召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、神室霊華の助手になる (前編)
物部かすみが神室霊華の自宅に滞在して3日目になるこの日、神室霊華は数件程降霊術の依頼が入っているため、それを行うことになっていた。それと、雑誌の取材が1件あるという。かすみにとっては、雑誌の取材と聞くと、何やら有名人へのインタビューを思い浮かべる。だが、かすみは忘れているようだが、神室霊華は正真正銘の有名人である。余りに近い存在のためか、そのことを忘れているようだ。尤も、神室霊華はテレビに出ることはまず無いものの、週刊誌から真面目なビジネス雑誌まで幅広い分野からの取材を受けることはよくあるという。そして今回は、何やら女性向け雑誌の取材をこの自宅で行うのだそうだ。かすみも何やら面白そうと感じたので、隅の方でその様子を見せてもらうことになった。
午前10時、一台の大型のワゴン車が神室邸の車寄せに入って来た。そしてスライドドアが開かれると、中から数人のスーツ姿の男達が先ず降りて辺りを警戒する。その後ゆっくりとした足取りでワゴン車から降りたのは1人の壮年の男性である。その人物、後程かすみも目にし、「あ、この人知ってる!」とかすみでさえも分かる人物である。そう、ある省庁を管轄するトップ、すなわち現職の大臣である。そしてその男性が神室邸の玄関に入り、神室霊華の出迎えを受けてから、降霊術を行う降霊室に案内した。そして最初にワゴン車から降りた男達、つまりはこの大臣のSPだが、彼らは大臣が通された部屋の内外をしっかり見張るべく待機していた。
さてかすみだが、今日一日は神室霊華の助手と言うことで、神室霊華の身の回りをサポートする役割が与えられていた。そしてかすみは一足先に神室霊華の降霊室にて待機していた時、その大臣が神室霊華に先導されて部屋に入って来た。かすみは畳に額が付く位に深くお辞儀をしてその人物を出迎えた。そして神室霊華からの指示で、お茶と茶菓子を用意し、それを大臣の座る椅子の脇にあるテーブルに並べた。その後、神室霊華は少し世間話みたいなことをして相手の気持ちを和ませてから、愈々降霊術を行うことになった。残念ながら降霊術の最中はかすみも同席は出来ないため、別室に下がって待機することにした。
30分程すると、廊下から「神室先生、どうも有り難うございました」と少し涙声で神室霊華にお礼を述べる大臣の声が聞こえたので、かすみは直ぐに降霊室に向かい後片付けを行った。その後見送りに出ていた神室霊華が戻って来たので、かすみはどうしても気になり、何を召喚したのかだけでも尋ねた。それに対し神室霊華は、
「どうやら、あの方のお父様の命日が今日のようで、
やはりもう一度会って
お話がしたかったらしいです」
と言うことのようだ。なるほどね、テレビのニュース映像では、強面での強い印象を受けるが、実際は亡き父の霊魂に会いにくる位の親思いの息子であったのか、と少しだけ印象が変わったのだった。
それから正午近くになると、また一台の国産高級車が神室邸の車寄せに入って来た。助手席から降りたスーツ姿の男が後部座席のドアを開けると、1人の妖艶な女性が姿を現した。この人物も、後程かすみは目にするが、「え、この人、うちのお母さんが大ファンなんやけど」と、かすみよりもかすみの母の京子がこの場に居たら透かさずサインを貰いに飛び出して来ただろう。その人物は有名な女優である。京子が学生の頃にその女優がデビューを果たしたが、その主演映画は大評判になったという。その後も主演した映画が次々にヒットし、押しも押されぬトップ女優となったのである。そして、その女優も、神室霊華の出迎えを受けて降霊術を行う降霊室に案内されてやって来た。かすみは、先程と同様に、丁重な挨拶で出迎え、お茶と茶菓子を用意して、その場から立ち去った。
