召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル10: 警視庁千歳警部補のケース (前編)
今年の大型連休の後半、最神玲は大きな怪我を負った。幸いにも骨折するほどの重傷ではなく、全身擦り傷、切り傷だらけと言う状態であった。ただし、脳への打撃があったため、念のため物部かすみに検査を薦められたが、玲としては少し様子見と言うことで保留にしていた。今の所頭痛などを感じることは全くないため、多分大丈夫だろうと安全バイアスを働かせている。そして、その事件から1週間程経ったある平日の午後、美土路神社の社務所に1本の電話が入った。丁度参拝客が少なくなり、少しだけ余裕が出来た玲は、直ぐに電話に出た。
[もしもし、こちらは美土路神社の社務所です。
どのようなご要件でしょうか?]
[もしもし、こちら○○県警捜査一課のです。
最神さんでしょうか?]
[あー、面田さん、ご無沙汰してます。
はい僕です。何かあったんですか?]
[ええ、実はうちの件ではないんですが...]
と言って県警の面田警部補が話したのは、東京の警視庁から捜査協力依頼があったという話しである。どうやら、東京でも差間見町や島の時のような異様な変死体が発見されたという。そして、やはりと言うか、そのカギを握ると思われているのが、その人物の使用していたパソコンやスマホである。そこでこの件に関しては、○○県で既に解明が進みつつあるとの情報により、玲とかすみのM Mに捜査協力の依頼が来たということだ。だが、今の自分達はここを離れる訳にはいかないが、幸い東京と言うことなので、彼女にお願いしようかと玲は考えた。そして
[分かりました、面田さん。
とりあえずこちらから先方に連絡します]
[有難うございます。先方の警部補に
連絡してください。電話は...]
と言うことで連絡先を聞いて玲は電話を切った。そして隣で記帳をしながらも、恐らく耳をダンボにしていたかすみに、「後で話す」と言って、そのまま玲も仕事を続けた。
漸く定時を迎えて、社務所を戸締りし、玲とかすみは2人揃って自宅に戻った。今日の料理番は玲であるため、夕飯の準備をしがてら、リビングで寛ぐかすみに先程の電話の内容を話した。
「ほな、うちと霊華さんで
行くことになんねんな?」
「うん、多分そうなるね。
まあ、降霊術で霊体を呼び出すだけなら、
神室さんだけでも良かったけど。
ただ、恐らくパソコンやスマホの中身の確認は、
事情を知る僕かかすみがいないとダメだからね」
と言うことで、その場でかすみは自分のスマホを取り出し、神室霊華に電話を入れて事情を説明した。そして、神室霊華は是非一緒に行きます、と言うことで快く返事を貰った。その後、後は煮込みを待つだけとなったので、玲が警視庁の千歳警部補に電話をすることにした。
[はい 千歳です]
あれ、若い感じの女性の声だぞ。
[もしもし、僕は最神と言います。
先程○○県警の面田さんから連絡頂きまして、
そちらに折り返し電話して欲しい
とのことだったので、
すいません今電話させてもらってます。
今お時間宜しいでしょうか?]
[ああ、はいはい、それは有難うございます]
[早速ですが...]
と言うことで、東京に居る神室霊華とこちらのスタッフの物部かすみの2名が出向くということを了承してもらった。そして日時だが、
[最神さん、急ぎで申し訳けありませんが、
明日の午後お願いできますでしょうか?]
明日の午後か、[少々お待ちください]と言って玲は、かすみに「明日の午後、神室さん動けそうかな?」と確認してもらうことにした。かすみは急ぎ神室霊華に再度電話し、指で〇印を示した。OKと言うことのようだ。そして、
[お待たせしました千歳さん、
問題ないということで
明日の午後に向かいます。
待ち合わせ場所と時間はどうしますか?]
