召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿7: 夏合宿 in 北海道 (第6幕)
物部かすみを乗せたキャンピングカーが廃団地に戻って来た。丁度廃団地では、夕飯のカレーライスの準備が終わってこれから皆で夕飯を摂るところであった。そしてキャンピングカーのキャビンからかすみと神室霊華が姿を現すと、その場で待ち侘びていた心霊サークルの部員達とジーエックスのスタッフはかすみの無事な姿を見て、涙を流してかすみと抱き合ったり、あるいは歓声を上げて喜びを爆発させたりと、この場に相応しくないちょっとしたお祭り騒ぎになってしまった。そしてかすみはと言うと、お腹が空いたと言うことで、早速全員揃ったところで夕飯となった。
夕食後、かすみは改めてその場にいる全員に向かって、先ずは心配かけたことに対し謝罪をした。そしてその後何があったのかについて掻い摘んだ説明をした。そして、
「山崎さんから預かっていたビデオカメラにも
霊道内の様子は映ってるので、
後で確認してください」
と言ってかすみから手渡されたビデオカメラを山崎は両手で大事に受け取り、早速キャンピングカーに備え付けの液晶テレビを外に持ってきて、ビデオカメラと接続し、最後の30分程ではあるがそこに居る全員で鑑賞することにした。
さてビデオを見終わって数分程経つが、誰一人として声を上げず、今は最後の映像の所で静止しているテレビ画面を只管皆で見つめ続けた。その映像は、それ程に強く激しい衝撃を彼らに与えた。そして漸く上本ハンナがかすみに向かって先ずこう尋ねた。
「かすみさん、これって......
かすみさん浮かんでますよね?」
おーい、そこかーい、とツッコミそうになったかすみだが、まあ確かにあの無数と言う数の霊体は自分と神室霊華しか分からないか、と思ったので、かすみは「ええ、どうやらそんな感じですね。ただ」一応霊道内でも床と言うか地面はあったので、浮かんでいる訳ではないとことは伝えた。そして、
「後ですね......多分所々で何か映るんですが、
あれって霊体なんでしょうか?」
ははーん、そうか、普通の人にはそれ位しか見えてなかったんか、と言うことで、少し画面を戻してもらい、もう一度再生してもらうが、今度は霊視グラスを渡して鑑賞してもらった。すると、「キャー!」という絶叫が上本ハンナの口から飛び出したと思った途端、気を失って倒れてしまった。あちゃー、刺激が強すぎたか、とかすみは反省するのだった。一応、見たい人を募って霊視グラスを渡し、再度鑑賞してもらったところ、ほぼ全員が気絶とはいかないが、吐き気を催したのかフェンスに向かって走り出し、その場で嘔吐した。それ位に強烈だったということだ。なぜなら、その映像には手足の千切れた霊体、首のない、あるいは首が捻じれた霊体など、生前どのような姿で亡くなったかが分かるような霊体が画面を埋め尽くすように現れ、そしてそれら全てが前方の霊界の門に吸い込まれていたからだ。尤も、それらの霊体は一度霊界に入れば普通の姿になるようなので、かすみも神室霊華も安心して降霊召喚出来るのだが、もしここに現れた姿の霊体が降霊されたら、流石に精神が変になるかもしれない。尤も、心臓に毛が生えているかすみと最神玲は多分何とも思わないだろうが。
さて、衝撃映像を目の当たりにした者達の介抱を手の空いた者達にお願いし、かすみと神室霊華は既に2人とも感じているその場所の様子を見に向かうことにした。流石にこの地には昔の木製の電柱は幾つか残っているものの、当然電気は通っておらず、そのため団地全体が暗闇の中に沈んだ感じである。そんな時、かすみはLEDライトにするかあのキモイ暗視ゴーグルにするか迷っていた。と言うのも、この暗闇の中、もしまた霊道が下に降りて来た場合、果たしてLEDライトで見えるのか、あるいは暗視ゴーグル方が確実なのかが分からないためだ。そこで、かすみはキモイ暗視ゴーグルをつけ、神室霊華にはLEDライトで照らしてもらうことにしたのだが、神室霊華はそのゴーグルを見るのが初めてであり、かすみに、
