召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M 心霊ファイル8: 謎の召喚門のケース (前編)
物部かすみの一番弟子である霊能力者のが召喚術師に関する驚愕の事実を知った日の翌日。最神玲とかすみが待ちに待った週末がやってきた。ところで、なぜ彼らはそんなに週末に恋い焦がれるのか?それは今の美土路神社の状況が関係していた。平日はほぼ(かすみは)寝る暇もなく参拝客の対応に追われており、週末だけが唯一そこから解放されるためである。だが残念ながら、今の彼らにはのんびりと過ごす時間はない。なぜならこれから日本各地に出向いて、彼らの本来の仕事をしなくてはならないから。
「おーい、かすみ、神室さん、準備はいいかい?」
と玲は廊下に出てかすみと神室霊華に声を掛けた。すると2人は同時に自分の部屋から出てきた。そして神室霊華は居合わせたかすみに何かを尋ねた。
「かすみさん、何か持っていく物とかありますか?」
「まあ、準備と言っても制服に着替えるだけで
何もないんやけど。
あ、あとは、おやつくらいやな。
ただし300円までやで。
あ、バナナはおやつには入らへんから!!」
と朝からボケをかますかすみである。神室霊華はかすみが何を言っているのか一瞬理解に苦しむが、あ~そういうことね、とニッコリとほほ笑んだ。流石に正真正銘のお嬢様だけあり、かすみのように口を開けてガハハハと笑うことはしない。そんな朝から絶好調なかすみは、玲に「あ、そやそや、玲、北海道やったな?」と確認したところで、かすみは自分の部屋に制服用のコートを取りに行った。神室霊華も急ぎ自分の部屋にコートを取りに戻り、玲の部屋に集合した。
「ああ、何か緊張しますよ。
転移ってどういう気分なんですか?」
とかすみに向かって尋ねる神室霊華は、顔が強張る程に緊張していた。
「うーん、ホンマはね、ビューンとかキーンとかの
効果音があるとええねんけどね。
まぁー、あれやね、ドラちゃんの
どこでもドア言うかな、あんな感じやな」
と言われても、誰もどこでもドアを体験したことは無いのだが。まあ、イメージとしては間違ってないか、とかすみと神室霊華の会話を聞いて玲はそう感じた。
「じゃあ行くよ」
との玲の掛け声で彼らは玲が部屋の中に設置したアニュラス型の転移門に入って転移していった。
彼ら3人がやって来たのは北海道の南東部にある炭鉱に併設された病院跡地であり、道内でも有名な心霊スポットである。石炭産業の衰退と共に炭鉱が閉鎖され、炭鉱夫達が去るのと共に病院自体も閉鎖に追い込まれた。そして、どうやらその炭鉱では過去に大規模な落盤事故があったようで、多くの死傷者を出したようだ。そして何時の間にか、よく知られる心霊スポットになったのだった。ここを訪れた心霊サークル部員の一人は、昨年の夏休みに北海道1周のツーリング中に友人とここを訪れたという。ただし、彼が撮影した動画には、幸か不幸か浮遊霊が数体映っているだけで、特に彼や友人に憑りついたりすることは無かった。
彼らが転移した場所は、この病院跡地から少し離れた雑木林の中である。ただし、この時期の北海道は当然雪が積もっており、彼らの転移した場所も例外ではなく、膝上まで雪に埋もれてしまった。
「霊華さん、初転移はどうでした?」
「ええ、何か、まだ、信じられません。
本当にここは北海道なんですか?」
と、神室霊華は何とかかすみの問い掛けに答えたものの、まだ幾分か放心状態にあるようだ。まあ、この状況はどう見ても美土路神社ではないことは確かで、しかも雪が積もって彼らはそこに埋まっていることから、かなり北の方であることは想像できるが、やはり一瞬で別の所に来たというのは、何かに騙されたか催眠術にでも掛けられたか、という疑心暗鬼を生むであろう。そして神室霊華に初転移の感想を聞いた人物は、続けて文句を言い出した。
「ちょ、玲!なんでや、もうちょい
雪ないとこにせぇへんかったん?」
「いやいや、この時間でもそこそこ人が居たから、
ここにせざるを得なかったんだよ」