午後2時に、杉並区内の被害者宅のマンションで待ち合わせる、と言うことになり、電話を切った。そしてかすみに、
「明日の午後2時に、杉並区内のマンションで
待ち合わせだって。場所はね...」
スマホの地図アプリで確認した所、最寄り駅まで直ぐの所にそのマンションがあったので、ここだねとかすみに教えた。一応、念のため、千歳警部補の電話番号もかすみに伝えておいた。そして、
「何か、千歳さんって、
若い女性のようだったな。
もしかしてキャリア官僚か何かかな?」
「へー、玲、何でそんなん知ってんの?」とかすみに意外に思われたのか、呆れられたのか、よく分からないリアクションをされてしまった。何かの本か記事でキャリアの警察官僚は警部補から始まるとか、そんなことを読んだのを覚えていただけだよ、と言うと、「ふーん」とそれ以上何も反応がなかった。何だよ、興味ないんかい!と突っ込みたくなったが、下手すると「へー、玲、その千歳さんに興味あるんか?」と変に勘繰られそうなので、ここは黙ることにした。
その後かすみは、神室霊華に明日の予定を伝え、何時にどこで待ち合わせるかを決めた。神室霊華によると、彼女の自宅から現場までは車で30分程と言うが、渋滞などを考えて1時間は見た方が良いということで、午後1時にこの前使った神社に転移することをかすみは伝えた。そこで一緒に車で現場に向かうということだ。神室霊華も都内であれば転移は容易であるが、やはり人口密集地であることと、昼間の明るい時間帯を考えると、安易に転移して人に見られる危険性は避けたいところだ。そこで安全策として車での移動としたのだった。
次の日、午前中はかすみも記帳作業を行い、玲がキッチンに用意しておいた昼ご飯用の弁当を食べ、そのままM Mの制服に着替えて転移して行った。
「霊華さん、お待たせ」
「師匠、お久しぶりです」
いやいや、この間まで一緒やったやん、と一応ツッコミをいれたかすみは、神室霊華の運転する高級車で都内に向かった。そして車内で、今回の件と深く関係するであろうその原因、つまり玲の身に起きた顛末を語った。神室霊華は運転に集中していたものの、玲が呪い返しとされる霊体と死闘を繰り広げた(正確には、只管逃げていただけだが)ことに話が及ぶと、ハンドルを握る手が小刻みに震え出したのを、助手席で話すかすみは目に留めた。
「ゴメンね、霊華さん、驚かせちゃったね」
「え、ええ、流石にね。
玲さんそんなことされる人だったんですね」
「まあ、あいつは予想もつかないことを平気でやりよるからね、何たって中身が宇宙人だしね」とかすみは酷い怪我を負った玲を相変わらず笑いながらうのだが、神室霊華はそんなかすみの言動や仕草の中に、玲に対する信頼と思いやりの情を見ていた。この2人の間には強い絆があるんだろうな、と少し寂しさを感じながら。
神室霊華の運転する車は、特に渋滞に嵌ることなく、結果30分程早く目的地に到着した。神室霊華はナビを使って近くの駐車場を検索する一方、かすみは玲から教えてもらった千歳警部補の電話番号に電話をして、今現場に到着したことを伝えた。そして
[物部さん、我々も今そちらに
向かっておりますので、
今しばらくお待ち頂けますか?]
と言うことで、神室霊華と現場周辺を見て回りながら待つことにした。やはり東京都内だけあって、ちょっとした路地裏も人影を見たりして下手に転移せずに良かったな、とかすみは安堵の表情を浮かべた。そして目的のマンションの玄関前でかすみと神室霊華が立ち話をしていると、赤色灯を灯した一台の覆面パトカーがこちらに近づいてきた。
「あっ、来たみたいやね」
とかすみは神室霊華に呟き、2人でその車の様子を見守った。そしてかすみの傍で停車した車の助手席から、恐らく神室霊華と同い年位の黒髪でショートヘアーの可愛らしい感じの女性が降りて来た。見た目はどこかのアイドルか、と思うような佇まいだが、
「物部さんですね、私警視庁捜査一課の
千歳と申します」
と言って着ているジャケットの内ポケットから警察手帳を取り出し、かすみと神室霊華に警察手帳を開いて所属と身分を示した。一方、運転席から降りて来たのは一見すると彼女の上司のように見える、年齢は40代手前位の男性である。その引き締まった体つきは、武道を嗜むのか、あるいは趣味で筋トレしているのか分からない印象を受けた。
「私も同じく捜査一課の矢部と申します」
と言って、やはり同じように警察手帳を開いて自分の所属と身分を示した。どうやら矢部は巡査部長であり、千歳警部補の部下になるようだ。うーん、見た目で判断すると頭が混乱しそうになるかすみであった。
一方かすみと神室霊華は、それぞれ名刺を取り出して相手に渡した。
「私は物部かすみと言いまして、
M M超心理学研究所と言う所の
代表を務めてます。そしてこちらは」
「神室霊華と申します。
同じく私もM Mの所属になります。
どうぞよろしくお願いします」
と言って、2人で名刺を渡して頭を下げて挨拶をした。すると、千歳が驚いた表情で
「え、神室霊華さんって、
あの神室霊華さんですか?」
と神室霊華に尋ねた。かすみは「他にどの神室霊華がおんねんな!」とツッコミを入れそうになるが、警察へのツッコミで何が起きるか分からないため、そこはぐっと我慢した。そして、神室霊華はと言うと、首を傾げながら、
「えーっと、どの神室霊華のことか分かりませんが、
私は霊能力者の方の神室霊華です」
とかすみの「がさつ」なツッコミとは対照的な穏やかな形でツッコミを表現した。流石は名家のお嬢様である。すると、
「あっ! では、あの女性誌に載っていた
面白い関西人って、物部さんのことですか?」
何だ、あたしのことをディスろうとすんのか、と警察相手に少し喧嘩腰になりかけたかすみだが、最後の面白い関西人に敏感に反応してしまい、そうか面白い人なら許そう、ということで、更に調子に乗って、
「はいはい、その面白い人とはうちのことですな」
とニヤニヤしだした。ちなみに、かすみも神室霊華も、実はその雑誌をじっくりとは見ていない。故にかすみは、どのように書かれているかについては把握していないのだった。まあ、警察官でも人の子というところか、とかすみは神室霊華とお互い顔を見あって頷いた。それよりも、このままだと話が進まないので、かすみは、
「すいません、それよりも、中に入りません?」
と千歳に催促した。ちなみに、一見上司風、実は部下の矢部巡査部長は、なぜか目線を下に向け、女子トークに半ばうんざり、と言う感じであっただろうか。とりあえず、4人は事件のあった部屋に向かった。