召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿後半戦 (後日談)
総合大学の心霊サークルの夏合宿後半戦が無事終了してから2日後の午後6時、最神玲は呪いの動画制作委員会の事務所にいる。彼が今回ここを訪れたその理由、それはこの後に行われるある人物とのインタビューに同行するためである。だがその前に、玲はその件にも関係することだが、ここの事務所に送られてきた呪いの動画、それを実際に最後まで見たことでその後行方不明となったアシスタントの谷重の安否を確認することにしていた。そこでこの事務所にて、アシスタントの谷重の持ち物を使った降霊術を行うことにした。彼が愛用していた一眼レフカメラが事務所に残っていたのでそれを使ったが、結果は何も召喚されず。つまり、彼が生きているのか、あるいはもう既にこの世になく、しかも直ちに転生した、と言うことが考えられるが、今この時点でその結論は得られていない。そして玲の傍で不安な面持ちで眺めているディレクターの藤波智明とレポーターのケイに対し、
「僕の経験から言うと、
そんなに直ぐに転生するというのは
あまり考えられないので...」
そうなると、まだどこかで生きている可能性があることを伝えた。生きているという言葉を聞いた藤波は、「そ、そうですか、生きてますか...」と安堵の表情をし、そのうち安心したのか、膝から力が抜けてそのま床にへたり込んでしまった。だがまだ確実な情報がない以上、ここで安心することは出来ない。玲としても、そのアシスタントの子の安否が気になるため、捜索に協力することを伝え、後日改めて捜索する時に帯同することを約束した。
そして午後8時、呪いの動画のスタッフは東京都内にある小規模な遊具を備えた公園にやってきた。玲もスタッフの1人に紛れている。と言っても彼らに内緒で紛れていると言う訳ではなく、スタッフとして同行することを許可されていた。なお、相方の物部かすみはと言うと、弟子の神室霊華と2人、人目のつかない場所にて既に待機中である。そして、ここである人物とインタビューを行うのだが、
「約束の時間ですが、どこにもそれらしい人は
見当たりませんね」
とは呪いの動画のレポーターである箕山ケイである。
「まあ、こういうのは時間通りに
行かないことが多いから、
もう少し待ちましょうか」
と助言をしたのはディレクターの藤波である。その後暫く待つが、結局相手が現れることは無かった。
「ダメだね。今日は一旦引き上げよう!」
との藤波の合図でスタッフはその場を撤収した。玲としては骨折り損であったのだが、その時ふと嫌な予感を感じた。そして、「あっ、そう言うことか!」と声に出して呟いた。玲の言葉を耳にした箕山ケイが、
「最神さん、何か気になることでも
あるのでしょうか?」
と問いかけてきたので、玲は今起こっていることの可能性をその場で披露した。それは、
「恐らく、呪い返しを受けたのでは
ないかと推測されます」
と言うことである。つまり、先日、東洛総合大学心霊サークルの夏合宿後半戦で、M Mの3人が見せてもらった投稿動画、そこに現れた悪霊に対し玲は降霊召喚門を設置して霊界に送り返したが、それが呪い返しになったのではないか、と言うのだ。その時、玲のカフリングからかすみが「玲、それや、それ。絶対呪い返しやで!」と叫ぶ声が届いたが、今はかすみの話に反応する訳にはいかないため、黙ってスルーした。だが、呪いの動画のスタッフからすると、呪い返しが果たして本当にあるのかどうか、実はかなり疑わしく思っていたのは事実である。そこで玲が、撮影を止めてもらい、あくまでもオフレコでと言うことで、一連の不審死事件についての話しを始めた。特に最近になって色々なメディアで報道されて大騒ぎとなった、電脳倶楽部の社長であるの失踪事件も、実は当人は既に亡くなっており、しかも呪い返しを受けての変死であることを伝えた。なお、
「僕は、三鶴木琢磨の死体を
直接見てませんが...」
ある施設に三鶴木琢磨からの招待を受けて一緒に滞在していた神室霊華は、何か霊的な事で命を落としたのではないかと言うことでそこに呼ばれて実際に彼の死体を見てます、と言うことを伝えた。かには信じられないようなことを、玲は淡々と説明するため、呪いの動画のスタッフも本当に呪い返しが存在するのか、少しずつだが興味が出てきた。いや、それよりも、三鶴木琢磨の件は本人の失踪以外何も表には出ていない。にも拘らず、目の前の青年はその詳細を知っているかのように話すため、もしかして彼に担がれている?と疑心暗鬼に陥ったりもした。玲はそんな彼らの思いを知る由もなく、
「現在、警視庁を始め全国で何件か
同じ事例の不審死があって
それを捜査中なんですが...」
結局呪いとか呪術が絡むため、警察としては手も足も出ない状況であることを話した。そして序に、M Mも現在この件については警察に協力していることも併せて伝えた。またもや俄かには信じられない話であるが、警察まで動き出していたとなると、かなり大ごとである。そして改めて今回の呪いの動画の件を顧みると、アシスタントの谷重の失踪から始まり、今は投稿者が恐らく呪い返しを受けて絶命しているのではないかと考えると、自分達は最初からこの件に関わらない方が良かったのではないかと思えてならない。残念ながら、玲の言うことをどこまで信用して良いのか分からない呪いの動画のスタッフ達は、先ずはこの場の撤収と、後程その件をこちらでも調査するということで、一旦収拾した。そして玲は、その後スタッフと別れて、公園内で待機するかすみと神室霊華と合流した。
