召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、神室霊華とデートする
物部かすみが神室霊華の自宅に滞在して今日で4日目である。この日は、午前中は神室霊華と都内をショッピングで周り、午後から神室霊華も参加する霊能力者の会合にかすみも参加するという予定になっている。そして今のかすみはと言うと、今日は何を着て行こうかと悩んでいた。ちなみに、彼女が持参したキャリーケースの中には、タチアナから贈られた召喚術用の特性衣装のみが入っている。一応、ワンピース、ブラウス、スカート、パンツと言った基本的なアイテムはそこにあるので、後はそこに召喚すれば問題ない。あるいはそこに無ければ自宅に転移して取りに行ってもいい。だが、却って選択肢が多く存在したため、かすみはどれにしようか迷っていたのだ。まあ、こういう時はシンプルにいくのが一番かなと思い、明るい感じのブラウスとスカートを選んだ。そして丁度その時、渡り廊下から
「かすみさーん、準備出来ましたか?」
と神室霊華から声が掛けられた。「は~い、今行きま~す」と言って、かすみは何時ものお気に入りのお洒落リュックを背負い、手元に日傘とベージュのストラップサンダルを召喚し、それらを持って神室霊華と合流した。
都内へは神室霊華が運転する車で向かった。まず彼女たちが向かったのは、銀座である。かすみは正直言って、東京のどこに何があるのかは全く分からない。そのため、神室霊華の行きたいところについて行くというスタンスをとることにした。一方の神室霊華は、勝手知ったる何とやらではないが、ほぼ彼女が行くところは銀座周辺が中心である。例えば若い子に人気の表参道や青山とかに向かっても、神室霊華はどこに何があるのかが分からないため、かすみを案内することが出来ない。そこで自分が案内しやすい銀座でショッピングを楽しむことにした。
車を神室霊華がいつも利用する駐車場に停めてから2人は早速通りをブラブラと歩くのだが、2人の姿はまるで光と影のように対照的な装いである。かすみは白いブラウスに淡いベージュのスカートを合わせており、陽射しを受けて裾がふわりと揺れると、まるで風に舞う花びらのようである。一方、その隣を歩く神室霊華は、黒のロングカーディガンに身を包み、グレイッシュなリネンのブラウスとモノトーンのパンツを合わせていた。そんな対照的なコーディネートの美女2人が街を歩くと、街行く人の視線を引きつけずにはいられないのは当然であろう。だが、本人達はそんなことを気にする様子もなく、お喋りしながら色々な店を見て回った。
神室霊華は殆ど黒、偶にブラウンを選んでしまうが、かすみは意外と偏りなく、その日の気分で使い分ける感じである。そこで神室霊華は、かすみに自分に似合う明るい感じの服装を選んでもらうことにした。そうなると、ファッションを勉強している手前、俄然やる気を出すかすみは、神室霊華の全身コーディネートを考えることにした。そこでまずは、神室霊華の行きつけのブティックに向かった。
そこは銀座で1、2を争う高級ブランド店である。神室霊華にとって、実は稼いだお金の使い道が余りなく、殆どはファッションなど自分への投資に回ってしまうが、かと言って高価な宝石を求めるなどは全く考えていない。この点は恐らくかすみと似た所があるだろう。そのため、このような高級ブランド店でも普通に買い物をするようになったりした。そして神室霊華が入店すると、透かさず「いらっしゃいませ、神室様」と店長が直々に挨拶に来たりした。そして「つい最近入荷しました新作がございますので、ご覧いただけますか?」と早速売り込みを始めたりした。だが、
「申し訳ありません、店長さん。
今日は友人が私の為に色々と
選んでもらいますので、
彼女にお任せすることにしております」
と頭を下げて丁重に断りを入れつつ、店内の別の洋服を暗に求めたりした。そのため、店長は「さようでございますか。ではごゆっくりご覧ください」と言ってその場を後にした。そしてかすみはと言うと、そんなやり取りは無視して、自分がイメージする神室霊華に合う洋服を探し回った。そして、幾つか手にしてから、神室霊華の元に戻り、
「霊華さん、これ、試してみませんか?
