召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲、救世主になる?(前編)
米野市での偽装工作を終えて神社にある自宅に転移で戻って来た物部かすみは、最神玲と今後の方針についての作戦会議をリビングで開いた。そしてある程度の方針が固まったところで、それぞれの部屋に戻って休むことにした。
その日の夜中に、玲はかすみが残した転移門のマーカーを頼りに、東京の教団施設内に転移した。先ずは自分の目でそのバレル型の転移門を見ておきたかったのだが、体育館のステージ上にあったその転移門は、確かにかすみの観察したもの、そのものであった。それを目の当たりにした玲は、改めてこのバレル型の不思議さに魅了された。そして念のため、この転移門でどこに転移出来るのかを調べた所、日本国内の全教団施設と、そことは異なる別のもう1カ所が登録されていることを確認した。その1カ所がどこかは分からないが、その前にこちらでやるべきことをやっておくことにした。調べるならその後である。まず転移門を使って施設内をサーチしたところ、学校の教室を改造して作られた大部屋の中には3段ベッドが何台も設置され、そこでは信者達が雑魚寝している様子が確認できた。そして何カ所かサーチした結果、校長室にあたる部屋が個室として作られており、その部屋にこの教団のトップであろう宣教師が就寝中であることを確認したので、玲は早速その部屋に転移した。そして、就寝中の宣教師に対し、魂を分離して尋問を始めた。その結果、宣教師の名前はと言い、サモネル教団の日本支部の支部長だということが分かった。次にこの組織の目的について尋ねた。すると、
「・・・ひ、と、を、お、く、る、
ひ、と、を、か、ん、し、す、る」
と答えた。人を送る?そして人を監視する?ちょっとこれらの意味を把握しかねるので、先ずはどこに送るのかを聞いたすると、
「・・・ほ、ん、ぶ」
組織の目的は自分達の信仰を布教するとかでもなく、金集めでもなく、人を本部に送ることだというのだ。これってどういうこと何だ?あっ、そうか、先程の転移先が本部で、そこに人を送っていた、と言うことか?そこで、サモネル教団を束ねる組織と本部、そして代表者について尋問した。すると、組織の場所は分からないがヨーロッパのどこかだと聞いたことがあるという。そして代表者も名前は分からないが、「マスター」と呼ばれている人物だという。その人物から世界中のサモネル教団に指令が伝えられ、我々はそれに従っているだけだということだ。そして人を送る場合は、転移門を使って転移させる。しかし、彼らが最終的にどこに送られるのかについては分からい。その時「これって人身売買と言うやつか?」と玲は疑念を抱いた。もしそうなると、かすみが危険にさらされることも十分にあり得る。
次に人を監視するとあったが、誰か特定の人物でも監視するのか?と思い、それを尋ねた。すると、
「・・・も、か、み、れ、い」
ん!?、今僕の名前呼ばなかった?何で僕がこいつらの監視対象なんだ?尽きない疑問が次から次へと湧き出てくる。自分はサモネル教団何て今まで知らなかったのに、向こうは自分のことを知っているとは、どういうこと何だ?そこで幾つか質問を加えたところ、どうやら本部からの命令であり、なぜその人物を監視するのかは分からないという。しかもその人物が何処にいるのかも把握していないらしい。これは少なくとも、今の段階では玲は彼らに素性を知られてはいないとみて良いだろう。ただし、サモネル教団本部が監視せよ、と命令した裏には、恐らく召喚術師に関係したことではないかと推測された。だが、
「僕が召喚術師であることを知っているのは、
サモナルドからの転移者だけだよな。
後はかすみだが、まさか!」
と呟くも、かすみではないことは絶対確信が持てる。そうなると、サモナルドからの転移者による情報リークが疑われるのだった。もしそうであれば、今後は用心して彼らに接しないといけないのか、と何やら疑心暗鬼に陥ったりして悲しい気分にさせられた。タチアナを通じて仲良くなった人達がかなりおり、その人達を疑いの目で見ることに果たして耐えられるだろうか。だが、油断していると自分だけでなく、かすみまでも危険に晒されるため、やはり用心に越したことは無いと考え直した。勿論、タチアナと共に帰還した中にその人物がいる可能性も捨てきれないが、少なくともタチアナが信頼を置いていた人達は、今まで通り接することにしよう。
