召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 10日目 (後編)
そして1時間程経過した頃、北側を探索していたエンペラールから絶叫に近い叫びがヘッドセットから聞こえてきた。
「ちょっとー、みんなー!
こっちに集落跡のようなものが
あるんだけど...」
だが何故か、その後は尻すぼみになってしまった。一体エンペラールは何を見つけたのか?気になった最神玲とセラスティナは、エンペラールが用意した転移門を目印に、急ぎ転移で向かった。
玲はその光景を目にした途端、「ポンペイか?」と絶句した。セラスティナは何も言わず、ただ玲の言葉に対し肯定の意味を込めて頷いた。そこは今まで玲達が居たカルデラ火山の麓にある小さな集落で、戸数は10数軒と言う所か。恐らく転移門でこの地をサーチしても、単に冷えて固まった溶岩流の塊がそこにある程度にしか認識されないだろう。だが地上に降りてそこを眺めると、そこはまるで地球のイタリアにあるポンペイの遺跡のような状態であった。恐らく火砕流の影響だろうか、その集落の人達がその当時のまま黒い石と化していたのだった。そして更に長い時間をかけて、ゆっくりと風化している状況である。玲とセラスティナはゆっくりとそこに近づき、じっくりと観察を始めた。そんな2人に対し、エンペラールが不安そうな表情で、
「ね、ねえ、セラちゃん、
この人達に一体何があったの?」
と尋ねてきたので、セラスティナは自分の持てる知識を呼び出して、その場に起きたことをエンペラールに伝えた。そしてエンペラールはと言うと、逃げようとして手を差し出したまま火砕流の影響で固まった人物を、自分の開いた口元に手を当てたまま瞬きせずに凝視していた。一方の玲は、これが何時の時代なのかの手掛かりを探して辺りを探索し始めた。そしてある家の中に足を踏み入れた時、その手掛かりを発見した。
「エンペラールさん!!タチアナさん!!
こちらに来てください!!」
と玲はヘッドセットを通じてエンペラールとセラスティナを呼んだ。エンペラールは玲からの通話を聞きつけて、セラスティナと共に玲が向かった先に駆け付けた。そして玲が手にした石板を目にした時、エンペラールは再び絶句した。
「せ、せ、先生、こ、こ、これって!?」
とセラスティナが声を掛けるがエンペラールに反応はない。だが漸くエンペラールが反応し出した所で、彼女は、
「こ、こ、この文字は、
こ、こ、古代文字ですね」
と玲から手渡された石板を手にしてそう呟いた。その石板は部屋の中にある、元は棚の中から見つかった。残念ながら棚自体は火砕流の影響で原型をとどめてないが、その崩れかかった扉の隙間から白いものが見えたので、玲はその扉を急ぎ外して中を確認した。すると下半分が固まった火山灰に覆われている陶器の壺を見つけたのだ。あそこで見つけた陶器の破片に似た模様がそこに見て取れた。そしてその壺は木の蓋がされていたので、念のためその蓋を開けてみると蓋は粉々に砕け散った。そして改めて壺の中を確認した所、この石板があったのだった。どうして石板が壺の中にあるのか?その理由は分からないが、もしかして誰かへのプレゼントに持っていくものだったのか、何か重要な情報が描かれた石板を隠したかったのか、今となっては住人がこの世にいないため確認できないが、そんな日常の何気ない光景を目にしたように感じた3人は大きな衝撃を受けたのだった。そしてエンペラールはそれが古代文字であると断言するが、残念ながら彼女もその文字を解読できない。そして、ロムリアの文化財保護センターの研究員であれば何か分かるかもしれない。そこでセラスティナは、この場に転移門のマーカーを設置し、後日研究員がやって来れるように手配した。そして3人が発見したこの場所は、未だ見つかっていない古代の集落跡の一つであることが後に明らかとなったのだ。
「何となくあるとすれば
ここだろうと思いましたが、
まさか見つかるとはね~」
とセラスティナが休憩中にそう呟いたが、玲も彼女の言う通りだと感じた。ただ、集落の規模が小さいため、恐らくもっと大きな街か国がこの近くか、あるいは少し離れた所にありそうという予感はしていた。だがそれを短時間で発見できるかと言うと、答えはノーであろう。やはり活火山の影響は無視できないし、ここから見える範囲でも数個の活火山をこの周囲に確認している。そのため、火山活動の状態を確認しながらの調査は、恐らく数カ月は要することが見て取れる。まあ、今回はこの成果だけで良しとして、後はロムリアの文化財保護センターに任せることにした。
その後3人はまだ探索する時間があるので、カルデラの南側の安全な場所をサーチし、そこへ転移した。そして乗用ドローンに乗ってカルデラの外側を探索することにした。南側の探索を始めてから30分程して3人はそれを発見した。
