召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿後半戦 (最終幕)
物部かすみと神室霊華の率いる調査隊は、自殺者が多いと有名なある橋にやって来た。橋と言っても車の行き交う近代的なである。そして車道から橋桁を支える地面までは十メートル程の高さがあり、橋の下を川が流れている。今は比較的水量もあり流れが速いため、ここから身投げした場合、運が良ければ(?)助かる可能性はある。だが多くは下流で水死体として発見されるようだ。そしてこの橋では、幽霊の目撃談は多いのだが、特に何度も飛び込み自殺をする幽霊の目撃が多いという。つまり、成仏できずに自殺した瞬間を永遠に繰り返すというのだ。そして今、かすみと神室霊華はそんな幽霊を実際目の当たりにしている。今も、
「あっ、あっこで、
何度も自殺やり直してるでー」
とかすみは呑気な声でそう指摘した。肉眼では確認しずらいが、カメラを向けると確かに何かが居る気配は感じたりする。そんな状況の中、かすみと神室霊華はある場所を注視していた。そこは川に沿って設けられている遊歩道がこの橋の真下で交差するが、そのまさに交差点である。
「師匠、あそこに何か因縁がありそうですかね」
「うん、そうやね。
尤もうちらがどうするかは
決められへんけどな」
とかすみが言うように、因縁自体取り除くことはM Mからすると何も問題はない。ただし、心霊サークルと言うか心霊好きからすると、それはどうなのだろうか、と言うことをかすみは最近よく考えていた。これは玲も同じ考えであり、自分達に害が無ければ出来るだけそのままにしておくことにしていた。そして今も、
「まあ、とりあえず
あっこに向かってから判断しようか」
と言うことで、かすみはその場の全員に橋の下の所で強い霊力を感じることを伝えた。それからそこに向かうか向かわないかについては、皆さんで決めて欲しいとも伝えた。当然、全員一致でそこに向かうことを決めたが、さて、そこから下に降りる場所が見つからない。一応スマホの地図アプリを立ち上げてこの場所付近を確認すると、少し道路を川の上流側に進んだところで遊歩道と合流する地点が見つかったので、そこまで歩くことにした。そうして20分程歩いた時、漸く橋の下に一行は到着した。するとかすみと神室霊華は、早速降霊召喚門を自分達の周りに展開して結界を張った。そして少しずつ目的の場所に近づくと、恐らく地縛霊だろうか、5体の霊体がそこに屯していた。そして近づく人間が現れると、恐らくその霊体達は人間に襲い掛かって来るのだろうが、残念ながらかすみと神室霊華が張った降霊召喚門による結界のお陰で、襲われることは無かった。そしてかすみは、その場にいる全員にそこに地縛霊と化した霊体が居ることを指摘し、更に自分と神室霊華を中心に半径3mより外に絶対出ないように注意した。その間、心霊サークルの学生達は、確かに自分達のスマホやビデオカメラに幽霊と思われる存在が映っていることを確認した途端、彼らの表情に緊張感が漂い出した。とにかく、ここに近づかなければ問題はないのだが、ここは遊歩道でもあるため、何も知らない通行人が憑依されるなどで被害を受けないとは言い切れない。とりあえず、責任者の京田美和子に相談するが、そもそもどうすれば良いのかと言うこと自体分からず、結局この場で結論は得られなかった。そこでかすみは、それやったら本人達に聞いてみよう、と言うことでその霊体達に降霊召喚門を設置して成仏したいかどうかを尋ねることにした。やはり当事者に決めてもらうのが一番だろうということだが、その結果、3体は成仏を望み、2体はこのままでいたいと言うことになった。そこで3体をまず霊界にお見送りしたのち、残り2体については、
「お前らな、そこに居ても
落ち着かへんやろ?」
と言うことで、かすみが川の中程に建つ橋脚の根本付近はどうかと提案した。特に反対はなさそうなので、かすみは降霊召喚門を解除したが、どうやら霊体達は自分で指定された場所に簡単に移動できないようだ。やはり長年この場所に居続けたことで、そこに執着があるように感じたりするが、霊体本人達からは何も聞き出せない。そこでかすみは、「仕方ないな」と言いながら、その霊体達を転移させた。霊体の転移なので人目を気にする必要はなく、これで前代未聞の幽霊のお引越しが完了となった。一応この場所の怪異は無くなったので、そのように全員に伝えて結界代わりの降霊召喚門を解除した。
