召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M 心霊ファイル9: 大阪府警滝沢警部のケース (回想前編)
この話は、およそ半年ほど前、最神玲と物部かすみがサモネル教団事件に巻き込まれる少し前に起きた話である。10月中旬の平日のある日の午後、社務所に1本の電話が入った。傍に居たかすみが受話器を取ると
[もしもし、私、県警捜査一課のと申します。
そちらに最神さんはおられますでしょうか?]
[はい、少々お待ちください]
と言って、かすみはニヤニヤしながら玲に受話器を渡しつつ、「県警の面田さんからやで」と耳元で囁いた。そしてかすみはそのまま受話器に耳をくっ付けるようにして盗み聞きすることにした。
[はい、最神です。
面田さん、お久しぶりです。
何かあったんですか?]
[最神さん、ご無沙汰してます。
いいえ、こちらは特に何もないのですが...]
と言って、警部補が話したのが次のような事件であった。
1カ月程前から、大阪市内で連続して殺人事件が3件発生した。それぞれの事件の被害者は、全員男性で年齢は45歳。腹部をめった刺しにされて出血多量で即死である。殺害状況から判断して何かしら関連ありと睨んだ警察は、被害者がかつて同じ高校に通っており、しかも仲のいい友人同士であったことを突き止めた。しかも彼らは、所謂めの加害者であり、彼らに虐められた生徒は数知れないという。従って、犯人は恐らく彼らが虐めていた者の中に居ると睨んだ警察は、当時の状況を知る同級生達に接触し、事情を聴いたという。その結果、捜査線上に一人の人物が浮上してきた。そこで警察はその人物に接触すべく自宅に向かったのだが、
[実はホシと睨んだその男性が
既に亡くなっていたんです]
しかも事件が発生する半年ほど前に既に亡くなっていたと言うのである。そうなると、捜査は振出しに戻り別の線から捜査を行っているが状況は芳しくないという。ところで、大阪府警の捜査を何故ここの県警の面田が把握しているかと言うと、
[実は大阪で捜査にあたっている
滝沢言う男がおりまして]
彼は面田と同じ高校を卒業した親友同士だというのだ。そして、卒業30年を記念した同窓会が開催された時、お互いに久し振りに会ったので自分達の近況を報告し合い、その時に2人とも刑事になっていたということを知ってびっくりしたらしい。その後、何かとお互いに相談に乗る様になり、今回の件も非公式で面田にアドバイスを貰いたいと連絡して来たということだった。
[それで、うちでも非公式にですが、
最神さんに降霊術でホシを上げるのに
協力いただいていることを話したらですね]
是非うちの方でも、ガイシャから何か聞き出して欲しいと依頼されたのだと言うことだ。
[分かりました。捜査には協力しますが、
何分こちらの仕事の関係で、
大阪に向かえるのは週末になりますが
宜しいでしょうか?]
[はい、その点は既に先方には伝えてます。
差し支えなければ今週末に行っても
らうことは出来ますでしょうか?]
おっと、急だな、と思うも、向こうも急いでいるようなので、
[分かりました。では今週末に大阪に向かいます。
それでどこに行けば宜しいのでしょうか?]
流石に大阪府警に直接出向くわけにはいかないと思うのだが、
[ああ、それでしら、府警に直接出向いて
もらってそこで待ち合わせで
お願いしたいと言うことです。
そして彼の電話に直接連絡すれば
直ぐに行くと言っておりました。
電話番号は...]
電話番号を控えて、そして玲は受話器を置いた。
さて、玲の隣で耳をダンボにして内容を盗み聞きしていたかすみは、早速玲に向かって、
「なあ、玲、大阪言うたら、
うちが行かなあかんねんけどな、
分かってる?」
向こうに一人で行っても、どこに何があるか分からへんやろ?との謎の理論武装を展開し、そう言う場合に備えて自分も行くべきだろ、と訴えてきた。それに対し、玲は、
「いや、良いんだけどね」
とあっさり同行を認めたため、かすみは「あら?」と言う感じでずっこけてしまった。それは、かすみの大好きな新喜劇を意識したコケである。そうなると何も問題はないのだが、玲の歯切れが悪いのが気になる。
「玲、何か気になることでもあるんか?」
と尋ねるも、
「いや、特にないよ。ただね、
態々こちらに話を持ってくるということは
何か異常な事でもあるのかな、
と想像しただけなんだけどね」
と言うことだった。まあ、確かに変と言えば変だもんな、とかすみもそこの所は納得した。とりあえず、週末まで数日あるので、玲とかすみはそれまで特に何か用意することもなく何時もの日常を送ったのだった。
そして、大阪に向かう週末がやって来た。かすみは朝からなぜかテンションが高く、浮足立っていた。
「大阪やったら、まず新喜劇見に行かなあかんな。
あっこは、マジ外されへん!」
