召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、謎の招待を受ける (最終幕)
翌朝、最神玲は何時もよりも少し遅い時間に起きてきた。昨晩のうちに対策をしておいたお陰で、恐らく霊能力者達は無事に朝を迎えた筈である。まあ、朝食の時にでも分かるだろう、と言うことで朝食開始まで10分程だが、玲は普段着に着替えて朝食会場である大広間に向かうことにした。そして廊下を歩いていると、何やらスタッフの動きが慌ただしいようだ。だが玲はそんなことに構うことなく大広間に到着すると、なぜか会場は閉鎖されていた。まだオープンしてないのではなく、扉自体が閉じられており、その前に数名のスタッフが立っていた。彼らに事情を聴くと、どうも不測の事態があったようで、朝食の用意が出来ないと言われてしまった。だが、後程最終ミーティングの時にお握りか何かを用意しますと言われたので、仕方なくその場を後にした。引き返す途中で何人かの霊能力者とすれ違ったので、今日は朝食なしになりましたと言うことを彼らに伝えた。それでも念のために確認に行きますと言って行く人もいれば、そのままを返して自室に戻る人もいたが、その中には下手すると昨晩命を落としていたかもしれない霊能力者が含まれているのを見て、玲は心なしか安心した。「あっ、そうだ」と一人呟いて、カフリングを通じて物部かすみに今朝のことを伝えておいた。かすみも起きていたようで、玲からの突然の通話にビックリしたものの、内容を聞いて「分かった。霊華さんにも伝えとく」と言った。
その後、制服に着替えてから、帰り支度をして昨日と同じミーティングルームに入ると、入り口近くにお握りとお茶が用意されていたので、玲はそれを手に取り、最前列に陣取るかすみのところに向かった。
「あえ、さんは?」
と玲はお握りを口に頬張りながらかすみに尋ねた。すると
「今、スタッフに呼ばれて
ちょっと席外してるねんけど、それより、
なんなん、連中の今日の様子。変とちゃう?」
何か不測の事態どうこう言ってたけど...
「あっ、そーうーころか!!」
と玲は口からご飯粒を飛ばす勢いで突然叫んだ。何なん、突然大声出して、皆びっくりしてるで、それよりもちゃんと食べてから話せよ! とかすみに注意されるも、それどころではない。玲はお茶で口の中のお握りを胃袋に流し込み、立ち上がってかすみを手招きして部屋の外に出て行った。そしてかすみにある事を耳打ちし、念のためにその場に転移門を設置して確認することにした。すると、
「うわあー、まじか。
あ、あ、あいつの時と同じやな!!」
そう、彼らが転移門を通じて見ているのは、ベッドの傍に倒れているの変わり果てた姿である。ある意味当然の帰結と言うべきだろうか、霊能力者を呪い殺すことが叶わず、逆に自身が呪い返しを受けたのだが、それはまさに、
「うん、合田剛だったっけ。
彼の時と同じ呪い返しだね、きっと」
と玲はかすみに呟いた。しかも、全く同じ姿で亡くなっていたのだ。恐らくこの光景を目にしたスタッフは、精神に異常をきたすかもしれないな、と心配になるが、それよりも自分達は無事に帰れるのだろうか?まさか殺人の容疑で暫くここに留め置かれることになるのだろうか?ふとそんな心配が頭をるが、これは流石に不謹慎と言うべきだろう。
「あ、霊華さんが戻って来た」
とかすみが「霊華さん!!」と手を振ったのを見て、神室霊華はかすみの所に駆け寄って来た。だがその時の神室霊華は、顔から血の気が失せて、文字通り顔面蒼白となっていた。一体彼女に何があったのだろうかと心配になるかすみは、それよりも今見た光景のことで頭か一杯で、そのことを神室霊華に話した。すると、
「え、ええ、じ、実は、
私はそこに呼ばれまして...」
何か霊的な存在が関与しているのではとの疑いで、スタッフに呼ばれて確認していたのだった。そして変わり果てた三鶴木琢磨の死体を目にして、全身から血の気が一気に引いて気絶するほどの衝撃を受けたのであった。かすみはその件について、神室霊華にも伝えてはいたが、
「ええ、師匠の話は分かってましたが、
実際目にすると、何か今晩、
悪夢にうなされそうです」
