召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、謎の招待を受ける (第6幕)
目的のお宝を無事確保した最神玲と物部かすみ、そして神室霊華の3人は、昼食を摂るために広間にやって来た。時間は午後2時過ぎである。まさかこんなに時間が経っていたとは思わない3人であったが、実はかすみの腹時計は1時間以上前から鳴りっぱなしであった。ちなみに、彼らの摂ったランチは、この地方の名物であるうどん定食であった。玲もかすみも、実は差間見町に来てからうどんを食べる習慣は余りなく、どちらかと言うと蕎麦になっていた。尤もかすみの地元では、やはりうどんが主流なので、かすみとしては懐かしくもある味わいらしかった。そんな3人は、うどんを食べながらある問題について話し合っていた。
「しかし、何で玲の部屋にはそいつが現れたんやろ」
「何となく思ったけど、
あれって何時かのかすみの所で出てきたやつ、
あれを思い出したんだよな」
「えー、まじ!?それやったら、
誰かが呼び出したんとちゃうん?」
「お二方の仰っているあれって、
かすみさんの時のあれですよね?」
彼らは、昨晩玲の部屋に現れた霊体について話していたのだ。実は、玲もかすみも、そして神室霊華も、就寝前には必ず降霊召喚門を設置するようにしている。美土路神社では玲が色々と手配しているので問題ないが、こういうところでは何が起きるか分からないため、各自で身を守る様にしていた。そして昨晩、玲の部屋に悪霊か怨霊の類が現れたのだが、幸い彼が設置していた降霊召喚門に阻まれて、その霊体は玲を襲うことは出来なかったのだ。だが、彼が部屋をに確認した所、やはりあの痕跡があったと言う。そうなると、
「あいつ、めっちゃ怪しいやんか!」
とかすみが指摘するように、あいつ、と言うかあの男が真っ先に容疑者として浮上してきた。だが、
「ただね、目的が分からないんだよね。
僕だけなのか、僕意外にもいるのか
どうかも分からないし...」
仮に僕意外にもいたとして、ではなぜ彼らは襲われたのか、その理由が分からない、となる。確かに今の段階では全て憶測であり、もしかしたら偶々、偶然そうなったと言われても反論できない。だが、玲にはあの手がある。
「まあ、最終的にはそれを使うかな」
とかすみにはそう伝えた。神室霊華はキョトンとするも、何か奥の手があるのか、と言うことは理解したようだ。何れ玲かかすみから説明されるだろう。とりあえず、3人はお腹が満たされたので、この後は各自好きなように過ごすことにした。かすみは、神室霊華が何を召喚したいのかについての相談に乗りつつ、どうやって召喚するかについて色々と教えることにした。玲は自室に戻り、そのまま自宅に転移して、少し気になる点についてネットでの調査を行った。そして、午後6時に、各自お宝を持って、朝のミーティングが行われた部屋に入って行った。
玲とかすみ、そして神室霊華は、最前列の席に着席した。ただし、お宝は敢えて机の下に隠すことにした。そして他の霊能力者達もそれぞれの席について、各自がこれだと見定めたお宝をこれ見よがしにテーブルの上に置いていた。そして、定刻から5分程経った時、主催者であるが現れた。そして部屋全体を眺めて、最前列に陣取る玲達3人以外がお宝を持っていることを認めて、先ずはそれらのお宝が本物かどうか、何故そう思ったかを説明してもらうことにした。要するにプレゼンである。最初に指名されたのは、玲達の座る場所の後ろに陣取る2人組の霊能力者達である。彼らは、洞窟にあった短刀を手にしており、これこそ三鶴木家の遺産として相応しい物と判断した云々という、尤もらしい説明を行った。だが、そこには何の根拠もないため、その点を突かれるとしどろもどろになり、更に、
「残念ながらその短刀は、
私が購入した物なんですよ」
と言って、短刀を手に持つ三鶴木琢磨の写真を公開した。これにより、その短刀は偽物判定されたのだった。その後同じようにプレゼンをするも、く論破されるというか、三鶴木琢磨を納得させる説明をすることが出来ないか、あるいは三鶴木琢磨が購入していた物であることが分かり、一同がっかりと肩を落とした。そして最後に玲達になったのだが。
「おや、最前列の方々は結局
何も見つけられなかったのですか?