「かすみさん、それは何ですか?」
と興味津々になって尋ねてきた。かすみは、玲から教えてもらった軍事用の暗視ゴーグルであることを説明しつつ、「何やろ、見た目めっちゃキモイやんか。そやから、うちはキモイ暗視ゴーグル言うてんねんよ」と言うことも忘れずに付け加えた。そして、「何なら後で術式を教えとくね」と言うことで、神室霊華もそれを楽しみにしたのだった。そして、結局の所どちらでも正しく認識出来ることが分かったので、以後はLEDライトで照らして問題ないとした。
かすみと神室霊華は、頭上に横たわる霊道の真下を、時折浮遊霊が霊道から降りてくるのに注意しながら、問題の廃屋へと足を運んだ。そして扉を開けて入ろうとした時、彼女たちの背後から「待ってください」と声を掛けられた。顔面蒼白で覚束ない足取りの上本ハンナとディレクターの山崎である。そして、山崎からは
「行くときは、私たちにも声を掛けてくださいよ」
と不平を募られてしまったが、かすみもその点に関しては謝罪しつつ、だが
「うちらとしても、先ずは先行して
安全かどうか確認する必要があったんでね」
と上を指差してそう答えた。要するに、霊道の真下を通ることの安全性である。これには、確かに安全じゃない状況で同行しても、却っていになると思った山崎と上本ハンナは、かすみの意見に反論するどころか、彼女達の対応に感謝したのだった。そして序だからと言うことで、かすみはジーエックスのスタッフと共に、問題の廃屋に入ることにした。
その建物は、この廃団地にある他の炭鉱住宅と同じ作りであるが、LEDライトで足元を照らしながら中に足を踏み入れたかすみは、その先にある物にLEDライトを向けそれを目にした途端、足が竦んでしまいその場から動けなくなった。
「かすみさん、どうされたんですか?」
と神室霊華は心配になりかすみにそう話しかけたが、かすみはただ首を振るのみ。そして、かすみはその場に降霊転移門を設置した。目の前に突然現れた降霊転移門を見て驚いた神室霊華は、かすみが手にしたLEDライトが照らす先を見つめていた。ただし、その光の環は小刻みに震えていたのだが。そして確かにそこに何かあることは分かるのだが、暗くて良く見えない。当然彼女たちの後方にいるジーエックスのスタッフ達は、かすみが動けなくなったことに対して、前方にかすみさえもたじろがせるほどの何かが居るのかと思った途端、自分達も足が竦んで動けなくなった。そんな後方の者達の思いを知ってか知らずか、かすみはある話を始めた。それは、2年程前にあったワールドクローズ社長の若林成政の孫が一時危篤状態になった事件の時に遭遇した廃神社での出来事である。その時に遭遇した漆黒の闇を湛えるような真黒な霊体、あれと同じものがそこでじっと彼女達を見つめていたのだ。そしてかすみは、その霊体の奥に何やら祭壇らしきものを目にしたため、そこにLEDライトを当ててみた。すると、
「なんなんあれ?なんかの祭壇か?」
と呟くように、その霊体の後ろには祭壇と言うか祠の一部が見えた。どうして家の中にそんなものがあるのか?疑問を感じるがそれに答える存在はこの世にはない。確かあの時も、れた神社のご神木に宿ってたよな、と思い出すと、どうやら信仰が廃れた後に残される残滓と言えなくもない。
その時、かすみの後ろに控えていた上本ハンナが恐る恐るかすみに尋ねてきた。
「か、かすみさん、あそこ、
何か凄く黒いというか
光を反射しないんですが...」
そこでかすみは霊視グラスを上本ハンナと山崎に渡した。しかし彼らが霊視グラスをかけても、そこには漆黒の闇があるのを目にするだけだった。その時、その闇が何やら動き出そうとしたため、上本ハンナは「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。尤も、どんなに霊力が強い霊体でも降霊転移門からは逃れられない。そのため霊体は只管もぞもぞするだけで終わるのだが。さて念のためにかすみは、その霊体に対し名前を尋ねた。
「・・・」
