召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿後半戦(第1幕)
総合大学心霊サークルの夏合宿後半戦が7月の3連休に行われることになった。事前に現部長である佐伯えりから連絡を貰っていた通り、後半戦の舞台は関東近郊にある元は病院か療養所のような廃施設と廃工場である。そしてこちらの宿泊は、何時ものキャンプ場のコテージではなく、温泉旅館だというのだ。どこまでも学生に優しくなった世の中と言うべきだろうか。尤も現地への移動に関しては、各自でお願いされているので、ここは何時もの心霊サークルっぽいな、とは物部かすみの感想である。そして今回は、M Mが初めて3人で参加することになった。だが最神玲は忘れているようだが、実はM Mになってから、玲とかすみが心霊サークルの夏合宿に初日から一緒に参加するのもこれが初めてであった。そこをかすみに指摘されると、玲は
「えっ、そうだったっけ?
かすみ、何か誤魔化してない?」
とかすみに挑戦状を叩きつけた。売られた喧嘩は値切らず言い値で即買いするのがかすみである。直ちに
「はぁ?玲さん、最初の年と昨年は
うちが向こうに行ってんねんで。
そんで、たまたま昨年は君が途中で
応援に来ただけやて、
初めから参加してへんちゅうの!」
とマキザッパを瞬時に召喚して、玲の頭と尻を叩き出した。
「あっ、もう、分かったよ、全く」
とぶつぶつ文句を言い出す玲だが、やはり正確にその辺のことは覚えておくべきだろう。そしてもう一人の参加者である神室霊華だが、勿論スケジュールは空けてあるので問題はない。そして関東近郊と言うことで、神室霊華は直接転移して行くという。まあ、今の彼女の召喚エネルギーであれば、美土路神社にも片道だけだが来ることは可能なので、そこは彼女の判断に任せることになった。
そしていよいよ7月の連休初日を迎えた。この日は美土路神社は小雨模様であるが、これから向かう所は、天気予報では真夏日になるという。そのため、かすみは入念に日焼け止めクリームを手と足と首周りに塗っていた。
「玲も塗らへんの?
日焼けするとメッチャ体に悪いで!」
と言うのだが、玲ではなく、その中身のカーンフェルトからすると、日焼け対策と言う概念がそもそもない。まあ、地球人でも、美容にい人を除き、男性で日焼け対策に熱心になる人は数が少ないと思うが、サモナルド人は男女問わず日焼け対策をする習慣はない。と言うのは、惑星サモナルドは太陽系で言うところの火星と同じ軌道で2連星のクリモアとクレアの周りを公転する。太陽が2つあることから一見すると太陽系に比べて倍の紫外線を受けるイメージに思えるが、実はそこまで紫外線にさらされることは無い。理由は定かではないが、一つ考えられることとしては、サモナルドは大気中の酸素量が地球よりも多い。そのためもしかしたらその分だけオゾン層が分厚くなり、紫外線の地表への到達を妨げているかもしれない。例えばケンタリア兵が夏の間毎日外の勤務をしていても真っ黒に日焼けした、という話は聞いたことがないため、やはり日焼け対策の必要性は感じられないのだった。そんなことで、かすみには丁重にお断りしつつ、玲はこれから転移する場所の確認を行うことにした。ただし、そこから車を召喚して移動するため、やはり目立たない場所、特に昨年の様に全く使われていない駐車場のようなところがベストなのだが。
「やはり、神室さんが言っていた
ここがベストだね」
と言うことで、転移場所は宿泊する[旅館]まで10キロ程の距離にあるの駐車場とした。待ち合わせ時間は午前11時であるため、玲は空いた時間に何時もの召喚術の研究を始めた。
「全く、君はよくも、まあ、
飽きずにそんなんばっかやってるな~」
とかすみは玲の部屋の入口から顔を覗かせて、玲に茶々を入れに来た。
「かすみ、準備できたんか?」
と玲は手元の術式を見ながらかすみに問い掛けた。「そんなん、もう終わってるわ」と言いながら、玲の部屋に入って来て、「全く、相変わらず散らかってるな」とぶつぶつ文句を言いながら、玲のベッドに腰かけた。そして、
「なあ、明日やねんけど、
うちらも別々に行動すんねやな?」
「うん、そうなるね」
「ほな、誰がどっち行くか決めとかへん?」
「僕はどっちでもいいけど、神室さんの意見も聞かないとな」と言うと、かすみは何やら面白く無さそうな表情になるが、確かに神室霊華を抜きで決めたりすると、彼女ぐれよるからな、と思い直し、「しゃあないな、後で決めるか」と言って、そのまま玲の部屋から出て行った。
