召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 11日目 (後編)
国王主催の王宮晩餐会に着て行く衣装を無事購入した最神玲はセラスティナと共にブティックを出て、さてこれからどうしようかと思案していたが、そんな玲に対しセラスティナが
「ところで、レイ君、
カスミさんへのお土産はどうするの?」
と尋ねてきた。あぁー、そうですねーと答えようとした時、近くで大きな爆発音を耳にした。するとセラスティナが
「レイ君、こっち!!」
と大声で叫びながら玲の手を引いて物陰に急いで隠れ、玲と2人でその場に頭を両手で覆うようにしゃがみ込んだ。すると、その直後に爆風が2人の背後を通過するが、幸い何事もなくその場を通り過ぎて行った。玲は一体何が起きたのか分からず、その場に放心状態のまま座り込んでしまった。セラスティナが「大丈夫?」と確認するが、玲はまだ放心状態で返事が出来ず、ただ何とか頷くことは出来た。そして漸く落ち着いたところで、一体何が起きたのかをセラスティナに尋ねた。すると、
「多分、テロリストの連中の仕業ね」
「あの、糞どもが!!」と普段のセラスティナからは想像もできない言葉を吐き捨てながら、セラスティナは憎々しい表情になって爆発のあった方向を睨んでいた。どうやら、ロムリアは平和で安全な都市とは違い、内部に危ない連中が潜んでいるらしい。そしてセラスティナがテロリストと呼ぶ連中は、自称「ロムリア解放戦線」とか「自由ロムリア連合」なるベタな名前の組織のようで、ここ数年、事ある毎にロムリア市内で爆弾テロを繰り広げているのだという。そして玲が遭遇したこの事件は、同時多発的に複数カ所で発生していたことを後で教えてもらった。しかしロムリアで爆弾とは、ちょっと想像できない。と言うのは、銃すらない世界である。つまり火薬類が無いと言っても良いだろう。そんな世界で爆薬が作られている、しかもそれがロムリアに敵対する勢力だとなると、かなりどころか相当物騒である。そんなことをセラスティナに伝えると、
「そうなのよね、レイ君の言う通り、
全くどうやってそんなものを
手に入れたのか謎なのよ」
と言う答えが返って来た。恐らく一般のロムリア市民も同じ様に思っているのだろうと推測される。だが幾つかの説は考えられる。1つ目は古代遺跡から何かしらの資料が発見された説。2つ目は、地球からの転生者がもたらした説。そして3つ目は、地球からの転移者がもたらした説。3つ目の説はつまりセラスティナと共にロムリアに帰還した人物がもたらしたと言うものだ。だがこの説は直ぐに否定された。と言うのは、この爆破事件は数年前から発生しているというのだ。そして数年前にはセラスティナら地球からの帰還組はまだ地球にいたため、全く実現性ゼロな説となった。
一方2つ目の説はありそうに見えて実はかなり確率が低いと思われる。と言うのは、地球でも爆薬の知識を持つ人はそんなに多くはない。まあ特殊部隊の軍人などはその知識を必要とするが、それはあくまでも使い方であり、作り方ではない。ただし簡単な爆薬などはネットで見つけることが出来ることを玲は知っている。それでも今見たような規模の爆発となると、高性能爆薬を作る知識を持つ地球人がサモナルドに転生してこないと難しいと思われるのだが、その確率は......