そして1時間程した時に、廊下から「神室様、有難うございました。また近いうちにお邪魔しますね」と神室霊華と会話しながら廊下を進んで行った。言葉のニュアンスから、どうやら定期的にここを訪れているようである。かすみは直ぐに降霊室に向かい後片付けを行い、見送りに出ていた神室霊華が戻って来たので、またまたどうしても気になって、何を召喚したのかだけでも尋ねた。それに対し神室霊華は、
「あの方は、実は亡くなられたご主人の
霊魂と対話するために、定期的に訪れるのです」
えー、あの人結婚してたの?とかすみは心の中で叫び声を上げた。世間では独身で通っており、雑誌か何かで、「最後の大物独身女優」などと書かれたりしていたが、実際は真逆で、既に結婚していたというのだ。もしこれが週刊誌などに漏れたら、凄いスクープになるな、と何やら不敵な笑みを浮かべそうになるかすみであった。尤も、彼女もここで見聞きしたことを誰かに話す気は全くないのだが。しかしかすみも何か思うところがあるようで、神室霊華に尋ねた。
「何かさ、こうやって有名人に会ってさ、
その人の裏の顔とか裏の話とか耳にすると、
この仕事をやって嫌になることとかないの?」
すると、
「ええ、確かにそういうときはありますね。
尤も以前の私でしたら除霊とお祓い専門でしたから、
こう言う機会に触れることは無かったのですが、
でも今は降霊術をやって良かったと思います。
これも全て師匠のお陰です」
と言ってかすみに対し頭を下げてお礼を述べた。かすみは
「ちょっと、霊華さん、今日は私が弟子なので、
間違わないでね!」
と笑いながら神室霊華にそうした。
その後、かすみと神室霊華は、少し遅い昼食を共にした。そして午後3時に、今度は女性誌の取材を受けるということだが、取材は降霊室ではなく玄関近くにある応接室で行うらしい。それまで少し時間が空くので、かすみは少し庭を散策するために外に出た。神室霊華は自室にて、昨日創成召喚に成功したハツカネズミを召喚して楽しんだ。それからもう一種類何か召喚しようと考えているようで、スマホでその動物を検索しイメージトレーニングを行った。そして試しにそれを召喚してみた所、
「し、師匠! これってどうでしょうか?」
と自室の縁側から、庭を散歩中のかすみに向かって大声で叫んだ。かすみは何か異変があったのかと心配になり急ぎ神室霊華の所に駆け付けたが、どうやら異変でも何でもなく、何か新しい式神を召喚出来たという報告だったので、先ずは安心した。そして神室霊華が手にしているそれを目にして
「これって、だよね?」
「はい、そうです。見た感じどうでしょうか?」
かすみは自分の掌にその雀を載せて繁々と観察し出した。だが、意外と雀をじっくりと観察したことはこれまでなかったため、念のため自分のスマホを取り出して雀を検索した。そして
「おー、ちゃんと雀になってんとちゃう。
え、霊華さん、これ一発で出したん?」
と尋ねると
「はい、師匠のご指導の通り、
イメージすることを優先したら、
一度の召喚でこれが出てきました」
と言うのだ。これにはかすみも驚きと共に関心してしまい、
「霊華さん、これを一度の召喚で出すなんて、
ただ物じゃないね」
「いやー、もうすでに玲を越えたね」とかすみは神室霊華の能力に太鼓判を押した。その後、その雀もショートカット化を済ませ、神室霊華の召喚の書にショートカットキーを登録した。