とどうやら捜査協力に行くことをすっかり忘れて、観光に出掛ける気分のようだ。そんなかすみは放っておいて、玲は、まずは大阪府警の滝沢警部補に電話を入れて、今日の何時ごろに向かえば良いのかを確認した。その結果、午後2時に来てもらえれば、その後案内できるということで、そのように予定を取り付けた。それから、大阪に転移する場所を確認しようとするが、かすみが
「まだ時間あるから、新喜劇見に行かへん?」
などと言ってくる始末である。「かすみ、今日は観光じゃないから、行きたいなら一人で行きな」と突き放した。そうなるとかすみもいじけてしまい、「ふん!玲、あんた場所分かるんか?」としい態度で迫って来る。だが、
「場所位はどうにでも分かるさ。
そしたら、僕は大阪府警に行くから、
かすみはそのどこやらに行って
後で落ち合おうか?」
と提案して来た。これにはかすみもカチンと来たようで、
「はあ?うちをのけ者にして、
自分だけええかっこしようって、
そんなんさせるわけないやろ!!」
と文句を言い出した。じゃあどうしたいんだ、と玲に凄まれた途端、かすみも言い返せなくなり、
「もう、分かったわ、
うちもそっちに行くは。全く」
といじけ出した。全く、かすみに付き合うと碌なことにならないな、こういう場合は強く出るのか一番だ、と言うことを玲は常日頃から思っていた。尤も、そんなにかすみは新喜劇を見に行きたいのであれば、1人で転移して行けばいいのだが、かすみとしては、玲と一緒に見に行きたい、という夢と言うか願望があったのだ。それをちゃんと伝えれば、もしかしたら玲も「仕方ないな」と付き合ってくれたかもしれないが、かすみはそんなおねだりをするような性格ではないため、どうしてもこうなってしまうのだった。
さて、かすみの夢と言うか野望が潰えたため、かすみは不機嫌な表情のまま玲と一緒に大阪に転移した。今回彼らが転移した場所は、転移場所No.1であり、かつ大阪城内にある豊國神社の本殿裏手である。日中だが、この場所を転移門で確認しても人影は見られなかったので、そこに転移したのだ。そしてそこから歩いて大阪府警までは20分程で到着した。そこで玲は、捜査一課の滝沢に電話を入れて、府警の玄関前に来ていることを告げた。電話を入れてから10分程した頃、恰幅の良い角刈りの男性がやって来て、少しドスの効いた声で「最神玲さんですか?」と尋ねてきた。おー、この格好でドスが効いた声だと、脛に傷持つ人だったら、ち観念して白状しそうだな、と何やら穏やかならざることを想像する玲である。そして、玲は「はい、僕です」と答えてかすみを交えてお互い自己紹介をした。それから、早速ですがと言うことで、彼らは被害者の自宅に向かうことにした。
滝沢が運転する車で移動中、ここだけの話と言うことで現在の捜査状況を聞くことが出来た。警察では、現在ある人物をマークしているというのだ。それは既に亡くなっている加害者と目されていた男、の息子で高校2年生のである。なぜ警察はその息子をマークしているかと言うと、ある防犯カメラの映像が決め手になったらしい。だが、その映像が余りに不可解なため、警察としてはその映像から、即、柳田浩一を任意で事情聴取することが出来ない。なお、現在、虐めに加担した連中の最後の一人が残っており、捜査員の何人かをその息子と最後の一人の周辺に張り込ませているということだ。
「なるほど、それで僕らが
ここに呼ばれた理由が分かりました」
そう、玲とかすみを呼び寄せたのは、その防犯カメラの映像の謎を解いて欲しいということのようであった。
滝沢に案内されてやって来たのは、大阪市東成区にある被害者の一人の住まいである。彼は離婚して独り暮らしをしており、その住まいであるアパートにやって来た。外階段を上がった2階の奥の部屋に向かうとき、玲は自分が市に住んでいた時のアパートを思い出したりしたが、尤も玲ことカーンフェルトがそこに住んでいたのは1年にも満たないため、ちょっとした思い出と言う感じであった。そして武部敦の部屋の鍵を滝沢がポケットから取り出して玄関を開け、3人は中に入って行った。
部屋の中は結構散らかっていて、その様子からかなり荒れた性格と言うか生活態度が見て取れた。そしてこれなら召喚出来そうという品物を玲はビックアップし、それを座卓の上に置いて降霊召喚門を設置した。すると、
「おー、何か現れたね」
とかすみに呟いて、玲は霊視グラスを滝沢に渡した。滝沢は最初胡散臭そうに霊視グラスを眺めていたが、何か思う所があったのか、黙ってそれをかけた。すると、
「うわー、こ、こ、これは幽霊なんか?」
と尋ねてきたので、玲はそうですと答えた。そして念のためにその霊体に名前を尋ねると、
「・・・、た、け、べ、あ、つ、し」
と答えたので当人であることは確認できた。後は滝沢に彼の尋問をお願いするが、やはりと言うか、最初はどうしても戸惑ってしまうため、仕方なく玲がサポートしながら尋問を行った。その結果、この男は仲間と共謀して同級生を虐めていたようだ。特にある生徒、柳田武志を執拗に虐めていたらしく、何の因果か、どうやら彼の息子で現在警察がマークしている柳田浩一に殺されたと訴えたのだ。
