召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿後半戦 (第2幕)
M Mの3人が旅館に到着してから15分程した頃、玄関に沢山の荷物を抱えた十数人程の集団が現れた。すると物部かすみは、その集団を見た途端、「あっ、呪いの動画の人達や!」と声を上げた。特にかすみがビデオで見ていた人物がそこに居たため、彼女のテンションは上がって来た。そして佐伯えりが代表して呪いの動画のスタッフの所に赴き、簡単な挨拶を行った。ところで、最神玲と神室霊華にはその集団のことは全く分からないため、玲は神室霊華に「神室さん、どなたかご存じの方とかおられますか?」と小声で尋ねるが、神室霊華も「いいえ、全く存じ上げません」と答えると、「そうですか、安心しました」となぜか玲は安堵の表情を浮かべた。少なくとも玲としては同じ境遇の仲間がいることで少しホッとしたようだ。そして神室霊華もそんな玲の表情を見て微笑むと同時に、「自分も安心しました」と呟いた。
それから玲達が居るロビーにやって来て、お互いに自己紹介することになった。流石に学生たち全員の名前を覚えられるかと言うと難しいため、また後程となった。そして、佐伯えりから「サークルの顧問を務めてもらってます先輩方です」とM Mが紹介されたが、やはりと言うか、神室霊華の姿を見た途端、
「あ、あのー、失礼ですが、
神室霊華様でしょうか?」
とプロデューサーのが尋ねてきた。そこで神室霊華が、微笑みながら「はい、そうです」と答えたため、呪いの動画のスタッフ達は一様に驚きの表情に包まれた。そしてかすみはと言うと、本当であれば「本物の神室霊華ですよ~。うちの玲が女装してるわけちゃいますよ~」を言いたかったのだが、言うタイミングを掴められず、少し、いや、かなりがっかりしていた。そんなかすみはほっておいて、玲も自己紹介をした。そしてかすみは
「M M超心理学研究所の代表をしてます、
物部かすみです。えい...」
と調子に乗ってあの「永遠の18歳です」を言おうとしていたようで、玲はかすみの口元を急ぎ抑えた。一方の神室霊華は、急ぎ目を瞑って耳を塞いだ。そんな様子を見ていた呪いの動画のスタッフ達は、一体何が起きたのか分からず唖然とした表情で佇んでいたが、玲がかすみに「かすみ、それ言ったら、神室さんの調子が狂うから」と説教し出した。かすみも調子に乗り過ぎたことを反省し、神室霊華に「ゴメンな、霊華さん」と謝った。それから玲は、スタッフに簡単にだが事の次第を説明した。
「すいません、こいつが調子に乗って
決め台詞を言おうとしたのですが」
それを言うと、神室さんのツボに嵌ってしまって収拾つかなくなるんです、と玲は平謝りであった。その時、
「あのー、もしかして雑誌に出ていた
関西の面白い女性って
物部さんのことですか?」
とリポーターのケイが質問してきた。彼女は呪いの動画の現在の花形リポーターで、かつ東京都内の国立大学に通う現役の学生である。しかもこの分野では、映像制作会社ジーエックスの上本ハンナと人気を二分する存在らしい。そして今回参加している心霊サークルの男子部員は、彼女に一目会いたさから参加している連中もいるというのだ。後程この話を耳にしたかすみは「ここは心霊サークルだっちゅうの」と少しお冠になったことは、まあ予想通りであった。さて、箕山ケイの質問に対し、神室霊華が「はい、そうなんです」と答えたことで、女性スタッフ達は「おー」と驚きの声を上げたのだ。玲の頭の中では「何だこの展開は??」であっただろう。そして、やはり気になるのは、
「失礼ですが、神室霊華様が
このM Mの代表ではないのですか?」
とディレクターのが名刺を見ながらそう尋ねてきたので、神室霊華は、
「いいえ、私はここにおられる
かすみさんと玲さんの下で働いております」
と答えた。すると、やはりと言うべきか、まあ何時ものリアクションになる訳で、皆一様に不思議な表情を浮かべるのだった。そこで神室霊華は、かすみの所で効率のいい除霊と降霊術を学んだことを話し、彼らの組織に所属して今に至ることを説明した。まあ、納得するしないに関係なくこれは事実であるし、それで誰かが困る訳ではないので、玲もかすみもこれ以上の説明をする気はなかった。
とりあえず自己紹介が終わったところで、各自部屋に荷物を運び、その後一緒に昼食を摂ることになった。ちなみに、M Mはと言うと、
「はぁー?またうちら3人同じ部屋やて。
なんでやねんなー」
とかすみがぼやき出した。一方の神室霊華は、
「師匠、別に宜しいのでは。
この間の慰安旅行も何もなかったわけですし」
と言うのだが、玲としては何やら複雑な心境だろう。もし何かあったら、自分はどうなっていたのだろうか?
