召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、連続不審死事件の謎を追う (後編)
県警捜査一課の立花巡査部長に連れられて、問題の変死体が見つかった現場に到着した時、物部かすみが素っ頓狂な声を出した。
「え、ここって、迫畑さんと同じ
マンションとちゃう?」
「ん?あー、そう言えば、ここ前にも来たよな」
と最神玲はかすみの問い掛けに呑気に返事をした。そう、サモネル教団事件の切っ掛けとなったの住むマンションと同じ場所だったのだ。そんなかすみの反応に立花は何か気になるのか「こちらで何かあったんですか?」と聞いてきたので、かすみの母親の知り合いがこちらに住んでいて、霊的な相談を受けたんです、という無難な回答を玲が返した。それで立花は納得したようで、
「我々が向かうのは、ここの3階の306号室です。
ガイシャの名前は...」
という米野市に本店がある会社の営業マンであった。そして彼が発見された経緯は次のようであった。
丁度1週間前、斎藤孝之が未明に変死したその日の午前、彼が勤める会社では斎藤孝之と連絡が取れなくなったということで、彼の上司がここのマンションに急ぎやって来た。と言うのは、その日の午後に斎藤孝之が担当する重要顧客との大事な取引を控えており、その最終確認をしようとしたところ、本人が出社してこないという事態に見舞われた。そこで急ぎ彼の自宅マンションに向かい、玄関のオートロックパネルで彼の部屋番号を呼び出すも何も応答なし。その時、偶々外に出てくる住民を見かけたので、急ぎオートロックドアを通過し、彼の部屋に直行した。そこで部屋のインターホンを鳴らすも何の応答もないため、物は試しと玄関扉に設置されている新聞受けから中が覗けないかと思いカバーを開けたところ、何やら血の匂いを嗅ぎ取ったという。もしかして病気か何かで倒れて血を流しているのではと心配になり、直ぐに救急車を呼ぶことにした。それと1階に向かい管理人に事情を話し部屋の鍵を開けてもらおうとするも、そこに予備の鍵はなく、それらは全て管理会社に保管されているとの説明を受けた。そこで、管理会社に連絡して、306号室の斎藤孝之の部屋の中から血の匂いが漂ってくることを指摘し、もしかして中で倒れている可能性があるため、部屋を開けて欲しいと要請した。それと、既に救急車の手配をしていることも伝えると、渋々だろうか、電話口からも分かるような溜息と共に「分かりました。直ぐそちらに向かいます」と言ったので、その上司はその場で待機することにした。そのうち、救急隊が先に到着したので、管理人と共に問題の部屋に彼らを案内した。念のため、救急隊にも新聞受けから漂う血の匂いを嗅いでもらったところ、どうやらかなり大量の出血があるのではとの懸念が示された。そして一刻も早く様態を確認する必要があることも、その上司に伝えた。そのうち20分程してから、漸く管理会社の者がやって来て、部屋の鍵を開けて中に入ったところ、変わり果てた斎藤孝之の死体を発見したのだった。その後、直ちに110番通報をし、警察が到着してから現場検証が行われた、ということであった。
そして玲とかすみは、まだ微かに血の匂いが残る斎藤孝之の変死体が発見された部屋を訪れた。そして立花と共に室内を物色しようとした時、かすみが「うわっ!!」と大声で叫び出した。どうした?と玲が振り返ると
「なんなん、こいつ、何でうちの写真があんねん!!」
と壁に貼られた写真を見たショックからか、心の動揺が指先に伝わり、小刻みに震えながらその写真を指差していた。そこには、美土路神社の社務所で働くかすみの姿を隠し撮りしたようなスナップ写真が10枚程張られていた。どうやら、この男はかすみにストーカーを働いていたのか、あるいはこれから働こうとしていたようだ。流石に、自分がストーカーされているとは思いもよらないかすみは、かなりの精神的ダメージを受けたようだ。玲も心配になったので、