色は淡いけど、ちゃんと芯がある感じがして、
霊華さんっぽい感じなんやけどね」
と勧めるので、神室霊華もかすみに勧められるままに試着室に入って、早速着てみることにした。そして
「おー、めっちゃ、ええやん。
凄くエレガントな感じやね、うん」
とかすみは自分が選んだコーディネートに満足したのか、あるいは神室霊華の装いに見惚れたのか分からないような感想を漏らした。ちなみに、かすみ本人には、両方の意味合いがあったようだ。それから、
「霊華さん、こっちも試してもらっていい?」
と言って、別の組み合わせを提案した。これには、神室霊華も
「……普段の私じゃ絶対に選ばない色ですね。
でも、かすみさんが言うなら、
着てみようかしら」
といって、試着してもらった。そして、
「うんうん、これもなかなかええやん!」
とかすみは満足した。ちなみに、スタッフが数名、神室霊華の接待に回っていたが、彼女達も同じように頷いていた。神室霊華は「え、そんなに良いの?」と感じただろう。そしてかすみは、
「霊華さん、この2つのコーディネートのうち、
どっちが良かった?」
と聞いてきたので、神室霊華はかなり悩みつつ
「そうですね、私は両方とも
着たことのない色合いなので、
正直どちらが良いのか分かりませんが...」
皆さんの印象はどうなんでしょうか?と逆に問いかけてきた。そこで、ブティックの店員が恐る恐ると言うか、勇気を出して
「そ、そうですね、私個人としては、
後の方が神室様の雰囲気を
壊さない印象を受けました」
と感想を述べた。神室霊華も実は、後の方が何となくしっくりきた感じを受けたのだが、そんな感想をかすみに伝えると、それを選んだかすみも、
「やっぱりね、うちもそう思うよ、霊華さん。
最初のはどちらかと言うと、
うちの趣味も入ってたりしてんけど、
後のは霊華さんのイメージを考えて選んだんで、
まあ、後は霊華さん次第やね」
と言った。そうなると、もう決まりだね、と言うことで、後の方の洋服一式とそれに合う靴をお買い上げとなった。総額数十万である。だがかすみは、その金額に関係なく、神室霊華の新たな魅力を引き出せたことに大いに価値があると見ていた。そして、
「霊華さん、折角だから、そちらに着替えて
この後ショッピングを続けない?」
とかすみが提案して来たので、神室霊華もそれに同意した。そして試着室で再び着替えて出てきたとき、
「うんうん、そのアイスグレーのブラウスと、
濃紺のワイドスラックスの組み合わせは、
霊華さんの上品さを壊すことなく、
でも少し柔らかさを持つから、
霊華さんの魅力は十分引き立ちますよ」
とお世辞でも嬉しい言葉をかすみからかけられた。勿論、かすみはお世辞ではなく本心からであるのだが。
「後ね、このラベンダー色の
カーディガンを肩掛けするのがね、
柔らかな女性らしさを演出するのよね」
とほぼ自画自賛かというような感想を伝えた。そして、
「うーん、何やろ、やっぱこの身長は卑怯やなー」
とかすみがぼやくので、神室霊華は
「では、かすみさん、玲さんと一緒に
かすみさんの身長を伸ばしましょうか?」
と笑顔で答えるが、かすみは、
「ははは、霊華さん、マジでしばきますよ」
とこちらも笑顔で答えながら、手にマキザッパを持つ仕草で神室霊華に迫った。神室霊華も笑いながら、「それは玲さんにお願いしますね」と答えてかすみに謝った。その後神室霊華は今まで来ていた衣装を店の用意した専用の紙袋に入れてもらい、その店を後にした。
丁度昼近くになったので、かすみと神室霊華は、神室霊華が行きつけのイタリアンレストランに向かうことにした。その店は、銀座の喧騒から少し離れた石畳の路地裏にあり、神室霊華は慣れた足取りで白い木の扉を開けた。
「ここはね、表に看板は出してないの。