そして古代遺跡から発見された説は、今の段階では肯定も否定も出来ない。ただし、古代言語を理解できる人物が先ずいないと駄目な訳で、しかし実際は古代言語を理解できる人物は限られているようだ。まあ、もし古代言語を理解できる研究者か誰か行方不明者が居たとしたら、その人が拉致されて無理やり協力させられた、などは考えられるが、何となくおのような気がしてならない。
まあ、こんな所であれこれ考えても埒が明かないので、玲はセラスティナとこれからどうするかを相談した。もし地球からもたらされた物が関与しているとなると、自分達も疑われる危険性がある。なので出来れば現場を一度見て、それが爆薬による爆発の影響なのかどうかを確認できたらと考えていた。この意見に対しセラスティナも同意したので、早速2人で爆発のあった場所に転移で向かうことにした。
玲とセラスティナは現場まで100メートル程の距離がある路上に転移して来た。残念ながら現場周辺は既に治安部隊と消火部隊によって塞がれており詳細を確認することは出来ないが、それでも玲がその現場を一目見た時、これは俗に言うプラスチック爆薬による爆破ではないのではないか、と言う印象を受けた。尤もロムリアの建造物の構造や耐久性がどれほどなのかが分からないが、先ず現場に瓦礫が全くないのが不自然であった。よくテレビニュースなどの映像で爆破テロ後の様子が放送されるが、その場合ガラス片やビルのコンクリート片が散乱し、建物の瓦礫に埋まった人達の救出作業が映し出される。だがこの現場には、そのような瓦礫が存在しない。勿論既に片付けられたとは思われない。それよりもこの現場はまるで...
「タチアナさん、何か建物のあの部分が
瞬時に無くなった感じを受けるんですが...」
気のせいでしょうか?と今感じる疑問をセラスティナに呈した。セラスティナもこの現場の光景に違和感を持ったのだが、その違和感の正体が分からず、心の中で嫌なもやもやを抱えていた。遠目でも分かる位に、何かが融けた様子が分かる。恐らく建物の建材と窓ガラスと思われたが、あれらはそんなに融けやすいか?と疑問に感じたその時、鞄に入れていた情報端末からけたたましい音が鳴りだした。急ぎ情報端末を取り出すと、何やらエラーが発生したようだ。こんなことは初めての経験で、とにかく音を消そうとするもどうやって良いのか分からない。仕方ない電源を切るか、と言うことで強制シャットダウンをしたのだった。だがその時、セラスティナはハッとしてこうつぶやいた。
「こ、これって......」
そして急ぎある物を召喚した。それはセラスティナの軍事関係の装備品コレクションに含まれている放射線測定器である。そしてスイッチを入れた途端、直ぐに反応が現れた。
「レ、レイ君!!
直ぐにここを離れるわよ!!」
とセラスティナが突然叫んだかと思った次の瞬間、玲とセラスティナはエンペラールの屋敷の玄関前に転移していた。玲は何があったのか分からぬままここに転移させられたが、理由をセラスティナに尋ねようと彼女の方に振り向いた時、セラスティナの顔から血の気が失せて青白くなっているのに気づいた。”えっ?タチアナさんに何か起きたのか?”と心配になる玲だが、どうやら強い精神的なショックを受けたことで茫然自失していただけのようであった。だが、やはりあそこで何が起きたのかが知りたい玲としては直ぐにでもセラスティナに色々聞きたいのだが、そんな玲の心情を知ったのか、「これからエンペラール先生の所に向かいます!」と言って2人で召喚術師管理センターにそのまま転移して向かった。
セラスティナは早足でエンペラールの執務室に通じる転移門に向かう。玲も遅れまいとその後を必死で追う。そしてエンペラールの秘書の静止を振り切ったセラスティナは、ノックもせずにそのままエンペラールの執務室に入って行った。すると、そこにはエンペラールだけでなく、治安担当大臣のテレンシスが同席していた。これは丁度いい、と内心ニヤッとしたセラスティナは、突然の侵入者に対し唖然とする2人に向かって、
「先生、そしてテレンシス大臣、
先程ロムリア市内で爆破事件が
発生しましたが...」
あれは核爆弾が使われた感じです、と伝えた。それよりも、エンペラールは、
「ちょっと、ちょっと、セラちゃん、
今来客中よ!」
とセラスティナを叱責するが、セラスティナはそんなエンペラールの叱責を無視して、たった今、玲と2人で爆破現場を確認していた時、そこである物が使われたことを確信したため、急ぎそれを知らせに来たということを2人に伝えた。そして
「先生、その爆破事件では
核兵器が使われています!!」
と大声でそう叫んだ。玲は核と言う言葉を聞いた途端、先程のセラスティナではないが全身から血の気が失せるほどの衝撃を受けた。
”まさか、ロムリアで
核テロが発生したというのか?”
