召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M 心霊ファイル8: 謎の召喚門のケース (後編)
沖縄の心霊スポットとなっている洞窟付近で撮影された動画の中に召喚門が映っているのではないかという情報を確認するために、最神玲、物部かすみ、そして神室霊華はここに転移してやって来た。そして目的の場所はここから200メートルほどの所、雑木林の中に出来ていた獣道のような小道の途中にあった。幸いこの付近に人影は全く見当たらないため、下草を踏みしめる彼らの足音以外何も聞こえてこない。そして、茂みの先にある召喚門を目にした途端、玲とかすみは、余りに強い衝撃を受けてその場から先に進むことが出来なくなった。
「こ、こ、これは召喚門なんか?」
と驚きの余り、玲にしては珍しく素っ頓狂な、しかも裏声交じりで言葉を発した。玲は一体何に驚いたのか?それは目の前の召喚門がこれまで見たこともないタイプだったからである。その形は、正三角形を二つ用意し、そのうちの一つを逆さまにしてくっ付けた六芒星またはヘキサグラムと呼ばれる形状であった。イスラエルの国旗を思い浮かべれば分かり易いだろう。地球においては意外と馴染みのある形状だが、それが召喚門として目の前で機能しているのだ。玲は早速そのヘキサグラム型召喚門の詳細な調査に入った。かすみも何が何だか分からない複雑な表情で、ただ玲が調査する姿をじっと見ているだけであった。神室霊華に至っては、そもそも召喚門にそんなに色々なタイプがあることすら知らないので、こちらも玲が何やら調べている姿をただじっと見ているだけだった。
そのヘキサグラム型召喚門は、玲が調べた所、外側の6個の小さな正三角形の中に召喚術が記述されているのを確認した。そして中心部の正六角形の部分には、今の所何も記述されていない。どうやらこの召喚門は外側の正三角形で制御するようだ。更にぐるりと全体を眺めるために召喚門の真横に移動した時、玲は何かその召喚門に違和感を感じたのか、そこで立ち止まった。何やら召喚門に厚みを感じた気がしたからだ。通常、彼らが使う召喚門は平面で構成される。しかも真横から眺めた場合、そこに厚みは存在しない。そして目の前のヘキサグラム型も個々の三角形に厚みは認められないのだが、しかしなぜかそこに厚みを感じさせるのだ。そこで詳細に調べたところ、ヘキサグラムを構成する2つの正三角形がほんの僅かだが前後にずれているためであることが分かった。これを見た玲、いやカーンフェルトは、彼が持つ召喚門に関する常識、つまり召喚門は厚みがなく、ましてや記述される形状にずれが生じることは絶対ないという常識が音を立てて崩れ出すのを感じ、彼のこれまで蓄積してきた召喚術に関する知識が全て深海に沈んでいくような恐怖を味わった。そして血の気が引いたかのように顔色が悪くなったと思われた途端、玲は眩暈に襲われてその場で気を失ってしまった。
そんな玲の異常事態を察知したかすみは、直ぐに玲の所に駆け寄って、彼が倒れる寸前で何とか彼の背後から支えることができた。だが、流石にかすみの力で彼が倒れるのを防ぐのには限界があり、かすみも一緒に倒れ込みそうになった時、神室霊華が彼らの下に駆け寄って、玲の前方から彼の腕を掴んで何とか転倒を防いだ。かすみも、神室霊華の助けにより、何とか踏ん張って転倒することを回避できた。そしてそのまま玲を下草の上にゆっくりと横たわらせた。玲のやつ、何でこんな時に気を失うんだ?と疑問に思いながら、かすみは玲の意識を回復させるために、ある物を召喚した。それはかすみの宝物の一つであり大事にしているマキザッパである。それを早速横たわる彼の額に叩き込んだ時、神室霊華が「キャー!」と小さい叫び声を上げた。もしかして本物の木材で殴っていると勘違いしたのかな?とかすみは思ったので、「霊華さん、これは作り物ですよ」と笑顔で答えながら、なおも玲の額を叩いた。そして漸く玲が目を覚ましたが、自分がなぜここに寝ているのかが分からず、上体を起こして立ち上がろうとするも、かすみによって叩かれたせいなのか、額に手を当てたまま前のめりに倒れ込みそうになった。だが、今回は何とか自力で踏ん張って転倒を逃れた。そして一体何があったのかを、かすみと神室霊華に語った。
話を聞き終えた時のかすみは、「へー、そんなことあんねんな」と何とも素っ気ない返事であった。神室霊華に至っては、まだよく分かってないためか、何も答えることは無く押し黙ったままじっと玲を見つめていた。この2人と玲との温度差が余りにも激しいため、玲はガックリと肩を落としてしまった。
「それよりも、玲、他に何かわったことないんか?」
とかすみがマキザッパを自分の掌にパンパン叩きながら尋ねてくるので、玲はまた殴られるのかと警戒しつつ、気を取り直して説明を始めた。
「まず、ここに書かれている術式自体、
僕は全く見たことないんだよな」