知ってる人だけが通うお店なんです」
店内は控えめな照明にアンティークの調度品が並び、すでに香ばしいオリーブオイルの香りが漂っていた。
「おや、神室様、いらっしゃいませ。
今日は珍しくお2人ですか?」
と店主に迎えられたかすみと神室霊華である。
「はい、マスター、お邪魔しますね」
と言って、奥の席に2人は案内された。かすみは何を食べようか決めてないので、マスターに何がお薦めか尋ねた。すると、
「初めての方でしたら、
こちらをお薦めします」
と言って薦められたのが季節のスペシャルランチコース。メニューを見ると、前菜の盛り合わせと本日のパスタ、ちなみに今日はアサリと春キャベツのアーリオ・オーリオ スパゲッティ、そしてメイン料理は鴨のロースト バルサミコと季節果実のソース和え、それに自家製のフォカッチャと、デザートとカフェがついてくる。偶の贅沢もいいよな、と言うことでかすみは
「私、マスターのお薦めにしてみます」
と、少し緊張した面持ちでメニューを閉じた。一方の神室霊華は、「マスター、何時ものをお願いします」と告げる。彼女が選んだのは定番のランチセットで、店のカウンターの上に掲げられている黒板に手書きで、前菜は冷えたイタリア産ブラータチーズとトマトのカプレーゼ、ミートソースとベシャメルソースを組み合わせた自家製のラザニア、後はバルサミコ風味のサラダにデザートとカフェと書かれていた。「あ~、何かどれも美味しそう」とかすみは感じてしまうが、店の雰囲気が落ち着いた上品な感じだからだろうか。あるいはかすみの鼻をる香ばしいオリーブオイルのためだろうか。そして暫く待つと、それぞれの皿が運ばれてくる。その度にかすみは驚きと感嘆の声を上げ、神室霊華は静かに微笑んでいた。
贅沢な一時を過ごした後、かすみと神室霊華は雑貨屋を少し覗いたり、後は神室霊華が贔屓にしている画廊に寄って、気に入った絵画が無いか見て回ったりして時を過ごした。そのうち、霊能力者の会合の時間が近づいたので、かすみと神室霊華は、駐車場に戻ることにした。
「そう言えば、霊能力者の会合って、
どこで行われるのですか?」
「それはですね、東京駅近くのホテルで
何時も行っています」
遠方からやって来る人達の都合を考えるとそこが一番便利だから、と言うことらしい。そこで彼女たちは車でそのホテルに向かった。
霊能力者達の会合は、大体年2回程開催される。そして参加者は、毎回50人程が日本全国から集まって来るらしいのだ。かすみはおろか、玲もそんな会合があることを知らないが、だからと言って玲もかすみもそれで不利益を被ることはない。そしてその会合の目的は、お互いに情報交換し、親睦を深める事にあった。そしてやはりと言うか、この会合の中心が神室霊華である。では彼女が主催しているのかと言うとそうではなく、呼ばれたから来ました、という程度らしいのだ。と言う訳で、かすみも特に気兼ねなく参加出来るのだった。
「あ、ここですね、会合の部屋は」
とかすみを案内してやって来た神室霊華は、広間の扉を開けて中に入った。すると、中に集まっていた霊能力者達は一斉にこちらに振り向き、直ぐに、
「神室霊華様、お久しぶりです。
お待ちしておりました」
と彼女の所にやって来ては挨拶をしていくのである。神室霊華の隣にくっ付いているかすみは、「へぇ~、ホンマ霊華さんの人気は絶大やな~」と一人感想を漏らした。そして、主催者が「神室様こちに」と言って先導して神室霊華を最前列に誘った。かすみは別にどこでも良いので、適当な場所に座ることにしたが、神室霊華が振り向いて
「かすみさん、こちらにお座りください」