だが、エンペラールもテレンシスも核と言うものが理解できないためか、キョトンした表情を漂わせていた。いや、それ以前に、テレンシスは市内で爆破事件が発生したことすら把握していないようであった。そのため、
「ば、爆破事件が
また起きたんですか?」
と叫ぶや否や、早速自分の情報端末を取り出して治安本部に確認を試みた。そしてそこに表示された情報に対し驚愕の表情を浮かべた。一方のエンペラールは、セラスティナの発した「核」と言う言葉の意味を把握できていないため、早速
「ねえ、セラちゃん、
その核とは一体何なの?」
とセラスティナに何時もの軽い口調でそう尋ねた。そこでセラスティナは自分が知っている核兵器に関する情報を伝えた。そして、
「核爆発を起こした爆心地では
建物が壊れるのではなく、
融けてしまうようなんです。
そして...」
通信機器が異常をきたすことも伝えた。更に一番厄介なのは放射線を周囲に撒き散らすことだ、と言うことを説明した。そして
「この放射線が人体に蓄積されると、
癌や遺伝子異常を引き起こします!」
つまり、この核兵器は強烈な熱エネルギーの放出だけでなく、周囲に放射線を撒き散らす恐ろしい兵器なんです、と言うことを伝えて説明を終えた。ただやはりと言うべきか、核の脅威を知っている者と知らない者の差はその態度に明確に現れるようで、セラスティナが熱を込めて伝えた言葉はこの国の大臣2人にはあまり届いていないようで、結果そんなに危機意識を持っているようには見えなかった。だが、
「もしそんな凄い兵器が
使われたとなると厄介だけど...」
とエンペラールは一旦言葉を切って、何か考え始めた。そして、
「ここに居る私達だけでは
何も分からないから、
彼を呼びましょうか」
と言うや否や、自分の机の上に置いてある情報端末を使ってある人物を呼び出した。
「あっ、タランダール師、
今ちょっといい?」
エンペラールが呼び出したのは科学技術担当大臣のタランダールである。そしてエンペラールは今セラスティナから聞いたことを彼に伝え、彼の意見を求めた。すると、
「エンペラール師、
今からそちらに向かいますが、
お時間は大丈夫ですか?」
と突然の来訪を告げてきた。エンペラールは問題ないと伝えると、数分後部屋をノックする音が聞こえた。セラスティナが扉に向かって扉を開けると、そこにはタランダールその人が立っていた。タランダールはエンペラールだけだと思っていたようだが、そこに治安担当のテレンシスが居ることを目にした途端、緊張の色を濃くし始めた。一方で部屋には見知らぬ人物が佇んでいるのを目にして、少し警戒をするような目つきになったりしたが、エンペラールが彼は地球から私たちが呼び寄せた客人であることを伝えて、とりあえず彼の警戒を解くことは出来た。そして早速セラスティナが先程の話をタランダールに伝えた。すると、
「この話はここだけのことにして
頂きたいのですが...」
と先ずは断りを入れてから、次のような事を語りだした。
ロムリアのエネルギー源は熱核融合炉から得られている。そしてロムリアの科学者は、当然核融合と同様、核分裂も熟知していた。その上で、やはり放射線の脅威は彼らの技術力をもってしても解決できないようで、精々放射線被ばくした場合、例の人体スキャナーを使って遺伝子をその都度修復するしか手がないという。そんな危険な方法よりも、やはり放射線を出さない核融合を推進したという経緯を語った。そして、
「もしセラスティナ師が仰ったような
核兵器が使われたとなると、
地球ではウラニウムが
使われているんでしたっけ?」
とセラスティナに確認し、セラスティナがうんと頷くのを見て、
「そのウラニウムが我々の知る
どの元素に相当するかですが...」
と思案し出した。その時玲は自分の蔵書コレクションに化学の本が幾つかあることを思い出し、それを召喚して読み始めた。そして直ぐに元素の周期表を探り当てたので、
「地球の元素表では92番目に
位置するものですね」
とタランダールにそう伝えながら、その本に書かれている周期表を見せた。タランダールは不思議そうな顔で玲を見つめるが、玲の言葉に反応し早速自分の情報端末から該当する元素を調べた。
