召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲、呪いをかけられる?(前編)
瀬戸内海に浮かぶ島と呼ばれる島で、あるIT企業のオーナーが主催する[霊能力者の集い]と言う謎のイベントが開催された。そしてそこに参加した最神玲と物部かすみは、その島で発生した不可解な変死や何人もの霊能力者が行方不明となる事件に遭遇した。その後、そこから無事に帰って来た玲とかすみは、その翌日から日常業務である美土路神社の神職としての仕事を再開した。普通の人は、何かしら引き摺って仕事にならなくなるのだが、玲とかすみに関しては、ある意味慣れた光景でもあるため、今まで通りに仕事を続けることが出来るのだった。
ところで、この時期は丁度境内に植えられているソメイヨシノが満開となって、参拝客の目を楽しませてくれる。玲とかすみも、昨日までの殺伐とした雰囲気とは全く真逆の光景に心が和む。そんな美土路神社では、ここを訪れる参拝客は決まってソメイヨシノの方向に足を向ける。だが実の所、参拝客のお目当ては今が満開のその桜の木ではない。彼らが目指すのは、更にその奥、宝物殿裏に立つ1本のの木である。なぜその木が人を寄せ付けるのかと言うと、その木、神社側を向いた半分だけ無傷だが、その裏側は焼けて無くなっているからである。なぜこんことになったのかは、全て玲に原因がある。そう、彼が美土路神社を守るために展開した降霊転移門、あれが偶々その木の真ん中を通過してしまったのだ。そして、偶々その木が影響を受けていた、と言う訳である。最初にかすみがその木を見た時、流石に何かツッコミを入れる気はなく、ただ首を横に振るだけだった。ちなみに、半分だけでそのまま立ち続けられるのかと思われるが、今の所はまあ何とか踏ん張っている。だが台風や暴風雨が来たときには、恐らく転倒するだろうことは予想される訳で、その際、宝物殿や拝殿への被害が出ないように早いうちに手を打つ必要はありそうだ。あるいは、既に玲が何かやっているかもしれないが、これに関しては、彼はかすみに何も伝えてはいない。
そんな美土路神社で、今日も朝からずっとかすみは参拝客が持参した御朱印帳に記帳し続けている。もう既に馴れたとはいえ、やはり馴れた時にふと油断して、真剣に書いてなさそうでちゃんと書かれている状態をスマホで撮影されたりしないとは限らないため、常に気が抜けない。勿論玲も例外ではなく、かすみがトイレに行っているときには代打で記帳するが、その時も油断することは出来ない。そんな感じで彼らは毎日神経をすり減らしながらも頑張っているのだった。そして漸く定時の午後5時を迎えると、「あー、終わったー」と何時もの雄叫びを上げるのがかすみである。玲は、「じゃあ戸締りして帰るか」と言って、帰宅準備を始める。そして今日は2人揃って帰宅するのだが、社務所を出た時、玄関わきの地面に財布が落ちていたのにかすみは気づいた。
「ねえ、玲、こんな所に財布が落ちてんねんけど」
とかすみに言われて、玲はそれを拾い上げた。ブランド物の二つ折りの男性用の財布のようだ。ただし新品ではなさそうだが、傷みもなく十分に使える代物である。中を検めると、小銭が数十円ほど入っていた。後は身分証明になるようなカード類はなく、勿論クレジットカードも入ってない。精々、どこかの店のポイントカードが数枚入っているだけである。
「うーん、恐らく参拝客の誰かが
落としていったのかな?」
一応、落し物は1週間預かる決まりがあったので、社務所に戻って、落し物入れにそれを保管するとこにした。そして再び施錠して、彼らは自宅に戻った。
「はあ~、やっぱ仕事終わりの一杯は格別でんな~」
と何やらおっさんのように言うかすみである。夕食時のビールを飲んで大満足、と言った表情である。もし酒のに牛すじ肉を味噌で煮込んだ「どて焼き」でも出ようものなら、完全にかすみは「おっさん」になったであろう。そして玲も勿論かすみの意見には賛成で、「うん、この一杯のために働いている感じだよね」と同意した。こうしてこの夜は何事もなく過ぎて行った。
翌日、玲もかすみも何時も通りに起きて、何時も通りの朝を迎えて、社務所に向かった。そしてかすみが社務所の扉を開けて中に入ったところ、
「はぁ?なんなん、これー!!」