と流石の玲、いやカーンもギブアップしてしまった。恐らく霊界へ導くための降霊転移門と同じ機能を持つだろうことは容易に想像できるのだが、ではどうやって機能するのかが分からない。そして、もしこの召喚門に捕らわれて霊界とは異なる何だか違う世界に連れ込まれた場合、果たして自分はこの世界に戻ることはできるのかどうか自信がない。一応、カーンの得意技である初見の召喚術式を覚えてしまう能力で、このヘキサグラム型召喚門も自分で呼び出すことは可能だが、それでも不安は残る位に危険な存在であった。そんな時、かすみが不安気に玲に尋ねてきた。
「玲、一応聞くけど、これって召喚門やな?」
「そうだと思うけど、
どう機能するかが全く分からない」
玲、いやカーンは、バレル型の降霊転移門を見た時以上の衝撃からまだ立ち直れないでいたため、冷静な判断は出来ないようだ。降霊転移門は、降霊召喚に関する術式が一応記載されていたので、霊界と関係していることは何となくだが想像できた。ところが、目の前のヘキサグラム型は、そもそも中に描かれている術式を読むことが出来ない。もしタチアナが居たら、あるいは何かしらのヒントを与えてくれたかもしれないが、今はそれを期待することは出来ない。だが、ここに在る以上、霊界への扉であることは間違いないと思われたので、玲は今一度、恐る恐るその門に近づいて中を覗き込むことにした。そして、首だけ突っ込んで中を確認して首を引っ込めた時、
「あー、やっぱりね。これも霊界に繋がってるよ」
と予想通りの結果に安堵の表情を浮かべた玲は、かすみと神室霊華にそう伝えた。かすみも恐る恐る近づいて確認すると、「あー、確かにそうだね」とこちらも少しは安心したようだ。2人共、これが別の世界に繋がっていたらどうしよう、と一抹の不安を抱いたのは間違いない。そんな2人とは対照的に、神室霊華は彼らの話について行くので精一杯であった。そして、誰にとは言わずに
「これも当然消去されるんですよね?」
と問い掛けた。「まあ、そうなりますね」、と玲が答えて早速同じ召喚門を元の召喚門に重ねるように設置して召喚解除したのだが、
「あれ?解除されない?何で?」
とまたもや素っ頓狂な声を出してそのまま絶句した。確かに全く同じヘキサグラム型の召喚門のはずである。一応念のため少し離れた所に設置すると、外からはそこに霧に包まれた霊界特有の光景が見られた。そして中を覗き込もうと勢いよく首を前に出した途端、
「痛てー!」
と玲は絶叫して額を両手で覆った。玲が作ったヘキサグラム型召喚門からは、霊界を見ることは出来るが入ることは出来なかった。そのため、自分の作った召喚門に頭を思いっきりぶつけてしまったのだ。この玲の絶叫に驚いたかすみは、何があったかをまだ理解できないまま、自分の手をそっと玲が作ったヘキサグラム型召喚門に差しだした。
「えっ! 何かガラス窓みたいやんか!」
そりゃ頭ぶつけたら痛いわな、と玲が額を両手で覆いながら悶絶する横でかすみはケラケラと笑いながら指摘した。神室霊華も、かすみの真似をして、扉をノックするように指を曲げて叩くと、「コンコン」という音が返って来た。
「しかし、何かようわからん召喚門やな、これ」
とかすみは、1人腕組みをして感心していた。そして漸く立ち直った玲に対し、
「玲、脳細胞どんだけ死んだん?
なんやったら、成仏するように拝んだろか?」
と玲を揶揄い始めた。全く、こんな時に呑気な奴だ、と玲は思うものの、まあかすみの好きなようにさせておくことにし、自分は今起きたことを兎に角整理して対策を考える必要があった。「そう言えば、ここに設置されていたヘキサグラム型は確か微妙にズレてたよな」と独り言を呟きながら、自分の召喚門を確認することにした。すると、
「なるほど、僕が作った方には微妙なズレが無いぞ。
これが唯一の違いと言うことか!」
と、解除できない原因に漸く辿り着くことが出来た。だがそうすると、どうやってこのズレを作り出すのか?玲は腕組みをしながら術式でどのようにズレを出すのかについて暫くの間考えていたが、残念ながら結論は出なかった。そんな時、かすみが面白半分で玲が作ったヘキサグラム型の召喚門に蹴りを入れた。すると、「ゴーン」と言う先程触った時の音とは違う音が響いたのを耳にした途端、全員がその場で凍り付いたように動きを止めた。そして蹴った本人であるかすみは、何かやっちまったか!?と驚きの表情で目を見張り、あんぐりと開いた口元を両手で隠す仕草をするも、蹴った手前何があったかを確認すべく、恐る恐る召喚門の真横に近づいた。すると、
「あーー、れ、玲、う、う、動いた!!」
と今度は慌ただしく叫び出した。何時もの玲であれば、「全く、騒がしいお嬢様だ」で済ませたが、今はかすみの挙動が気になったのでかすみの傍に駆け寄って召喚門に目を向けた時、
「おー、かすみ、でかしたぞ!!」
と今度は玲が飛び上がらんばかりに叫び出し、かすみの頭を撫でた。神室霊華はこの2人は先程から何をしているのか理解に苦しむものの、何か良い方向に向かっているのは分かったのか、かすみがいるヘキサグラム型召喚門の真横に向かった。「あら、本当にズレてますね。玲さん、これが正解なんでしょうか?」とこの場に似合わない落ち着いた感じで尋ねてきた。そして、
「ええ、神室さん、これが正解なんですが、
でも何で?」
と未だに理解できてない様子の玲である。そして神の手ならぬ神の足でこの場を収め切ったかすみは、
「ねえねえ、私ってメッチャ凄ない?