「えーと、滝沢さん、確かにこの男は被害者で、
僕の経験ではその魂が嘘をつくとは
思えませんが...」
だが玲は何か引っかかりを覚えるようだ。と言うのは、被害者の魂の話からすると高校生の柳田浩一に殺されたと訴えている。ところが、警察が掴んでいる防犯カメラ映像からは、確かに柳田浩一は映っているが、警察は彼が殺したとは言っていない。この矛盾は一体何なんだろうか?やはりその謎を解くカギは、その防犯カメラ映像にあると睨んだ玲は、滝沢にそのことを伝えた。そして、滝沢は懐から自分のスマホを取り出し、玲とかすみにその映像を見せた。その防犯カメラはどこかの店舗か、あるいは民家の軒下に設置されているもののようで、街灯に照らされた道路を映していた。ただ残念ながら、画面のサイズの関係と、やはり夜中だからだろう、鮮明には映っていないが、画面の右下から一人の男性がやや千鳥足で歩く姿が捉えられていた。この人物が殺された武部敦である。その後画面左上に向かって進む途中、彼の後ろから近づいて来る人物が現れた。彼が柳田浩一である。見た感じしっかりした体格のようで、柔道かラグビーでもやっている印象を受ける。そんな体格のしっかりした柳田浩一が武部敦を後ろから襲って羽交い絞めしている様子が映像から確認された。そしてその直後、玲とかすみは衝撃の光景を目にした。武部敦の目の前に、両手に刃物を持った男の霊体が出現し、その霊体が武部敦の胸と腹を刃物で同時に刺したのだ。それを見ていたのか、羽交い絞めしていた柳田浩一は直ぐに武部敦の拘束を解いて後ろに下がり、武部敦が更に刃物で刺される様子をじっと見つめていた。そして武部敦がこと切れたのを見届けた柳田浩一は、そのまま前方に歩いて行くが、その時武部敦を刺殺した霊体は、そのまま柳田浩一の体の中にスーッと入り込んでいくように見えたのを、玲とかすみは目撃した。そして殺された武部敦がなぜ柳田浩一に殺されたと訴えたのかと言うと、生前の彼の目には目の前の霊体が見えておらず、背後で彼を羽交い絞めしている柳田浩一が耳元で「死ね」とか呟いたため、それで誤認したと考えられた。
この一連の映像を見て、玲もかすみもかなりショックを受けた。まず、霊体が物理攻撃を仕掛けることがあるのか?という点である。幸いにも、玲もかすみも霊体から物理的な攻撃を受けた経験はないため、実感として湧かない所がある。ただし、かすみに関して言うと、実は霊体によって拘束された事例を見ている。それは、東洛総合大学の心霊サークルのある部員が夏合宿の時、霊体のあいりによって拘束されたケースである。尤もそれも物理的な拘束なのかどうかを確認する手立てはないが、少なくとも何かしらの手段でこの世界の人を拘束したりできるのは確かであった。そして、今回の監視カメラの状況を見ても、ここまではっきりと霊体が映っているとなると、かなり霊力が強い怨霊か悪霊になっていると思われた。
ところで、滝沢はやはり何が起きたのか分からないようなので、玲は今一度霊視グラスを彼に渡して、再度映像を確認してもらった。すると、
「な、な、何やねんな!
こ、これ、ホンマでっか?」
と素っ頓狂な声で叫んだ。まさか、霊体が殺人を犯していたとは絶対想像できないだろう。恐らく滝沢としては、斜め上よりも、別の世界の話と言う認識になっているのではないだろうか。そして、漸く滝沢が落ち着いたところで、玲はこの問題は、恐らく警察で扱うのは不可能だろう事を滝沢に告げた。滝沢も玲の言葉を聞いて、悔しそうに唇を噛んで、「わしらでは、お手上げですわ」と呟いた。恐らく真相を知った上でのお宮入りということになるだろう。だが、玲とかすみからすると、この事件はまだ終わっていない。勿論、警察もこのまま手をいて見ていることはできない。まだもう一人柳田浩一のターゲットとなる人物が残っているからである。だが、これまでの犯行パターンを分析すると、どうやら暗くなってから行動を起こしているようなので、玲とかすみは、とりあえず残り2件の被害者宅に向かい、被害者の魂の召喚を行った。ただし、残念ながら目ぼしい成果は得られず、最初の武部敦のケースと同じであった。
「玲、どないする?このまま待っても、
何時起きるか分からへんけど」
とかすみは不安げに玲に尋ねた。玲も何時柳田浩一が動き出すか分からない状況で只管待ち続けることに意味はないと考えているため、一層のことこちらから会いに行ったらどうかと考えた。しかし当然というか、案の定、滝沢は玲のこの考えを否定した。理由は単純で、警察としては事が起きるまさにその瞬間に犯人を確保したいと考えているからである。一方の玲は、事が起きる前に対応したいと考えており、この両者の違いは決定的な溝になって立ちはだかった。流石に玲は、ここに呼ばれて来ている以上、滝沢の指示に従うしかなく、結局そのまま持久戦となってしまうのだった。