召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、謎の招待を受ける (第7幕)
無事お宝を探し当てたその日の深夜、最神玲はベッドから起き出した。彼はM Mの制服のままベッドに横になっていただけだった。そして、
「かすみ、行くよ」
と小声で話しかけると、「あいよ」という声がカフリングを通して帰って来た。そこで玲は一度物部かすみの部屋に転移し、かすみは神室霊華の部屋に転移して彼女を自分の部屋に連れて来た。そして3人はある部屋に転移して行った。
そこは30畳はあろうか、と言う広い部屋である。そこには天蓋付きベッドと1人掛けソファー、高さ2m程の作り付けの本棚が3つ、ノートパソコンとモニターと今は古い兜が置かれている書き物机と椅子があるだけ。壁に絵やテレビなど掛かっておらず、彫刻や置物の類も一切ない、シンプルな部屋と言うか寝室である。玲とかすみと神室霊華は、その部屋に隣接するウォークインクローゼットの中に転移して来た。そして彼らがその場で声を忍ばせてじっとしていると、ベッドが軋む微かな音が聞こえてきた。どうやら寝室の主が起き出したようだ。続けて、ガタガタという微かな振動音が彼らの耳にも聞こえてきた。その後、ウォークインクローゼットの扉の隙間から外を確認し、彼ら3人は外に出てきた。そして、その部屋のある本棚が置かれていた壁に目をやった。丁度そこだけ何やら異空間とでも呼べそうな暗がりが口を開けていたが、程なくして蝋燭に火を灯したのか、オレンジ色の明かりが揺れているのが見て取れた。そこで3人はゆっくりと音を立てずにその空間近くにやって来て、そこでしゃがみ込んで中の様子を確認することにした。やはりと言うべきか、アニュラス型とペンタグラム型が組み合わさった召喚門がその部屋の床面に描かれていた。そして近くの箱から何かを取り出して、それを床の上、丁度召喚門の中心に置いた。そして、何やら呪文のような言葉を発し始めたが、その言葉を聞いた途端、玲は強い衝撃を受けた。その人物が唱えている呪文のような言葉、それはかなり訛りの強いと言うかどことなく方言にも聞こえなくない、だが紛れもない召喚言語であった。やはりこれには召喚術師が関係していたのか、という強いショックで茫然とするが、今はそんなことよりも確認することがあるため、直ちにその場で降霊召喚門を設置した。そしてその人物の魂を肉体から分離しての尋問を行うことにした。
ところで、神室霊華はこれから何が起きようとしているのかについて何も知らされずにかすみに連れて来られた。そのため、目の前でその人の魂が分離した光景を目にした途端、「えっ?」と思わず叫び声が出てしまった。そして慌てて両手で口を塞ぎ、かすみに向かって「ごめなさい」と囁いたが、かすみは普通の声で、「霊華さん、こっちこそ驚かしてゴメンね」と神室霊華に謝った。それよりも、普通に声出して大丈夫なのかをかすみに尋ねると、
「今からね、魂の尋問を始めるから、
普通に喋っても大丈夫よ」
と言って、神室霊華に魂を尋問する方法やこの時の会話は本人には記憶されないなどを語った。そして、
「これがね、降霊召喚術師のもう一つの
側面みたいなものなのよ」
と言うのだ。そんな2人の会話を耳にしながら、玲は、「じゃあ、始めるよ」と言って尋問を開始した。
30分程の尋問を終えて、玲とかすみと神室霊華は言葉にならない位の衝撃を受けていた。今回のこの招待の真の目的が復讐にあったというのは、幾ら彼らでも全く予想していなかった。だがその人物、の魂が語ったのは、彼の父親が得体のしれない霊能力者に騙されて、挙句の果てに首を吊って自殺したということである。それが事実なら、彼が霊能力者に対して復讐心を持ってもおかしくは無い。だからと言って、そのために無差別に霊能力者を排除すべく行動することは全く間違っている。しかし、現実に昨晩の段階で10人近い霊能力者は命を落としたという。ただ、それだけの人を密かに埋葬するなり処分するには無理があるように思われるが、三鶴木琢磨は金でそういう仕事を請け負う組織と繋がりがあるようで、数億円の報酬と引き換えに昨晩の霊能力者達はどこかに連れていかれたというのだ。そして、
「結局、殺人罪でこの男を有罪には
持ち込めないんだよな」
と玲は悔しさを滲ませながら、誰にともなくそう呟いた。まあ、何れはどこかからボロが出て、この男にも何かしらの制裁なり何なり課されるだろうと思わずにはいられないが、玲の目的はこの男の処罰ではないので、この件はここまでにした。そして、
「かすみ、向こうを宜しくね」
と言ってかすみに三鶴木琢磨が所有するノートパソコンを調べてもらうことにした。既にパスワードは聞き出しているので、直ぐにアクセスすることが出来た。そしてメールソフトからある人物の名前を検索すると、1件だけだがヒットした。3人はかすみを中心にパソコンの画面を注視していると、その時の内容が画面に表示された。
[三鶴木様
入金を確認しましたので、
以下のURLからお入りくださいRen」
「こいつが元凶なんだな」と玲は独り言を呟くが、兎に角そのURLに入ってみることにした。だが、
「ちっ、くそっ、Not Foundや!
消された後やんか」
残念ながらURLは一度っきり使用できるものらしいのだ。そんな時、神室霊華が
「この入金とありますから、
もしかして送金した履歴とかあれば
探せないですかね?」
成程その線があるかと言うことで、玲は三鶴木琢磨の魂にそのことを聞きに戻って行った。暫くすると、首を振りながら「ダメです、銀行振り込みとかではなく、現金をそのまま宅配で送ったらしいです」ということだ。そうであれば、どこかに送金先の住所が書かれたファイルとかありそうだ。そしてその時かすみが、
「もうちょいこのメールの履歴を探れば、
いつどこで始まったんか、どこに送金したんか
分かるんちゃう」
「ああ、それでしたら、このメールソフトであれば、
ブラウザからも見れますから、
後で確認することも出来ますよ」
と神室霊華からのナイスなアドバイスが得られた。こういうパソコンの仕様とかソフト云々に関しては、玲もかすみも素人レベルである。特に玲に関しては、ほぼ使い物にならないだろう。そん時に心強い見方が出来たことは、彼らにとっては僥倖とも呼べるだろう。後はかすみがフォルダーをチェックし終えたらこの作業を終了しようとした時、かすみが
「あ!もしかして、これちゃう?」
と言って何かのフォルダーを開いた。そこにはタイトルからして怪しい名前のPDFファイルが収められていた。何か無防備に放り込まれていたが、まあ他人に見られることはまず考えないからある意味当然なのかと思ったりもした。何れにしてもそこには詳細な説明が書かれており、そして、
「ああ、やっぱり。この男の喋り方に
問題があって変に聞こえたけど、
文字で見ると何となく召喚言語に
見えなくもないな」
「かすみ、このUSBに保存しておいて」、と言って玲はUSBを召喚した。
「あっ、でも玲さん、召喚した物に
保存しても消えちゃうのではないですか?」
「召喚解除すれば消えますが、
解除しなければ普通のUSBとして使えますよ」
成程、そう言う使い方があるんですね、と納得した神室霊華であった。後は目ぼしい物が無いため、パソコンの電源を切って、あの男の魂を元に戻すことにした。その前に玲は、床に描かれている呪術に一つ細工を施した。これで呪術そのものは無効になり、霊能力者達の命を取られる心配はなくなるだろう。そして玲とかすみと神室霊華はそれぞれの部屋に転移して行った。