召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル10: 警視庁千歳警部補のケース (後編)
美土路神社の自宅に戻った物部かすみと神室霊華は、早速夕飯の準備を進めるためキッチンに向かった。暫くすると玲が「ただいま」と言って帰って来たので、神室霊華は玲に挨拶すべく玄関に向かった。
「あー、神室さん、いらっしゃい」
と言って挨拶をした玲の顔を見た神室霊華は、かすみから事前に聞いていたものの、玲の余りにも痛々しい姿を実際に見ると少なからず衝撃を受けた。
「あっ、お、お邪魔してます、玲さん。
それよりも、お体の方は宜しいのですか?」
と気遣う神室霊華に対し、玲は、
「ええ、もう殆どは取れて、
少し赤く痣が残るだけ、
と言う感じなんですよ。
ご心配おかけして申し訳ありません」
と言って、玲は心配かけたことへ謝罪しつつ、神室霊華の気遣いに感謝した。そしてまずは着替えるべく自室に入り、その後キッチンに向かうが、既にかすみと神室霊華が料理中であった。
「あれ、かすみ、今週の当番は僕だったけど」
「あー、かまへんよ。
今日は霊華さんと一緒に作るから」
と言うことで、夕飯の準備はかすみと神室霊華に任せ、玲はダイニングの椅子に腰かけた。そして、料理中のかすみから今日の報告を聞きながら、テーブルに置かれているかすみが預かって来た資料に目を通していた。残念ながらオリジナルの書類は全てのページが血で汚れており、そのため赤いフィルターを掛けているような感じで読まざるを得ない。一方、警視庁の科捜研の作成した書類に目を通すと、ほぼ完璧に解読していたようで、オリジナルの読み取れない箇所も意味が通っていた。流石は警視庁だな、と玲は何やら感心してしまった。そして、
「この資料はどうやら呪術を教える側用の資料で
間違いないな。後はその特殊なアプリだね。
それと...」
やはり誰に渡っているのかであろう。中本の霊体が語ったところでは20人に売り渡したということらしい。そして今の所3名は分かっている。いや、玲を含めれば4名か。とりあえず、今この時点で分かることは限られているので、3人は夕飯とした。
「うーん、やっぱり、神室さんがいると、
味付けが上品になるね」
はあー?なんなん、あいつ、喧嘩売ってんのか?と怒り出すかすみだが、それは当然だろう。玲、無神経にも程がある。「いやいや、かすみの料理も美味しいよ。ただね」と取ってつけたような言い訳をする玲だが、「ただね」は余分だった。これでかすみの怒りはMAXに達し、早速手元にマキザッパを召喚し、食事中だろうが構わずに玲をシバキにかかった。神室霊華は呆気にとられながらも、「2人共、そこまでにして、食事してください!」と2人を強い口調で注意した。流石のかすみも、このままでは師匠としての面子が保てなくなるため、仕方なく神室霊華の言葉に従ったが、
「玲、後で続きのシバキをするからな!!」
と言う捨て台詞は忘れなかった。
さて、賑やかな夕食が済んだところで、かすみのシバキの続編はなく、3人はこれからの予定を確認し合った。本来であれば、皆が寝静まった夜中に転移したいところだが、どうやらそのマンションは賃貸特有の壁や天井が薄い構造のようで、隣家や上下階の音が聞こえるらしいのだ。そのため、むしろ早い時間帯で隣室がテレビとか見ている方が実は安心して行動できるのではと考え、結局午後8時に転移することに決めた。それまでは各自好きなように過ごすことにした。そして午後8時、玲の部屋に集まった3人は、普段着のまま玲の作った転移門で中本蓮司のマンションに転移した。
中本蓮司の部屋に転移した3人は、先ずパソコンに向かった。かすみがパスワードを入力して無事ログイン出来た所で、彼の作成した顧客リストらしきものを検索した。なお、この部屋で警視庁の刑事がパソコンをチェックしていた時、かすみは彼らが何かをUSBに保存したとかは見ていない。従って、確認はしたが詳細はパソコンを押収した後でチェックするということのようなので、今のうちに改竄しても問題はない。と思われたが、編集した時刻歴が残ってしまう。そのため、
「一層のこと、ここに残さず、
このUSBに移した方が無難かなー」
