召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華の異世界探求録1の巻 (後編)
神室霊華が車の中でカフリングを通じて最神玲に情報を伝えていたその同じ頃、玲の引率する一行は、建屋内側の発電プラントを囲むデッキ上で探索中であった。そんな時、ディレクターのが、もう一方の神室霊華のチームの状況を確認すべくケイに電話をしたところ、全く繋がらない。そして
「最神さん、うちの箕山と
連絡が取れないんですが...」
まさか、彼女達は行方不明になったりしてませんよね?と心配そうな表情で藤波が尋ねてきた。尤もプラント内に自分達がいることから、これらの配管や装置が干渉して通話できないことは考えられた。玲は神室霊華からカフリングを通じて彼女達一行の状況を把握しているものの、そんなことをにも出さず、手元にスマホを取り出し神室霊華に電話してみた。当然繋がらないことは分かっており、10コール程後に電話を切って、「ダメですね。繋がりません」と藤波に伝えた。他の心霊サークル部員達も、友人や後輩達に電話をするも、誰も繋がらないという。そうなると、ここにいる一行全員が何やら不安に駆られだし、「も、も、もしかして、ぼ、僕らの方が行方不明とかでは、な、ないんでしょうか?」と訴えだしたりした。だが、手元のスマホを見て通話可能圏内にいることは分かっており、その場の仲間同士で電話しても繋がることから、自分達は少なくともこの世界におり、更に行方不明になっているのではないことが分かり、それだけでもかなり精神的には落ち着かせる効果があった。だがそうすると、神室霊華の一行がますます心配になるのだが、そんな時に玲は
「このまま探索を続けず、
神室さん達を探すことに
任務を切り替えたいと思いますが、
どうでしょうか?」
と皆に提案した。全員無言で頷くのを見た玲は、全員に対し、
「本来なら行方不明者の捜索は、
各自が分かれて対応すべきことですが...」
その方法をここで採用すると、ミイラ取りがミイラになるの例えではないが、捜索している自分達が別の世界に連れていかれる危険性が高いことを説明し、それ故に皆で一緒に行動することを提案した。これも皆無言で頷いて同意を示したことから、神室霊華一行が辿った探索範囲を順に追っていく手法で捜索することにした。そこで一度正面玄関を入った所にあったエントランスに向かい、そこから先ずは1階を見て周ることにした。その時玲は、エントランス内にまで届くクマゼミの大合唱を耳にした。神室霊華の話では、全くクマゼミの鳴き声が聞こえないという。だとすると、やはり彼女達はこの施設内の別の次元か空間に迷い込んだのは間違いないと確信した。そして、玲はカフリングを通じてその情報を神室霊華に伝え、更にお互いの現在地の情報を交換して、出来るだけ同じ場所を一緒に行動するように提案した。勿論、空間が異なるため、お互いを目視で確認することは出来ないが、玲は何となく近くに神室霊華がやって来たことを感じた。そしてそのことを神室霊華に伝えると、
「えっ! そ、そうです!