と叫び声を上げた。玲もかすみの後から社務所に入った途端、驚きの光景を目にした。部屋の中の物が散乱しており、紙の類はそこら中に散らばっていた。一体誰が侵入したんだ、と疑いたくなる光景である。だが、社務所の入口はしっかりと施錠されており、そこ以外に侵入する所はない。社務所の受付はガラス扉と雨戸を必ず閉めるし、集会所側の窓は常に施錠されたままである。従って、外部からの侵入は不可能なはずである。もしかして自分達と同じ様に転移して来た、という可能性はゼロではないが、そもそもこんな所に転移で侵入して、物を散乱させる意味が分からない。それよりも、自分達の寝室にやって来る方がまだ納得できる。そうなると、この散乱している原因は全く分からないのだった。あれこれ悩んでも仕方ないので、急ぎ玲とかすみは、散らばっている物を元の場所に戻すべく、朝から大忙しであった。幸い、まだ参拝客の団体は来てないので、その点は大助かりだったが。こうして1時間程で片づけが終わり、漸く社務所での仕事を始めた。
今日も仕事をそつなくこなして定時を迎えた。玲とかすみは、今朝の状況を思い出して、特に戸締りを念入りに確認した。そして社務所の扉を施錠してから、自宅に戻って行った。
「はあ~、やっぱ仕事終わりの一杯は格別でんな~」
と昨日の繰り返しの様におっさん化したかすみの感想である。
「なあ、ところで玲、今朝のあれな、
やっぱあんた酔っぱらって
暴れたんとちゃう?」
「それを言うなら、かすみの方が確実だろ」
「はあ?何で私がそんなことせなあかんの?」と当たり散らすが、玲は「そんなこと知らんがな」と突き返す。まあ、かすみの場合、酔っぱらうと大概寝てしまい、暴れるとかした経験がないことは玲も分かっていた。一方の自分はと言うと、実はよく分からない。と言うか、先ず酔うほどに酒を飲むことが無いからだが。まあ、そんな軽い言い合いをしながら夜も更けて行き、一日の疲れを癒すために玲とかすみは早々に就寝した。
翌朝、何時もの時間に目覚めた2人は、かすみが料理当番のため朝食の準備をしている間、玲は昨日のことが気になったので、かすみに「ちょっと、社務所の様子を見に行くね」と言いおいて家を出た。社務所の扉を開けて中に入った途端、玲は唖然として言葉なくその場に立ち尽くしてしまった。そして漸く「一体何が起きてるんだ、これは?」と呟いた。とりあえず、手近なところを片付けていると、かすみが
「玲、朝食出来た、ょ...」
と社務所に玲を呼びに来たが、かすみもその場の光景に目を奪われてしまい、その後の言葉が続くことは無かった。
「ああ、かすみ、またやられたよ!」
とかすみの方に振り返ってそう呟いて、玲は片付け作業を続けようとした。だが、かすみが朝食が出来たことを伝えに来たんだと思い出し、思考停止中のかすみに玲は手元にマキザッパを召喚してそれで喝を入れて、かすみを何とか自宅に引きずって連れて行った。
「何なん、玲、またあんなんなってるやん!」
「僕も分からないよ。一体誰の仕業何だか」
その後二人は黙り込んだまま、かすみが用意した朝食を摂った。それから少し早めに社務所に向かうべく作務衣に着替えて、重い足取りで自宅を後にした。
それから1時間程で大体片付いたが、今回は集会室に置かれていた湯飲みが割れるなどの被害も出たため、その片付けと補充をどうするか考えていた。それよりも、この事態は一体どういうことなのだろうか。かすみは、
「もしかして、ポルターガイストとちゃう?」
「それだったら、降霊召喚門を
ここに設置すれば分かるけどな」
と言って玲は社務所全体に降霊召喚門を設置した。だが、
「なーんも、出てこーへんな」
かすみの言う通り、何も現れなかった。となると、霊体ではない別の何かか?
「後考えられるのは地震位だけど、
まさか僕らが全く感じず、
社務所だけが揺れる地震ってあるかな?」
「そんなん、無いやろ!」とかすみが透かさずツッコミを入れた。玲もそう思うのだが、そうなると原因が全く分からなくなる。
「まあ、考えても仕方ないから、
とりあえず仕事しようっと」
玲は何とか気分を切り替えて仕事に打ち込むことにした。そのうち、何時ものように参拝客の団体が訪れるに至り、彼らは仕事に集中することで嫌な事を忘れることは出来たのだが。そして再び定時を迎えたので、玲は
「ちょっと、にくたまを中に
召喚しておくよ」
と言って数匹のにくたまを召喚し、中で何が起きたかを確認してもらうことにした。もし何か現れた場合は直ぐに玲に知らせれるように、集会室の窓ガラスを少しだけ開けておくことにした。そして準備を整えてから、玲は社務所の玄関を施錠して、自宅に戻って行った。