召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 13日目 (後編)
さて、王宮に向かう時間となった。最神玲はセラスティナに購入してもらった衣装に身を包み、手にはウェアラブルカメラを持ってエンペラールの執務室に向かった。執務室には、既に晩餐会用のドレスに身を包んだエンペラールとセラスティナが玲の到着を待っていた。エンペラールは深いロイヤルブルーのロングドレスに身を包み、肩から腕にかけては繊細なレースをあしらい、優雅さを演出している。そして裾は緩やかに広がるマーメイド風。動くたびに光を反射し、落ち着いた高貴さを漂わせている。一方のセラスティナは、深みのあるエメラルドグリーンのロングドレスに身を包み、オフショルダーで首元を大胆に見せ、凛とした印象を与えている。シルエットは裾までまっすぐに落ちるラインに、スリットを片側に入れて動きを出し、エンペラールのクラシカルなマーメイドラインとは異なる都会的な雰囲気を演出している。これらは全て、セラスティナがデザインしたものである。両名とも、何時もの雰囲気とはガラリと変わり、大人の女性の魅力を存分に醸し出していた。
玲は2人の女性に見惚れながらも、セラスティナにビデオを渡した。とりあえず、晩餐会の雰囲気が分かれば良いので撮影をお願いできますか?と尋ねた所、セラスティナは快く引き受けてくれたのだ。そしてエンペラールが
「では、みなさん行きましょうか!」
と言うことで、専用の転移門から王宮に向かった。
王宮に到着すると直ぐに、玲は待機していた王宮の使用人から別室に案内された。そこは、どうやら王室関係者の控え室らしく、そこかしこに着飾った王族がしていた。その中でもある一団がやはり目を引く。そこには第一王子とその取り巻きが何やら話し込んでいた。一方別の所では第一王女を中心にやはりその取り巻きが囲んでいる。玲は全く場違いな所にやって来たと冷や汗を搔いているが、玲はやはりここでも異質な存在であるため、直ぐに彼らの目を引くのだった。何か見られていると思うとどこかに隠れたくなる心境なのだが、一方で自分は別に何か悪いことをした訳ではなく、しかも今回は国王ロメロ5世からの直々の招待を受けたので、彼らに対し臆することは何一つない。そんな開き直りが功を奏したのか、玲は堂々と中に進んで行き、先ずは第一王子に対し挨拶をした。まさか相手が何も臆することなく胸を張ってやって来て挨拶をするとは想像していなかったようで、第一王子は「よきにはからえ!」と言うだけであった。次に第一王女に対しても玲は挨拶を行ったが、こちらは第一王子とは違い、何かしら余裕な表情で「よろしくね」と軽い挨拶をしてきた。何となく本人達は、今日この場で次の後継者が発表されることを予期しており、しかもどちらになるかが何となく分かった雰囲気を漂わせており、その影響なのだろうな、と玲は推測した。だが、この後で本人達の意図しない結果になった時、果たしてどうなるのだろうか。
やがて、控室の奥の扉が開かれて、ロムリア国王ロメロ5世が入って来た。白で統一した洗練された衣装が国王としての優雅さと威厳を存分に醸し出していた。だがそれよりも玲の目を引いたのは、胸元に飾られているルビーのペンダントであろう。その大きさは子供の拳くらいの大きさであるが、サモナルドはルビーが殆ど産出されないため、最も希少性の高い宝石となっている。しかもあの大きさとなると、恐らく二度とサモナルドでは産出されないのではと思われる。これぞ権力者の証と言うべきであろう。そして、そのルビーのペンダントを次はだれが身に着けるのだろうか?
