召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿後半戦 (第6幕)
元養護老人ホームの廃施設の探索を終えた物部かすみの一行は、近くの雑木林で発見した遺体に関する警察からの聴取を受けることなく、そのままお役御免で解放されたので、全員で旅館に戻ることにした。流石に複数の霊体に憑依されたためか、かすみは呪いの動画のスタッフのワンボックス車に乗り込むなり瞼が重くなってきて、終いにはそのまま寝てしまった。霊道の中でも平気で居眠りするかすみである、車の中の居眠りは、それは快適であろう。一方の呪いの動画のスタッフは、自分達の撮影した素材から使える部分がどれ位ありそうかをその場でチェックしていた。すると、ディレクターの京田美和子が、助手席の日比野太郎に向かって、ある動画の一部が写ったカメラのモニターを見せながら、
「日比野君、こっちの映像だと
この程度なんだけど、
そっちはどれ位映っていそう?」
と問われたので、早速自分が撮影した映像をチェックした。すると、
「おー、僕の方はそこそこ写ってますね。ほら」
と言って京田にその部分を見せた。それを見た京田は「これなら、十分使えそうだね」と満足な笑みを湛えた。そのうち、旅館紫陽苑に到着し、京田はかすみを起こして旅館に戻った。
かすみは最神玲と神室霊華がまだ戻っていないのかと思い、鞄の中からスマホを取り出し、玲に電話を掛けた。
[もしもし、玲、今どこなん?]
[もしもし、かすみか?お前寝てただろう?]
[はぁ?寝てへんわ!]と玲に文句を言うも、なぜ玲に寝ていたことが分かったのかが気になって仕方ないかすみである。まさか自分の周りに玲が召喚したスパイが潜り込んでいるのではないか?と疑心暗鬼になるが、それよりも
[で、今どこなん?]
と聞き返すと、今旅館に向かっている所だという。かすみは[そっか、じゃあ後でな]と言って電話を切った。
その頃、玲は車の中で今の電話の内容を神室霊華に伝えていた。すると神室霊華が
「玲さん、どうして師匠が
寝ていたことが分かったんですか?」
と尋ねてきたので、
「まあ、あいつ美土路神社の社務所で
よく昼寝をしていましたが、
寝起きの声は今の電話の感じなんですよ。
ホント、凄く分かり易いんですが...」
と苦笑いを浮かべ、更に「いきなり切れた所を見ると、どうやら図星だったようですね、ははは」と更に笑い出した。
「そうなんですね。
でも師匠も何事もなく
無事帰ってこられたのは良かったです」
と心底ホッとした表情になった。やがて玲と神室霊華を乗せた車も旅館紫陽苑に到着した。玲は早速かすみに[今旅館に着きました]とLINEを入れた。すると直ぐに[既読]が表示されたので、かすみは今か今かと彼らの帰還を待ち侘びていたのだろう。玲と神室霊華が玄関に入りロビーに向かうと、廃施設に向かっていた呪いの動画のスタッフ達がロビーで待っており、廃工場のスタッフと合流してお互いに無事の帰還を確認し合いながら労をねぎらっていた。それから5分程すると、かすみがロビーにやって来た。かすみの姿を認めた神室霊華は、早速
「師匠、御無事でしたか?」
とかすみに駆け寄って行き、そのままかすみに抱き着いた。かすみはがっちりと神室霊華に掴まれながらも「霊華さんも無事に帰って来れて良かったね」と神室霊華をった。一方の玲はと言うと、呪いの動画のスタッフの所に向かい、先ずは調査に関する労いの言葉をかけ、後は今日この後のスケジュールを確認した。今日は午後7時から今日の探索の慰労会を昨日と同じ宴会場で行うということのようだ。それまでは自由行動と言うことなので、玲はお礼を言ってからかすみと神室霊華の所に向かった。そして3人は自分達の部屋に向かうことにした。
部屋に戻るや否や、玲は畳の上に寝そべったかと思ったら、そのまま寝息を立てだした。やはり別の世界にいる神室霊華の気配に集中するために全神経をフル稼働させたためであろう。一方の神室霊華も本当なら玲と一緒でその場に横になりたいのだが、昼寝してすっかり気力を回復させたかすみに付き合わざるを得ないため、何とか我慢した。だがかすみは、そんな神室霊華の様子が少し気になり、
「霊華さん、もし横になりたいんやったら、
遠慮なく言うてな」