「ゴメンよ、かすみ。返事が出来なくて」
とかすみに詫びを入れるが、かすみはそんなこと気にすることなく、それよりも、
「どうするかやね、
そいつが本当に呪い返し受けたんなら...」
改めて警視庁から捜査協力の依頼が来るんやろうな、と言うのだが、多分そうなるのだろう。そして、玲は
「やはり、あのリストの調査を
もう少し進める必要がありそうだね」
と2人に対しそう告げた。実はM Mの3人は、ある程度の調査は進めていたのだが、玲の担当する者の半分ほどは、今はその住所に住んでおらず、どこに行ったのかが分からない状況である。まあ、地道に探せばそのうち見つかるだろうと思いつつ、また何かの拍子に、呪い返しに遭って絶命する、と言うこともない訳ではない。尤も初めから呪いで人を殺そうとする連中である。そんな連中に同情の余地は1ミリもないのだが、やはり玲としては、入手経路の確認と、その後誰かにそれを売ったかどうか、その点を確認しておきたいところである。
さて、この場に留まっても何も得られないので、3人は一旦美土路神社に転移して行った。
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呪いの動画制作委員会の事務所内の会議室では、今回初めて行った大学の心霊サークルとの合同調査に関する総括を行っていた。自分達が撮影した映像素材を吟味した結果、予想以上の成果があったという報告をプロデューサーのは部下から受けていた。当初は呪いの動画コレクションの1巻分あれば十分と考えていたが、どうやら2巻分は行けそうだという。そうすると、2巻めてスペシャルエディションとして発売することも考えられるわけで、これなら先行するジーエックスに引けを取らないと彼らは目算した。そして出来る限り、ジーエックスよりも早くリリースすることで、強いインパクトを残すという至上命題が部下たちに課された。
ちなみに彼らの予定としては、1巻目は初日の滝で見つかった他殺体とトンネルの件、それと初日の夜に検証された呪いの動画、後は2日目の廃施設の模様を収録することにしていた。そして2巻目は、2日目の廃工場と3日目の自殺者の多い橋と1日目に問題として残ったトンネルの再調査、これ等を収録することになった。しかも彼らの予想を超える怪異がカメラに収められていたのは嬉しい誤算であったという。後幾つか補足的に学生から映像を提供してもらうことも検討し、これで次の呪いの動画コレクションのリリースに動き出した。
そして編集作業をしているディレクターの藤波と京田は、M Mと言う全く無名の組織の底知れぬポテンシャルに今更ながら驚かされていた。特に霊能力者としては国内でもトップクラスの神室霊華と言う女性をある意味部下にしているM M、そんな彼らのどこに神室霊華は惹かれたのか、とにかく謎の多い組織である。ただ言えることは、彼らの行う除霊にしろ降霊術にしろ、並外れた能力であることは疑う余地がない。特に、廃施設における最後の霊体、いや悪霊か、あれを一瞬で葬り去ったあの除霊は、長い心霊動画の編集人生においてもみたこともない鮮やかさであった。それと廃工場での異世界と言うか異空間からの脱出劇、そんなことが霊能力者に可能なのかと思わせるくらいに衝撃的であった。実はあの場で異空間に捕らわれていたリポーターの箕山ケイは、もう元の世界に戻れないものと諦めていたという。それでも誰一人弱音を吐くことはせず、しかもリーダー的存在の神室霊華が希望を捨てていない状況を目の当たりにし、自分も最後まで取材をするという覚悟で臨んでいたと後に語った。勿論このインタビューも収録予定だが、本来の心霊現象とは一見関係なさそうな事象も、事も無げに解決に導いたM Mの3人。もしかしたら、彼らを密着取材すると更に凄い映像が撮れそうではないかと、2人のディレクターは話し合っていた。
それから数カ月後、[呪いの動画コレクション――スペシャルエディション]と題した2巻構成のDVDが発売されたが、こちらも動画投稿サイトでの宣伝の効果などから、通常のDVDの倍の値段がするものの、即十万本完売となり、その後重版されることになった。特に、廃施設に現れる幽霊達がここを訪れる者達を守っていた話は心霊動画にはない悲しいストーリーとしてその後ドラマ化されるに至るという。また、異空間に迷い込んだ神室霊華らの一行の救出劇は、そんなものを信じない人達からはフェイクだ、やらせだ、と糾弾される一方、心霊現象を信じる者はもとより、全く信じない者達の中にも異空間や異次元がやはり存在するんだという、別の興奮を掻き立てるに及び、こちらもある意味論争になったりした。特にDVDの中では、同じ時間の同じ場所の映像が並べて映し出されているが、そのどちらにももう片方のグループは映っていないという、明らかに同じ場所ながら異なる次元と言うか空間がそこに存在していた事実は、それを見る者達を多いに興奮させたようだ。そしてジーエックスの[心霊怪動画蒐―北海道恐怖編―]と共に、ここに新たな心霊ブームが巻き起こった。そしてこの新たな心霊ブームの中心にいるべきM Mだが、彼らは全くそんなことを気にすることなく、何時もの日常を送っていた。