「ねえねえ、こんな所に
横穴があるの変じゃな~い?」
とエンペラールは玲とセラスティナにそう問いかけた。だが玲は、
「いいえ、エンペラールさん。
恐らくこの横穴はマグマが通り抜けて
出来た通り道だと思いますよ」
と答えた。玲は地球のハワイ島にあるキラウェア火山、あそこから溢れ出たマグマの通った跡がまさにこのような光景になることをテレビで見て知っていた。だがやはり気になるので、
「折角なので、中に入って確認しますか?」
と玲が提案し、結局3人で中を探索することになった。洞窟内は暗いため、玲がLEDライトを召喚して足元を照らしながら歩く事10分程して、彼らの目の前にその光景が広がった。玲は、
「いやいや、まさかここに在ったなんて...」
と呟くが、セラスティナは
「でもレイ君、ここはある意味
理にってると思うけどね」
と自分の意見を伝えた。なお、エンペラールは無言で佇んでいる。3人の目の前には集落、いや街が広がっていた。そこは恐らくマグマ溜まりがあった所だろうか、あるいは後から人為的に広げたのか分からないが、広さは百メートル四方程か、高さは十メートルちょっとはある空間である。そして天井には所々に隙間があり、そこから光が筋になって降り注いでいた。そして建物は、全て石で覆われた箱型の建物である。どちらかと言うと、ロムリアよりも郊外にある集落の雰囲気を漂わせていた。そして
「こんな所に街があるとは、
流石に彼らも予想できないわよね」
とエンペラールが漸く口にした言葉だが、彼らとは当然文化財保護センターの人達を指していた。そして3人は、近くの家に入ることにした。
各自が召喚したライトに照らされた室内は、当時の生活の跡がくっきりと残されていた。恐らくこの家の住人は、何かしら避難誘導があって、身一つでどこかに避難したのだろうと推測される。その家の作りは、1階に居間と台所が併設された感じであり、2階と3階は住人の部屋となっているようだ。そんな部屋の1つに入った時、机の上に本が置かれているのを見つけた。早速エンペラールがその本を手に取ろうとしたところ、ボロボロになって彼女の手から零れ落ちた。何千年もの間奇跡的にそのままの形でそこに残されていた本も、流石に耐久性は完全に失われていたようだ。今後は慎重に扱う必要があるということを3人は肝に銘じた。
その後3人は、各家々を見て周るかどうか思案したが、やはり時間的な制約を受けそうな気がしたため、奥にある少し大きめの家に向かうことにした。何となくだが、その家の主がこの街の責任者のような気がしたのだ。そしてその家の前にやって来た3人は、入口の前で腕組みして静かに佇んでいる。
「これは、もう確定ですかね~、先生」
「そうね~、セラちゃんの言う通り、
ここは古代の街のようね~」
とセラスティナとエンペラールが会話をしているが、3人はその家の玄関の上部に掲げられた横文字を眺めていたのだ。恐らく「村長」とか「町長」などの表札かと思われるが、勿論その文字は読めない。だが明らかに古代文字で書かれているそれを目の当たりにしたことで、この街がロムリアよりもはるか以前に存在したことが確かなようだ。そして3人は中に入って行った。
1階には大き目の細長い石のテーブルが中央に鎮座しており、その周りに彫刻の施された木製の椅子が置かれていた。恐らくここは集会室か会議室として使われていたと推測される。そして、椅子の方だが、見た所特に問題はなさそうだ。だが間違いなくそこに腰かけた途端、お尻が床に付くことが容易に想像される。その後各部屋を見て周るが、ロムリアでは最早お目にかかることのない道具などがあったりして、エンペラールとセラスティナは目を輝かせながらそれらを吟味していた。尤も手に触れると直ぐに壊れそうなので、ただ眺めるだけにしていたのだが。そして3人は最上階にある部屋にやって来た。なお、この建物もそうだが、この洞窟内にある建物の最上階には全て天井が無い。と言うか必要ないというべきだろうか。そんな開放的な部屋の中には寝台と机と椅子が置かれていた。どうやら、この家の主の寝室と思われる。机の上は長い年月の影響だろうか、黒い砂粒にびっしりと覆われていたが、何やら真ん中あたりに膨らみが見られたので、セラスティナはそこに何があるか確かめるべく、慎重に砂を払い除けた。するとそこにタブレット程の大きさの石板が現れたが、それを見た3人は余りの衝撃により言葉を失ってしまった。そこにはヘキサグラム召喚門の模様が描かれており、その周りには先日調査して得られた古代の召喚文字が掛かれていた。ただ残念ながらかなりすり減っているため詳細な文字は判読できない。そしてヘキサグラム型の中心にも何やら文字が描かれていた。これは何かを召喚する術式を表したものなのだろうか?