そんな感じで和気あいあいと過ごしていると、取材予定の午後3時になった。あれ、もう時間だから準備しなくても良いのかな、と思ったかすみだが、取材に関しては特にこちらから迎えに行くことはないのだそうだ。先方がやってきたら、執事が対応することになっているので、後は呼びに来た時に行くだけと言うことらしい。そして3時を10分程過ぎた時に、「お嬢様、お見えになりました」という連絡を受けて、神室霊華はM Mの制服のまま応接室に向かった。かすみも急須と湯飲みを載せたお盆を手に持ち、その後をついて行った。そして執事が応接室の扉を開けて神室霊華とかすみが続いて中に入った。そしてテーブルに湯飲みと急須を置き、人数分のお茶を湯飲みに注いでからかすみは部屋の隅に待機した。今回は降霊術ではないため、神室霊華はかすみに部屋の隅で見て頂いても構いませんよと伝えてあった。そこでかすみは、そのまま様子を見守ることにした。そして神室霊華の取材が始まった。今回の取材は男性のカメラマンと女性の雑誌記者の2名で行われる。神室霊華は慣れたように、カメラのフラッシュが焚かれても表情を崩すことなく、平然とした表情で対応していた。その後記者からの取材が始まるが、対象が女性誌と言うことで、先ずは霊能力の話から始まり、女子の好きそうな心霊トークみたいな展開になったり、後はやはりファッションや恋愛に関する話題も出たりして、多岐にわたる話題で滞りなく進められていく。かすみは、取材って一度流れが止まると結構やり難いのかな、などと想像したりしてその場の雰囲気を楽しんだ。かすみはほぼ独演会状態で話し続けるためか、やはり流れが止まるとその後の復帰が結構大変だったりすることを経験している。
そんなことを考えながら時間を潰していたかすみだが、そのうち何やら取材班が自分のことを気にし出したのだ。ん?うち何かやらかしたんか?と疑問に思ったが、まあ気のせいかと思いそのままボーっと佇むことにしたのだが、記者が
「神室様、あちらの方は
どういった方なんでしょうか?」
と神室霊華にかすみのことを尋ね出した。「うわー、何かやらかしたんか、わし!!」と動揺して少しおっさん化してしまったが、出来る限り顔には出さず、無表情でいるようにした。
「彼女は私の友人で、
今日は少しお手伝いして頂いております」
と無難な返事を返した。「弟子で良かったのに」と呟くも、まあ間違いではないかと思い直し、かすみはその場で軽く会釈をした。すると、
「あの、もし宜しければこちらに来て
お話をお聞かせ頂けませんか?」
と言われたので、仕方ないとかすみは重い腰を上げた。そして神室霊華の斜め後ろに立ったのだが、神室霊華が小声で「かすみさん、隣にどうぞ」と言われたので、面倒だなと思いながらも神室霊華の隣に腰かけた。
「すいません、まずお名前をお聞かせ頂けますか?」
「物部かすみ、永遠の18歳です!」
とアイドルの挨拶並みに元気よく、だがなぜか嘘の年齢を持ち出して自己紹介をするかすみである。それを聞いて神室霊華は、思わず「プスッ」と吹き出してしまった。勿論、取材している方は、何が起きたのかキョトンとしているが、今まで物静かな態度を崩さなかった神室霊華が、突然笑い出したのを見て、早速その姿をカメラに収めだした。この様子を見たかすみは、
「あちゃー、やっちゃったか。
ゴメンね霊華さん」
と神室霊華に小声で謝罪した。だが取材班からすると、神室霊華の意外な一面が見られたことに興奮を隠すことなくその後も撮影と、後はかすみを含めた取材を行った。そして、最後にかすみと神室霊華の2ショットを撮影して、無事取材は終わった。そしてこの普段見られない神室霊華の自然な表情が評判となり、特に女性の間で彼女の人気に火がついてしまった。そしてかすみの方だが、やはり一般人と言うことと、かすみ自身そう言う媒体で拡散されることを望んではいないので、顔出しは無しと言うことにしてもらった。取材班としては、かすみは中々の逸材と見ていたが、本人が強く拒否するため、仕方なくその意向に従うことにした。そして発売された雑誌が神室霊華から送られてきて、偶々玲がその雑誌を手に取ってページをっていた時、かすみの顔にはモザイクが掛けられており、これを見た玲は、「何か怪しいことやってそうな人だな」と呟いた。そのため、かすみは「誰が危ない奴やて」と怒りを露わにし、手にマキザッパを召喚して玲をしばきにかかったのだった。
