召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、謎の招待を受ける (第5幕)
最神玲、物部かすみ、そして神室霊華を除く霊能力者達は、早速部屋を出て宝探しを始めた。一方彼ら3人は、その場に残って作戦会議を開いた。と言いたいが、実は作戦らしい作戦と言うものはない。宝探しである以上、何かを探すだけだから。そんな時、かすみが
「片っ端から降霊召喚門を設置すれば
そのうち分かるんとちゃう?」
などと余裕な表情で玲に語りだした。だが玲は、
「それは僕なら可能だけど、
かすみだと精々数十回出来るかどうかだな」
と冷静にかすみの手法にダメ出しをした。それに対し神室霊華は「私はどれ位出来るんでしょうか?」と遠慮がちに尋ねてきたので、「神室さんだと、まだ十数回が限度かな」と玲は答えた。すると、自分のグッドアイディアにダメ出しされて不貞腐れ気味のかすみが、
「ほな、玲にくっ付いて玲に全部やってもらおか」
と言い出した。要するに玲におんぶに抱っこする方針に転換したのだ。そんな時、神室霊華は前々から思っていた疑問を玲に尋ねた。
「ところで玲さんってどれ位の召喚エネルギーがあるんですか?」
それに対しかすみが、面白おかしく、だが分かり易い例えで解説した。
「そやね、霊華さんの召喚エネルギーを
2リットルのペットボトルの水だとしたら、
うちが多分家の浴槽くらいか。
ほんで玲は琵琶湖」
び、琵琶湖ですか?と神室霊華は呟くも、その表情は目を丸くして驚くばかりであった。玲も「かすみ、適当な事いうなよ。琵琶湖はデカすぎだろ」とかすみに対し抗議するも、かすみは明後日の方を向いて知らん顔する始末。内心「なかなかに良いボケやったな~」とほくそ笑んでいたのだ。一応かすみの間違った例えを訂正するため、玲は「多分僕の場合は25mプール位だと思ってください」と神室霊華には伝えた。それでも自分と比べると途方もなく大量であることは間違いないため、神室霊華は改めて最神玲と言う人物に畏敬の念を抱くのだった。そして、特に方針が無い彼ら3人は、とりあえず午前中は別行動にして目ぼしいお宝をチェックするようにし、午後から3人でチェックしたお宝に対し玲が降霊召喚を行うことにした。
先ずはかすみだが、やはり一番怪しい所として中庭にある彫刻群と見た。だが既にそこには何人もの霊能力者達がそれぞれの術で何やら調査をしているようで、まあ邪魔したら悪いなと言うことで、後で空いた時にでも来ようと別の所に移動した。なお、この屋敷の中には、調度品の類がこれでもか、と言う程に置かれている。従って、探す分には楽かもしれないが、ただしこの中から正解を見つけるのは、逆に至難の業かもしれない。かすみも心して探索をするのだが、幾つか目ぼしい物に対し降霊召喚を行うものの、何も降霊されないとか、偶に降霊されて名前を聞いても、全くよく分からん連中だったりした。そんな感じで全然成果が上がらないままとぼとぼと1階を歩いていた時、そう言えば玲のやつ、何か変な事聞いてたな?と言うことを思い出し、かすみは外に向かうべく出口を探した。だが、
「あれ?出口ないやんか!」
と誰にともなくぼやき出した。この建物は、基本的に漢字の口に似た構造である。だが、エントランスを起点にぐるりと一周するも、それらしい扉は見当たらなかった。あ、そうか、2階から出るのか!と思い直し、早速2階もぐるりと一周するが、やはりそれらしい扉が見当たらない。
「あー、もう、面倒や!」