やはり駄目か。とりあえずこいつを強制退場させる必要があるが、折角なので神室霊華にこの存在の恐怖を覚えてもらおうと、彼女にこの近くに青々と茂った葉っぱのついた枝を探して欲しいとお願いした。神室霊華は不思議に思いつつ、師匠の言いつけだということで外に出てそれらしい物を探し始めた。そして10分程してから、神室霊華は先端に緑の葉が数枚残った長さ1メートルほどの枝を持ってきた。そしてその枝をカメラに収めてから神室霊華にその緑の葉をあの黒い霊体に近づけてと言われたので、彼女はかすみの指示に従ってその緑の葉を近づけた。すると、
「え、え、う、うそ、は、葉っぱが、
い、一瞬で、へ、へ、変色したのですが...」
と動揺を隠せない表情でかすみにそう訴えてきた。その状況をビデオに収めていた山崎も、口をあんぐりと開けたままその場で固まってしまった。「これが先程かすみさんの仰っていた存在のせいなのですね」とかすみに問い掛けた訳でもなく、神室霊華は1人そう呟いた。やはりあの時の奴と同じだったんだと確信を持ったかすみは、神室霊華を下がらせてから直ぐに降霊転移門を開いて強制的に霊界に送り届けた。するとその霊体が居た後方に、その場所が何かの儀式をするための部屋だったことを示すものが現れた。そこにはが張られ、その奥にお札らしきものが安置されていた。かすみはゆっくりとそこに近づきそれが何かを確かめた。すると、
「これって...」
と言ったきり、かすみは無言になった。神室霊華はかすみの後ろからそれを見たが、何やら複雑な絵文字と言うか図形を読み取った。
「かすみさん、これに何か
心当たりがあるのですか?」
とかすみの耳元で囁くと、かすみは頷いた。そして、「これは多分玲にしか分からないと思う」と言って、かすみはそれを鞄に仕舞った。そのとき、山崎がかすみに向かって、
「物部さん、それを何か見せてもらえますか?」
と尋ねてきたので、かすみはカメラをまず切って欲しいとお願いした。山崎は不信に思いながらもかすみの要求通りカメラの録画を切った。それからかすみはカバンの中からそれを取り出して、山崎と上本ハンナにそれを見せた。そして、
「ここには、特殊な呪術が書かれています。
内容は私には分かりませんが、
もしこれが世間に公開されると...」
恐らく悲劇が生じるだろうと指摘した。そしてこれを読み解いて完全に無効化出来るのは、
「うちの相方の最神玲だけなんです。
なので、これを持ち帰って
お祓いすることにします」
と言うのだった。尤も、玲もかすみもお祓いなどできないのだが、この場合はその方が都合がいいことをかすみは理解していた。そして山崎としては、それを渡して欲しいと要請する権利はあるのだが、それをして果たして自分達に利益があるかと言うとそれは絶対ないと確信している。それよりも、無理を通すことで物部かすみ、神室霊華、そして最神玲の3人から警戒されるとか、相手にされなくなることの方がデメリットが大きいと判断して、山崎はかすみの申し出に同意した。
さて、一度外に出た4人は、これからどこに泊まるかについて相談を始めた。そんな時、ふと神室霊華が空を見上げると、
「かすみさん、無くなってます!」
といきなり大声で叫んだ。かすみもビックリして神室霊華の目線の先を辿ると、
「へぇー、見事に消えたやんか。
やっぱ、あいつが原因やったんやなー」
と呑気な声で答えた。山崎と上本ハンナは、お互いに見合ってお手上げポーズをするが、かすみから説明を聞いて、更に霊視グラスを借りてその光景を目にしたことで納得した。今まで彼らを悩ませ苦しめてきた霊道が空中から消えたのだ。そして、これにより、山崎が上司の命令で請け負った仕事は今この時に完了したのだった。
「山崎さん、よかったね~。
後はうちらの手当の増額やね~」
とかすみはニコニコしながら山崎に迫った。「わ、分かりました。その点は物部さんが納得いくように対処します」と頭を下げながらそう伝えた。
さて、当初の企画通り、これから一晩この廃団地にある炭鉱住宅で泊まることになったが、既に怪異は取り除かれたため、かすみも神室霊華も安心して宿泊できたのだった。だが念のため、降霊召喚門を設置することは忘れなかったが。