午前中の、しかも雪が積もる病院跡地に人が居るか?と思われたが、玲が事前に転移門でサーチしたところ、何人かの人影を目撃したというのだ。そのため、万一に備えて離れた場所に転移したのだが、彼らが病院跡地の方向に進むと、確かに雪の上に新しい足跡が残されているのを確認したため、かすみも「全く、こんな時間から何でここにくんねんな!」と自分達のことは棚に上げて再び文句を言い出した。そしてそんな3人は、病院跡地を素通りして今は閉鎖されている炭鉱に向かったが、その途中で道を外れて違う方向に歩き出した。そして雪をかき分けながら数分程歩いた時に樹林の合間にそれが目に飛び込んできた。
「ああ、やっぱあったんか。
ホンマ、あいつらどんだけ
こればら撒いとんねん!」
と又もかすみは怒りだした。ばら撒いた張本人と言うか団体は、今は解散してこの国には存在しない。だが、ばら撒かれたこれは、まだ方々に残っているのは確かだった。だから、玲とかすみは地道にこれらを除去しているのであるが。さて、目の前の降霊転移門をに観察し出した玲は、特に真新しい機能などが見当たらないことを確認した。そして念のために門の中を覗き込むと、数人の遺体がそこにあることを認めた。かすみと神室霊華もその後で覗き込むが、かすみは何時も見慣れた光景のため、特に何か感じることは無かった。ところが、神室霊華は玲が召喚した物以外で実物を見るのは初めてであり、更に中に残された遺体を目にすると、言い知れぬ恐怖感とこれを設置した者達への嫌悪感が心の中に渦巻いてきた。
「恐らく、服装からすると夏場に
肝試しか何かで訪れた若者たちだね。
残念ながら僕らが彼らに対して
何か出来るかというと、
実は何も出来ないんだけどね」
と俯いてじっと雪面を見つめたまま黙りこくる神室霊華に対し、玲はそう声を掛けた。実は玲とかすみは、過去に降霊転移門に捕らわれて命を落とした人達を蘇生できないか試したことがあった。結果は何故か全敗である。唯一の例外は、総合大学の心霊サークルに所属するの彼氏であるだけであった。なぜ彼は蘇生出来て、他の人達が蘇生できなかったのか?実は未だにその答えは見つかっていない。ただ玲が何となく感じたこととしては、丁度1年前に映像制作会社ジーエックスで発売された[心霊怪動画蒐]、そこに収められていた呪いの動画、あれを撮影したと思われたのが三上裕樹であった。ところが、玲は彼を蘇生する時、霊界にビデオカメラが無かったことを確認しており、更に被写体である近衛亜寿沙も彼がビデオカメラを持っていなかったことを認めている。と言うことは、三上裕樹に関しては彼の魂に何か利用価値があったから霊界に留め置かれ、その結果蘇生できるようになったのか、とも考えたのだが、当然そこに結論は出ていない。それよりも、先ずは目の前の降霊転移門を除去して、ここの任務は完了となった。
その後、昨日の動画チェックで見つけた残り3カ所を回り、同じように降霊転移門を除去し終えた。そして残るは、コンテストの最中にかすみと神室霊華が目にした召喚門らしきものの確認である。昨日のうちに、心霊サークル部長の竹内斗真に連絡を入れたかすみは、その動画を撮影した場所が沖縄県の心霊スポットであることを聞き出した。そこで3人はその情報を基に、最後の召喚門らしきものを確認するために沖縄に向かうことになった。その前に、沖縄の気温は今日と明日は比較的高く、結構暖かくなるという予報が出ていたので、3人共一旦自宅に転移し、各自のコートを置いて再び沖縄に向けて転移していった。
沖縄で召喚門が目撃された場所は、太平洋戦争末期に沖縄での戦闘が繰り広げられた際、多くの民間人が犠牲となった洞窟の近くである。玲は沖縄に来るのは初めてだが、その地に転移した瞬間、かなり多くの霊体が成仏できずに彷徨っている光景を目にした。当然、かすみも神室霊華もしかり。
「玲、彼らどうする?」
本来こういうボランティアな除霊などはすべきではないという立場の玲である。だが、この光景を目にした時、彼らは望んで死んだ訳ではなく、国と軍部の犠牲になったのだと思うと、何ともやりきれない気持ちにさせられたのだ。そして、
「本来なら僕らはボランティアではないから
彼らを成仏させる理由はないんだけど、
何だろう彼らを見ていると、
何かやりきれない気持ちになるんだよね」
と言って、その場に降霊召喚門を設置し、お見送りすることにした。するとその場に漂っていた数十体の霊体は全て霊界に送られていった。そんな光景を只管見つめていたかすみと神室霊華は、一言も喋らずただ胸の前で手を合わせていた。