そんなことを考えながらM Mの3人は、指定された部屋に入った。案の定というか、普通の温泉旅館であることを考えれば、こういう間取りだよな、とはかすみの感想である。そして、直ちに
「玲、玄関で寝や!」
であった。流石にこれは酷いということで玲は抗議した。そしてそんな玲に加勢したのが神室霊華である。
「師匠、それは酷いですよ。
別に一緒の部屋でも問題ないでしょう」
と言うのだが、かすみとしては、学生が居る手前、男女同部屋が果たして良いのか、と言うことを心配していたのだ。だが、
「逆に、僕が他に移ったら、
それこそ僕が変態なんだ、
みたいな目で見られかねないよ」
と自分のことを心配し出す。まあ、確かに玲の言い分も分かる訳で、かすみもそれはちょっと可哀想やな、と言うことで、玲は玄関に極力近い所にまで布団を持って行って寝る、で妥協した。
さて、一難去ってまた一難な玲であったが、とりあえずジャケットを部屋に置いて、かすみと神室霊華と一緒に昼食会場のレストランに向かった。途中で心霊サークルの上級生達と久し振りに再会し、世間話をしながら歩いて行くと、今度は呪いの動画のスタッフ達とも合流した。そして彼らは早速神室霊華に心霊現象に関する話しを色々と尋ねたりし出した。かすみからすると「まあ、うちらの誰に聞いても変わらへんねんけどね」なのだが、ぽっと出の玲とかすみよりも、やはり有名人と話をしたがるのは世の常であろう。そして神室霊華と繋がりが得られれば、今後彼女が中心の企画を立てたりできる訳である。やはりライバルであるジーエックスの存在が大きく影響しているのだろう。
昼食会場となるレストランでは、ある一角に[呪いの動画制作委員会様]と書かれた立て看板があり、その付近のテーブルには[予約席]のプレートが置かれていた。どうやら今日の昼はその予約席で全員が昼食を頂くようである。ただし、好き勝手に注文するのではなく、既に箱弁当がテーブルの上に用意されていたので、それを食べるようだ。そして座席は指定されている訳ではないので、適当に散らばることになった。ちなみに、神室霊華は心霊サークルの女子達に呼ばれてそちらに向かい、かすみはと言うと同郷のや一年生部員数名と何やらお笑い談議に花を咲かせていた。そして玲は、目立たない端っこに座った。玲の場合、ぼっち飯でも全然問題ないので、早速弁当の蓋を開けて食べ始めた。箸でご飯を口に運んだ時、「ここ宜しいでしょうか?」と尋ねられたが、玲はご飯を頬張っていたため、軽く会釈するにとどめた。彼の前の席には、呪いの動画のスタッフの1人、リポーターの箕山ケイの姿があった。そのうち、呪いの動画の他のスタッフ達もそのテーブルに集まって来たので、玲のぼっち飯は終了となった。そして改めて自己紹介をしたのだが、はやり呪いの動画のスタッフからすると、この青年とあそこの女性がなぜ神室霊華を部下にしているのか、そこが疑問であったようだ。ただし、玲としては、
「先ず誤解のない様にお伝えしますが、
神室さんは僕らの部下ではないです。
どちらかと言うと、彼女の立ち位置としては、
暖簾分けして独立しているという感じですね」
言い換えると、自分達の技術を身に着けたパートナー、と言うことだと説明した。ただし、
「あそこに居るかすみは、
神室さんの師匠になりますので、
そこには師弟関係はあります」
その時、隣に座ったプロデューサーの伴が、
「失礼ですが、最神さんでしたか、
昨年のジーエックスの心霊怪動画蒐に
出ておられたのではないでしょうか?」
と尋ねてきた。そこで玲は、「はいそうです」と答え、後は何も隠すことは無いので、当たり障りのない程度にその時の様子を語って聞かせた。そして、
「どうやら、その動画が決め手で
神室さんはかすみの弟子入りを
志願されたんです」