それから、久米に対しヴェルハムに会ったことはあるか尋ねたが、全く分からないとの返答であった。あと、どうしても聞きたいことがあった。それはどうしてお金を集めているのか、ということ。金ではなく人集めが目的の教団において、なぜ金が必要なのか?その答えは凄く単純と言うか、まあ、この宣教師の欲望の赴くままの行動であったようで、
「・・・か、ね、が、ほ、し、い、か、ら」
だった。要するにこの久米と言う宣教師が単に金が欲しいから、と言うことだった。一応、久米が集めた金はどこに保管されているかを聞いたところ、この部屋の金庫と彼の預金口座に収められているということだ。念のため通帳と印鑑の保管場所を聞いておき、これらの情報については、後で[サモネル被害者の会]に匿名で伝えることにした。これ以上聞くこともないし、聞きたいことがあればまた来ればいいか、と言うことで玲は魂を元に戻し、自分はそこから転移してこの施設の体育館に再び戻った。
さて、体育館に設置されている転移門からどこに転移されるのかを調べるために、玲はそこに登録されている日本国内の教団施設以外の転移門に向けて転移した。玲が転移した場所は、真っ暗な部屋であった。何となくじめっとした雰囲気から地下室を思わせた。そんな真っ暗な地下室に、隙間から漏れた明かりのお陰で扉の輪郭が浮かび上がった所がある。そこで、ここに転移した人は恐らくその扉に何の迷いもなく向かうだろう。だが、普通の人は決してその扉に辿り着くことはできない。なぜなら、そこへ行く途中に罠が仕掛けられているからである。玲がそれを見て驚愕するほどの罠が。
「そうか、この教団が全ての元凶なのか?」
玲の目の前にあるもの、それは最早彼にはお馴染の降霊転移門であった。玲は念のために降霊転移門の中を覗き込むと、
「うわー、これは酷い!!」
と目の前の霊界に広がる光景に絶句した。降霊転移門の中には、視界が僅か数メートルとは言え、信者と思われる服装の死体が十数体確認された。恐らくこの先にはもっと沢山の死体が転がっているのだろう。そう、ここに送られた信者達は、出口を求めて進んだ先が霊界であることを知らず、そのまま霊界に迷い込んで命を失った。なぜこの教団は、信者達にこのようないことをするのだろうか?一体何が目的なのか?もし信者への見せしめであれば、もっと分かり易い方法で対応するだろう。玲は止めどなく考えるが、ここで正解が出る訳ではないことは自覚している。そこで、一旦目の前の降霊転移門を上書き消去し、玲はその先の扉の外に出ることにした。だが扉には鍵が掛かっていて開けることは出来ない。そこで、玲は転移門を召喚し、付近をサーチすることにした。扉の外はもう直ぐ日没を迎えるか、既に迎えたかのような黄昏れ時を迎えていた。日本との時差からしてどうやら日本の裏側、ヨーロッパかどこかの国だろうか、と推測される。更に転移門を移動させると、ここが農場か牧場のような施設であり、母屋にあたる建物内に2人の年配の男女が夕食だろうか、食事をしている光景が目に入った。顔立ちからすると、ヨーロッパ系のようだ。となると、ここはヨーロッパのどこかの国と言うことになるだろう。残念ながら玲はヨーロッパのどの国の言語も理解できないため、魂の尋問をするにも苦労しそうであった。そこでもう少し転移門を移動させて近くの都市に転移門を向けた時、
「え、ここって...」
昨年の3月にかすみと訪れたあの街、パリのエッフェル塔のシルエットが転移門から確認できた。そう、今はロムリアに帰還したタチアナのお膝元にサモネル教団の本部らしき所があったのだった。そこまで分かったところで、玲はこの地下室の目立たない一角に転移用マーカーを設置し、詳細は後日改めて確認することにして、美土路神社の自宅に転移で帰宅した。