「かすみ、外で休んでたら」
とかすみをって玲は一旦部屋の外に出た。そして暫くしてから部屋に戻って来て、
「すいません、立花さん。
かすみが取り乱してしまいまして」
と玲は立花に謝罪したが、立花もかすみの様子が気になったので、「物部さんには、無理なさらないように伝えてくださいね」とわりの言葉を貰った。その後彼が愛用していたであろうカメラを使って早速降霊召喚を試みた。一応、立花には霊視グラスを渡しておくと、早速本人であろう霊体が召喚された。そこで、当人の尋問は立花に任せて、玲は外で待機しているかすみの所に向かった。
かすみはしゃがみ込んだまま、まだショックで小刻みに震えているのが見て取れた。玲もかすみの隣にしゃがんで、彼女の肩に手を回して強く掴んで自分の方に引き寄せた。それで安心したのか、かすみも少しは落ち着きを取り戻したようである。そうやって、10分程その場にいると、玄関の扉が開いて、立花が
「最神さん、尋問は終わりました」
と告げたので、玲は部屋に戻って召喚解除した。その後立花は、斎藤孝之の霊体が語った内容を玲にも伝えた。それによると、美土路神社にお参りに行ったときにかすみを見て一目惚れしたというのだ。そこで何とかかすみに近づきたいと願うも、その間に割って入るような存在が目についた。最神玲である。そこでこの男を亡き者にしようと画策したときに、どこかのサイトで呪術を知ったという。そしてそれを実行していた時に、何やら得体のしれない霊体が突然現れて襲われた、と言うことのようだ。
立花から話を聞き終えた玲は、腕組みをして目を瞑りながら考え込んでしまった。まあ、この男の自業自得ではあるが、それよりも最後の言葉、やはり呪い返しが存在したようだが、それがどうやら、かなり強烈というか手強そうに感じた。人間という物体を容易に折り曲げる力は、並大抵ではないだろう。あるいは、以前玲が遭遇した超能力者か何かが関係しているのだろうか?勿論、今ここにその答えはない。そして目を開けて立花を見添えて、
「とりあえず、パスワードが
分かったのでしたら、
それで彼の使っていた
パソコンのロックは解除できますね」
流石に今日は遅いですし、かすみの様子も気がかりなので、僕らは今日は一旦家に戻ります、と立花に伝えた。立花も、玲とかすみに無理をさせたことをまず謝罪し、家まで送りますと申し出たが、ここからそんなに遠くないのと、少し歩きながら彼女と話したいことを伝えて、結局その場で立花とは別れた。
玲とかすみはそのまま転移で帰宅しようかと思ったが、かすみが
「何か、お腹すいた」
と言うので、まあ空腹を感じたということは、平常運転に戻りつつあるのかな、というシグナルと受け取り、2人で差間見町の商店街に向かうことにした。
後日、県警の立花から玲の所に電話があり、明日にでも斎藤孝之のノートパソコンとスマホを持参するので、それで確認して欲しいと伝えられた。一応県警の方ではそれらしい通信記録を調べたものの、やはりと言うか追跡することが出来なかった。後は、玲とかすみが何か発見してくれればと期待されたようで、特例としてそれらの品を見てもらうことになったという。ただし、立花が必ず同席することが条件となっている。勿論、それに関して彼は全然問題ないので、明日の午後5時以降であれば問題ない旨立花に伝えて、電話を切った。
翌日リュックを背負った県警の立花が、午後5時少し前に美土路神社にやって来た。そこで、玲はかすみを伴って立花を集会室に招き入れ、早速立花が持参した斎藤孝之のノートパソコンとスマホをチェックすることにした。なお、玲がノートパソコンを、かすみがスマホをそれぞれ担当することにした。玲は早速メールソフトを開き、検索窓にある単語を打ち込んだ。すると、
「ああ、やっぱり、あいつが絡んでいたんだよ。
かすみ、ほら」