い、今、そこにいます!!」
と驚いたような囁き声で返事が返って来た。これにより玲は、少しだが何かの手応えを掴んだようであった。その後2つのグループは、別々の空間内の同じ場所を移動しつつ、1時間程して問題のあの部屋にやって来た。
神室霊華は行動を共にしている全員に対し、他に何か見落としがあるかもしれないのでもう一度調査をすると言うことを伝え、この建物に入った時からの行動をトレースすることを提案した。例え面倒であっても、それで元の世界に戻れる切っ掛けが得られるのであれば、どんな苦労も厭わないという強い決意を一行から感じ取った神室霊華は、その後玲とコンタクトを取りながら、同じ道順を辿りつつ、遂に問題の部屋に到着した。流石にまたこの部屋に入るのか、と全員するも、ここから出るには避けられないことが分かっており、神室霊華が意を決してそのまま部屋に入ったのを見て、一緒に後に付いて入って行った。そしてそのまま部屋の中央にやって来た神室霊華は、その場に立ち止まるや全員に対し、
「多分、今この時間、この場所に
恐らく玲さんが居るのを強く感じます」
と不安と恐怖に駆られた呪いの動画のスタッフ、そして今にも泣き出しそうな心霊サークルの学生達に向かいそう伝えた。そして、
「私はこれから自分の全神経を手に集中させ、
そのエネルギーを玲さんに
感じ取ってもらいます」
とこれから行うことを皆に伝えた。更に、
「皆さん、先ずだれか私の腰に
手を回してしっかり掴まってください。
その次の人は私に掴まっている人に対し
同じ様に掴まってください」
要するに子供の遊びにある電車ごっこのように前の人に掴まる、と言うことを伝えた。そして念のためと言うことで、一番最後のは箕山ケイが務めることになった。そんな態勢になったことを確認した神室霊華は、今度はその場で両手を前方に突き出して目を閉じた。そして自分の全ての召喚エネルギーを両手に集中するようにした。なぜそのようにしたのかと言うと、それは玲からの指示である。玲は、今、神室霊華の居るまさに同じ部屋に居た。そして玲は、その場の全員に対し、
「今この部屋に恐らく、
神室さんのチームが居ると思われます。
そしてこの部屋が恐らく
全ての元凶のようです。そのため...」
絶対に向こう側にはいかないこと、と注意を与えた。それから玲は両手を広げ、神室霊華がどこにいるのかを探すパフォーマンスを始めた。そうやって捜索範囲を少しずつ狭めて行き、どうやら中心付近にいることを藤波に伝えた。そして部屋の中心に向かい、両手を前に出して少しずつ前後左右に平行移動をし出した。そうやって更に10分程経った頃、玲の表情に変化が現れた。神室霊華の伸ばした手が少し触れたのを感じ取ったのだ。そしてその神室霊華も、自分の手の先に何かが触れるのを感じた。そのことをカフリングで玲に伝えると、「やはりここですね」と言うや否や、神室霊華は何かに腕を掴まれるのを感じつつそのまま強い力で引っ張られていった。そして
「あっ! れ、玲さん!!」
と言って引っ張られた勢いが止まらないまま玲の懐に抱きすくめられた。その後、神室霊華に掴まっていた心霊サークルの部員達が次から次に何もない空間から突然現れ、最後に呪いの動画の箕山ケイが姿を現したことで、神室霊華の一行全員が元の世界に無事戻ってこれたのだった。この突然の救出劇を目にした玲の一行はみな唖然、茫然と立ち尽くしていたが、直ぐにそこに顔見知りの友人や後輩を見つけたことで、全員がその場に駆け寄って涙を流しながら抱き合って無事に救助されたことへの喜びを分かちあった。そして玲に抱きすくめられていた神室霊華は、急に恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながら急ぎ玲から離れて、玲に対し「れ、れ、玲さん、有難うございました」と言って頭を下げて感謝を伝えた。本当はもう少しあのままで居たかったのだが、学生達の手前そうもいかず、また師匠からどう思われるか心配になったため、止む無く離れたのだった。
一方の玲は、それよりもこの場の怪異の原因を調べており、既に何が原因なのかを特定し終えていた。そして、感動の再会で喜ぶ全員に向かって
「皆さん、まだ喜ぶには早いですよ。
ここにまだ元凶が残ってますからね」
と言い、今も問題の本質が未解決のままであるという厳しい現実を突きつけた。そして、玲は壁に掛けられている鏡に対し降霊召喚門を設置した。すると、見たこともないような霊体が鏡の中に姿を現した。それはまるで童話の白雪姫に出てくる鏡の中の魔女のような感じと表現すべきだろうか。