「皆の者、お待たせした。では、参ろうか!」
ロメロ5世からの合図で、先ずは王家の親族が係の案内に従って控えの間から出て行った。玲はどのタイミングで行くのかを把握していなかったが、ロメロ5世から「では、レイモカミ師、参ろうか!」と言葉をかけられ、玲はロメロ5世と並んで控えの間を出て行った。その後から第一王子と第一王女がついて来るが、彼らの表情には険しさが漂っていた。あいつは一体何者なのだ?と。その後、大広間に入る前に、第一王子と第一王女が先ず大広間にはいり、その後をロメロ5世と玲が一緒に入場した。
大広間に入った途端、玲とロメロ5世に対しスポットライトが当てられた。玲は人生でこのような舞台に未だかつて立ったことは無いため、かなり、いや極度の緊張状態に陥った。ただ幸いにも、右手と右足が同時に出ることは無く、端から見ると落ち着いたように感じられたようだ。そしてロメロ5世に誘われるままに席に到着し、すぐ後ろから係の者が「ご着席ください」と声を掛けられたので、玲はそのまま着席した。一方、ホスト役のロメロ5世はそのまま立ち続けて、これからスピーチを行うというのだ。そしてロメロ5世は
「ロムリア市民を代表される皆様、
今宵の晩餐会にお集まり頂き
感謝申し上げる」
との言葉で今宵の晩餐会は始まった。そして、
「今宵お集まり頂いた方々に
余の隣におられるレイモカミ師を
是非紹介したい」
と紹介された玲は一度立ち上がり、サモナルド式の挨拶を行ってから再び着席した。
「レイモカミ師は、サモナルドとは異なる
地球と言う惑星から、
エンペラール師とセラスティナ師により
召喚されてこちらにやって来た」
そしてその地球には不慮の事故で強制転移させられたセラスティナを始めとした多くの同胞が住んでいたが、玲の尽力で一部の者達は無事にサモナルドに帰還できたことが紹介された。更に、
「自分達の家族と共に
地球に残った同胞たちに対し、
レイモカミ師は彼らのメッセージを
サモナルドに残された
家族や知人たちに届けることを
率先して行われた」
この話がロメロ5世の口から伝えられると、会場内で「おー」と言う歓声が起こった。確かに、玲がメッセージを届けることは、あくまでもボランティアであり、大々的に宣伝するようなことではない。そのために事情を知らない人達からの歓声が上がったのだが。そしてロメロ5世によるスピーチは続く。
「更に、昨日から大きなニュースに
なっている古代遺跡の発見だが」
それらを最初に発見したのが、エンペラール師、セラスティナ師、そして
「ここにおられるレイモカミ師である。
これ程にロムリアにおいて
多大なる貢献をされたレイモカミ師に対し、
余は心ばかりのもてなしをと思い、
今宵の宴を用意した。
レイモカミ師、どうぞ楽しんでもらいたい」
とのスピーチで最後を締め括った。そして次は玲の番である。流石に講義とは違い、何百人もの上流階級の人達がいる前でスピーチをすることは慣れておらず、緊張のためか口の中がカラカラに乾いてしまった。そこで目の前に置かれている水の入ったグラスを口にし、それからに立ち上がってスピーチを始めた。
「ロムリア国の国王ロメロ5世陛下に
おかれましては、私をこのような場に
ご招待頂いた事に、感謝の念に堪えません」
と先ずはロメロ5世に対する感謝を口にした。それから、この場にいる王族と出席者への感謝の言葉を伝えた。特に、
「私が今ここで陛下からのもてなしを受けて、
スピーチ出来るのも、全てはこの地に
招いて頂いたエンペラール師と
セラスティナ師のお陰です。
両名に、心からお礼を申し上げます」
と玲は2人に向かってサモナルド式の礼を示した。それから、なぜ地球人である自分がサモナルド語を流暢に話すのかについて説明した。
「私は今から千年後のサモナルドで
召喚術師をしてました。
そしてある事故が原因で
命を落としたのですが、
どういった運命なのか、
ロムリアのこの時代と同じ時間軸にある
地球と言う惑星に転生しました」
そのため、体は地球人ですが中身はサモナルド人と言うハイブリッドになりました、と自虐を込めてそう語った。この自虐には少しだが笑いが起きたようだ。かすみだったら、「くそっ、もう少し受けたと思ったのに!!」と悔しがるだろうが、玲はそんな気持ちは全くない。そしてに、
「そう言えば、私の居た時代のサモナルドでは、
エンペラール師とセラスティナ師は
誰もが知る召喚術の大家として
