召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル10: 警視庁千歳警部補のケース (中編)
異様な変死体が見つかった現場はごく普通の賃貸マンションの1室であった。そしてそこの住人のが、部屋の中で海老反り状態で背骨を真っ二つに折られて絶命していたということらしい。ちなみに第一発見者と言うか通報したのは、隣に住む一人暮らしの中年の女性である。夜遅い時間に突然隣の部屋から物凄い絶叫が壁越しに聞こえてきたと言うことで、急ぎ隣の部屋に向かい、何があったのかを確認するためインターホンを押して、ドアをノックしたりした。念のため、手元には直ぐに警察に電話出来るように110と入力した状態でスマホをスタンバイさせていた。だが、中から返事も何もない。そして、念のため新聞受けの扉を開けた時、中から血生臭い匂いが漂ってきたため、急ぎ警察に連絡したのだという。なお救急ではなく警察にしたのは、その直前の絶叫が余りにもましく、もしかして中にまだ誰かいるのではと疑ったためだ。そして警察が現場に到着し、同じように中を確認すると確かに血生臭さが漂って来たので、急ぎマンションの管理会社に電話して合鍵を持ってきてもらった。そして中に入った時に、件の惨状を目にしたということのようだ。
ところで警察は、直ぐに現場検証を始めたが、ベランダに通じるガラス扉は全て施錠されていることを確認した。そして玄関から誰かが外に出たという様子は見られないという。隣室の女性も、悍ましい絶叫を聞いて1分もしないうちに外に出ており、その間扉が開く音は聞いてないという。また、そもそも現場の玄関付近を含む部屋の広範囲が血の海となっているため、足跡を残さず外に出ることは出来ない。念のためマンションのエントランスや周辺に設置している防犯カメラを後日確認するも、犯行直後と思われる時間にそれらしい人物が映っていないことが確認された。そうなると、
「まさかとは思いますが、
密室ということかと疑ってしまいました」
とは警部補の感想である。警察が密室を言い出したらお終いとちゃう、とはかすみの感想であるが、確かに外からの侵入も、中から誰かが外に出た形跡もない。まあ、ミステリー好きであれば、現場に足を踏み入れた警察官が偽装したとか、などと言うことも考えるだろうが、少なくともかすみは既にその正体が分かっており、そいつでないと無理だろうな、と思っている。だからと言って、その犯人を呼び出す気は、かすみには毛頭ない。玲でさえ酷い状況になりつつ撃退したというのに、かすみだと即あの世行き確定である。それをかすみは十分に分かっている。
さて、とりあえずかすみと神室霊華は、未だ血液の匂いが残るこの部屋で降霊術を行うことにした。なお、矢部刑事は被害者の中本蓮司のスマホを持ってきており、パソコンは現場に設置されたままのデスクトップ型のようだ。本来、これも警察が押収する心算だったが、この事件については警察庁から全国の警察に事前に通達されているようで、それらのロックの解除については専門家に委ねろとなったらしい。
「え、専門家って、うちらのこと?」
とかすみは自分の鼻頭に右手の人差し指をあてた。この事件はそんなに大事になっていて、いつの間にかM Mはそれに巻き込まれていたようだ。「はい、そのようです」と千歳が答えたので、かすみも満更ではない表情で頷いて、
「じゃあ、霊華さん、始めようか」
と言って、先ず中本蓮司の使っていた品物を色々と物色し始めたが、特に目ぼしい物が見当たらない。財布があればベストなのだが、それは警察に押収されているという。仕方ない、彼のスマホでやってみるか。
「矢部さん、そのスマホを貸して頂けますか?」
とかすみは怪訝な表情の矢部からそれを受け取った。そしてテーブルの上に置き、神室霊華に
「霊華さん、降霊お願いしますね」
と言って、かすみはカバンの中から霊視グラスを召喚して、千歳と矢部にそれぞれ渡した。更に胡散臭い表情をした矢部と、何やら興味津々な千歳に対し霊視グラスの説明をしてから、神室霊華は降霊召喚を行った。すると、
「う、うわー、こ、こ、こ、こ、こ」
と千歳は言葉が出ず、更にビックリした拍子に腰を抜かして尻餅をついてしまった。かすみは心の中で「ニワトリか!」とツッコミを入れていたが、矢部の方も同じようにニワトリ状態だった。ただし何とか尻餅をつくことは免れたようだが。まあ、最初はそうなるからな、と言うことで、かすみは何時もの様に霊体に名前を尋ねた。
「・・・な、か、も、と、れ、ん、じ」
と答えた。それを聞いた2人の刑事は、「ゆ、ゆ、幽霊が喋った!!」と同時に声を発して驚く始末である。これじゃあ尋問が進まないよ、と言うことでかすみがとりあえず、パソコンとスマホのパスワードを聞き出した。スマホは今使用中のため手近にあったノートに書き留めて、パソコンの方は早速正気を取り戻した矢部が中本のパソコンを立ち上げ、言われたパスワードを入力した。すると、
「千歳さん、ログイン出来ました」
と大声で千歳に伝えた。千歳はと言うと、幽霊を見てまだ気が動転しているようだが、矢部の大声の呼びかけで我に返り、急ぎパソコンの所に向かった。あれ、尋問は良いんですか?とかすみが尋ねるも、2人ともそれどころではない感じなので、かすみが代わりに中本の霊魂に色々聞くことにした。そしてどうやら呪い代行ではなく、呪術のノウハウを売ることを副業にしていたというのだ。そして、この呪術をどこから手に入れたかを尋ねると、
