召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、コンテストの審査員をする (中編)
総合大学の心霊サークルが主催する心霊動画コンテスト開催当日を迎えた。物部かすみは朝からM Mの制服に着替えを終えて、これから朝食というところである。今週の料理番は最神玲で、テーブルの上にはトースト、目玉焼き、カリカリに焼いたベーコン、そしてコーヒーと何時もの朝食が並べられていた。かすみは自分の分を綺麗に平らげて、後は出発を待つだけとなった。今回のコンテストは心霊サークル部員限定とはいえ、応募総数100近いという。現在の部員数は確か30人程だったので、1人3本は応募しているようである。まあ、1人幾つまでと言う制約は設けてなかったので(正確には忘れていたようだが)、結果この数になったとのことだ。流石にこれを全てかすみに審査させるのは気が引けた部長の竹内以下4年生組は、部員全員を集めて、先ずは自分達が見て怖いかどうかをチェックすることにした。そして部員全員の投票で選抜した結果、何とか15本近くまで減らすことが出来たようだ。だがそれ以上は霊感ゼロの自分達では限界だということで、後は玲とかすみに託されたのだった。だが、玲は仕事を抜ける訳にはいかないため、そこで代役が必要となった。
「かすみ、向こうは大丈夫だって?」
「勿の論よ。何か面白そうだから
是非行く言うてたわ」
「向こうも仕事を抱えてるだろうから、
あまり無理はさせないようにね」
「わかってるわ、ホンマ、うちを誰や思ってんねん」と冗談半分で怒り出すかすみである。玲もかすみだけだと、また暴走しかねないことを懸念するが、相棒が居れば少しは落ち着くだろうと安心するのだった。
「じゃあ、僕は神社に行くよ。
かすみも気をつけてね」
と言って、玲は午前8時になったので社務所に向かった。かすみの方は、午前9時にコンテストが行われる大学の教室での待ち合わせとなった。今回はサークルの部室には全部員を収納しきれないため、大学側に教室の使用許可をお願いしたところ、大画面モニターが設置されている講義室を借りることが出来た。そこで待ち合わせと言うことである。事前に講義室の場所は確認してあるので、後は転移先をどうするかだが、まあ新しい所を探すよりも最近よく利用する心霊サークル部室裏、あそこが安心だなと言うことで、転移先の状態を確認後かすみは転移していった。
かすみが東洛総合大学に転移した丁度同じ頃、一台のタクシーが大学正門前に到着した。運転席から降りた運転手の男性がトランクからキャリーケースを取り出すと同時に、左後部の開いたドアから一人の女性が姿を現した。その女性、腰まで伸びた黒髪とM Mの制服に身を包んだ、である。今回かすみが玲の代役として呼んだのは、かすみの一番弟子である神室霊華であった。早速神室霊華は、正門横の詰め所にてコンテストが行われる教室の場所を確認することにした。そしてキャリーケースを引きながらゆっくりとした足取りでその教室に向かった。
教室には先ずかすみが先に到着した。講義室の扉を開けて中に入ると、既に心霊サークル部員が全員集まっていた。いや、それ以上の数の学生がいるのだが、かすみは演壇に居る部長の竹内に「竹内、何か人多くない?」と挨拶もそこそこに尋ねた。すると、
「はい、実はコンテストの話を聞きつけた学生が
何か面白そうということで見に来ているんですよ。
まあ、無料公開しているので、来る分には特に
問題ないんですが」
と言うことだった。それだったら、入場料でも取ればいいのに、と思うかすみだが、まあ竹内の性格からそんなことは考えないか、と思わずにいられなかった。それから、
「あ、そうや、今日は玲が来られへんのやけど、
代わりにスペシャルゲスト呼んどいたから、
期待しとってや」
とかすみから言われた途端、スペシャルゲストって誰だ、と竹内は頭の上に疑問符を立てたかのように天井を見つめた。まあ、想像できないよなと思うと、かすみは何だか楽しくなってくる。やがて、
「あ、もしかして、ジーエックスの
上本ハンナさんですか?」
などと頓珍漢な事を言い出した。これにはかすみはプチ切れして、「彼女に霊が見えると思うか?」と竹内を半眼になって凝視して至極真っ当な意見を淡々と伝えた。全く、自分の好みで判断するんじゃない、と一応説教をして、かすみは最前列にある審査員席に座った。それから時間が来たので竹内が演壇から今日のイベントの趣旨とコンテストの内容を話し始めた時、突然講義室の前扉が開き、そこに一人の妖艶な女性が姿を現した。
「すいません、こちらは
心霊動画コンテストの会場でしょうか?」
とゆったりとした上品な声で尋ねたが、ふと最前列に座る懐かしい姿の女性を見つけた途端、「師匠!」と声高に叫んで、かすみのところに早足でやって来た。
「霊華さん、うちも丁度今来た所なんよ。
ここ分かり難かったでしょう?」
はい、でも何とか間に合ってよかったです、と神室霊華は嬉しそうな表情でかすみに向かって答えた。美土路神社を離れて2カ月弱だが、やはり美土路神社での生活が今でも夢に出てくる位に懐かしさを感じていた。だからだろうか、かすみを一目見た途端、駆け寄りたくなったのだった。それよりも、
「あ、ゴメン、竹内、えっとね、
皆にも紹介しておくね」
と言って、かすみは後ろに居る心霊サークル部員達に隣にいる女性を紹介した。
「こちらは、神室霊華さんです。
一応、うちらのM Mの従業員でもあります。
今日は相棒の玲が来れないため、
忙しい所急遽お願いして来てもらいました」