とやけくそになって転移すりゃいいや、と思い直して転移しようとした時、かすみの後方から霊能力者達が何やら喋りながらやって来た。「うわあ、危なかった!」とかすみは冷や汗を搔いた。そしてかすみはその霊能力者達に、屋敷の出口を知らないか尋ねたが、「分からない」との返事があるだけだった。もしかしたら、知ってて教えないことも考えられるから、とりあえず「そう、有難う」と言って彼らと逆方向に歩き出した。しかし島全体が捜索範囲と言っておきながら、なぜこの屋敷からは外に出られないのか?かすみは念のためエントランスに向かい、そこから外に出た。そして屋敷の横手を回りこもうと向かったところ、
「うわ~、まじか~!」
と絶句した。そう、屋敷の横手を歩くスペースがないのだった。と言うのは、そこから直ぐに崖になっており、下手すると海の中にドボンと落っこちてしまう。同様に反対側も調べたが、こちらも同じ。確かにスマホの地図で確認したところ、何となくみたいな形の島だったことを記憶しており、その丁度れた所にこの屋敷が建てられているのだった。念のため、ポケットに仕舞ってあるスマホを取り出して確認しようとしたところ、[圏外]と表示された。しかもWi-Fiは公開されていないため、かすみを含めて誰も外と通信できないし検索もできない。とりあえず、玲が今どこにいるのかをカフリングで聞いて、この屋敷の外側から向こう側に行くことが出来ないことを伝えた。「やっぱりね。どうやらそこに何かカラクリというか謎がありそうだよね」と返事が返って来た。そうすると、どうやって向こうに行くかだが、その時かすみはあることを閃いた。そこで、近くの雑木林の中で何かを探索するフリをしながら、ある物を召喚した。
「ちょっと、屋敷の向こう側が
どうなっているか確認して来て」
とかすみは召喚したカラスに指示を出し、かすみは暫しの間その辺りを散歩することにした。
一方、玲であるが、こちらは宝探しよりも、屋敷の入口とは反対側になぜ行くことが出来ないのか、その謎を解く事にした。そこで、先程かすみが見回っていたルートとは反対方向に回り始めたが、どこにもそれらしい扉は見当たらない。ただ、「口」の字の屋敷で海に面した所は、外側がガラス張りになっていた。一方、船着き場がある面、つまりエントランスがある面はどの部屋にも窓ガラスがある。ところが、島の反対側に位置する面には窓が全く見当たらない。方向的には北向きになるので、日当たりを考慮すれば無くても問題ないかもしれない。だがそれだけの理由なのか?と玲は疑問を持ち始めていた。そこで、窓のないところを細かくチェックするのだが、どこにも隙間などは見られない。あるいは隠しスイッチらしきものがあるのではと考えて、近くの棚やゴミ箱まで調べるも、何も見当たらない。念のため2階にも行ったが全く何も分からずじまい。なおこの屋敷には3階もあるが、そこはのプライベート空間になるため、除外されている。そうすると残るは、
「うーん、中庭かな?」
と一人呟いた。そんな呟きをかすみはカフリングを通じて聞いており、
「なんや、玲、中庭の探索でもするんか?」
とかすみはもう諦めムードで玲に尋ねた。そこで玲は、これまでの調査の結果と、もしあるとしたらと言う前提で推測したことをかすみに話した。すると、
「ほな、あれか、中庭の彫刻を動かすと、
地下へ続く階段でも出てくるんとちゃう」
と笑いながら突っ込んできた。だが玲はそれもありかな、と思ったので、とりあえず中庭を探索することにした。
玲が中庭に足を踏み入れた時、丁度そこには神室霊華が探索中であった。そこで、お互いに分かったことについて意見交換した。そして、
「神室さん、僕はどうしてもこの屋敷の
向こう側に何かありそうに思うんですよね」
と今思っていることを伝えた。神室霊華もやはり向こう側が気になるため、そこへ行く手段を探しつつ、何かお宝っぽい物も探しているのだという。そして玲はかすみが言ったことを伝えた。すると、
「なるほどね、そう言うこともありそうですよね。
流石は師匠です」