さて、このかすみによる幽霊のお引越し、神室霊華には新鮮に映ったようで、早速かすみに
「師匠、まさか引っ越しさせるとは
思いも付きませんでした!!」
と少し興奮気味にそう伝えた。かすみも初めからそうする予定ではなかったが、幽霊からの話を聞くうちにまあ無理してここに居るよりも邪魔されない所の方がもしかしたらええんとちゃう、と思い始めたようだ。そしてその通りにしたところで、この橋の怪異は一応残ったままだが、余程のことが無い限り霊に憑りつかれる心配はなくなった。なお、この時のかすみによる幽霊の引っ越しは、この後リリースされる[呪いの動画コレクション]の売りの一つになろうとは、この時のかすみは想像していなかった。その後、この橋にそのままいても最早意味はないため、一行はその橋を後にして帰路に就いた。
一方、玲が率いる総勢10名程のトンネル再調査班は、再び問題のトンネルにやって来た。今回はその先に進むため、彼らは車から降りずにトンネル内部を進んで行く。流石にトンネル内は電灯の類が無く道幅も狭いため、運転手以外は、窓を開けてトンネル壁との隙間を絶えず確認しながら慎重に進んで行った。時折、トンネルの天井付近から落ちてきた水滴が顔に触れたりして「ヒッ!」と悲鳴に似た声を発することがあったが、何とか全員無事にトンネルを抜けた。そして数百メートル程進んだところで、助手席に座る呪いの動画のスタッフが「あっ、あそこに登り道があります!」と指差したので、そこで一旦車を停めることにした。なお今通って来た道は車道として使われることが殆ど無いため、この場に車を停めても問題はないそうだ。そこで全員車を降りて、問題の山道を進むことにした。なお全員虫除けスプレーをしてから山道を進むことになるが、玲は念のため更に降霊召喚門を自身の周りに設置した。そして、
「一応、僕の周りに結界を張ってますので、
余り勝手に遠くに行かないように
お願いします」
と全員に伝えた。そして問題の場所に向かって進みだした。
玲達一行が進む道は一度トンネルから離れる方向に進んだ後、直ぐに折れてトンネル方向に向かう。そして30分程進んだところで、先頭を行くディレクターの藤波が、
「どうやら、この辺から
下に降りる感じですね」
とスマホの地図を確認しながら、後続の者達にそう伝えた。そこから先は、クマザサに覆われた道なき道を進むことになった。足元が見えないため、慎重にクマザサを踏み固めながら進んで行くが、この辺りはマムシが出るらしいため、より慎重な足取りとなった。一応玲は、降霊転移門によるバリアを一行全員を囲むように張り巡らした。これで少なくとも、マムシの攻撃に関しては多分避けられるだろうと考えている。ちなみに、ヤマヒルも生息しているのだが、それは玲のバリアに吸い込まれていくのを玲自身が確認したので、恐らく効果は問題ないと踏んでいる。まさか、あのバリアがこういう時に役立つとは、玲も想像していなかったようだ。
そうして悪戦苦闘しながら1時間程進んだ時、それが現れた。
「最神さん、あれですかね?」
と先頭を進む日比野太郎が立ち止まって指を差した先に、5,6基程の墓石がそこにあった。ただしまともに立っている墓石は全くなく、傾いたり地面に倒れていたりしている。そして玲は、そこに何体もの霊体がじっとこちらを見ているのを目にしていた。彼らは憎悪や悪意を持つ訳ではないが、やはりこの場の理不尽さを何とかして欲しいと訴えている。玲は今見ている状況をそのままそこに居る全員に伝えた。
ところで、どうしてこんな所に墓石があるのだろうか?そこに居る誰もが疑問に感じたのだが、これには藤波が東京に残るスタッフに指示を出して調査させていたようで、どうやら地滑りの影響でこの上の方にあった墓地の一部が崩落し、最終的にこの場所に留まったのではないかと推測した。ただし、上の方にある墓地も、今は誰も参拝する者がいないようで、既に荒れ果てた状況だという。尤も今はそちらの心配よりも、目の前の墓石の方である。藤波から、
「最神さん、これをどうしたら
良いでしょうか?」