さて、何とか無事に取材が終わったが、かすみは直ぐに神室霊華に、調子に乗って雰囲気をぶち壊したことに対し頭を下げて謝罪した。ところが、神室霊華はから全く気にしておらず、むしろ取材の時にどう対応して良いのか今までよく分からなかったという。それ故に、物静かに佇むようにしていたのだが、かすみの突拍子もない行動がある意味新鮮に感じたようで、むしろその方が自分も自然に対応出来たということで、逆にかすみに感謝したのだった。ただ、
「かすみさん、永遠の18歳は
ちょっと無理があるような...」
と思い出した途端、また神室霊華は笑い出した。どうやら、かすみの「永遠の18歳」が彼女のツボに嵌ったようである。
そして今日の仕事としては、あと残り1組の降霊術の依頼者が来ることになっているが、実は時間が午後9時になるというのだ。
「霊華さん、そんな夜遅くに対応することもあるの?」
とかすみは尋ねるが、神室霊華は
「はい、偶にそういう方はおられますね。
やはり仕事の関係でその時間しか
都合がつかない場合があったりしますから」
ただ流石に日付が変わってから、と言うことはありませんが、と一応付け加えた。だが、まあこの仕事は相手の時間に左右されがちだもんな、とかすみは納得するのだった。そうすると、またかなりの待ち時間が出来たので、途中で軽く夕飯を済ませ、後は神室霊華の召喚をチェックしながら2人は時間を潰した。ちなみに、その間に神室霊華はもう1種類の召喚にも成功していた。それはフクロウ。映画のハリー〇ッターに出てくるようなシロフクロウを本当は召喚したかったのだが、この地域に生息しておらず、むしろ目立ちすぎることから諦めた。その代りに神室霊華が選んだのは、アオバズクと呼ばれる黒褐色の羽毛で覆われているフクロウの仲間である。なお、このアオバズクであれば、東京近郊でも目撃されることがあり、実際、ここ神室邸の日本庭園でも極稀に「ホッホッホッホッ」という鳴き声を耳にすることがあるため、そのアオバズクがこの辺を飛んでいても違和感はないのだった。そしてかすみは、そんなアオバズクを繁々と眺めながら、深い溜息をついた。あれ、まさか失敗だったのかと不安に駆られる神室霊華だが、かすみの溜息は全く逆の意味であり、「もう、こんな凄いのを1回の召喚で出すのは、反則だよな」とぼやいたのだった。だが、召喚出来た以上、これもショートカットキーを神室霊華の召喚の書に記入しておくことは忘れなかった。そして、
「そう言えば、名前は何か決めたの?」
と聞いてきたので、「うーん、例えば、この子なら『フクロウのかすみちゃん(仮)』はどうでしょうか?」とニコニコしながらかすみに問い掛けた。かすみは、
「はあ?霊華さん、
うちのシバキを体験せなあかんかな~」
と不敵な笑みを浮かべながら、手元にマキザッパを召喚して、自分の掌をパンパン叩き出した。尤も本人も本気ではなく、神室霊華も、
「え~、駄目ですか~。可愛いんですけどね~」
とかすみに訴えるも、かすみは口元に笑みを湛えながら、半眼になって睨み付けてきた。そして、
「分かった、分かった! まあ、仕方ないな~、
フクロウのレイちゃん(仮)を認めよう」
となぜか勝手に名前を変えて承認してしまった。これに意表を突かれた神室霊華は、一瞬動きが止まったが、その後で急に笑い出した。そして、笑いながら
「そ、それだと、れ、玲さんが、
か、可哀想ですよ、か、かすみさん」
とかすみをめるが、そんなことを聞くようなかすみではない。自分の右手を顔の前で振って、
「かまへん、かまへん、大丈夫やって」
と何の根拠もないまま、勝手に承認した。