それから暫くの間、玲とかすみは神社の仕事に専念した。かすみの所には、時折サモネル教団からのメールが送られてくるようで、その都度もっともらしい返事を書いて送ったりしていた。そして、かすみがサモネル教団に入会する当日を迎えた。少し硬い表情のかすみを見て、玲は
「かすみ、大丈夫か?何なら止めておくか?」
「大丈夫よ、玲、心配してくれて有難うね」
何とか笑顔を見せようとするも、少しぎこちなく笑顔を取り繕っているのが分かってしまう。そんなかすみに、
「とにかく、無理はするなよ。
何時も冷静でいること。
それが出来ればどんな問題でも
対応出来るからね」
うん、わかったと言って自室に戻り、かすみのコレクション中では一番地味な服装を選んで、必要最低限の荷物を持って、玲に「じゃあ、行ってくるね」と言って米野市に転移した。先ずは、かすみが暮らしていたマンション(仮)の近くで召喚したカラスを回収し、IDカードをポケットに仕舞った。それから米野市駅に向かうため何時ものチャリを召喚し、それに乗って駅近くの駐輪場に入って預けるフリをして召喚解除した。その後待ち合わせの場所に向かうと、既に何人かの新入会員らしき人達が集まっているのを目にした。まだお互いに名前などは知らないが、前回会った人達であることは何となく覚えていたので、お互いに簡単な挨拶を済ませた。それから10分程経って、1台のマイクロバスがロータリーに入って来た。そして降りてきた教団関係者が簡単なあいさつの後で点呼を行った。そして「近藤恵子さん」と名前が呼ばれたが、かすみは何故か無反応。もう一度「近藤恵子さん」と名前が呼ばれた時点で、かすみは、あ、私のことだった、と漸く思い出し「あ、は、はい」と何とか返事をした。その後「すいません、ちょっとぼーっとしてました」と俯き加減で謝った。その時「はー、危なかったー」と囁いたのだが、耳元から「ぷっ」と言う含み笑いが漏れる音が聞こえた。くそ、玲のやつ、聞いてたのか、と思った途端、恥ずかしさで急に顔が赤くなって直ぐに腹が立ったりしたが、お陰で何時ものかすみに戻れたようだ。その後、バスに乗って米野市郊外の廃校に向かった。
バスから降りて体育館に向かい、そこで改めて点呼を受けた時は近藤恵子でちゃんと返事をした。その後手荷物検査がされたとき、教団関係者から「その耳に着けてるカフリングは没収します」と言われた。すると、かすみは、
「すいません、これは亡くなった母が
私のためにプレゼントしてくれた物なんです。
だから、お願いです。没収はしないでください」
と頭を下げてお願いした。かすみは母を亡くしたことにしたが、心の中では「お母さん、御免ね」と謝っていた。さて、教団関係者は難しい顔をしたものの、別の関係者から「まあ、いいじゃないの」と言われたので、渋々だが没収は免れた。だが、
「ただし、耳につけることは駄目ですから、
ポケットに仕舞ってください」
と言われたので、そこは言う通りにした。それから新入会員は、ステージに上がり東京の本部に転移していった。
東京の教団本部に到着後、かすみを含む新入会員は、一つの大部屋に案内された。そこでこれからの生活が始まるのだが、ここで厄介なのは、食事は自腹購入することであった。てっきり食事は給食のように食べると思っていたのだが、何やら外部の給食業者を入れて食事を提供しているという。なお寝具は、ここの修行を終えた者達が使っていたのがあるので、それを使うように指示された。まあ、無いよりはましか、とかすみは思ったが、問題は風呂である。段々寒くなるから、当然ゆっくりと風呂に浸かりたくなるのだが、風呂は2日に1度だと言われたときには、「刑務所か!」とツッコミたくなる位にかすみはかなりのショックを受けた。このままここに居たら、自慢の肌がボロボロになって行く、そんな悪夢を想像してしまった。とは言え、先程も連絡があったのだが、明日は新入会員を紹介するために全員を集めるということだったので、恐らく明日には決着がつくだろうとかすみは思った。一応念のため、トイレに行ってから急ぎ自宅に転移して、玲に明日の正午に全体集会があることを伝えた。それから、先程の失態を笑った罰として、玲の頭に一発お見舞いした。玲は急にかすみから一発食らったため、ビックリして