ところで、事前に心霊サークル部長の佐伯えりから、当日の大まかなスケジュールは聞いており、それによると初日は昼に旅館に到着。その後旅館から車で30分ほどの所にある滝に向かう。そこは、知る人ぞ知る心霊スポットらしいのだ。それから少し寄り道して心霊スポットで有名な古いトンネルに向かう。その後旅館に戻り、今回はバーベキューはなく、大宴会場での歓迎会となる。2日目は、メインイベントの廃施設と廃工場に向かう。本当は両方を順番に向かいたいのだが、旅館から見ると方向は正反対になるらしい。そのため、部員を半分に分けて各施設をじっくり探索する、と言うことになった。そして最終日は、東洛市に向かう方向とは逆方向になるが、車で1時間程のところに自殺者が多いと有名な吊り橋があり、そこに向かってからその後解散となる。そしてかすみが言うどちらに向かうかと言うのは、2日目のメインイベントである廃施設か廃工場かどちらに行きたいか、と言うことである。ちなみにかすみの中では、廃施設=療養所=綺麗そう、廃工場=汚そうという先入観があり、本人の希望としては廃施設一択である。だがそんなことを言おうものなら、玲も「じゃあ、僕もそっちが良い」と言いかねない。勿論2人がそちらで、残りの廃工場を神室霊華に任せても良いのだが、それだと神室霊華がぐれてへそを曲げるのではないか、とかすみは危惧した。勿論そんなことを心配するくらいなら彼女を交えて決めれば良い訳である。ちなみに、3人が廃施設希望となった場合、かすみは迷わずジャンケンで勝負を決める心算でいる。理由は簡単で、玲に勝つ自信があるからだ。かすみも何年も玲と一緒に居ると、彼の癖というかそんな物を見分けることができるようになり、ジャンケンも本人は知らないようだが、実はあるパターンを持っている。それが分かったことで、ここ最近は玲に連戦連勝中である。そんな思惑がかすみにあることをつゆ知らず、玲は
「かすみ、そろそろ時間だから行こうか」
とかすみに声を掛けた。そして玲の部屋からM Mの夏用の制服に身を包んだ玲とかすみは、神室霊華との待合せ場所に転移して行った。
駐車場に転移すると、まだ神室霊華は来ていなかった。そこで玲は何時でも出れるように車を召喚した。今回は神室霊華が運転するということで、彼女の愛車と同じ外国製高級車を召喚することにした。恐らく乗り慣れた車の方が運転しやすいだろうという配慮からである。そして車の傍で待つこと5分。神室霊華が転移して来た。
「皆さん、お待たせして申し訳ありません」
と早速神室霊華は玲とかすみに遅れたことを謝罪した。
「全然大丈夫やで、霊華さん。時間通りやし」
とかすみは全く問題ないと神室霊華にそう伝えた。
「それよりも、少し長距離の転移だったけど、
大丈夫でしたか?」
と玲は神室霊華の転移疲れを心配した。
「それは大丈夫ですが、転移門でサーチするのに
少し手間取りまして」
と神室霊華は苦笑いを浮かべた。何があったのかと言うと、実はここから少し登ったところ、直線距離だと1キロ程だが山道だと数キロの距離を移動することになる場所に、似たような駐車スペースがある。玲も事前にその存在は確認していたので、念のため神室霊華には今自分達が居る所が待ち合わせ場所になることを伝えていた。尤も何か目印があれば良いのだが、残念ながらこの近辺にそれらしい目印はない。そして初心者あるあるではないが、転移門でサーチすると、慣れない場合、今どちらの駐車場を見ているのかが分からなくなることがある。そして神室霊華もまさにもう一つの駐車場をサーチしていたらしいのだ。だがそこには誰も見当たらないため、かなり焦っていたらしい。
「それでもう一つこちらの方があったよな、
と言うことを何とか思い出しまして、
サーチしたら...」
玲とかすみの姿を見つけたという。それで急ぎこちらに転移して来たということだった。
「てことは、うちら遅かったら、
霊華さんずっと向こうに居てた、
ということやな?」
「はい、そうなりますね。お恥ずかしい限りです」といてしまった。
「まあ、とにかく何度かやって
慣れるしかないですからね」
「あまり深く考えないことです」と玲にしては何やら適当っぽいアドバイスだが、実は玲もかすみも慣れるしかないということを実感しているので、ある意味これが正解なのであった。
無事神室霊華と合流した玲とかすみは、その後神室霊華の運転で目的地となる旅館紫陽苑へ向かった。神室霊華も愛車と同じ車のためか、華麗なるハンドルきでスムースに山道を踏破し、午前11時半には旅館紫陽苑に到着した。ところでこの旅館、名前にもある様に沢山のが咲き誇る旅館として有名である。ただ満開の紫陽花が見られるピークは5月の下旬から6月中旬にかけてであり、7月の3連休は残念ながら紫陽花は残っていない。そんな旅館紫陽苑の正面の車寄せを離れて奥の駐車場に向かうが、今回は一般の観光客も宿泊しているため、駐車場を見ても心霊サークルの連中が来ているのかどうかを確認することはできない。ただ、のナンバープレートの車が数台固まって駐車されていることから、恐らくもう既に着いていると思われた。そこで、かすみが念のため佐伯えりに電話を掛けることにした。
[もしもし、佐伯、うちらも着いたけどな、
今どこにおるんや?]