「玲さん、これは霊体なんでしょうか?」
と神室霊華も初めて見るそれに興味津々である。玲はと言うと、
「うーん、僕も分かりませんが、
霊体と言うよりも」
鏡の精霊なんでしょうかね、と何やらファンタジーな事を呟いた。ただそうなると、降霊召喚門でお見送りできるのか不安になったが、一応お見送りをしてみた。だが、
「やはり駄目かー。いや、それよりも...」
と言って玲はその鏡に近づき、鏡を壁から外した。そしてその鏡を床に叩きつけた。すると、
「おー、出てきたね。
これで何とか対応できそうだ」
と場違いな雰囲気でニコニコし出した。そして降霊召喚門に捕らわれていたその霊体に対し話を聞くことにした。その結果、この部屋にはもう一枚同じ鏡があったらしく、その鏡と所謂合わせ鏡の関係にあった時、その中心を偶々浮遊していたこの霊体が鏡に捕らわれたという。実は、その霊体が捕らわれる以前に別の霊体が鏡に捕らわれていたようだが、この霊体が捕らわれた途端、鏡の中の霊体は外に飛び出したというのだ。つまり新たな生贄が手に入ったからお前は用済みだ、と言わんばかりの対応だったらしい。まあ、この霊体が語ることが果たして本気か冗談かは分からないが(神室霊華からすると、幽霊が冗談を言う感覚を持つこと自体あり得ないのだが)、そのうちもう一枚の鏡が何かの拍子に壁から落ちて割れてしまい、その結果合わせ鏡の効果が得られなくなったことで、この霊体は鏡に閉じ込められたままになったという。だが何とかして外に出て霊界に向かいたいため、この部屋を訪れる者達に何とか訴えようとしていたが、それがどうやら怨念化したのか、別の空間への扉を開く結果になったようだ。全く人騒がせな話だと玲は呆れたが、実際この部屋から別の空間に迷い込んだ人たちが多くいる訳で、流石に不謹慎な言動は慎んだが、では別の空間に迷い込んだ人達はどうなったのか?残念ながらこの霊体には分からないという。玲もわざわざ確認しに行きたいかと言われれば、「嫌です」、と即答するだろう。それよりも、
「で、お前をこれから霊界に送るが良いか?」
と玲は尋ねた。すると「・・・お、ね、が、い、し、ま、す」と懇願されたので、玲はそのままお見送りした。そしてその様子は、その場にいる全員が目撃した。
「これでこの部屋の怪異は無くなりました。
念のため...」
と言って、玲は外廊下に繋がる扉とは別のもう一つの扉に向かい、そこを開けた。するとその扉の先から腐臭が漂いこんできたことから、内側にある発電施設とバイオガス生成施設のある区画に繋がっていることを確認した。そして扉を閉めて皆の居る部屋の中心に向かいそのまま外廊下に繋がる扉を開けてそこも確認した。確かに外廊下が左右に伸びていることを見た玲は、
「特に異常はないですね。
藤波さん、恐らくこれでこの建物の怪異は
無くなったと思います」
と総責任者の藤波にそう伝えた。藤波もまさか本当にこの建物にわる怪異を取り除けるとは全く想像しておらず、玲から怪異が無くなったと告げられても半信半疑であった。だが、自分の目で確かめた時に漸く玲の言っていたことが腑に落ちてきて、と同時にこの青年の途轍もない能力に脱帽したのだった。
その後、誰からともなく「何かお腹が空いたな」との声が漏れ聞こえたことで、藤波は、
「少し遅くなりましたが、
これから昼食にしましょうか?」
と言って全員で建屋の外に出て、車の中に積んでいた弁当を入れた発泡スチロールの箱を取り出した。と、その時、「あぁー!」と声を上げた女子部員が数人現れた。どうしたんだ?と皆が心配になり駆け付けると、何やら弁当を手に持ったまま茫然としていた。そこで理由を尋ねると、先程神室霊華と一緒に別の空間に迷い込んだ時、お腹が空いたので弁当を開けて食べようとしたらしいが、直ぐに神室霊華に止められて諦めたという。そして今、まさに同じおかずの弁当を手にした途端、思わず叫んでしまったというのだ。もしかしてトラウマになったのかと心配するが、玲は即座に
「大丈夫ですよ。
この食べ物はこちらの世界の物ですからね。
そして神室さんの指示で食べなかったのは
大正解ですよ。もし食べていたら...」
こちらの世界の食べ物を受け付けないかもしれませんね、と声を低くして、まるで怪談でも語る様にそう呟いた。
「ちょっと、玲さん、
そんなに脅さないでくださいね!」
と神室霊華にやんわりと注意された玲は、頭を搔きながら、「ははは、ゴメンね。でも本当にこの弁当は大丈夫だからね」と言って近くにあった弁当を一つ貰い、その場でパクついた。それを見て安心したのか、皆黙々と弁当を食べだした。時刻は丁度午後2時であった。