「か、かすみ、何で僕殴られないといけないの?」
と当然の質問を返したが、これに対しかすみは、
「はあ、さっきな、私が自分の名前忘れて
返事せーへんかった時、あんた笑ったやろ。
人の不幸を笑うなんて、
ホンマ惨めで愚かな性格やで!」
と何やら芝居がかった感じで嘆き悲しむふりをし出した。玲は確かに心当たりがあったので、「ははは、ごめんよ」とをかきながらかすみに謝った。まあ、かすみも本気で怒っている訳ではないので、「今回は、これで勘弁してやる」と何やら上から目線な言い方で玲に伝えた。玲も何時ものかすみに戻っていることに安心しつつ、でも一発はないよな、と愚痴を零したくなるのだった。
さてかすみは、急ぎ東京の教団本部に戻り、とりあえず夕食の時間まで自室としてがわれた大部屋で、教団から購入した本を読むことにした。と言っても、中身は正直ショボい内容である。これで転移術ができるのだったら、私は大召喚術師じゃね、あ、タチアナさんに失礼か、はは、と心の中で自分でボケて突っ込んだりして楽しんでいた。その後、同部屋の住人と少し会話をして、夕食の時間が来たので財布を持って食堂に向かった。
そして食堂から戻ってきたかすみだが、かなりご立腹な様子。
「なんなん、あの夕飯。あれで千円って、
物価の高い東京でもないわー、引くわー」
その理由は、お握り2個(梅干しのみ)とみそ汁が付いただけで千円取られたからである。玲もかすみも、普段から自炊を心がけており贅沢を殆ど、と言うかほぼしないからか、この量で千円はぼったくられたと思うのも無理はない。だが、玲もかすみも食うに困るような収入しかないかと言えばそれはなく、むしろサラリーマンが一生働いて稼ぐ金額のはるか上を行く収入があるのだから、そんなことで腹を立てることもないと思われるのだが。
ところでかすみが今いる所は、東京都心部から少し離れた郊外にある元は都立高校だった所である。所謂「ベビーブーム」の時代には、この学校には最大1200名程の学生が通っていたらしい。ところが、少子化の影響で統廃合が進み、その影響でこの学校も数年前に別の都立高校と統合され、廃校となった。そこを2年程前にサモネル教団が買い取って今のような施設に改築した。ただし、校舎の外壁は老朽化の影響で所々が入るものの、造りはしっかりしている。そして何よりもこの旧都立高校の最大の魅力は教室が多く、しかもちょっとしたアリーナかと思われるような大きな体育館を持つことだろう。それにより、大人数を一度に収容することが可能となるため、サモネル教団にとっては魅力的な施設となった。そんな旧都立高校の敷地内には、現在全国から集められた2000人程の信者が修行と言う名の共同生活を送っている。そんな信者の一人であるかすみは、今自室のベッドに横たわっている。ところでかすみの部屋だが、廊下側に張られた[2-3]のプレートから、ここか2年3組の教室であったことが伺える。そしてその中で今は40人程が沢山置かれた3段ベッドの中で生活しているが、そんなベッドだけが、各自の唯一の個人用の空間となっていた。そなんある3段ベッドの一番下の段にかすみは寝そべっている。残念ながら、起き上がると上の段の天井に頭をぶつけそうになるので、起き上がるときは気を付ける必要がある。そして、今の時間は午後7時を少し回ったところ。流石に美容のために十分な睡眠をとることを心がけるかすみでも、この時間から寝ることは出来ない。それこそ「お子様か!」と言う自虐を込めたツッコミをしただろう。かと言って、他の人達みたいに自習室なるところで、もらった(何の役に立つか分からない)テキストを読んで覚えるのも面倒である。更に、今の時間は外出禁止となっているし、手元にはスマホがないため、かすみは唯一人ベッドの中で瞑想していたのだった。と言うと聞こえはいいが、実はしっかり寝ていた。それから、約7時間後の午前2時を少し回った頃、かすみはベッドから起き出した。そして何かを布団の中に召喚してから、そのままある所に転移した。それから約30分後に再び元の部屋に転移で戻って来て、先程召喚した物を解除してから再びベッドに潜り込んだ。