と神室霊華を気遣うので、「有難うございます」とお礼を述べてから、かすみに事の経緯を説明した。かすみは、神室霊華の余りに凄い体験を聞いてぽかんと口を開けて、目を丸くしたまま神室霊華を見つめていた。そして、何とか
「よ、よく無事に戻って来れたね、ホンマ」
と呟くが、神室霊華は
「全て玲さんのお陰です。
恐らくその時に気力を
使い果たしたのではないでしょうか。
だから」
部屋に入った途端、寝ちゃいましたね、と言って玲の寝相を見て微笑んだ。ちなみに、車の中では玲は全く寝ることは無かったが、恐らく神室霊華に申し訳ないから、と言うことで無理をしていたことを神室霊華は分かっていた。だから、今はそのまま寝かせておいてあげたいと思っている。その後かすみからも簡単に自分の所で起きた話を神室霊華に伝えるが、流石にそれだけの人を殺して、しかも何も捜査されてないというのが理解できなかったようで、その点をかすみに問い掛けるも、当然かすみもその答えは持ってない。ただ、
「結局ね、あそこの霊体達は、
そこを訪れる若者を
守っていた感じなのよね」
幽霊とか霊体の概念が全く変わってしまうよね、と笑いながら神室霊華にそう語った。その後、かすみは2組の布団を敷いて一方で神室霊華を横にならせ、もう一組は玲のためかと思いきや、「これはうちが昼寝するためやねんで」といって、自分で敷いた布団に横になって、また昼寝を始めた。一体どれ位寝れば気が済むのか分からないかすみであった。
昼寝から最初に目覚めたのは玲であった。やはり畳に直に寝ていたため、体の節々が悲鳴を上げていたが、それよりも、
「おいおい、かすみの奴、また昼寝か。
一体どんだけ寝れば気が済むんだ!」
とかすみの寝姿を見てそう嘆いた。それから部屋の時計を見ると、午後6時半を少し過ぎていたので、そろそろかすみと神室霊華を起こして慰労会に向かう必要がある。まずかすみに対し、耳元で「おーい、かすみ、起きろよ。そろそろ食事の時間だぞ」と伝えた。食事と聞いたことで目覚めたかどうか分からないが、目をりながら、「あー、玲、おはよう」と朝と勘違いするような挨拶をしてきた。それからかすみに隣で寝ている神室霊華を起こしてもらうが、こちらは中々起きない。確かに、召喚エネルギーを手に集中させるというのはかなり大変な作業であることは玲も分かっており、それを何とかやり切ったのだから、疲れて寝ていることに対し、何も文句は言えない。仕方ないから、ギリギリまで寝かせておくとして、かすみは玲にあることを尋ねた。
「玲、霊華さんに降霊転移門教えたんやろ?」
「あー、保険としてね」
「ところでな、玲、
霊華さんって降霊転移門使えるんか?」
「ん!?」と一瞬玲の思考が停止した。そして次の瞬間「うわー!そっかー、忘れてたー!!」と叫び出した。すると玲の叫び声で漸く目を覚ました神室霊華は、目を擦りながら「皆さん、どうされたんですか?」と尋ねてきたので、かすみが神室霊華の降霊転移門に関する問題点を指摘した。玲はれながらも、
「てっきり、かすみが霊界に
連れて行っていたと思ったけど...」
と何やら言い訳を始めるが、そんなことを許すようなかすみ様ではない。かすみも、
「あのな、玲、うちは召喚術に関しては
玲の意見を忠実に守ってんねんよ。
玲に相談せず霊華さんをそんなとこに
連れて行くわけないやろー!」
と怒り出す始末。これには玲も「はい、御尤もです」と項垂れて、かすみに謝罪するのだった。それよりも神室霊華は自分のことが話題になっていることは分かっているが、一体何が原因なのかがわからず、ただ二人のやり取りを見守るしかなかった。そのうち、かすみが神室霊華に現状のままでは降霊転移門は使えないことを説明し、それを使えるようにするには、神室霊華を一度霊界に連れて行く必要があることを伝えた。
「要するにね、霊華さんに
一度死んでもらうんよ!」
ひひひ、と言う笑い声は無かったものの、かすみの顔には下卑たニヤケ顔が張り付いていた。神室霊華も一度死んでと言われると、やはり緊張したようで、喉がカラカラになって舌が歯にくっ付いてしまい、結局「は、は、はひ」と返事をしてしまった。尤も今直ぐではなく、近いうちにそうするということで、今日の所は無事このまま生き続けるようで安心した。そして、
「あっ、慰労会に行かないと時間が...」
と言って部屋の時計を見ると午後7時を過ぎていた。そこで3人は急ぎそのままの格好で部屋を後にした。