とかすみが紹介した途端、当然心霊サークル部員は全員神室霊華のことを知っている。まさか本物に会えるとは思っておらず、あちらこちらから、「やばい、マジ本物だ」とか「うわー凄く綺麗!」などの反応が上がり、早速スマホで撮影を始めたりした。そして案の定と言うか、中には、「え、何で神室霊華様が物部先輩の弟子なの?」、「えー、どうせ物部先輩が何か騙したとか」などという至極真っ当な意見から濡れ衣だと思われる意見まで出るにあたり、かすみは、
「こらー、お前ら、別に私が彼女を騙して
弟子にしたとかはないからな!」
と声高に言うが、何時もの如くそこには怒りなどは全くなく、どこか楽し気であった。さて、こんな状況で気の毒なのは、趣旨説明の途中で話の腰を折られた部長の竹内である。かすみも、竹内のことが気の毒に思ったので、竹内に
「竹内君、そう言うことで審査員は
2名になりました。
後の説明の続きをお願いしますね」
と言って先を促した。
今回の心霊動画コンテストは、最終エントリーされた15作品のうち、審査員であるかすみと神室霊華が最もやばく、霊的に危険な動画を選んでそれが最幽秀賞や幽秀賞となる。また、審査員賞もあるようで、審査員の印象に残った作品が選ばれるということだ。だが、危ない作品があるということは、それを撮影した部員あるいはそこに映っている人物に何らかの霊障があると思われるため、もし何かしら感じることがあれば、後程有料だがかすみと神室霊華の2人で除霊することになっていた。そしてそんな賑やかというか騒がしい状況から愈々コンテストが始まった。
1作品当たり10分から15分位に編集された動画を休憩を挟みながら見続けるのはかなりの忍耐力が必要となる。だがかすみも神室霊華も不平不満を言うことなく、黙々と審査を続けた。そして午後1時前に漸く全ての動画を見終わった。その後部長の竹内から、審査発表は午後2時から同じ教室で行うというアナウンスがあったので、教室に残っていた心霊サークル部員やその他は、三々五々教室から出て行った。そしてかすみと神室霊華は、この後別室にて昼食を取りながらの最幽秀賞や幽秀賞の審査を行う訳で、そのために彼女たちは竹内の案内の元、予約していた大学構内の[レストラン青葉]の個室に案内された。さて、ここで本格的に審査かと思われたが、実は彼女達の中では既に最幽秀賞と幽秀賞は決まっていた。いや、それ以外の作品はかすみと神室霊華にとっては、全てダメと言うことだ。案の定、テーブルに着いてから早速かすみが竹内に文句を言い始めた。
「竹内君、あのエントリー作品だけどな、
殆どやらせか作り物やで。分かってた?」
これには竹内も寝耳に水の心境で、きょとんとしてしまう。「え、あれ全部嘘ですか?」とやっと答えたのだが、
「ちゃう、ちゃう、2つは本物、
しかもそのうち一つは
正真正銘やばいやつやわ」
「ねえ、霊華さん」とかすみは神室霊華に話を振ると、神室霊華も力強く頷いて、
「ええ、かすみさんの仰る通りです。
2作品だけは本物でしたね。ただ...」
と何か言おうとしたが、かすみが首を横に振るのを見て止めた。実はかすみも神室霊華も、作り物作品の中にある物を見ていたのだ。勿論、撮影した当人や映っている人物たちに何か影響があることは無かったのだが。尤も、神室霊華の言葉尻を捕らえるような心の余裕がなかった竹内は、その2作品が気になったので、かすみにどの作品かを尋ねた。
「ああ、えーとね、5番目の誰だっけ...」
と言いながら、手元のメモを見始めるかすみ。そして
「あ、そうそう、1年生の君だね、
彼の映像はマジやばいやつだった。後は...」
「師匠、8番目の女性を映していた物ですよね?」
と神室霊華がフォローに入ると、かすみも
「そうそう、あれって、の
彼氏の誰だったっけ、名前忘れたけど、
多分その彼が撮っていたものだね。
だからこそ、あれが撮れたんだと思うよ」
と感想を述べるかすみだが、近衛亜寿沙の彼氏であるは、霊界に迷い込んだことで命を落とすも、その後玲とかすみにより蘇生した青年である。その影響か、恐らくかすみのように霊感を持つに至ったようで、彼が撮影した動画には、恋人の近衛亜寿沙の後ろを歩く女性の姿を捕らえていたのだ。ちなみに、1年生の江田衛の撮った映像は、やはり恋人とのデート中に撮影したもののようだが、どこかの岬にある展望台での撮影であった。その時海側に突き出した岩の上に男性が現れたのがカメラで確認された。その後展望台を周りながら撮影していると同じ男性と思わる人物が徐々に展望台に近づく様子が捉えられていた。しかも歩いているのではなく、直立した姿勢で、まるで[だるまさんが転んだ]をしているようにも見えた。そんな感じで徐々に江田衛達に近づく様子が捉えられており、最後は江田衛の彼女の背後に現れるという動画であった。江田衛の彼女がその後どうなったかは分からないが、場合によっては、除霊する必要があるかと思われた。それよりも、かすみとしては竹内に、今回の動画の最終エントリーはどうやって決めたのかが気になったので尋ねた。すると、
「えーとですね、あれは自分達が怖いなと
思ったものを単に投票で決めただけです」
と言うことだった。まあ、霊が見えない素人であれば、そうやって決めるしかないかと諦めるのだが、やはりかすみとしてはどうしても他の作品が気になったので、後でそれを見せてもらうことにした。むしろそちらにこそ、危ない動画があるのではないかと懸念したのだった。そうと決まると、竹内もコンテストの表彰式の準備と残りの作品の視聴の準備をするということで、かすみと神室霊華に断って、1人会場に戻ることにした。