召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿7: 夏合宿 in 北海道 (第5幕)
さて、1人ぼっちの霊道の旅を楽しむ物部かすみだが、何となく霊道を進むスピードが増加しているように感じていた。ちなみに、かすみの周囲には、実は多くの霊体が霊道内を前方に向かって進んでいるのだが、霊体の方がかすみのスピードよりも速い。だからと言って、「霊と言う名のもんには絶対負けられへん!」と何かと勘違いしながら走って追い抜こうとするが、それも出来ない。どうやら生身の人間は移動の制約を受けるようである。流石のかすみもこの時ばかりは「くそ!! 霊と言う名のもんに負けたー!!」と違う霊に置き換えて悔しがったのだった。そのうちどうやら霊道が西向きに変わったのか、かすみの正面に太陽が来ることになり、かすみは急ぎ鞄の中から日傘を(召喚して)取り出し、それを差した。ちなみに、今のかすみの恰好は、胡坐をかいて座り込みながら右手でビデオカメラ、左手で日傘を差す、何とも間抜けな感じで空中を移動中である。そう、かすみは今空中に居るのだ。と言っても高度千メートルとかではなく、精々数メートル程である。その後どこまで行ってどこまで上昇するのか分からないが、もしその先の霊界に行くのであれば、果たしてそこは何時も見ている霊界と同じなのだろうか、それとも全く違う所に行くのだろうか。かすみは心のどこかで楽しそうにそんなことを考えていた。
一方、神室霊華の方は、行方不明の学生2人を無事確保したことで、廃団地内で捜索にあたっていた心霊サークルの部員達とジーエックスのメンバーは皆一様に喜びあって安堵の表情を浮かべた。そして残るはかすみの安否だが、神室霊華がかすみのことは心配ないから、こちらはこの場の問題を片付けましょうと提案し、結局神室霊華の指示に従って廃団地の探索を続けることにした。と言っても、実は2人の捜索中に大体の場所は捜索済みであり、特にこれと言った怪異や心霊現象に遭遇していないのだが、1人神室霊華はある場所を注視していた。そこは心霊サークルとジーエックスが臨時の本部にしているマイクロバスが駐車された場所、そこから霊道をいだ反対方向にある炭鉱住宅である。幸いその住宅には誰も近づいておらず、と言うか今までは近づけなかったのだが、そして問題の霊道もどうやら消えかけているようで、日没後にはそこに向かうことが出来そうである。そして神室霊華は、その場所に何かがあると考えており、それをジーエックスのスタッフに伝えた。すると、
「では、こちらで夕飯を摂った後で、
そちらに向かうというスケジュールで進めます」
と山崎以下ジーエックスのスタッフはそのように準備を進めた。一方の心霊サークルのメンバーだが、その場所に一緒に行きますという部員もいれば、やはりしり込みする部員もいる。そして一時行方不明になっていた2人は、やはりこちらに待機すると言うが、それよりも何故物部先輩は一緒にこちらに来なかったのかが気になるという。もしかして自分達がいたことでタイミングがずれてしまったのかと心配になっていたらしい。すると、
「かすみさんはね、
今頃霊道の旅を楽しんでますよ」
「あら、こんなこと言うと、まるで死んだように聞こえますわね」と言ってからコロコロと笑い出した。これには、神室霊華の素顔を知らない学生たちは、何時も物静かに佇むイメージの神室霊華とのギャップに驚いたようだが、そんな中、心霊サークルの上級生部員からは、
「まあ、確かに、物部先輩って、
そう言うところあるからな」
と神室霊華の意見に同意したりした。それで納得したのか、心配していた部員達も安心したのだった。