どうしましょう?とかすみに泣きついてきたが、「ほな、うちらの所に暫くいたらええんちゃう」と明るい雰囲気で答えたので、神室霊華も少しは安心したのか、「有難うございます。師匠」と言って頭を下げた。
その後玲達3人は、神室霊華が落ち着いたところでミーティングルームに戻り、スタッフからの説明を待つことにした。そのうち、2人のスタッフがそれぞれ箱を抱えてやって来て、「昨日、三鶴木琢磨社長から言付かっておりました賞金の件ですが、こちらに用意しましたので、お手数ですが取りに来ていただけますでしょうか?」と伝えたので、その場にいる一同は賞金を受け取ることにした。玲もかすみも、そして神室霊華もそれぞれ受け取った。
「では、簡単でございますが、
今回の集いはこれにて終了とさせて頂きます。
お帰りに関しては、
別のスタッフが案内しますので、
そのままこちらで待機してください」
と言われたので、玲達はその場で雑談しながら待つことにした。「三鶴木さんの挨拶は無いのか?」とスタッフに詰め寄る霊能力者が何人かいたが、スタッフも事情を知らされていないようで、「申し訳ありません」と平謝りであった。まあ、知らぬが仏かな、とはかすみの感想であった。結局、その後もスタッフからは三鶴木琢磨がどうなったかの件については何も知らされないまま、霊能力者達は帰路に付いた。
その日の正午に、玲とかすみは美土路神社にある自宅のリビングでぐったりしていた。流石に今回の旅行と言うか集いは、名前の通りの生易しい心温まるイベントではなく、彼らとしてはかなりハードな週末を送った。そんな時でもかすみは、自分のノートパソコンを持ち込んで、何やら打ち込んでいる。玲も自分のノートパソコンを使って、かすみに保存してもらったUSBをセットして、例のPDFを読んでいた。そしてまずかすみが、
「玲、多分これが最初の接触っぽいねんけど」
と言ってパソコンの画面を玲に見せた。玲はそれを見て、
「うん、そんな感じだね。そうすると、相手は...」
Renとあるだけだった。ただし、日本語でやり取りしている感じから日本人かとも思われるが、最近の翻訳ソフトやAI技術は、外国語でも自然な日本語に翻訳するので、頭から相手が日本人だという先入観は捨てるべきだろう。そしてかすみがメールの履歴を追って調べた結果、大体次のようなことが分かった。
三鶴木琢磨がRenなる人物にコンタクトを取り始めたのは大体1年ほど前からである。きっかけは、何かのWebサイトを閲覧していた時に偶々目にしたようだ。ただ普通にニュースサイトを見ていて、こういう怪しい広告を目にすることは無いだろうし、かと言って男であればポルノ系も考えられるが、そう言うサイトに呪いや復讐系の広告を載せることはなさそうと感じる。やはりオカルト系か、あるいはド直球に呪い代行などのサイトを閲覧していて知ったとみるべきだろう。そうなると、三鶴木琢磨はもっと以前から今回の復讐劇を計画していたのは間違いなさそうだ。そんな彼に付け入るようにRenなる人物は接触してきた。最初の接触から数回程メールでやり取りが行われ、その後に支払いを要求して来た。ちなみに、Renのメールアドレスを見ると、毎回全く出鱈目と言うか、全く実在しない組織から送られてきていたので、恐らくは捨ててもいいメアドを自動生成するアプリを使っていると予想される。こうなると、こちらからアクセスすることはほぼ不可能だろう。そうなると、三鶴木琢磨がどのサイトからRenに辿り着いたかを調べる必要が出てきそうだが、恐らく1年以上前のブラウザの履歴が果たして残っているかどうか。
「うちが見た感じやと、
追えるのはここまでちゃうかな」
とかすみはほぼ諦めてしまった。これは仕方ないので、玲は自分の方のPDFファイルをチェックすることにした。10ページ程の資料で、中には図や写真を交えて、事細かに呪術の方法が記載されている。これだったら、素人でも確かに呪術が出来ちゃうぞ、と何やら感心し出す玲である。そして肝心の召喚言語だが、
「やっぱり、思った通り、
これって僕らが使う召喚術の言語だよ」
三鶴木琢磨が唱えた召喚術は、アクセントや日本語にはない話し方が影響して聞き取り難かったが、文字として読むと日本語であればこうなるな、と言うのが玲には理解できた。だとすると、