地下通路を発見するほどの
頭脳明晰な方々なのに」
と何やら挑発するような言動が発せられた。この手の挑発には、真っ先に乗るかすみも、終始穏やかな表情をしていた。そして、神室霊華が机の下から例の兜を机の上に置いた。そして、
「三鶴木様、恐らくあなたがお探しの物は
これだと思います」
と宣言した。三鶴木琢磨は、何やらボロボロの兜を物珍しそうに眺めているが、実はこの兜は彼が持参した物ではなく、昔からあの場所に放置されていた物だった。そんな物が我が家の遺産であるはずがないと、高をっている三鶴木琢磨は、神室霊華の言葉に反論した。
「神室様ともあろう高名な霊能力者が、
このような物を我が家の家宝と言うか
遺産であると断言されるのには、
明確な理由がおありなのですよね?」
まあ、そう来ることは予想していた3人は、ここは事前の打ち合わせ通り、神室霊華に任せることにした。そこで、彼女は三鶴木琢磨にある物を手渡した。
「三鶴木様、これは私共が開発した
霊視グラスと言う物です。
もしかしたらご存じかもしれませんが、
それを掛けると、霊体を見ることが出来ます。
そして...」
神室霊華は目の前の兜に対し降霊召喚門を設置しお出迎えの術式を加えて、「召喚」と宣言した。すると、
「三鶴木様、こちらに霊体が
現れていると思いますが、
お判りでしょうか?」
勿論三鶴木琢磨の目の前には、かなり時代を感じさせる霊体が揺蕩っているのを見ていた。そして当の三鶴木琢磨は、その光景に目を丸くして、茫然とその霊体を眺めていたのだった。
「では、三鶴木様、
この方が誰かを名乗って頂きます」
と言って、神室霊華はその霊体に名前を聞いた。すると、三鶴木琢磨は、
「・・・ま、まさか、初代のご当主様ですか?」
玲達にはその霊体の素性は分からないが、三鶴木琢磨には彼がどういう人物かの情報があったようだ。そして、玲達が霊体から聞き出した情報を、再度この場で三鶴木琢磨に語ってもらった。
その霊体、名前はと言い、元はこの島の漁師だった。彼の生まれた時代は群雄割拠する戦国時代であり、彼もこの島を収める領主から船での戦に駆り出された。そんな時に手にしていたのが、ここにある古い兜であった。実はこの兜は、三鶴木善兵衛の命を何度となく救った奇跡の兜であり、また幸運を招くお宝であった。と言うのは、戦死したこの島の領主に代わり、三鶴木善兵衛が下剋上でこの島を収めた途端、この島の水軍は他を寄せ付けない圧倒的な力を持つようになった。その後三鶴木善兵衛が亡くなり、その子が父の遺言に従ってこの兜を相続すると、三鶴木家は益々栄えるに至った。特に江戸時代には、三鶴木善兵衛からは何代か後の子孫になるが、彼らもこの兜を大事にしたおかげで、回船業は順調になり、この地方の有力な豪族になった。そう、まさにこの兜は、三鶴木家における幸運のお守りだったのだ。
ところが、時は下り明治になる頃、三鶴木家は島を離れて東京に居を構えるようになる。勿論この島はそのまま三鶴木家が所有し続けるのだが、この幸運の兜は、その存在すら忘れ去られてしまったようだ。その結果、三鶴木家は没落の一途を辿り、遂には島を手放す事態になったのだという。そしてそんな三鶴木の衰退を、兜と一緒に見守っていた三鶴木善兵衛はこの状況を何とかして欲しいと願っていたのだ。
この話を聞き終えた途端、三鶴木琢磨は
「あー、なんてことだ!!
こ、こ、これがご先祖様の遺産だったんですか!!」
とその場にれ、涙を流しながらそう叫んだ。神室霊華は、優しく微笑みながら
「三鶴木様、こちらの兜をあなたが
大事にされるのであれば、
こちらの三鶴木善兵衛様も
お喜びになられますよ」
と言って、召喚解除してから、兜を持って三鶴木琢磨に手渡した。三鶴木琢磨は、それをしく両手で受け取り、神室霊華に「神室様、有難うございます。有難うございます」と何度も頭を下げて感謝の言葉を伝えた。ところで、本来であれば、この兜の発見はかすみの手柄である。だがかすみにしろ、玲にしろ、全てを神室霊華の手柄にすることに不満はない。むしろそう望んだのが他でもない彼らであった。恐らく自分達がしゃしゃり出て「これがお宝ですよ」と言っても、間違いなく神室霊華の手柄を横取りしたという風評が霊能力者界隈に広まってしまう。これは今後何かにつけて、玲とかすみが目の敵にされる危険性が付き纏う。それよりも、神室霊華が中心で、自分達は彼女の手伝いですの方が、事を丸く収めるのには打って付けであった。尤も、当の神室霊華はこの提案を最初は拒否した。やはり師匠達を差し置いて自分だけが栄誉に浴するのは間違っていると頑なに抵抗したのだ。だが、かすみが自分が抱く思いと、今後もしかしたら他の霊能力者達の助けが必要となった時にそれが出来なくなる問題点をきちんと説明して、漸く納得してもらったのだった。そして、やはりと言うべきか、後方に座っている他の霊能力者達の反応は、一様に「流石は、神室霊華様だ。しかもあの降霊術は見事と言うしかない」などと好意的な反応ばかりであった。勿論、神室霊華の心の中は複雑な心境であろう。