日没が迫ってきた頃、かすみはと言うとまだ霊道の中に居た。しかし何時間も身動き取れない状況だとかすみも焦りとか不満とか出てくると思われるのだが、今のかすみは穏やかな表情である。更に胡坐をかいて目を瞑るその姿を見ると、何やら悟りでも開いたのかと思われそうだが、そんなことはない。彼女は目をりただ寝ているだけだからだ。人類で初めて霊道を旅して霊界に向かおうとしている物部かすみは、今この時居眠りをしていたのだ。流石、心臓に毛が生えていると評される訳だが、そんなかすみも何かを感じたのだろうか、突然目を開けて前方を凝視した。寝る前は南西の空の高い所で輝いていた太陽は、今はかすみの前方で残り1/4を残す程になり、辺りは金色からオレンジ、そして濃い紫へと綺麗なグラデーションを空に描いている。そしてそんなグラデーションを描く空中にそれはあった。そう、霊道の先端部分、すなわち霊界への入口が空中にぽっかり穴を開けて霊体を吸い込んでいたのだ。尤も、かすみは何度か霊界に行っており、今更霊界に向かってもと思わざるを得ないが、ただし彼女が行くルートは実は正規のルートではない。ある意味裏口を無理やりこじ開けて入るような感じだが、では正規ルートから入るとどうなるのか?それは誰にも分からない。もしかしたら、今まで見てきた霊界とは異なる姿がそこにあるかもしれない。もしかしたら、臨死体験者が語るような、お花畑と三途の川がそこにあるかもしれない。そんなことを考えると、「それはピクニックやんか!」とツッコミを入れたりしてかすみは楽しくなるのだった。そう言えばビデオカメラって回ってただろうかとモニターを確認すると、[REC]が表示されているものの、頻繁にブロックノイズが現れ出した。恐らく霊界に近いからなのか、霊体の密度が濃くなったからなのか、何れにしてもその影響があるのは確かであった。そう、かすみの周りには無数の霊体が蠢いている。かと言って、かすみに襲い掛かることは無いのだが。と言うのは、かすみは自分の周りに降霊転移門を設置しているため、霊体が彼女に襲い掛かることは無い。
「うーん、あっこまで後1キロくらいか?」
と呟くが、ただし今のスピードは最初の頃の倍以上になっていると感じており、恐らく10分程であそこに到着するのではないかと予想した。まあ、このまま座っていても問題無かろうということで、立ち上がることなくそのままの姿で霊界への入口に向かうのだった。
そしていよいよ目の前に霊界への入口が迫って来て、かすみは期待に胸が膨らむのだが、その時突然彼女の足元と言うかお尻の下に、今まであった霊道の地面みたいなものを何も感じなくなった。そして次の瞬間、かすみは落下した。「うわー、もうあかん!」と死ぬ覚悟を決める間もなく目を瞑って何かに祈りだしたが、直ぐにお尻の下に何かが当り、落下する感覚がなくなった。あれ、もう死んだんか?と恐る恐る目を開けると、確かにまだ空中に居るのは分かった。だがゆっくりと下に向かっている感覚もある。そこで、ゆっくりと下に目線を向けると、何やら霊道で作られた滑り台のような物に乗っているような感覚を味わった。尤も、下に向かうも前に進むも非常にゆっくりではあるが。その時かすみは、地面から霊界への入口までの高さが20メートルかそれ以上はあると見た。もしあそこからそのまま落っこちていたら、かすみは即死だったかもしれないと思うと、かすみは背筋が凍る思いをした。だがその後無事に地面に到着したかすみは、直ぐにスマホを取り出した。圏外表示が消えて、通話可能状態にあることを確認した途端、かすみは神室霊華に電話を入れた。暫くコール音が鳴った後で、神室霊華が慌てて電話にでたようで、
「か、か、かすみさん、無事なんですね?
