召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、謎の招待を受ける (第4幕)
翌朝、最神玲は何時もとほぼ同じ時間に起床した。昨晩はぐっすり眠れたとはいかなかったが、それでも気分は悪くない。この時間だと既に日の出を迎えているはずだが、窓の外は何故か薄暗い。この部屋の窓ははめ殺しのため一切開閉できない。だが何となく空を見上げると灰色の雲が見えるため、外は曇り空かと思われる。だからと言ってかすみの様に部屋で呑気に二度寝をする心算はないため、玲は薄手のベージュ色のセーターにデニムという普段着で散歩に出掛けることにした。かすみを誘おうかと思ったが、かすみの部屋が分からないためそのまま一人での散歩となった。何となく扉があるところに向かって進み、そこから外に出るとそこは中庭に通じる扉であった。まあ、昨日は遅くに着いたので中庭に何があるのか見て見ようということで、玲はそのまま中庭に出た。そこには、昨晩のライトアップでも何やら彫刻があったことは分かっていたが、改めて眺めると、長年の雨風に晒されたせいか、かなり傷みが激しい人型を模した彫刻があちこちに見られた。うーん、こんなボロボロの彫刻を態々ライトアップするかな?と疑問に思う物の、金持ちは何を考えているか分かんないからな、と変に納得してしまった。それから建物の外側に行ってみようと思い通用口というか裏玄関と言うか、そんなものを探して館内をうろちょろするも、どこにもそれらしいところが見当たらなかった。じゃあエントランスに行こうかと思い向かうも、そこは施錠されていた。まあ、玲の場合、施錠されようが関係なく転移で幾らでも好きなところに行けるのだが、どうも昨晩から何かに引っ掛かりを覚えてしまい、そのまま転移せずに自室に戻ることにした。
そう言えば朝食はどこで取るのかを聞き忘れた玲は、カフリングでかすみに問い掛けた。だが、どうやらかすみはまだ就寝中のようだ。仕方ない、どこかでスタッフを捕まえて聞いてみるか、と思い直し、転移門でサーチを掛けてスタッフがどこにいるかを確認することにした。だが、
「あれ、どこにも見当たらないぞ。何で?」
と一人呟くも、どうやらこの国の労働規約に関係するのかと言うことに思い至った。玲、いやその中身のカーンフェルトの居たケンタリアには、労働時間に関する規約などは存在しない。それこそ毎日働くのが普通なのだが、ただし、1日における労働時間は意外と短く、精々5~6時間と言うところだ。例外的にレストランなどは長時間労働があるが、その分給料はかなり良いと聞く。そんな環境で育ったカーンとしては、地球の日本の労働環境は恵まれていると感じるかもしれないが、果たしてどうなのか?何れにしても、昨日まで滞在していたスタッフは、ごく一部を除きその日のうちに島から離れたようだ。では朝食はどうなるかと心配になる玲だが、転移門を別の所にずらすと、恐らくここがホテルの頃に作られた厨房で朝食の準備が行われていることから、まあ朝食抜きは免れたと安心したのだった。尤も最悪朝食抜きとなったら、彼は迷わず転移してどこかに食べに出掛けただろうが。そんなことを考えてるとき、朝食の準備が出来たので、昨晩懇親会が行われた部屋にて朝食をお召し上がりください、との館内アナウンスがあった。そこで玲は、早速昨晩の広間に向かうことにした。
広間に入ると、そこには誰もおらず、玲が一番乗りだった。何だか腹が減っている奴がいるぞ、と後ろ指をさされそうで少し気恥しいが、だが何時もの習慣でこの時間に食べるように体が出来てしまっているため、これだけはどうしようもないと諦めている。そして席に着くと、係の人が朝食膳を運んできて、玲のテーブルに置いた。ここの朝は和食のようで、の干物に味付け海苔、生卵、味噌汁、漬物、ご飯と言ったシンプルだが必要十分な和定食であった。そこで、彼は早速頂くことにした。そのうち、ちらほらと広間に人が集まりだし、かすみと神室霊華も揃ってやって来た。そして玲の前の椅子に2人そろって着席した。
「何なん、玲、めっちゃ早いやん。
もしかして腹でも空かせてたか?」
「いやいや、それはかすみだろ」とぼやくも、「はあ?私が何時腹空かせてパクついていましたか?」とわった。おいおい、どの口が言うとるねん、とかすみ弁になって反論した玲だが、それ以上にかすみから怒涛の抗議があったため、玲は止む無く閉口してしまった。神室霊華は、相変わらず2人はどうでも良いことを言い合って仲がいいな、と感心しながら微笑んでいた。所で玲は、念のために目の前の2人に昨晩はどうしたかを尋ねた。
「うん、勿論、うちは降霊召喚門を設置して
寝たけどな」
「はい、私も、知らない所では
皆さんの忠告に従っております」
そっか、なら良かった、と安心した玲である。何かあったのか?実は昨晩、彼の部屋に怪しげな霊体が訪れた。しかも悪霊の類である。尤も、彼も降霊召喚門を設置して寝るため大事には至らず、だが降霊召喚門ではお見送り出来なかったので降霊転移門に変更して強制的に退場してもらった。だが、夜中の突然の霊体の訪問は歓迎すべき存在ではないことは確かだ。これは偶然なのか、それとも...
