召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、コンテストの審査員をする (後編)
物部かすみと神室霊華は、昼食と審査結果の報告を行うために心霊サークル部長のに連れられて、総合大学内の[レストラン青葉]にやって来た。そして昼食後、部長の竹内は表彰式の準備があるということで1人会場に向かい、残ったかすみと神室霊華は、コーヒーを飲みながら何の気兼ねなく近況報告をしあった。まず神室霊華の方は、実は実家に戻ってから除霊よりも降霊術に関する依頼が増えてきたという。確かに、召喚術師による短時間で正確な降霊術は、それを必要とする者達からすると、霊体に色々と聞きたくなるだろうことは容易に想像される。特に神室霊華は実家の影響力により、政財界の大物からの依頼があるようで、嘘のような本当の話として政策や経営判断を先祖や歴代の大臣や経営者の霊体に尋ねたり、あるいはよくあるのが相続に関する話しもあるらしい。神室霊華も詳細は話せないがそういう依頼が増えているということだ。ただし、やはりそんな時の悩みとしては、
「かすみさん、霊体が見えず声だけ聴いてると、
やはり信用できるかどうか
疑問に持たれるようなんですが」
そう、霊体が見えないことによる不信感をどう払拭させるか、と言う悩みである。勿論、この答えは霊視グラスを召喚するか、霊体を可視化出来るくらいに召喚エネルギーを使うことだが、残念ながら神室霊華には創成召喚は伝えていないし、可視化出来る程の召喚エネルギーがあるかどうかも分からない。これらの点について、玲はどうするのかをまだはっきりさせてないようだが、まあ確かにこの問題は降霊術あるあるだもんな、と言うことで、かすみは
「この件については、玲に相談してみるよ」
と言った。神室霊華もかすみと情報を共有できたことで少しは安心したようだ。その後はかすみの近況が報告されたが、神室霊華も俄かには信じられないことがかすみに起こっていたことを知り、きを忘れるくらいに驚きの表情を見せていた。更にかすみは神室霊華に追い打ちをかける訳ではないが、スマホを取り出し、その時に撮影した写真を神室霊華に見せた。「残念ながら人物は消えちゃったんだけど」と言いながら、でも古い建物の写真はそこに収められていた。もしこれが本当なら、かすみはタイムスリップしたのかと思わなくもないが、話を聞く限りそうではなさそうだ。だがどちらにしても、普通のことではないのは確かであり、世間一般の常識から考えてもあり得ない話である。それを何やら面白可笑しく語るかすみは、やはり普通ではない人だと改めて認識したのだった。そして、やはりあの話をどうしても聞きたくて仕方なく、神室霊華はかすみに尋ねた。だが、
「ああ、あれはね、玲の仕業だね。
ちょっと内容は今は言えないけど、
玲が神社の奇跡と言う形で演出したんだ」
と事も無げに話し出した。え、そんなことが出来るの?と当然思うだろうが、神室霊華は玲とかすみならそんなこと仕出かしても納得できてしまうのだった。そんなことを話し込んでいるうちに午後2時近くになったので、2人は店を後にして講義室に向かった。
かすみと神室霊華は心霊動画コンテストの最幽秀賞に1年生の江田衛の動画を、幽秀賞には2年生の近衛亜寿沙の動画をそれぞれ選び、賞金を授与した。そしてかすみかは江田衛に対し彼女が今どうしているかを尋ねた。すると、なぜか緊張からか声が上ずりながらも
「は、はい、あ、あの、か、彼女ですが、
さ、最近何故か、ぼ、僕を避けてるんです」
という思いもよらない答えを返した。そうなると、もしかして憑りつかれている可能性が否定できなくなってきた。一応かすみは、その後の対応については後で話し合うということを伝えたが、まさか霊に憑りつかれていたとは思いもよらない江田衛は、気を失って倒れる所を部長の竹内に支えられて難を逃れた。そしてその場にいる全員も、まさか本物の心霊動画だったとは知らず、一瞬にしてその場は静寂に包まれた。その後、近衛亜寿沙の表彰をした時も、彼女は不安に怯えていたのは言うまでもなかった。ただしこの場合はかすみが、
「亜寿沙、あれはね恐らく彼氏の三上君だっけ、
彼の霊感が強いからそれでカメラに写っただけなの。
特に亜寿沙に悪さするとか憑りついていることは
無いから、心配しないで」
と優しく言葉を掛けたことで、近衛亜寿沙の顔には安堵の表情が現れた。そしてかすみは続けて、
「残りの作品は、残念ながら全て作り物です。
なので、審査員賞はありません!」