今どこに居るんですか?」
と立て続けにかすみに問い掛けたので、かすみはまずは落ち着くように伝え、一旦電話を保留にして、今いる場所を地図アプリで確認した。そして廃団地から南西方向10キロの所にある畑の中にいることを伝えた。残念ながら辺りが暗くなったためそこが何の畑かは分からないが、とりあえず神室霊華が「今から迎えに行きますね」と言って電話を切った。かすみもどこか目立つ場所を探すも、辺り一面畑であるため、先ずは近くの道路に出ることを考えた。スマホの地図によるとこっちの方が廃団地から来る神室霊華と遭遇しそうだと考えて、その方向に少し歩くことにした。
30分程すると1台のキャンピングカーがかすみの前方からやって来た。そしてかすみを見つけたのだろうか、キャンピングカーは速度を落としてかすみの傍で停止した。そして助手席から急いで神室霊華が降りてきて、「師匠、お帰りなさい!」と言ってかすみに抱き着いてきた。
「師匠、心配しましたが、
無事な姿を見てホッとしました」
「霊華さん、心配かけてゴメンね。
まあ、尤もうちとしては結構楽しかったけどね」
「遠足みたいやったわ」とかすみが言うと、「おやつは300円以内にしてましたかしら?」と何時ものおっとりした調子で聞き返す神室霊華である。かすみは「そや、おやつ、すっかり忘れてたわ、ははは」と笑い、神室霊華もつられて笑い出した。そんな2人を運転席から不思議そうに眺めていたジーエックスの山崎は、
「あのー、お二方、そろそろ戻りませんか?」
と言うことで、かすみと神室霊華は揃ってキャンピングカーの居室に入り、お互いに何があったかの意見交換を行った。
神室霊華はかすみの話を聞き終えた時、改めてかすみと言う人物の凄さに強い衝撃を受けた。まず、普通霊道に入ろうとすることは考えないがそれを平気で行う。しかもその動機が単に「面白そうだから」である。そして極めつけは、
「かすみさん、恐らく人類史上初めて
霊道の中で居眠りした人として
歴史に名が残りましたね」
と言うように、普通は恐怖で気絶することはあれど、眠かったから寝た、と言う人は恐らく今後出てこないだろう。そして、恐らくかすみの行動はこのビデオカメラに全て収められているようで、もしそれを目にしたらどうなるだろうかと心配やら不安やら、でもどこか楽しくもあったりした。一応その場で最後の部分を見せてもらったが、確かにブロックノイズが激しくなりはっきり確認できない所があるものの、神室霊華の目には、沢山の霊体が霊道を通り、そして眼前に迫る霊界の入口に消えていく様子を確認した。これは恐らく凄い衝撃を世間に与えそうだと思うのだが、当のかすみはそんなことに全く関心がなく、むしろ
「くそー、何で最後にあっこで
落とされたんか、それが分からへん」
とぼやき続けていた。神室霊華が「何か必要な物が無かったのか、あるいは生者は元々駄目なのか、ですかね」と真っ当な意見を述べるが、かすみは
「いやー、あれは絶対門前払いっちゅうやつやで。
そやけど、まあ、あなたのような可愛い方は
お通しできません、やったら許すねんけどなー」
と何やら自分に都合のいい解釈をし出す。全くお目出度い方だと、ため息交じりに困った表情でかすみを見つめていたが、かすみは至って真面目にそう考えている所を見た途端、プスッと含み笑いを漏らしてしまった。
「もう、師匠、それが理由だったら、
私はそのまま素通りですよ」
とこちらもお道化た調子でかすみに訴えた。するとかすみは、ニヤニヤしながら
「せやなー!」
と否定しないため、神室霊華は「師匠、そこは否定とかされないんですか?」と呆れた調子で抗議した。これにはかすみも更に調子に乗り、
「おや~、霊華さん、自分が可愛いと
思ってますのやね~?それやったら、
どうして素通りできると
思ったんでしょうかね~?」
と増々ニヤつきながら神室霊華に迫った。神室霊華もかすみの罠に嵌ったことを知り、慌てて「いいえ、そんなことありません」と謝りだした。かすみもとりあえず、神室霊華を弄って満足したようで、後は神室霊華から廃団地の状況を聞くことにした。そして、
「そやね、その場所がもしかしたら
元凶なんかもしれへんね」
と感想を伝えた。まだ定かではなく、あくまでも今の時点でかすみと神室霊華が考えるシナリオとしてだが、どうやら昔からその辺にはかすみが通って来た霊道があったようだ。それがかすみと神室霊華が目にしたように、霊道の一部が住宅に差し掛かるようになる。その結果、そこに足を踏み入れた住民は神隠しに遭うとか、霊的な何かに襲われる、遭遇するとか、そう言った怪現象が起きたのではと考えた。では、霊道がなぜそのような挙動をするのかと言うと、恐らくそれを操作するというか、引きつける強力な何かがあると思われる訳で、それが神室霊華が感じた存在ではないかと推測されたのだ。