「・・・ご、は、い、そ、う、の、よ、う、だ」
と言う。どうやら、間違って配送されたと認識している。本当に誤配送なのか?それとも誤配送を装って中本に送りつけたのか?残念ながら本人の霊魂からは情報を引き出せなかった。そしてかすみは、多分玲が興味を持つだろう、召喚言語のことを尋ねた。すると、
「・・・あ、ぷ、り、を、た、ち、あ、げ、る」
と答えた。どうやらそんな訳の分からないアプリがあるようだ。その後、千歳警部補がこちらの尋問に参加したため、尋問を彼女に任せることにした。一方の矢部刑事は、パソコンのメールソフトを閲覧中のため、仕方なくかすみと神室霊華は、その場でヒソヒソと雑談を始めた。と言っても、別にファッションのこととかではなく、この事件に関することであったが。
「ほんま、玲の無茶には、参るよ、まったく」
とかすみはまた愚痴を零す。そして、
「まあ、尤も、この世界で玲しかやれる奴
おらへんからなー」
と玲を称賛したりする。かすみは、何だかんだと玲を信頼しており、玲のことが凄く心配なんだということが神室霊華にも十分伝わって来た。この2人の間に入り込むのは、多分無理だろうな、と神室霊華は心の中で項垂れていた。そんな神室霊華の思いを他所に、かすみは1人喋り続けている。そのうち、尋問を終えた千歳から、「物部さん、神室さん、何かお尋ねしたいことがありますか?」と聞かれたので、かすみは中本の霊体に、「今まで何人くらいに売ったのか?」を聞いた。すると「20人位」と答えた。そして千歳から、「確かに彼の部屋のテーブルの上には一千万円の現金が置かれていました」と言うことで、1人50万円だと確かにそうなるな、とかすみは納得した。そして千歳に対し、「その20人の身元はどうなりましたか?」と尋ねたが、当然今矢部刑事が調査中であった。ただ、その20人の身元が分かれば、今までに起きた事件の真相と、場合によっては現在進行形の事象を把握できると思われた。それと、中本が死ぬ間際に握り締めていた書類がどうなったのか、かすみはどうしても気になったので、それを千歳に尋ねた。
「はい、確かにガイシャの中本は、
なぜか書類を握り締めておりました。
ただし、残念ながら...」
その書類は彼の血で汚れてしまい、所々判別できないということのようだ。尤も、警視庁科学捜査研究所であればそれを取り除くなりなんなりして文字を読み取ることは可能であり、実際に判読出来るようにしたという。ただし、捜査本部としては特にその書類に対する重要性はないと判断したようだ。まあ、背後に召喚術師がいていることを把握してなければ多分そうなるだろうな、とかすみは思う訳だが、念のためその書類を預かることは出来るかを尋ねた。すると、
「もし何かしら解読して頂けるのであれば
お渡しできますが、
その代りそちらで得た情報は
こちらにも知らせて頂きたいです」
と至極当然のことを伝えられた。少なくとも、書類をこちらで預かることができるということなので、かすみはそれでお願いしますと千歳に伝えた。なお、当然今手元にはないので、この後一緒に警視庁に向かいそこで渡してもらうことにした。そして矢部刑事の方だが、やはりパッと見ても怪しい感じが無さそうだということを千歳に話していた。こちらでもお手伝いしますよと伝えるも、矢部にジロッと睨まれてしまった。どうもこのおっさんは、うちらに喧嘩腰なんだよな、と言うことでそれ以降は沈黙することにした。そして目の前の霊体には一応お引き取り願った。そのうち、矢部が千歳に、「明日にでもこれを押収しますが、宜しいですか?」と尋ねており、千歳もそれで問題ないと答えたので、どうやらパソコンは今日一日だけこの部屋にそのまま置かれるようだ。うんうん、しめしめ、とかすみは心の中でニンマリと微笑んでいたが、どうやら表情に少しだけ漏れていたようで、かすみの口角が僅かに上がったのを神室霊華は見逃さなかった。恐らく今晩、玲さんと3人でここに侵入するのだな、となぜか今からワクワクし出した神室霊華であった。
とりあえず、中本蓮司の部屋を出た4人は、各自の車に乗って警視庁に直行し、かすみは問題の書類を預かる手続きを経て無事確保した。
「では、この資料から何か分かりましたら、
千歳さんに連絡入れますね」
と言って、かすみと神室霊華はそのまま警視庁を後にした。
「かすみさん、今晩行くんですよね?」
「はは、霊華さんにはお見通しか!」
「ええ、だってかすみさん
ニンマリしてましたからね」
え!顔に出てたんか!とかすみはビックリしたと同時にガクッと項垂れてしまった。こんなことだと、スパイとか諜報員にはなられへんな、と少しがっかりしたが、そもそもかすみはスパイになりたいのだろうか?それよりも、玲に連絡したいが、社務所を閉じるまでまだ1時間弱あるため、仕方ない一旦自宅に戻るか、と考えた。あ、そうか、霊華さんも連れてくか、と言うことでかすみは、この後一旦神社で降ろしてもらうが、その後神室霊華の自宅に転移し、一緒に美土路神社でご飯食べながら作戦会議しないか、と提案した。
「それは嬉しいお誘いですね。
ええ、お願いします。
ただ、神社で降りずに直接自宅に
来て頂いても問題ありませんよ」
と言われた。え、大丈夫なのか?と思ったが、玄関入る前に転移すれば問題ないしな、と言うことでそうすることにした。