達が体育館から出ようと出入り口に殺到するが、なぜか扉が開かないため、ますますパニックに陥りだした。そしてシルバが一人ずつ何かの力で怯える信者達を拘束し、これから転移でどこかに連れ去ろうとした時、突然体育館の天井の一部が開いたかのように明るくなり、幾筋かの光がその開いた部分からシルバに注がれた。その光景をその場の信者達全員が目にしていたが、その光が収束しやがて一筋の光になり、更に辺りが眩い光で包まれたその時、
「ドーン!!」
と言う爆発音がしたかと思うと、シルバの胸に槍のようなものが突き刺さった。これにはシルバは全く反応できず、胸から血を流したままれていった。そして最後の力を振り絞って、自身をどこかに転移させて消えた。
その後、天井は元に戻り、室内に明るさが戻って来たことで、信者達は漸く解放されたという安心感から、体育館の外へ逃げ出して行った。かすみは気が抜けたのか、その場にへたり込んでいるが、一方でステージ上では、久米がスカウトや世話人、あるいは古参の信者達に囲まれて責められていた。そしてこの瞬間、サモネル教団の日本支部は消滅を迎えたのであった。