「エ、エ、エンペラールさん、
こ、こ、これ、
ど、ど、どうしますか?」
と玲は震える声でエンペラールにそう尋ねた。だがエンペラールは玲の問い掛けに答えることは出来ないようだ。まだ放心状態から抜けていないためである。代わりにセラスティナが
「こ、これは、持ち帰って
調査すべき気がしますが...」
とこちらもエンペラールを見つめながらそう口にした。そしてエンペラールは
「う、うん、そ、そうね、
これは召喚術師が調査しないと
分からないから、
持って帰りましょう」
と言うことで、玲は破損しない様に慎重に持ち上げた。そしてエンペラールがバレル型の転移門を呼び出し、自分の屋敷の執務室に転移先を合わせた。そして玲が一旦その転移門から中に入り、エンペラールの執務室の机の上にそれを慎重に置いてから再び戻って来た。後は証拠隠滅ではないが、机の上の砂埃を均等にならしてから、3人はその建物を後にした。
「しかし、あんなものが見つかるとは
思ってもみませんでしたよ」
と玲は冷や汗を搔きながら2人にそう呟いた。その後どうするか思案していた3人だが、実はまだ洞窟は奥の方に続いているようなので、そちらの確認もしてみることにした。ただ、奥に進むにつれて温度が高く蒸し暑さを感じるようで、「もしかして、この先にマグマがあったりしてね」とエンペラールが呑気にそう呟くが、その先にあったのは残念ながらマグマでは無かった。ただし、これは玲にとっては馴染みのある光景かもしれない。
「えっ! ま、まさかの温泉ですか?」
そこは露天風呂のような雰囲気を漂わせているが、脱衣所のような設備は残念ながら存在しない。もしかして温泉ではなく水源なのか?それが長い年月を経て温泉化したとか、そんなことなのか?玲の疑問は尽きないが、そんな時、エンペラールの好奇心が顔を出してきたようで、早速
「ねえねえ、レイさん、
温泉って何なんですか?」
と尋ねてきた。そう言えば、ロムリア人は体を湯に浸けるという習慣が無いため、エンペラールの疑問は尤もだなと感じた玲は、エンペラールに温泉の意味や効果を説明した。すると
「へぇ~、そんな凄い効果があるなんてね~」
何か損したことしているわね~私達、とエンペラールはそう口にした。でもエンペラールのことだから、「すぐに入りたい!」と言い出すかと冷や冷やした玲だが、特にそう言うことは言い出さない所を見ると、何となくまだ様子見なんだろうな、と感じたのだった。
それから玲は、温度計を召喚して湯温を測定してみた。すると、温度は50℃前後を示していた。これは入るには熱すぎる温度である。
「どう、レイ君、入れそうなの?」
と今度はセラスティナがニコニコしながら玲に尋ねたので、玲は「日本の年配の方でこの温度の温泉に入る人もいますが、僕は絶対無理ですね」と速攻で入浴を拒否した。古代のサモナルドの人達は、この熱い温泉に平気で入っていたのだろうか?と言う疑問が沸く一方、もしかしたら昔はもう少しかったかもしれないよな、とそんな想像をして楽しんだ。
さて、この場所がどうやら最奥部のようなので、3人は元来た道を戻った。そして一度外に出てから、これからの予定を確認することにした。エンペラールから、「折角なんだから、もう少し見て周りましょうよ」と提案があったので、3人は再び乗用ドローンを召喚して上空から他に何かないかを見て周ることにした。休憩を挟みながら2時間程探索をしたが、残念ながら住居跡などの痕跡を見つけることは出来なかった。もしかしたら、この冷えた溶岩の下に埋もれているか、融けて無くなったのだろうか。あるいは別の所にあるのかもしれない。結局その後、セラスティナの用意したバレル型の転移門を使ってエンペラールの屋敷に転移して戻って行った。ロムリアは丁度朝を迎えた所であった。