と尋ねられた玲は、本来は墓石を元の場所に戻すことがベストであることを伝えた。勿論そんなことは不可能であることは分かっており、次善の策としては、ここにある墓石を先ずは元の状態に戻し、その後簡単な供養をすれば良いのではないか、と提案した。玲としては強制的にお見送りすればそれで問題は解決できるのだが、やはりかすみと同じく、不要な除霊は控えるようにしており、ここでも墓石を元に戻して供養すれば、彼らはそれで満足するということをそこの霊体達から聞き出した。そこで一行は、手分けして倒れている墓石を元に戻す作業を行った。残念ながら幾つかの墓石が行方不明なっていたが、その場に佇む霊体が玲に場所を示し、玲が呪いの動画のスタッフが持ってきたシャベルでその場所を掘り出すと、そこに埋まっていた墓石を見つけたりして、何とか全ての墓石を元に戻すことが出来た。その後、玲はカバンの中からと線香、そしてライターを召喚して取り出し、各墓石の前で蝋燭と線香を灯して全員で合掌をした。すると玲の張った結界の影響で遠巻きに眺めていた霊体達は、満足した表情になったようで、玲はそのことを全員に伝えた。その時、一緒に同行していたかすみのお気に入りのが、
「先輩、これでこのトンネルは
心霊スポットが解除されたんですか?」
と尋ねてきた。それに対し玲は
「あぁー、仁多牧君、それは大丈夫だよ。
うーん、大丈夫という表現が
妥当かどうか分からないけど...」
ここの霊体が成仏した訳ではないので、もしかしたらこの後もここは心霊スポットのままかと思うけど、と少し曖昧な表現ながらそう答えた。尤もここの霊体による怪異は特に人体に影響が出るなどと言うことは無く、単に遭遇したというだけなので、その点では今まで通りであろうと思われた。それを聞いて、心霊サークルのメンバーは一同何やらホッとしたようである。そして一行は、火の始末をしてから元来た道を再び戻って行くが、行きと違い帰りは少しだけ気持ちよく帰れたのは玲だけではなく、全員感じていたことであった。
さてこの時の映像だが、実は[呪いの動画コレクション]のコアなファンからは好評だったという。理由は、昔の呪いの動画によくあった怪異の真相を追及する、あの姿勢が良く出ているからと言うことらしい。最近の動画は、投稿者にインタビューをして、後はその補足取材をするケースが多く、コアなファンには不満があったらしい。何れにしても、玲としてはそんな彼らの思惑に関係なく、自分がやるべきことをやっただけと言うことでそれ以上何かに関わることは無かったのだった。
さて、無事にトンネルの怪異の原因を突き止めて対処した玲は、かすみに連絡を入れた。丁度彼女達はこれから待ち合わせ場所でランチを取るらしい。玲達一行は、思いの外時間がかかってしまったため、待ち合わせ場所までまだ30分以上かかるという。まあ、これは仕方ないということで、自分達は慌てず目的地に向かうことにした。そして玲達一行が到着したとき、かすみらの一行は食事を終えてこれから帰るというところのようだ。そしてかすみは玲達一行を見た途端
「何なん、自分ら、その恰好、凄ない?」
と言うように、実はかなり泥だらけであった。尤もその場にいる男達全員、悲壮感などは微塵もなく、ただ達成感に満たされた明るい表情であった。
「かすみ、後で話すよ」
と玲は言いながら、ちょっと揶揄い気味にかすみに近づいた。するとかすみは、嫌悪感丸出しで、
「ちょっ、玲、キモイねん。しっしっ」
と追い払われてしまった。全くかすみの奴、人を何だと思っているんだと注意したくなるが、そんなかすみを放っておいて、それよりも腹ごしらえである。玲達の一行は、一仕事終えた後なのか皆食欲旺盛であった。そして一服ついたところで、暇になったかすみが玲の所にやって来て、何があったのかを尋ねてきた。そこで玲はそこで何があったのかについてかすみに説明した。すると、
「へぇー、そんなことになってたんか、あそこ。
ところでな、骨壺はどうなったん?」
そう、残念ながら骨壺は見当たらなかった。恐らく地滑りの影響で地中に埋まっている可能性は高いが、それを掘り出す程の装備も人員も不足していた。
「まあ、彼らは墓石を元に戻すだけで
満足していた感じだから、
多分大丈夫だと思うけど」
と玲が言うように、あそこの霊体は寄る辺となる墓石が整えられればそれで安心なのだろうと感じた。
その後、この場で解散となり、各自更に心霊スポット巡りをする者達もいれば、そのまま東洛市に帰宅する者達もおり、後は自由行動となった。そしてM Mの3人は、そのまま帰宅するということになったが、呪いの動画のスタッフに対しかすみは、「うちらは顔出しNGなので、そこの所はお願いします」と伝えるのを忘れなかった。まあ、神室霊華はそのまま顔と名前が出るので、彼女だけで充分であるとかすみは考えている。そして、M Mの3人は、神室霊華の運転する車に乗って、帰路に就いたのだった。