ちなみに、かすみと神室さんは、それ以前にも会っていたようで、その動画は神室さんの決断を促したに過ぎないらしいですよ、と付け加えた。だがそんなことよりも、玲が淡々と除霊の件を話すのを聞いていた呪いの動画のスタッフ達は、皆一様に驚きの表情を浮かべた。確かにあの動画は普通に見ても多くの幽霊らしき存在を捉えているのは分かったが、彼らが懇意にしている霊能力者によると、もっとすごい数の霊体がおり、しかもかなり怨念の強い悪霊も何体か含まれており、それらが全て綺麗に除霊されたというのだ。これは普通の除霊では絶対できないとその霊能力者は断言していた。そしてそれを行ったのが、彼らの目の前で弁当を食べるこの青年であるというのだ。そして玲だが、どうしても一つ聞きたいことがあるようで、前の席で弁当を食べている箕山ケイに向かって、
「僕はそちらが出されている
[呪いの動画コレクション]とか
実は見たことないんですが、
あっ、ちなみに、相棒のかすみは
大ファンらしいですけど、それでですね...」
「呪いの動画ってあると思いますか?」と尋ねたのだ。これは「呪いの動画が無いのにある言うて商売してるんとちゃうん?」とかすみ弁でこうなると、そこには喧嘩をふっかけているニュアンスになるが、玲の言葉の意味としてはそんな挑戦的なニュアンスは一欠けらもない。むしろ本当にあったとしたらどうしますか?の答えを聞きたかったのだった。そしてどうやら玲の言葉のニュアンスから後者のことを感じ取ったのか、箕山ケイが
「そうですね、過去の作品に確かに
呪いの動画はあったと伺ってますし、
そもそもこの会社の始まりが
呪いの動画の存在ですしね」
と先ずは答案で言うところの満点の回答を披露し、
「ですが、本当に人を簡単に呪ってしまうような
動画とか映像があったとすると」
私たちではどうにも出来ませんね、と俯き加減でそう答えた。プロデューサーの伴も、
「それはうちの箕山の言う通りですな。
ただ昨年の春にリリースされた
心霊怪動画蒐の最終話は
そうだったと聞いてますが」
あれはどうなんでしょうな、と他人事のような感想を漏らした。そこで、玲はその時何が起き、そしてどう対処したかと言う話を彼らに聞かせた。そのとき、一緒に話を聞いていたディレクターの京田美和子が、
「あっ、あそこの、えーっと、
あのリポーターの、上本さんか、
あの人の隣でインタビュー受けてたのって」
「あっ、あれは僕です」
と玲はさらっと答えた。それで漸く合点がいったようだ。そうなると、
「ではやはり、あの動画は
呪われていたということですか?」
と再び伴が尋ねるが、玲は
「正確には、動画ではなく、
その背後に流れていた呪文ですね。
あれが悪霊を呼び出すんですよ。
ちなみにあの動画に映っていた
彼女はそこに居ますよ。
それとあの動画自体には全く何も
問題ありません。ただし...」
最後まで聞かなければ問題ないですよ、と事も無げにそう話した。いや、それよりもあの時の関係者がここに居るとなると、後で話を聞かなくては、と言うことでスタッフは声を潜めて確認し合った。しかし流石に玲の話は俄かには信じられないのであるが、確かに再リリースされたDVDではそんなことは起きてないと聞く。それは、
「ええ、呪文の最後の文言をカットすれば
問題ないですからね。
それを彼らに伝えたんですよ」
と玲は又もや事も無げにそう話した。一体この青年は何者なのだ、と言う疑問が彼らの中に巻き起こったのは事実だった。そんな時に呑気な声で話しかけてきた人物がいた。
「おや~、玲さん、何やら大人気ですな~」
物部かすみであった。どうやらお笑い談議が一旦終了したようで、玲が何やら話しているのを耳に挟んで早速茶々を入れに来たらしい。
「かすみ、邪魔だよ。しっしっ」
と追い払うも、かすみは知らん顔をして、
「あっ、京田さんですよね。
うち、京田さんのリポートしていた時の
ビデオを見て、この分野に興味持ったんですよ」
などと言って、早速自分の世界に入り込んでしまった。ところで、伴は先程から黙りこくって何やら思案していたのだが、当然他のスタッフ達には、その試案の内容は分かっていた。そして、
「最神さん、後で少し込み入った話があるのですが、
お付き合い頂けますでしょうか?」
と玲に向かって尋ねてきたので、玲は
「分かりました。一応うちのスタッフも
同行しますが問題ありませんか?」
と尋ねたが、それは問題ないということで、今晩の歓迎会の後で話を伺うということになり、彼らは昼食を終えたのだった。