いやいや、神室さん、かすみを甘やかさないでください、と神室霊華には釘をさしておくが、それよりもここの彫刻を動かすのは簡単ではなさそうな気がして、気が重くなるのだった。と言うのは、ほぼ人物を対象とした立像ばかりであり、その数は12体。だが、何となくその配置といい、向きと言い何かを意味してそうな気がしてくる。そんな風に考え事を始めた玲の所に、かすみが合流して来た。玲が何やら悩んでいるようなので、かすみは何時もの如く
「ほれほれ、玲さん、わたいに何でも聞いてみそ!」
とニコニコしながら近づいて来るので、玲はこの彫刻の向きとか配置が関係しているのではないかと言う推測をかすみに打ち明けた。すると、
「まあ、そんなん考えるよりも、
先ずは行動やて!」
と言って、近くの彫刻の腕を叩いたり回したりし始めた。そんなかすみの行動を見ていた神室霊華は「師匠、壊さないでくださいね」と真顔で注意するも、かすみは「平気、平気、知らんけど」とお道化た調子で只管彫刻を弄り続けた。そして、北寄りの真ん中にある彫像の腕を叩いた時、腕が取れたような不思議な動きをしたため、かすみも「うわー、やっちゃった!!」と顔面蒼白になるくらいに狼狽し出し、頭を抱えて座り込んでしまった。だから言ったこっちゃないと、玲はかすみの所に駆け寄ると、
「ん?おい、かすみ、これって正解じゃない」
とかすみに指摘した。かすみは玲に指摘されたことで我に返り、玲が指さす方向を見て見ると、
「おー、流石はかすみ様だ。
見たか玲、これがうちの実力よ!!」
ほほほ、と高笑いし出した。いやいや、今までそこで沈んでたんは誰ですか?と突っ込むも、そんな玲のツッコミは無視して、かすみはそこに空いた空間に真っ先に入って行った。神室霊華はかすみの行動に呆気に取られていたが、かすみが我先に暗闇に消えたのを見た途端、「師匠!!」と叫んでかすみの後を追った。玲も、「全く、猪突猛進か、あいつは」と誰にともなく愚痴を零すが、そんな玲の言葉はカフリングを通してかすみに伝わっており、「誰がイノシシじゃ。ぼけ玲」などと悪態をつく言葉が玲の耳に届いた。玲は首を左右に振り溜息を一つついて、かすみと神室霊華の後を追った。
玲とかすみと神室霊華の3人は、明かりの灯る地下道を進んでいる。てっきり真っ暗かと思われたが、どうやら入口が開くのと同時に明かりのスイッチが入る仕掛けがあったようだ。そして50m程進んだところで階段が見えてきた。どうやらその先が出口のようだ。扉は内側から鍵が掛かるようになっており、その鍵を開錠するとそのまま外に出ることが出来た。そしてそこは、予想通り屋敷の北側であった。その時かすみが、
「ここを真っ直ぐ進むと小屋があるんよ。
ほんで、そのまま道を下ると、
砂浜に出んねんけど...」
その先に洞窟がある、と言うのだ。だがなぜかすみはそんなことを知っているのかに興味を持った神室霊華は早速その理由を尋ねた。「ああ、それはね」と言ってかすみが小屋に向かって歩く途中、彼女の肩にそれが舞い降りてきた。
「この子が教えてくれたんよ」
ちなみに、名前はまだ付けてないから、カラスのレイちゃん(仮)です、と言った途端、玲が「何で僕と同じ名前なんだよ!」と抗議して来た。かすみは面倒くさそうに、「はいはい、まだ仮言うてるやろ。本体の玲が真面目で大人しゅうするんやったら、別の名前になるねんで」と意地悪そうな顔をして玲を一睨みした。こいつ、絶対別の名前にする気ないなと見て取った玲だが、かと言って何かかすみにやり返すネタがあるかと言われると何もない。悔しいが、暫くは大人しくすることにしたのだった。そんな2人のやり取りを見ていた神室霊華は、かすみに、
「私も何かそういう式神みたいなものを
召喚出来るのでしょうか?」
と真剣な表情で尋ねてきた。この問いに対しては、玲が答えた。
「ええ、それは可能ですよ。