ところで、この時の状況が、玲とかすみに一つだけ嬉しい誤算を生んでいた。それは、彼らが召喚して使う霊視グラス、あれが実は神室霊華からの贈り物だったという、どこでどう伝わったか分からないが、そう言う代物であるということが世間に拡散していった。これにより、玲とかすみを時折悩ませていた怪しいユーチューバーからのコラボと言う名の攻撃が完全に止むことになったのだった。
さて、話を元に戻すと、三鶴木琢磨は約束通り、賞金を神室霊華に贈ると申し出た。だが、神室霊華はその申し出を断った。勿論玲もかすみも、彼女の思いは分かっており、それについて何か言うことはない。まあ、ちょっとしたお宝さがしイベントが出来て、玲もかすみも楽しんだのだから、自分達はこれで満足と言う心境であった。実は神室霊華も全く同じ思いであり、賞金云々には興味が無かった。勿論、断られるとは思っていない三鶴木琢磨は、己の耳を疑った。そして再度申し出るも、神室霊華は受け取りを固辞したため、三鶴木琢磨は呆気に取られてしまった。1億円ですよ、皆さんの稼ぎでは到達できない額ですよ、と心の中で叫んでいたであろう。だが、神室霊華も流石に断り続けるのは気の毒と思ったのか、三鶴木琢磨にある提案をした。それは、
「では、三鶴木様、そのお金を
ここにいる全員に分けて頂けますか?」
理由は、霊能力者としての仕事は、危険な割に結構生活が苦しい方々が多くおられるので、少しでも彼らに役立てられれば、それで私は十分です、と語った。これには「神室様、有難うございます」と涙を流しながら喜ぶ霊能力者が何人かいたので、結構皆大変なんだな、とかすみはこの時霊能力者の現状を知ったのだった。そして神室霊華からの提案に対し、三鶴木琢磨は
「勿論、神室様がそう仰るのであれば、
私は全然構いません」
と言って薄く笑みを浮かべた。その口元は柔らかな笑みに見えたが、しかしその頬の筋肉の動きは僅かに固く、口角の上がり方もどこかぎこちなかった。何かを心の中に隠している三鶴木琢磨の表情を玲はただじっと見つめていた。
賞金に関しては明日の朝までに用意すると三鶴木琢磨の口からそう伝えられ、彼は兜を手にしてこの場を後にした。それから係の者がやって来て、この後は昨晩の懇親会場でディナーを楽しんでもらいますと伝えられ、一同は大広間に向かった。玲はかすみと並んで何やら話し込んでいたが、そんな玲の背後から「最神さん」と声が掛けられた。玲が振り向くと、三鶴木琢磨がこちらに向かってくるところであった。
「最神さんと物部さんでしたね。
何の予備知識もなく、中庭のあの仕掛けを
見つけるとは驚きました」
「ああ、あれは、ここにいるかすみの
ファインプレーですよ。
彼女の野生の勘が働いたからですね」
「誰がイノシシじゃ!!」
と言ってかすみは玲の尻をった。玲は痛みを堪えてお尻を摩りながら、「いつもかすみの鋭い勘には助けられてますから、ははは」と誰にともなくフォローをしていた。だが、そんなことを聞くために三鶴木琢磨が玲を呼び止めた訳ではないのは確かだ。
「そう言えば、昨晩は何事もなく眠れましたか?」
と三鶴木琢磨はごく自然な会話を装って玲にそう尋ねた。ほー、やはり何か関係しているんだと、心の中でニヤッとしながら顔にはださず、
「ええ、僕は全然、普通に眠れましたね。
何かあったんですか?」
と逆に問いかけてみた。三鶴木琢磨は、右手を自分の顔の前で振りながら、
「いえいえ、特に何かと言うことではないのですが、
実はこの屋敷は昔から出ると噂されてまして」
特に1階の辺りでその話をよく聞くものですから、もしかしてと心配になったんですよ。お気を悪くされたのであれば、申し訳ない、と神妙な顔つきで頭を下げてきた。
「まあ、出たとしても、
僕らも霊能力者の端くれですから、
何とかしないとダメですけどね」
だから御心配には及びませんよ、と軽いノリでそう答えた。それで安心したのかどうなのかはよく分からないが、「ではまた後程」と言いおいて、そのまま先に進んで行った。残された玲とかすみは、2人で顔を見あってお互いに頷き合った。
さて、その晩の夕食は指定されたテーブルに着席してのフレンチのフルコースのディナーであった。玲とかすみは隣同士となり、更に同じテーブルには神室霊華の取り巻きの霊能力者達と顔を合わせた。そしてお互いに無難な会話をして過ごしながら、その日の宴は幕を閉じた。