[物部先輩、おはようございます。
私たちも今着きまして、
旅館のロビーに居ます]
[分かった。じゃあそっちに向かうね]と言うことで電話を切った。そして「ロビーに居るみたいやから、急いで行こか」と言うことで、駐車場に車を停めて、荷物を持ってロビーに向かった。
M Mの3人が旅館の玄関からロビーに向かおうとした時、ロビーには既に数十人の若者たちが騒々しくしていた。見知った顔が居ることから、どう見ても東洛総合大学の心霊サークルのメンバーであることは直ぐに分かった。かすみは
「こりゃあ、声かけても聞こえへんな」
とポツリとそう感想を漏らした。だが直ぐに、
「玲先輩、神室霊華様! あっ物部先輩」
との声がしたかと思ったら、まっしぐらに彼らの所に駆け寄って来た。だがかすみは、
「おい、佐伯、何で相変わらず
霊華さんだけ様やねん!
うちら軽んじてんのか?
それと、最後の「あっ」は何やねんな!
『あっ、あいつもいたか』のあっなんか!」
と冗談とも本気とも取れるような形相で佐伯えりを睨み付けた。尤も口角は上がっており、口元だけを見ると笑っているようにも見えるため、果たして本気かどうかは定かではないが、そのうち何時ものと言うか、かすみと佐伯えりの言い合いが始まった。神室霊華は心配そうにかすみと佐伯えりを見守っていたが、「まあ、彼女達はほっときましょう」と玲は神室霊華にそう言って、神室霊華と一緒にロビーに向かった。そしてロビーでは、玄関に白い制服姿の3人が現れ、しかもかすみと部長が何やら言い合いを始めたことから、急に静まり返って様子を見守りだした。そして玲が、
「えーっと、僕らもチェックインした方が良いよね?」
と誰にともなく声を掛けたが、肝心の佐伯えりはかすみと言い合っている最中である。「仕方ない」と言って玲はかすみの所に戻り、かすみの後ろ襟を掴んで無理やり引き離しにかかった。
「こ、こらー、玲、何すんねんな!
まだあいつと決着ついてへんからなー!」
とかすみは叫ぶが、玲はかすみの頭に軽く拳骨を落とし、
「いい加減にしろ、かすみ、
ここはロビーだぞ、皆さんに迷惑だろう」
と至極真っ当な意見でかすみに説教した。かすみも確かにこんな所で騒ぐのは大人げなかったと思い反省し、何とか大人しくなった。そして玲は、かすみとのバトルで疲れ果てた感じの佐伯えりに、チェックインとかどうするのかを尋ねた。
「あっ、す、すいません、先輩、
取り乱してしまいまして。
えっとですね、チェックインは
既に終わってますので大丈夫です」
ということだった。かすみは相変わらず玲に後ろ襟を掴まれており、「玲、ちょっ、もうええやん、離してや!」と玲を上目遣いで見つめて懇願するが、玲は油断すると何するか分からない危険人物を見るような目つきで、「ダメ」と一言だけ言って離さなかった。そんな時に神室霊華がやって来て、
「玲さん、私が監視しますから大丈夫ですよ」
と言うので、玲はかすみを神室霊華に預けることにした。それよりも、神室霊華としては、かすみの暴走を手際よく抑えた玲に感動しており、自分では絶対あんなこと出来ないな、尤も自分の師匠に手を上げること自体考えられないけど、やはりあの場合はしっかり止めに入らないと、などと思いながらかすみの手をしっかりと握ったのだった。
「そう言えば、今回の取材チームの方たちは
いらしているのですか?」
と神室霊華が佐伯えりに尋ねた。佐伯えりは突然神室霊華から声を掛けられたことで、何やら動揺し出し
「あっ、は、はい、あっ、いいえ、
まだ、まだです」
と言った途端、かすみが「佐伯、どっちやねん?」とツッコミを入れてきた。佐伯えりもかすみのツッコミで冷静さを取り戻し、
「まだ来ておりませんが、
もう直ぐ到着するとの連絡は受けてます」
と言うことだった。そこで彼らの到着を待つために、心霊サークル部員はこの場に待機中と言うことだったのだ。