何を召喚したいのかのイメージがあれば
すぐにでも出来ます。ただし...」
通常の創成召喚は、召喚後の対象物を維持するのに召喚エネルギーを消費するからその点は気をつける必要がある、と言うことを伝えた。なお、
「僕やかすみは、特殊なバレル型を使うことで、
召喚後の召喚エネルギーの消費は
抑えられるんですよ」
だから、神室さんもこれで召喚すれば多分大丈夫、と太鼓判が押された。ただし、今の所使用回数の上限があるので注意して、との忠告もあったが。それでも「ああ、自分も式神が使えるのか」と思うと、何やら心の底から湧き上がる高揚感に包まれる感じを抱いたのだ。そんな表情が顔に現れたのだろうか、かすみが
「そっか、霊華さんの実家は
確か陰陽師の家系やもんね」
と神室霊華を見てそう呟いたが、神室霊華の実家の家は、平安から続く陰陽師の家柄でもあった。だが、陰陽師として名高い安倍家や加茂家とは違い、紀家は裏稼業とも言うべき影の存在であった。そんな紀家でも、もし安倍家のように式神を使役できるのであれば、これで紀家もようやく安倍家や加茂家と肩を並べる存在になり、念願が叶ったとなろう。
「もし何を呼び出したいか決まったら、
かすみにでも相談してください」
と玲がそう伝え、かすみも、「任せてね」と言ってくれたので、神室霊華はこの2人に心から感謝したのだった。そんな話をしながら、彼らは小屋を過ぎて砂浜にやって来た。小屋には一応かすみがひとっ走りして確認したが、何も無かった。そして砂浜に降りて、「こっち、こっち!」と言ってかすみの後について行くと、確かに前方に洞窟と言うか、波の影響で岩に空いた穴のような空洞が視界に入って来た。
3人は洞窟に入って暫く進むと、昔の港のような跡地に辿り着いた。彼らが入って来た入口とは別のもう一方の洞窟の入口は海と繋がっており、そこから船が出入りできるようである。勿論今は桟橋とか船の残骸すらも残っていない。ただし奥の小部屋と言うか、ちょっとした空洞には色々な物が置かれていた。その中の片隅に置かれていた品物にかすみは食らいついた。
「これって、何かめっちゃ古い兜っぽくない?」
とかすみはそれをそっと手に取り繁々と眺めている。所謂戦国時代の武将の戦兜というよりは、足軽が使いそうなお握り型の兜である。しかもかなりボロボロであり、落としたりすると壊れてしまいそうである。そこで玲はその兜に対し降霊召喚を行った。そして、
「......」
「そういうことですか。そうなると、
これがそうかもしれないですね」
と神室霊華が断言するように、どうやらこの兜が三鶴木琢磨が探しているお宝と言うか先祖の遺産のようであった。ちなみに、それ以外にはこの場に相応しくない立派な短刀や香炉といった品々がこれ見よがしに置かれていた。恐らく、三鶴木琢磨が囮で置いたのだろうことは容易に想像できる。まあ、とりあえずお宝と言うか目的の物はゲットできたので、3人は洞窟から出ることにした。なお念のため、その兜は玲が使っている部屋に転移しておいた。
そして屋敷に向かって戻る途中で、どうやらかすみが開けた地下道を通って来た多くの霊能力者達とすれ違った。中には、「神室霊華様、あちらに何かありましたでしょうか?」と聞いて来る連中もいたが、神室霊華は「はい何やら色々とありましたよ」と微笑みながら返事を返した。まあ、間違いではないよな、とは玲とかすみの感想である。尤も、彼らはあそこにある品々を持ち帰ったとして、どうやってそれが三鶴木琢磨の探している物かの証明をするのだろうか、と他人事ながら心配になったりした。どう見ても、玲やかすみや神室霊華のように、降霊術を専門に行う連中ではなさそうであった。「そっか、アクトはあいつ降霊術専門やったな」と何やら思い出したかすみは、そこに何かを感じたのか、押し黙ってしまった。