こういう誰も思いつかんことを
やってまうんよね。
もしかして私って天才ちゃう?」
と自画自賛し出した。とりあえず、収拾がつかなくなる前に、玲は自分が作ったヘキサグラム型召喚門の上側の正三角形を手前に少しだけずらして、それから召喚門内に自分の手を差し伸べてみた。すると、
「うわー、ちゃ、ちゃんと、
む、向こうに手が入る!!」
と興奮状態で騒ぎ出し、もう一度自分の頭をそこから突っ込んだ時、確かに玲の頭が消えていることをかすみと神室霊華は確認した。そして、こちらに頭を戻して、漸く興奮から覚めて落ち着いたところで、玲は
「うんうん、まさに霊界そのものだった。
じゃあ、これでもう一回こいつを
消去してみるね」
と言って、自分の作ったそのヘキサグラム型を一旦解除し、再び元からあった召喚門に重ねるように設置し直した。そして、自分の召喚門を少しだけ持ち上げてずらし、その召喚門を解除した。すると、
「やったー。消えたぞー!」
と玲はガッツポーズと共に絶叫した。こうして全ての召喚門を解除し終えた3人は、疲れた体に鞭打ちながら、自宅のある美土路神社に転移した。長い1日であった。いや、実はまだ半日も経っていなかった。
午後1時過ぎに3人は自宅に戻って来た。この数時間で彼らは北は北海道から南は沖縄まで周ったのだ。流石の玲も、色々とあったため、今はぐったりして、昼食の準備をする気力がない。かすみもしかり、神室霊華も初めての転移で目まぐるしい展開に見舞われたため、こちらも殆ど無気力状態となってしまった。それでも、空腹と言う生理現象には勝てず、
「ちょっと、何か買ってくるね」
と言いおいて、着替えもせず財布だけ持ってどこかに転移していった。20分程すると玲は両手に弁当を入れたレジ袋を携えて戻って来た。そこで、3人はそのまま無言で弁当を食べて何とか落ち着くことが出来た。それから、今日の出来事を回想しあうのだが、玲はやはりあの召喚門がどうしても気になってしまう。だが、それよりも、初めての遠征に関して神室霊華はどう思ったのか、かすみはそれが気になって彼女に聞いてみた。
「すいません、かすみさん、
私も何だか頭の中が整理できてなくて、
ずっと混乱しています」
まあ、正直な答えだよね、とはかすみ感想である。加えて、初めての転移で日本全国飛び回ったら、本当に物理的な意味で目が回るよな、という感想を漏らした。ただ、
「でも、やっぱり転移って凄く便利ですよね。
ただそうなると、旅行とかって
どうなんでしょうか?」
お、良い質問だね、とはかすみがある人を真似て神室霊華に語り掛けたが、確かに転移が出来ると旅行の楽しみが半減するのは確かだろう。だが、
「尤も、何を楽しむかなんだけどね。
例えば移動することを楽しむ人たちには
転移は絶対向かないね。
そうでなく、旅先の観光とか温泉を楽しむ人達には、
移動にかかる経費分をそのまま旅館の
グレードアップに回せたりするから、
こういう場合は転移向きかな」
確かにそうですね、と神室霊華もかすみの意見には同意した。ただ、海外旅行は気を付けないと、パスポートに入国証明が押されないから、ホテルとかに泊まるときは注意することになるね、とも付け加えた。
さて、この後は特に何かする必要はないため、各自好きな事をして過ごすことになった。とは言っても、玲はあの召喚門の研究をするだろうし、かすみはまたデザインをやるのかと思われたが、どうやら神室霊華を誘って、どこかに遊びに行くようだ。しかも転移して。まあ、転移の無駄遣いでもないので、そこは好きにしてもらうことにして、玲は心置きなく、かつかすみの邪魔を受けずに、研究に励むのだった。