召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 11日目 (中編)
最神玲は古代遺跡調査隊を今夜火山地帯に案内する以外に全く暇になったので、一旦エンペラールの屋敷に戻り、自室にてあの洞窟で見つけたヘキサグラム型召喚門に書かれた術式を調査することにした。外側の6カ所に書かれた古代語の召喚文字、あれは形から恐らく自分の知るヘキサグラム型降霊転移門と同一であると推測される。すると後は真ん中に記される言葉である。玲は手元に日本語で記した古代の召喚言語の対訳表を用意し、早速似た形の候補をピックアップした。そしてそれらをオセロの白い石に似た物を複数個召喚し、そこに候補とした古代の召喚言語をマジックで書いて、ただ地道に並べ替えては意味を考える、そんなことを繰り返していた。流石に古代の召喚言語が相手だと、何時もの初見の召喚言語を即座に読み解く能力は発揮されない。だがそんな状況でも、玲と言うよりも中身のカーンフェルトは全く意に介さない。むしろこういう時のカーンは嬉々としてそれをやり続けるのである。全く持って変態である
そのうち昼になったので、セラスティナは玲をランチに誘いに部屋にやって来た。外から「レイ君、ランチに行かない?」と扉をノックしながらそう伝えるが、中から返事が返ってこない。あれ、留守なの?と思いつつ、念のため扉を開けると鍵はかかってない。そこでそのまま開けて中を伺うと、机の前で何やら熱中する玲の姿を目にした。「何だ、居るんじゃない!」とセラスティナは玲の対応に呆れかえるが、もしかすみであれば即座に「いるんやったら、返事せー!」と言いながらマキザッパを召喚して玲をしばいていただろう。それでも、セラスティナが入って来たことに気づかない玲を見て、セラスティナは何をやっているのか興味を持ち、彼の傍に立って机の上にある物を眺めた。あっ、なるほどね、あれを調べてたのか、と納得したセラスティナだが、やはり偶には休息が必要だということで、「レイ君、ランチに行かない?」と玲の耳元でそう囁いた。すると、玲はビクッと体を震わせて直ぐに声のした方を振り向いた。
「あー、ビックリした、
タチアナさんですかー」
と玲は少し非難を込めた目でセラスティナを睨んだ。だが、セラスティナはそんな玲の更に上を行き
「あらー、私じゃなくて、
カスミさんなら良かったのかなー?」
とニコニコしながら玲に問い質した。玲はタジタジとなりながら、「い、いいえ、そうじゃなくて、かすみなら有無を言わさずしばいてきますよ」と何とか言い逃れようとした。それよりも
「そんなことばかりしてないで、
ランチにしましょうよ!」
とセラスティナが提案してくるので、玲は机の上の時計を見た。そして「うわー、もうこんな時間なんだ!」とつい叫んでしまった。そこでセラスティナの提案に従って、エンペラールを伴ってランチに向かった。
仕事疲れでぐったりしているエンペラールを励ましながら、3人はサモナレイク産の魚介類を扱う海鮮料理を頂きながらランチを楽しんだ。そう言えば、自分の住む日本は魚を生で食べたりするが、ロムリアはどうなのかな、と玲は気になったので、セラスティナに尋ねた。
「うーん、こちらでそう言う料理を
出すところは無いわね」
まあ、そうだろうな、と玲は納得した。転移でこちらに直ぐに持ってくるから鮮度は大丈夫だろうし、むしろ日本よりも新鮮かと思われるが、やはり生魚だけを食べるにはあの生臭さを消すためのと醤油などの味付けが重要で、そう言う物がないと食べ難い気がするのだった。だがそんな話にエンペラールは興味を抱いたようで、
「ねえねえ、レイさんの所では
魚を生で食べたりするんですか?」
と聞いてきたので、寿司や刺身で食べることを伝えた。エンペラールさんを地球に召喚したら是非食べに連れて行きますよ、とエンペラールにそう伝えた。エンペラールは「それは楽しみです!」と嬉しそうにそう口にした。そして玲は、序に
「肉も生で食べたりすることがありますよ」