と声高に宣言した、いや、怒りをぶちまけた。それを聞いた投降者達は、「わー、バレてたの!」とか「いやいや、あれはマジのやつだって」とこの期に及んでまだ言い訳したりと、酷い状況であった。だが、既に没にされた動画をこの後かすみと神室霊華が再度検証するという話しが出た時、「もしかして、自分の動画が本物って評価されるのか」などと期待し出す始末であった。まあ、可能性はない訳ではないので期待したくもなるのだが、ただし見る本数が半端ないため、今日中に結果が出るかは微妙だという。そういう状況で、審査員賞は後日となったが、とりあえずかすみとしては、江田衛の彼女のことが心配なため、本人同行の下、神室霊華を伴って彼女の所に行くことにした。
江田衛の彼女も東洛総合大学に通う1年生で、名前はと言う。今は大学の女子学生寮に住んでいるため、先ずは江田衛に学生寮の外で会えないかを電話で聞いてもらうことにした。一応彼女は電話に出るものの彼には会いたくないというのだ。そこで、かすみが江田衛に代わって電話に出て、展望台で遭ったことを掻い摘んで説明した。だが当然というか、野本智恵美の反応は芳しくない。と言うよりも、彼氏が胡散臭い霊能力者見たいなのを連れて来たのではないかと疑心暗鬼になり、かなりナーバスな状況に陥っていた。そして江田衛もどうしようと頭を抱えてしまった。そんな時、神室霊華は先ずはスマホのテレビ電話機能にすることを江田衛に提案した。それから彼女が出たら自分が話してみると言った。確かにこういう場面って、もしかしたら霊華さんの方が色々と経験があって詳しいのかな、と思ったかすみは、そのように江田衛に指示を出した。江田衛もにもる思いで言われた通りにしたところ、一応彼女はテレビ電話には出てくれた。そこで、早速神室霊華が代わって対応することにした。
「野本さん、初めまして、
私霊能力者をしております
神室霊華と申します」
とスマホ画面を見つめながら自己紹介した。すると、どうやら野本智恵美は神室霊華を知っていたようで、画面の中でも驚いて目を見張っている様子が伝わって来た。何だ、先程の胡散臭い霊能力者扱いされた自分に対する態度と全く違うぞ、とかすみは思わずツッコミを入れそうになったが、まあ知名度から行くと[神室霊華] [物部かすみ]位の違いは十分あるため、悔しいが自分の完敗であることをかすみは認めた。そして、
「実は、ここにいる江田衛さんが、
自分が撮影した動画で、あなたに良くない何かが
憑りついたのではないかと心配されてまして、
それでこうやって野本さんの様子を
確認しに来ました。
少しで結構ですからお会いできませんでしょうか?」
と丁寧で落ち着いた言葉づかいで相手と話した。流石この世界で色々な人を相手に仕事をしてきただけあるなあ、と何やら感心し出すかすみであった。すると、「分かりました、今そちらに行きます」と言うことで、3人はホッと胸をなでおろして、その場で待つことにした。そして電話してから10分程した時、寮の玄関口にスウェット姿の野本智恵美が現れた。そして彼女を一目見るなり、かすみと神室霊華は瞬時に身構えた。やはりと言うべきか、野本智恵美には何やら得体のしれない男の霊体が憑りついていたのだった。ただ幸運なのは、この霊体は完全に野本智恵美を支配下に置いている様子はなかったことだ。だが、何をしたいのかがまだ分からない。とりあえず、人目に付かない所に移動することを提案したところ、自分の部屋に来て欲しいと言われた。ただし、男子禁制のため江田衛はこの場で待機となった。そしてかすみと神室霊華は、野本智恵美の案内で彼女の部屋に向かった。学生寮と言えば大部屋が連想されるが、東洛総合大学の女子寮は1ルームタイプの個室である。ただし広さ6畳程とかすみが学生時代に暮らしていたマンションに比べると十分に狭い。そんな部屋でかすみは単刀直入に野本智恵美に尋ねた。
「野本さん、あなたには男性の霊が
憑りついてますが、御存じでしたか?」
「はい、知ってます」
とかすみの目を見てはっきりと答えた。流石にこのパターンは初めてじゃないか、と少し不安になるかすみであるが、心を落ち着けて自分達の目的を彼女に告げた。
「私たちは、あなたに憑りついた
霊体を本来いるべき場所である
霊界に送り届けに来たのだけど、
どうされますか?」
と何やら何時ものかすみらしくない質問を投げかけた。と言うのは、野本智恵美に憑りついた霊体はどことなく悲しそうな雰囲気を湛え始めたからである。嫌々、情に流されたら駄目だろう、とここに玲が居ればかすみにそう忠告しただろう。だが何となく、この霊体に引っ掛かるところがあるため、野本智恵美に対しある提案をした。
「野本さん、一度あなたの傍に居る霊体と
お話ししたいのですが、宜しいでしょうか?」
これも本来は断る必要はなく、そのまま強制的に降霊召喚門を展開すれば済むのだが、やはり今のかすみには何かが気になるようだ。そして、