と言って隣でスマホをチェックするかすみに声を掛けた。立花も玲の隣に移動して、画面を注視した。
「あ、ほんまや。てことは、
同じ奴が絡んでるっちゅうことなんか?」
玲とかすみのやり取りを見ていた立花は、画面に映されている文面を見て、はて、これが何か関係するのか?と疑問を感じていた。まあ確かに、文面を見る限り、単に入金を確認しました、後は下のURLを見てね、だけなので、別段おかしな文面ではない。だからこそ、警察では分からなかったのだが。そこで玲は、これまでに自分達が調べて掴んでいる情報を当たり障りのない程度で立花に伝えた。
「それで、今僕らは、このRenなる人物を
追跡しているんですよ」
と話しながら、その人物とのメールの履歴をにチェックし出した。尤も、前回のの時のやり取りとほとんど変わらないが、唯一違ったのが、最初のメールの文章である。そこには、
[呪い代行のまとめサイトで紹介されていた
あなたの所の評判が気になったので、
早速連絡させてもらいました。
詳細な情報を頂きたくお願いします]
と書かれた斎藤孝之の文面を引用する形でRenが返信を行っていた。そしてそこにはURLが記載されていたが、残念ながらそこをマウスでクリックしてもNot Foundとなった。この文面から推測すると、どうやら斎藤孝之は、最初は呪い代行サイトだと思ってコンタクトを取ったようだ。だが送られてきたURLには自身で行う方法が書かれていたのではないかと思われる。そして、ここも想像だが、例えばその呪いをRenが代行する場合は数百万かかります、ただしあなたがやるのであれば、そのやり方を教えます。その代金は数十万です、とか書かれていたら、彼のあの部屋の暮らしぶりから想像しても、恐らく自分でやってみようとなるだろう。一方のRenなる人物は、最初から自身で呪いを行う気は全く無く、ただし「呪い代行」と言うキーワードで検索すると、意外と多くの件数がヒットすることを知り、そこを隠れ蓑にして自身の商売か欲求を満たせると考えたかもしれない。何れにしても、自分では手を汚さず、相手に好きなようにさせるところは、から計画的であったとみて良いだろう。
さてそうすると、次は斎藤孝之がどこかに呪術に関する資料を保存している可能性があるため、ファイル管理ソフトを立ち上げて、前回の三鶴木琢磨が保存していたのと同じファイル名で検索を掛けた。その時隣にいるかすみが
「なあ、玲。その送金した翌日かな、
その現金の受け取り確認のメールが届く
30分位前なんやけど、この番号から
電話か掛かってんねんな」
とスマホの通話履歴を見せてくれた。確かにRenからの入金確認メールが届く少し前のようだ。その後暫くしてから、今度は斎藤孝之の方からその電話に連絡している。そしてその少し後に、入金確認と呪術に関する資料を保管しているURLを記載したメールが斎藤孝之に送られている。そこで立花にこの電話番号について調べたかどうか聞いてみた。
「はい、一応通話履歴は
全部チェックしましたが、
その電話番号は現在使われてません
と言う報告を貰ってます」
と手元の手帳に目を通しながら説明してくれた。そうなると、斎藤孝之は、Renと直接電話でだが会話をしていたということになるのか?これはかなり重要だと思われた。そして玲は、先程の検索結果から、そのファイルがこのノートパソコンにも保存されていることを確認したので、早速そのフォルダーに移動した。
「何だろう、この人、
えらく真面目と言うか律儀と言うか...」
と独り言を呟いた。なぜそんなことを玲は呟いたかと言うと、そのフォルダー、名前がド直球に[呪術関係]とあったのだ。これは誰が見ても間違わないだろう。そしてその中には2つのファイルが保存されていた。一つは玲が検索に掛けたファイル名のPDF。もう一つが
「かすみ、これが恐らく最初にRenから
送られてきたURLにあった
ファイルじゃないかな?」