と手招きしてくるので、仕方なくかすみは神室霊華の隣に座ることにした。すると、何やら嫉妬と言うかそんな視線を感じてしまうのだが、まあ何時ものことかと気にしないようにした。しかし相変わらずと言うか、この人達全員「黒ないか?」、とかすみはぽつりと呟いた。直接の原因は神室霊華だが、元を辿ると玲とかすみのM Mの制服に行きつくわけだ。ところが、当の神室霊華とかすみは明るい感じのファッションに身を包んでいるので、却って彼女達が目立つというか、浮いた存在になりそうであった。「いややな、目立つの」などとそんなことを考えていたかすみを他所に、神室霊華は立ち上がって、演台に向かい会合の挨拶を行っていた。そして挨拶が終わると会場が割れんばかりの拍手が巻き起こった。「ホンマ、こいつらなんなん?」
会合と言っても、自分達が持ち寄った除霊に関する事例の紹介や、こういう場合にどう対処すべきか、と言った相談などが持ち寄られ、それらに対し神室霊華が適切な答えを与える、と言う感じで会合は進んで行った。かすみは一応聞くふりをしていたが、この時間は美土路神社が暇な頃は、深い眠りに入っていた時間帯でもあって、彼女の瞼は重力に逆らいきれなくなりつつあった。そんなとき、進行係から、
「神室様、お連れの方はどういった方でしょうか?」
と話がかすみに振られてきたので、神室霊華は
「こちらは、私の友人であり、
私の降霊術の師匠であります」
と説明したため、かすみを知らない霊能力者からは胡散臭そうな目で見つめられ、また以前島で行われた霊能力者の集いに参加していた連中からは、「またあいつだ」みたいな嫉妬が絡んだ目で見つめられたりした。だが、かすみを知らない霊能力者達は、神室霊華がかすみを師匠と言ったことに強く反応を示し、「神室霊華様の師匠だなんて、何かの間違いだろう」とか「逆ではないか」とか「神室霊華様騙されてはなりません」などと言いたい放題になった。かすみとしては、正直こういう事にはうんざりしているので、特に反論することなく「はいはい」と言う感じで聞き流していたが、進行係から自己紹介をお願いしますとマイクを渡されたので、とりあえず立ち上がり、後ろを振り向いて自己紹介を始めようとした。だが、視界の片隅で、神室霊華が両手を合わせて何かを呟いているのを見た時、あ~、あの自己紹介をするな、と言うことか、と理解したので、かすみはニヤッと口の端に笑みを浮かべて、
「物部かすみ、え...」
と言った時に、神室霊華は突然耳を塞いだ。全く、そんなことせーへんわ、と心の中で呟きながら、神室霊華を弄ることはせず、普通に、
「えーと、一応、霊能力者をやってます。趣味は...」
「あのー、物部さん、趣味は結構です」
と進行係が割って入ってきたため、かすみは出鼻を挫かれた感じで少しムッとするが、仕方ない、霊華さんに恥をかかす訳にはいかないから、無難なところで、
「すいません、で得意技は」
「マキザッパによる乳首ドリルです」...会場は静寂に包まれた。
あれ?わし、滑ったんか?
ちっ、おもんない連中や!
と又もや心の中で毒づくかすみである。分かったわ、真面目にやったるわ。
「霊能力としては、除霊と降霊が出来ます。
ちなみに、うちだけでなく、
相棒も同様です。そして」
ここにいる神室霊華さんもうちの所で修業をして、除霊と降霊の両方が出来るようになってます、と付け加えた。かすみが話し終わってもなぜか会場はしんと静まりかえったままである。かすみが好き放題に引っ掻き回したためであるのだが、隣の神室霊華は何やら安堵の表情でかすみを見上げていた。そして進行係に向かって、
「こんな感じですが、宜しいでしょうか?」
と尋ねた。進行係は
「は、はい、有難うございます。ところで」
かすみが今までどのような除霊や降霊をしてきたかを、差し障りのない範囲で何か話して欲しいと付け加えられた。そこでかすみは暫し考えた末、神室霊華も知らないある話をその場で披露し始めた。