「えー、そんなことあったん。
玲、あんた何かどっかで恨みでも
買ったんちゃうん?」
おいおい、それならかすみの方だろ、と指摘したが、「うちがそんな恨み買うことあらへん!」と何やら根拠ないながらも断言した。まあ、ここで言い争っても仕方ないが、とりあえず気を付ける事を確認して、3人は食事をしたのだった。
それから各自の部屋に戻り制服に着替えてから、午前9時にエントランスに集合するように朝食会場で伝えられていたので、そのままエントランスに向かった。エントランスに集まったのは、総勢20名程である。
「あれ?何か昨日よりも人が少ないけど、何でなん?」
とかすみは誰にともなく呟くが、かすみの指摘は尤もであろう。明らかに昨日の懇親会の時よりも人が少なくなっている。しかも、
「あー、そう言えば昨日見かけた、
アクト、あいつおらへんがな!」
とかすみは、例の偽降霊術師と言うべきアクトなる人物が見当たらないことを指摘した。まだ寝てるのかもしれないが、そんなことを考えても意味はないので、とりあえず係の者の指示に従って彼らは移動した。
霊能力者達がやって来たのは、昨日の懇親会が開かれた大広間とは中庭を挟んだ丁度向かい側になる部屋である。そこは、会議用テーブルが並べられたちょっとしたミーティングルームになっていた。そしてテーブルの上には、ネームプレートが置かれており、そのネームプレートが置かれている場所に着席するようである。だが、ネームプレートの数も、確かに昨日の参加者分よりも明らかに少ないのだ。玲は不思議に思いながらも、かすみと神室霊華が最前列に置かれていたネームプレートの場所に着席したのでそこに向かうと、
「あれ、僕のネームプレートが無いけど」
と玲が珍しくぼやき出した。かすみは後ろを振り向いて辺りをキョロキョロ見回して探すも、
「ほんまや、玲、あんた影薄いから
忘れられたんやないの。知らんけど」
と適当に扱う始末である。仕方なく玲は、かすみの隣の空席に腰を落ち着けることにした。そして暫く待つと、がやって来た。そして部屋の中を一瞥した時、なぜか玲を見た途端に一瞬だが視線を彼に留めた。勿論玲は、そんな三鶴木琢磨の様子をじっと見ていたので、彼の僅かな反応を見逃さなかった。これって一体どういうことだ?
「ああ、最神さん、申し訳ありません、
ネームプレートがありませんでしたね」
とこちらからの問い掛けにを待たずに、スタッフにネームプレートを用意するように手配した。そして、今日これから行われる宝探しというか、彼の先祖が残した遺産がどれかを霊能力を使って探すという説明を行った。更に、
「もしそれを当てて頂いた方には、
こちらから1億円の報酬をお渡しします」
「え、い、1億!!」と言う驚きの声があちらこちらから上がった。ちなみに、玲とかすみはと言うと、特に反応はなし。神室霊華も普段通りの表情であった。神室霊華に関しては、著作やメディア出演などを含めて自身で年間数億円は稼いでいる。だが、玲とかすみはと言うと、突発的に大きな仕事が入って、莫大な報酬を得たりするものの、それ以前にどうやら最近では余り金銭的な欲求は少なくなってきたようだ。と言うのは、召喚術師になった時点で、彼らは好きな物を召喚して使うことが出来、いらなくなれば召喚解除する、それを繰り返せば、実質お金がかからない生活を送れるからである。更にかすみに関しては、学生時代は洋服やアクセサリーにお金をかけていたりしたが、洋服に関してはタチアナ特性の召喚術でデザインできる特殊な洋服があり、アクセサリーも数カラットのダイヤの指輪やティアラなどもかすみであれば簡単に召喚出来るに至り、彼女もお金を必要としなくなったのだ。そのための両者の反応であった。だが、最前列で無反応な3名を見つめる三鶴木琢磨としたら、何やら不気味と言うか、1億円の価値が彼らには理解できないのかと不信に思ったりしたのだった。そして最後に、三鶴木琢磨は
「なお、この遺産探しのタイムリミットは、
今日の午後6時までとさせて頂きます」
と時間制限を設けることを伝えた。そして何かご質問あればと言うことを最後に付け足した時、玲は
「すいません、三鶴木さん。
探し物はこの屋敷の中だけでしょうか?
それとも島全体でしょうか?」
島全体となると今日中に探すのは不可能だから屋敷の中だけだと思ったが、
「それは勿論島全体です。
ただし私のプライベートスペースは
除外されます」
と事も無げに答えた。成程、普通の宝探しではなく、霊能力を使って探すから、場所とか範囲は関係ないはず、という魂胆なのだろうと推測した。玲は、
「分かりました。ただですね、
この屋敷から外に出るには、
エントランスから出るしか
方法はないのでしょうか?」
と今朝気になった点を敢えて尋ねた。三鶴木琢磨は少し怪訝な表情を浮かべながら、
「いいえ、そんなことはありませんが、
もしかしたら分かり難いのかも知れませんね」
と答えて、他に質問が無ければこれから始めてくださいと宣言し、朝のミーティングは終了した。そしてこの時から、霊能力者達による宝探しが始まったのだ。