「この呪術は、召喚術師が絶対関係しているのは
間違いないな」
との結論に達した。ただし何時の時代の召喚術師かはまだ断定できない。以前、タチアナに紹介してもらったロムリアからの転移者であり、趣味で地球の呪術を研究しているホアン・ヴァン・コアによると、このPDFにも掲載されている召喚術式は、タチアナが居たロムリアよりもさらに古い術式だと断言していた。もしそれが本当であれば、
「ここでも、ヴェルハムが関係してくるのか?」
と思わず呟いてしまった。そう、玲ことカーンフェルトやタチアナことセラスティナが見たこともないバレル型や最近発見したヘキサグラム型、あれらは全てサモネル教団、そしてヴェルハムに辿り着く。だが、何となく今回の呪術は、ヴェルハムと言うかサモネル教団のやっていることと合わない気がしてくる。と言うのは、サモネル教団は人を集めて、その人達を霊界に送り届けている。それに対し、今回の呪術は、確かに呪いを受けた相手は死ぬか、精神に異常をきたすものの、サモネル教団の目的である人を霊界に送り届けるには非常に効率の悪い方法と思われる。だが勿論、別物と結論付けるのは早すぎることは玲も自覚している。残念ながら今回の調査では、これ以上の進展はなさそうである。
その後、今回の件の調査はここまでとし、丁度昼近いので、かすみを誘って差間見町の商店街にある老舗の洋食屋に行って、今回の慰労を兼ねて、ちょっと豪華なランチを取ることにした。
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「では、ご請求された金額は後程
私が責任を持ってお届けに上がります」
「ああ、期待してるで、副社長はん。
あ、それとな、副社長はん、
わしら中身はなーんも知らへんいうこに
なってるからな」
と言って男は副社長と呼ばれる男の肩に手を置いた。そして「ほな、さっさと運ぼか」と言って連れて来た男達に指示を出し、大きなトランクケースを持って退出した。ここは、三鶴木琢磨の寝室である。今は日も暮れて南向きの窓の外は暗闇になっていた。招待した霊能力者が帰って既に半日程経った頃だった。後に一人残った男、電脳倶楽部の副社長であり、三鶴木琢磨の右腕と呼ばれたこの男は、三鶴木琢磨の死を警察に届けることをせず、三鶴木琢磨が使っていた組織に頼んで彼自身を処分してもらうことにした。実はこの男も三鶴木琢磨がしていたことを把握しており、その手助けもしていた。そのため、もし警察を呼んで事件化した場合、自分達も含めて間違いなくここに集められた霊能力者達にも目を向けるだろう。そしてそのうちの1/3が実は今現在も行方不明になっていることに遅かれ早かれ気づくことになる。そうなると、一体この屋敷で何が起きたのか、あるいは何が行われたのかと言う疑惑の目が必ず向けられる。それだけは絶対に避けなくてはならない。そこで、この男は三鶴木琢磨が利用していた組織に頼み込み、三鶴木琢磨自身を処分してもらうことにした。料金は10名の霊能力者を処分した時と同額を請求されたが、これに文句を言う心算はない。それよりも、安全かつ確実にこの問題が処理されることを願う者としては、金で解決してくれる組織は大変有難かった。
後はこの屋敷にいる従業員だが、ここは口止め料として一人一千万を支払うことにしている。痛い出費のようだが、会社の運営をこれまで通りに続けていくには、これしか方法がないことをこの男は理解していた。そして神室霊華だが、彼女には後日改めて三鶴木琢磨の件を警察に委ねるが、今は会社のために少しだけ時間が欲しいと頼み込んだ。かなりと言うか浮かない顔をしていたが、場合によっては幾ばくかを包んで持っていくかと覚悟はしていた。そして、後は三鶴木琢磨が行方不明になったということで、彼の親族を通じて警察に捜索願でも届けてもらえれば万事うまく収まると踏んでいた。ここの県警がわざわざ1個人を必死になって探し回ることはないだろうし、実際捜索願が出されてから1カ月程は警察の動きは鈍かった。だが、ある事件を契機に、まさか三鶴木琢磨にも目が向けられることになるとは、この時のこの男には想像できなかったであろう。