と玲が言うように、その方が安全かもしれない。昨日見ていたデータが突然消えたとなると不信に思うだろうが、時間が経ったら消えた、と言うこともなくはない。勿論、データを修復する技術はあるので、場合によっては復元される危険性は残る。一方で、誰かがデータを持ち去ったのではないかとの疑いがもたれると、真っ先に疑われるのはかすみと神室霊華である。まあ、合鍵も何も持ってはいないが、そもそも疑われること自体、後々警察との関係がれることになり、玲としてもそれは避けたい。特に玲とかすみの住む地元の県警とは良好な関係にあるため、
「まあ、僕はあくまでも顧客だから、
本来知られた所で違法薬物を買いました
と言う訳でもなく、単に呪術に興味があり、
それが書かれた資料を買っただけと言えば、
別に法律的には何も問題はないけどね」
と言うことで、結局データをUSBにコピーすることにし、元のデータはそのままにした。それから、
「あっ、これか、そのアプリと言う奴は」
とデスクトップに登録されているアプリ[呪術変換]とある、まさにそのまんまのタイトルのアプリがあった。ちなみにクリックすると、アプリの画面が現れて、[名前を入れてください]の所にローマ字で名前を入力するようになっていた。試しに[Rei Mokami]と入力すると、それを使った召喚言語が表示された。また音声入力というタブもあり、そこでは名前を音声で入力すると、呪術がスピーカーから流れるようになっていた。幸いにも、このパソコンにはスピーカーは接続されていなかったので、突然大音量で音が出るとかの問題はなかったのだが。そして、今は日本語で表示されているが、このアプリの歯車マークの[設定]をクリックすると、言語を選べるようになっていた。成程、多言語対応と言うことらしいのだ。
「これって、もしかしたら、
世界規模の問題かもしれないな」
と玲は独り言を呟くが、かすみも神室霊華も玲の言葉には同意した。これはかなり危ない兆候なのではないかと懸念したのだった。とりあえず、そのアプリも持って帰ろうと考えた玲だが、そもそもアプリが何処に保存されるかが分からない。そこで、パソコンに詳しそうな神室霊華に尋ねると、
「そうですね。恐らくこういったアプリは、
インストーラーを経由して
登録されるはずです。
なので、そのインストーラーが
残ってないか探した方が良いですね」
と言うことだが、玲は勿論チンプンカンプンである。彼の頭の中では「インストーラーって何だ?」と叫び出し、その頭上に巨大な「?」が立ち上っていただろう。と言うのは、彼が自宅で使っているノートパソコンは、殆ど買った時のままに近い状態だからである。玲、いやその中身のカーンフェルトは、彼の人生の中でパソコンそのものを使ったことは一度も無い。ただ、地球に転生して最神玲になってからパソコンを使いだして何年か経つが、それでも彼が使うのは、ウェブブラウザ、メール、表計算ソフト、たまにエディタで文書を書くくらいであろう。それ以外で、例えばゲームや年賀状ソフト、あるいは動画編集ソフトを使うことは全くない。そのため、彼の人生でインストーラーなる物に出会ったことは無かったのだ。一方、生粋の地球人であるかすみは、自分のパソコンに何やら色々なアプリを入れている。だが、インストーラーと聞いた途端、彼女の頭上にも玲に匹敵する巨大な「?」があったことだろう。そんなかすみに対し玲は、
「なあ、かすみ、インストーラーって知ってる?」
と尋ねてきた。かすみは実は知らないが、玲に弱みを握られたくないため、「も、勿論、当然知ってるよ。そんなん当たり前やろ、ははは」と笑って誤魔化した。だが、玲もかすみと何年も一緒に生活しており、実は彼女が嘘をつくときの癖をある程度見極めてきた。そして、彼女の小鼻がヒクヒクし出したのを見て、 かすみ、絶対分からんな”と理解した。そして、かすみに向けて笑顔になるが、かすみはまさか自分の心の中を見透かされたとは気づいていない。だが玲の笑顔は気持ち悪いので、
「何なん、玲、そのニヤケ顔。
まじ、むかつくねんけど」
と脅すが、「いや~、別に他意はないよ~」と言って、神室霊華に「すいません、インストーラーの件お任せしても良いですか?」とお願いした。神室霊華は、玲とかすみの間に交わされた謎の会話を理解しておらず、玲からの依頼と言うことで「はい、じゃあ調べてみますね」と言って早速ファイル管理ソフトで検索を掛けた。そして、
「あー、ここに在りますね。これを保存して、