とかすみに伝えながら、玲はそのPDFを開いた。そこには、玲が想像した通り、呪い代行の場合は1000万円、自分で行う場合は50万円と書かれていた。何だこの落差は、と思わずツッコミを入れてしまう玲である。そんなことよりも、そのPDFの一番下には送金先と送金方法が記されていた。振込先ではなく送金先とあり、住所は東京都内のビルの名前と「(株)伊藤商事」とある。どうやらこの会社に、そのまま現金を宅配で送るようだ。本来は現金書留以外での送金は違法であり、見つかった時点で送金差し止めと警察への通報が発生する。だがRenは、違法な方法で取得した銀行口座を使うよりも、意外と足のつき難いこの方法を選んだのだろう。そう言えば、三鶴木琢磨も現金を送ったと言っていたから、恐らくRenはこの方法での受け取りに自信を持っていると思われる。
さて、送金方法が分かったところで、念のためこの送付先については、立花が県警を通じて警視庁に問い合わせることにした。残るは、やはり最初にどのサイトからアクセスしたかが重要になる。だが、それよりももう一つのPDFがやはり気になるので、それを先に確認することにした。そして
「なるほどね。やはり呪う対象によって、
どれを使うかが決まっているみたいだね。
例えば...」
決まった場所での不特定の対象者に対する呪いは直接床または地面にこれを記述する、特定の人物の場合はこうする、場所も不特定、対象も不特定の場合はこうする、と言った細かな規定がそこには書かれていた。ちなみに、三鶴木琢磨の資料にはこの記述が無かったが、もしかしたら斎藤孝之がRenから電話を受けた時か、あるいはRenに電話した時に、こういう場合にどうするか、などを相談し、それも踏まえて細かく説明を加えた、と言うことが考えられそうだ。そして、恐らく最後の場所も対象者も不特定の場合が、恐らく立花のスマホで見た監視カメラの状況のような気がしたのだ。そこで玲は、立花にスマホの監視カメラに映されていた被害者と斎藤孝之の関係について尋ねた。すると驚いたような表情で
「いいえ、全く接点も何もないですが、
何か気になることがあったんでしょうか?」
と逆に問い返されてしまった。そこで、玲が今考えている一つのシナリオを立花に話した。つまり、斎藤孝之は、最神玲を特定して呪術を行う前に、実は不特定の人物に対してここに在るような呪術を行ったのではないかと言うことを。ただし、数カ月前から発生している変死事件が全て彼が関係しているとは考えていない。と言うのは、時期的に不可能なところがあるからである。斎藤孝之のメールでは、およそ1カ月程前にRenから資料を貰っている。それから数日後に、立花が見せてくれた監視カメラの事件が発生したので、恐らくこれは斎藤孝之がある意味練習で行った可能性が高そうである。ところが、この変死事件は更にそれ以前から発生していたため、それらについては、別の人物が同じような事をしていた可能性が出てくるのだ。残念ながらそれを知る手立てはないが、少なくとも斎藤孝之の件については、恐らくこれで筋が通ると思われた。すると立花は
「最神さんの仰るとりおだとすると、
やはり我々は何も手を出せませんね」
と肩を落としてれてしまった。勿論これは一つのシナリオで、もしかしたら監視カメラの人物が誰かから恨みを買って、それで直接狙われたことも十分に考えられる。一応その点も補足したが、立花からすると既に異次元の世界の話であったのだ。
さて、玲とかすみの調査はこれ以上進めても何も進展はないので、立花には現時点で分かったことを説明し、立花も納得するかしないかに関係なく、本部に戻って報告するとこにした。時刻は午後7時になろうとするところだったが、立花はそのまま本部に直行するということで、その場で別れた。そして、玲とかすみは、長い一日を締める意味を込めて、この後自宅でビールを飲んで疲れを癒したのだった。