結局M Mの3人は10分遅れで会場に到着した。今は丁度プロデューサーの伴辰巳の挨拶中で、これから乾杯の音頭をもらって宴が始まるところであった。M Mの3人は、そんな挨拶中に遅れたことを謝罪しながら、適当に空いたテーブルに3人は着席した。その時、挨拶中の伴が
「丁度、今回の探索のメインゲストが
到着されたので、
私の挨拶はここまでにして」
と言って、手に持ったグラスを掲げ
「皆さんお疲れさまでした。
今宵も楽しんでください。カンパーイ」
と伴の乾杯の音頭で慰労会は始まった。
今日の慰労会のメニューはバイキング形式である。そこで各自大皿を手にして料理を盛りつけ、只管疲れを癒すために飲んで食べるを楽しんだ。そして慰労会の後半は、本来であれば今回の取材映像を見ながらそこに何が現れたかを解説するスペシャルトークショーなる企画を開催する予定であった。だが一部編集用機材のトラブルがあったため、止む無く予定を変更して、近日中に発売予定の最新DVDの鑑賞会となった。心霊サークルの部員達は、どこの誰よりも早く最新の[呪いの動画コレクション]を見れると興奮状態であった。ただし、折角なのでM MにそのDVDの内容について評価やコメントをお願いされ、結局代表して神室霊華がステージ上で行うことになった。そのDVDは全部で5つの話で構成されていた。前半の動画は十分に恐怖を感じるようで、心霊サークルの女子部員の中には「ひっ!」と驚く声がそこかしこから聞こえてきた。M Mの3人のうち、かすみと神室霊華はつい4か月ほど前に心霊サークルの動画コンテストで作品審査をしていたが、明らかに素人の選ぶ投稿作品とプロが採用する作品とでは雲泥の差があることを目の当たりにした。恐らくあの時の最幽秀賞と幽秀賞だけしか採用されないだろうな、と感じたのだった。一方の玲は、こういう作品を見ることが無いため、改めてこの手の動画を見て、「こういうパターンで現れることがあるのか」とか「こういう感じの霊体もいるんだな」などと1人で感心しきりであった。
そんな時、ある動画が再生されたが、暫くすると玲の動きが止まり、画面に目が釘付けになった。そしてそんな玲の傍にかすみがやって来て、玲の耳元で「あれっ、めっちゃやばない?」と囁いた。玲は画面を凝視したまま、うんと頷くだけであった。当然ステージ上の神室霊華は、同じ状況を見ており、両手で口元を覆いながら明らかに動揺しているというか、目が泳いでいたが、恐らく動揺している状況は玲とかすみしか分からなかっただろう。やがてその動画の再生が終わった時点で、司会の箕山ケイが神室霊華にコメントを求めた。神室霊華は何とか落ち着きを取り戻し、それから一つだけ尋ねた。
「あの撮影されていた方は
無事なんでしょうか?」
神室霊華から思いもよらない質問をされたことで、箕山ケイは一瞬キョトンとした表情になった。実は映像としては普通に撮影者が友人と心霊スポットに向かい、そこで動画を撮影している風景である。そして友人の傍に幽霊が写り込んだという類の動画である。見た所、極有り触れた感じの動画であるが、どうやらM Mの3人には別の何かが見えたようだ。そして神室霊華の質問の意図を把握しかねている箕山ケイに代わり、ディレクターの藤波が
「いいえ、残念ながら今は全く音信不通です」
まあ、こういう事は良くありますから、と言うことを付け加えたが、神室霊華はここに見るもましい霊がおり、それが今この瞬間に撮影者に襲い掛かっているということを説明した。そのときかすみと玲が何個か霊視グラスを召喚し、それを持って箕山ケイと藤波に渡して掛けてもらった。残りを学生たちに渡し、順番に見てもらうことにしたが、霊視グラスを掛けた途端、あちらこちらから驚きの悲鳴が上がった。そして箕山ケイと藤波は、予想もしない光景を目の当たりにしたことから、唯々ぽかんと口を開けたまま、目を瞬いていた。そして何とか正気に戻った藤波が、
「神室様、こ、この動画は
どうすれば宜しいでしょうか?」
と尋ねてきたが、別段見ている者に対して何か悪さをすることは無く、ある程度能力を持ったものにしか分からないため、特にこのままで問題ないですよ、と神室霊華はそう伝えた。今から差し替えなさい、と言われた時にはどうしようか判断に迷うところだが、この動画自体に呪術的な効果がないことが分かり、その点は安心したようだ。その後残りの動画についてのコメントを神室霊華から貰い、動画終了と共にその日の親睦会は終わりとなった。