と言うと、エンペラールは苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべながら、少し、いやかなりの嫌悪感を抱いて引いていた。流石にサモナルドの肉を生で食べることを想像すると、そうなるよな、と玲も納得するのだが。ちなみに、玲がかすみと一緒に牛さしを初めて食べた時は、「これって本当に肉なの?」と疑ってしまったのだが、意外と食べ易く美味しかった記憶がある。多分肉質次第なのだろうなと感じたのだった。そんな話をエンペラールに伝えとる不思議そうな顔をして、だが「何だかそれも試してみたくなったわね~」と肯定的な評価に変わったのだった。
3人でランチを楽しんでエンペラールと別れた後、セラスティナは玲をある場所に連れて行った。そこは高級衣料品を扱うブティックである。明後日の晩に開催される国王主催の王宮晩餐会に着て行く玲の衣装を仕立てるためである。実は玲は、かすみとは異なり、洋服やアクセサリーなどの術式を殆ど持っていない。まあ、スーツ位なら出せるのでそれで行こうかな、と考えていたのだが、そんなことを今朝の朝食の時にセラスティナに話すと、
「レイ君!!そんな恰好で行くのは、
失礼極まりないよ! 絶対駄目よ!!」
と怒られてしまった。地球でも指折りのファッションデザイナーであるタチアナことセラスティナとしては、そんなファッションセンスの欠片もない衣装で行かせたら、自分が恥ずかしくて仕方ないと感じたのだ。そしてそれ以上に、国王に対して失礼であるからなのだが、玲と言うかカーンフェルトとしては、そもそも王室や王家との関わりは一切持ったことがないので、いざドレスコードとか聞かれても全く分からない。そのため、セラスティナが玲をここに連れてきたのだが、
「いやいや、何だろう、かなりと言うか、
個性的すぎるのですが...」
と玲は目を白黒させてそのまま絶句した。そしてここからは、ロムリアブランドの生みの親であるファッションデザイナーのタチアナが、玲の衣装選びを主導した。玲はその場に棒立ちになり、タチアナモードのセラスティナが持ってきた衣装をただ黙ってあてがわれていた。
「本当はねー、私がデザインから裁断と縫製まで
やってあげたかったんだけどね、
時間が全く足りないのよ」
と言いながらある衣装をあてがった時、「うんうん、これが良いかもね。レイ君どう?」とタチアナモードのセラスティナが玲に尋ねた。玲はその衣装を見た時の第一印象は「これって、どこかのアイドルかミュージシャンか?」であった。一般的なロムリア人の着る服装は、いわゆる「つなぎ服」のように上下が一体となったタイプである。ただし、体の線を少し強調するようにフィット感を出すつなぎ服である。勿論それだけではなく、更に丈の短いジャケットや逆に丈の長いコートを羽織ったり、あるいは腰の部分にカラフルな布のようなものを巻いてスカートの様にしたりなど、人それぞれにお洒落を楽しんでいる。ただそんな中で例外があり、それが今のセラスティナであり、そのセラスティナのデザインした衣装を愛用しているエンペラールである。彼女達は、どちらかと言うと地球の衣装に近い。まあ、セラスティナ自身地球に長く住んでいたので当然その影響はあるのだが、彼女達は上下を完全に分けているのだった。
さて、話は戻って玲の衣装だが、この典型的なロムリア人の好む体にフィットした黒いつなぎ服である。ただし、光の加減でかすかにゴールドに輝く特殊な素材でできており、シンプルでありながら未来的な印象を与える。そしてその上には、深みのあるワインレッドのロングコートを羽織っている。床に届くほど長い丈が優雅なドレープを描き、動きに合わせてわずかに揺れる様子が、豪華な雰囲気を醸し出していた。洗練されたつなぎ服と、重厚なロングコートの組み合わせが、王宮の晩餐会に相応しい、堂々とした風格を演出すると、セラスティナは太鼓判を押した。玲はもう訳が分からぬまま、セラスティナの言いなりになっており、後はこの衣装にあう黒のブーツと一緒に最終的にはこれでお買い上げとなったのだった。勿論支払いは全てセラスティナである。玲は自分で払いたいのだが、残念ながらロムリアの市民ではないため、かれは情報端末を持っていない。仕方なくセラスティナに甘える形となってしまったが、それでも「タチアナさん、このお礼はいつか必ずします」とは伝えておいた。尤もセラスティナは「レイ君、そんなこと気にしないの」と歯牙にもかけないのだった。そして購入した衣装は、直ちに店から転移で配達先に届けられ、2人は手ぶらのまま店を後にした。