「はい、彼もあなた方と何か
お話ししたいと言ってます」
え、野本さん、霊体と会話できてるの、とは神室霊華の呟きである。やはり今回は普通ではないということか。
「では、ちょっとお話させてもらいます」
と言って、かすみは降霊召喚門を展開した。そして、野本智恵美に憑りつく霊体との対話を行った。その結果は、
「はあ、まさかあなた達の前世と言うか
彼女の転生前は、お互いに夫婦だったなんてね」
そう、野本智恵美は彼女に憑りついた霊体の元妻だった人の生まれ変わりなのだ。しかも2人は仲睦まじい夫婦だったのだが、事故で妻が死亡し、夫は何とか一命を取り留めた。ところが、夫は愛する妻を失ったことで精神的におかしくなり、最後は撮影されたあの岬の先端から海に身投げしたのだということだった。そして夫の霊体は未練を残して成仏できず、その地に留まることになったのだが、何の偶然か妻の生まれ変わりの女性が現れたことで彼女に会いに来たのだという。そんな元夫婦同士をどうやって別れさせるか。いや、不可能だろうとかすみは心の中で叫んだ。そこで、神室霊華にどうしたらいい、と相談したのだ。だが、除霊経験の長い神室霊華でも、こういう案件を流石に扱ったことは無い。と言うか、彼女のこれまでの除霊は、有無を言わさずに霊体を霊界に送っていたため、逆にこのような背景があることすら分からなかったのだ。そして、今目の前で、自分が体験したことのない除霊が始まるのかと思うと、不謹慎だが何やら興奮し出したのだった。かすみは、とりあえず、自分の思ったことをそのまま伝えることにした。
「もしね、このまま憑りついたとして、
あなたもあなたの奥さんも、
実は幸せにはなれないよ。
特にあなたの奥さんは、
この国ではこのままだと
精神異常者扱いされちゃう。
それって、お互い不幸なんだよね。
それよりも、...」
あなたが一度霊界に行って転生して、彼女の前に現れてね、それでもう一回プロポーズしたら良いんじゃない。あ、ちなみにね、転生と言っても赤ちゃんにならなくても、成人男性で転生するケースがあるから、可能性としては少なくともあると思うよ、と言うことを神室霊華のように理路整然と伝えるとはいかないが、かすみは自分の思いをそのまま言葉にして伝えた。すると、そのかすみの思いが伝わったのか、
「・・・そ、う、で、す、ね、
あ、な、た、の、い、う、と、お、り、
か、も、し、れ、ま、せ、ん」
と肯定的な反応を示し始めた。序にかすみは、「今は野本智恵美として生まれ変わり、彼女にも恋人がいるけど、あなたが転生して彼女にアタックすれば、もしかしたら思いは伝わるかもよ」と、もしこの場に江田衛が居れば、卒倒しそうな事をかすみは霊体に伝えたのだ。それがダメ押しになったのか、その霊体は
「・・・わ、か、り、ま、し、た、
れ、い、か、い、に、い、き、ま、す」
と言って、野本智恵美から離れた。そこで、かすみはお見送りの術式を加えて、その霊体を霊界に送り届けたのだった。
さて、野本智恵美だが、かすみと霊体の会話は実は耳にしていた。そして、彼女も実はどうすべきか悩んでいたのだという。そんな時に、かすみの提案が実は今の自分にもベストな選択ではないかと思ったようで、かすみが霊体を霊界に送り届けるや否や、涙を流しながら、「有難うございました」と言って深々と頭を下げた。ふー、何とか無事除霊できたな、と安心したかすみに対し、早速神室霊華が、
「師匠、今の除霊は素敵でした。
私の今までの除霊だと、
あのような対応はまず考えられませんでした」
と言って、かすみに抱き着いたのだ。もしこの場に玲が居たら、「かすみをそのように甘やかさないでください」と警告が入っただろう。だが、かすみも神室霊華も今はこの除霊で両者ともに満足したのであればそれで良しとすることにした。後は、下で一人残されている江田衛だな。一応彼にも、事の真相は話しておくことにして、後は彼らの間で解決してもらうしかないと判断した。
案の定、江田衛に事の経緯を話した結果、初めは信じられないと言った表情だった。かすみだけであれば、「物部先輩、また僕たちを騙そうとしてるんでしょう?」で鼻にも掛からなかっただろうが、神室霊華が真剣な表情でいると、全く違った印象となったようだ。ただし、少なくとも、今の段階で野本智恵美が江田衛を嫌っていることは無いのは確かなので、後は君たちの間で信頼を成就することだよねとなって、その場は解散となった。さて、後は心霊動画のチェックだな、と何故か気が重く感じるかすみであった。残念ながらその日のうちにチェックする時間は無くなったため、動画データを貰って、後日改めて連絡するとしてかすみと神室霊華は心霊サークル部室を後にした。