「あー、そうか、これかー」
と何やら感嘆するような声を出したが、直ぐに
「昔の科学者の残した資料によると、
核分裂によるエネルギーの抽出で
最適な元素が実は見つからなくて、
ずっと探していたと言うんですが、
そうか、これだったんだ...」
と又もや自分の世界に入って感心し出した。そして、
「すいません、この元素ですが、
これはサモナルドには存在しません!」
と断言した。と言うことはつまり、サモナルドでは核兵器は作れない、と言うことになるようだ。ちなみに、それよりも重いプルトニウムもサモナルドには存在しないようだ。つまり地球で発達した核兵器は、サモナルドでは作ることが出来ないというのである。
「勿論他の元素でもしかしたら
作られてないとはいいきれませんが、
果たして建物を崩壊させるまでの
威力があるかどうかは
分かりかねますね」
と言うことであった。そうなると、あの爆破跡は核兵器以外の手段と言うことになる感じである。だがこの場て直ぐに結論が導かれることは無く、タランダールは治安担当のテレンシスに対し、治安要員の遺伝子検査を直ちに実行することを助言した。テレンシスもそれを了解し、直ちに責任者に対しそのように手配するように情報端末から指示を出した。それから放射線を測定する装置の用意をタランダールに要請したが、タランダールの所では放射線測定器はないということだった。確かに核分裂を扱わない以上不要であるのだが、その時セラスティナが召喚物で良ければと言うことで、その術式を公開することを約束した。後は召喚術師を同行させて放射線測定器を召喚すればそれで確認できることになる。
とりあえず、この場の話し合いは終わったところで、2人の大臣はそれぞれ自分達の担当区域に転移して行った。そしてエンペラールの執務室には何時もの3人が残った。そこでセラスティナは、先ずは先程のな訪問に対しエンペラールに謝罪した。ただ、その場に治安担当大臣が同席していたことから、てっきり先程の爆破事件に関する話し合いかと思ったことを伝えるが、どうやらタイミング的には早過ぎる印象を持ったため、そのことをエンペラールに尋ねた。すると、
「彼女とは、明後日の王宮での晩餐会の件で、
警備をどうするかと言うことを
打ち合わせていたのよ」
この場合、治安要員だけでなく、召喚術師も警備に動員されるため、それぞれの役割分担や配置場所などを決めていたらしいのだ。
さて、慌ただしい時間が過ぎて、少しホッとしたセラスティナだが、玲の顔を見た途端、
「あっ、後でレイ君も
遺伝子検査を受けてね!」
と玲に伝えた。当然自分も遺伝子検査を受ける必要がある訳で、これから一旦エンペラールの屋敷に戻って2人で直ぐにあのスキャナーで検査を受けることにした。玲は自分の体が得体の知れない何かでスキャンされていることに不安を感じたが、横になっているためか、そのうちうとうとし出しそのまま寝てしまった。そして1時間程経った頃だろうか、目を覚ました玲は、自分が今どこに居るのか一瞬分からなくなりパニックに陥った。だが、装置の蓋が既に開いているのを見た途端、あのスキャナーに入っていたことを思い出し、急ぎそこから出た。そして漸く落ち着いた時、玲は今日一日一体何をしていたのか忘れそうになる感覚に陥っていた。余りにも色々な事が起きたためだが、やはり最後の爆弾テロは衝撃であった。自分が今住んでいる日本ではめったにと言うか、最神玲が生まれてからは全く爆弾テロは起きていない。そのため実感が持てない所があるのだが、一方のセラスティナは、パリで暮らしていたからか、爆発を察知した途端直ぐに回避行動をとるなど、危機意識の高さの違いを見せつけられた。だがあの爆発は本当に核によるものなのか?それとも全く別のものによるのか?残念ながら今の自分の知識では、それを判断することはできない。地球に戻ったら、この辺のことをもう少し調べてもいいかもしれないと心に留めた。その後、3人で夕食を摂った後、暫くは3人で恒例となった召喚術談議を行い、その後は玲とセラスティナの2人でロムリアの裏側で発見した古代遺跡調査隊の案内をすべく、合流先に転移して行った。