玲さんかかすみさんのパソコンに
インストールすれば大丈夫ですよ」
と言うことで、そのインストーラーもUSBにコピーした。後は、何か知りたいことがあるかと言うと、玲もかすみも特に思い当たらない。まあ、あるとすれば、中本蓮司と玲の間で交わされた電話だろうが、あの番号は使われていない物のようだし、仮にそこから自分の所に来たとしても、別に悪いことをしてる訳ではないので後ろめたさもない。結局彼らとしては、ほぼ目的の物が手に入ったということで、その場を後に自宅に転移した。
自宅に戻ってから早速玲は、自室から自分のノートパソコン持ってリビングに移動し、USBを差し込んでデータを取り出した。念のため、かすみにUSBを渡して彼女のノートパソコンにも同じデータを保存させた。そして玲のパソコンをリビングの大型テレビと接続して臨時のモニターとし、3人でデータをチェックすることにした。まず顧客情報を収めたデータを表計算ソフトに読み込むと、この人物はなかなかに几帳面なのか、分かり易い一覧として表示された。そして最後から2行目には「僕の名前があるね」と玲の名前が記載されていた。それ以外にも見知った3人の名前がそこに含まれていたことから、やはり中本蓮司が売り渡したので間違いない。そして、
「後は残りの人達がどうなっているかを
調べるだけだね」
と玲が言うように、後は戸別訪問ではないが、住所が分かっているのでそこに転移して調べることになった。ところで、
「かすみと神室さん、リストの中に
誰か知っている人とかいませんでしたか?」
「うちは特におらんな」、「はい、私も特にはおりませんね」と2人とも知り合いはいないようだ。しかし、
「なんやろ、男多ない?」
とかすみは呟くが、確かにリストの7割ほどは男性のようだ。ただ年齢は偏りなく、上は50代、下は20代まで散らばっている。しかし男が多いということは、
「何か知らんが、色んなストレス
抱えてんとちゃう」
とかすみが言うように、友人関係や仕事関係でストレスを抱えそうに思われるし、それが行き過ぎて相手を呪い殺すにまで行くのは、相当追い詰められている印象を受ける。それよりも、ここでそんな感傷に浸っている場合ではなく、誰が誰を担当するかを決める必要があるので、玲は、
「とりあえず、女性に関してはかすみと
神室さんにお願いするね。
僕は男性の方を調べるよ」
そして、調べる項目としては、このリストの人物が健在かどうかの確認、それと健在であればだれを呪ったのかを調べる、と言う2点を挙げた。かすみも神室霊華も異存はないので、後は各自時間のある時に調査をするということで、先ずこの問題は終えることにした。
次にもう一つの[呪術変換]アプリの件である。こちらに関しては製造元などが辿れれば良いのだが、残念ながら玲にはそのような知識はゼロである。当然かすみも然り、コンピューターに詳しそうな神室霊華も右に同じと言う。そうなると万策尽きた感に思えるが、実は玲には一つだけ当てがある。それはタチアナから教えてもらったチーターである。実は最近、玲はチーターと会っていたのだ。最初はパソコンの画面越しで、そして2度目は直接対面したのだった。タチアナですら会ったことのないチーターになぜ玲が会えたのか?チーターもサモナルドの出身であることは分かっていたが、実はタチアナと同じロムリアからの転移者であった。しかもタチアナ他ほぼ全てのロムリア人なら知っている人らしいのだ。そのため表に出る事を避けてきたと言う。その辺の事情は本人にしか分からず、玲もその辺の事情を詮索する気はないが、チーターも故郷のロムリアに居る両親や兄弟姉妹のことが気になっており、玲が近々ロムリアに召喚されることを聞きつけて、チーターも手紙と言うか動画を送って来たのだった。勿論その動画を玲が地球に残る他のロムリア人に見せることは絶対ないのでチーターもその点は安心していた。そして玲は、そのチーターにこのアプリの解析をお願いしようとしている。なお、中本蓮司の持っていた資料に記載されていて、今はNot FoundとなるURLも渡せば何かしらの手掛かりが得られないかと期待した。その後かすみは神室霊華と何やら話しながら召喚術を行い、神室霊華を家まで送って行った。そして玲は、呪術変換アプリの調査依頼をチーターにお願いし、返事か届き次第向こうの要望に沿って送ることにした。