尊敬を受けておりました。
しかも私の住んでいた街では、
エンペラール師の銅像が建っておりました。
ただですね...」
「どこでどう間違ったのか、エンペラール師は男になっておりました。しかもかなりの年配です!」と玲は笑顔になりながら、目の前で玲を見つめているエンペラールに向かってそう伝えた。これは大いに受けたのか、会場から大きな笑いが起こった。そして当のエンペラールは、「もう、何で私が男なのよ!!」とボヤキながら口を尖らせていた。そんなエンペラールの姿に心を癒された玲は、
「これほどチャーミングな女性を
一体どこの誰が勝手に性別を変えたのか、
探し出して厳重に抗議したいと思います」
と玲はエンペラールに代わって抗議する素振りで不満を口にしてその場を収めた。
それから、地球で偶然に知り合った女性、地球ではタチアナ・エグリスコバと呼ばれ、こちらではセラスティナと呼ばれる女性との遭遇を語った。そしてセラスティナから地球にやってきた事情を聴くに及び、何か手伝えることはないかと考え、遂には特殊な召喚術でサモナルドに帰還できることを見出したことを話した。
「そして無事セラスティナ師を
始めとした十数人のサモナルド人の同胞が、
無事故郷に戻れたことを知るに及び、
私自身胸が熱くなる思いを受けました」
そして、自分が居た時代とは異なる現在のサモナルドにやって来たことについて触れた。
「エンペラール師とセラスティナ師によって
この地に召喚されたとき、
実は私は気を失いました。
と言いますのは...」
サモナルドの重力は地球の重力よりも何割か大きく、そのため体が重力に負けてしまい、初日は寝込んでいたことを告白した。その後はロムリアと地球との類似点や相違点を面白おかしく紹介しながら、やはりこの点は触れておこうということで、
「実はロムリアの空気って凄く綺麗なんです。
逆に地球の空気はかなり汚れてます。
これはなぜかと言うと...」
地球では移動に転移が使えないため乗り物で移動するが、その乗り物を動かすとき、汚い空気を撒き散らすことを自虐を込めて話した。
「地球では転移が使えず、
乗り物で移動するのが一般です。
例えば遠くへ行きたい場合は
空を飛ぶ乗り物に乗ります。
もし宇宙に行きたければ...」
ロケットに乗って宇宙に行くことを伝えた。そして地球人が宇宙に行く目的は、地球の周りを周回する宇宙ステーションなる研究用の施設において、無重力状態で様々な実験を行って新しい薬や素材を開発することであることを説明した。そして最終的には
「当然他の星へ向かうことも視野に入れています」
と説明した。これにはエンペラールだけでなく、科学技術担当大臣のタランダールが大いに興味を持ったようで、食い入るように玲の説明に聞き入っていた。
そして最後に玲は、
「すいません、話が長くなりましたが、
少しでも皆様方に地球のことを
知ってもらいたく話をさせて頂きました。
ご清聴有難うございました」
と締めの言葉で玲の挨拶は終わった。会場からは大きな拍手が巻き起こったことは言うに及ばないだろう。玲としても、少しでも地球に興味を持ってもらい、序に地球からの帰還組の方達に良い方向の風が吹いてくれることを願わずにはいられない。そして玲の挨拶の後、いよいよ晩餐会が始まったのだった。
玲は王宮料理に舌鼓を打ちながら、隣に座る第一王女と会話をしていた。本来であれば、会話を楽しみたいところだが、この後のことを考えると、そこに楽しみを見出すことは出来なかった。そして何となくだが、その矛先は国王ロメロ5世ではなく、自分に向けられるであろうことが容易に読み取れるのだった。
晩餐会も終盤に差し掛かった頃、ロメロ5世が突然立ち上がった。その様子を見ていた会場の参加者は、そこに重大な発表がされることを予期した。そして晩餐会場は、水を打ったように静まり返った。
「ご列席の皆さん、今宵の晩餐会を
楽しんで頂けてることを願うが、
余からある発表をさせてもらいたい。
だがその前に、是非皆さんに
この映像を見て頂きたい」
と言うや、会場を囲む四方の壁に巨大なモニターが現れた。本来ロムリアでは二次元映像を楽しむ習慣はごく一部のマニア以外にはなく、またそのための専用設備はロムリアには存在しない。そのため、この巨大モニターはセラスティナが召喚して用意したものであった。そしてそこに映し出されたのが...
「お父様、お母様、お兄様、お姉様、
皆さん元気にしてますでしょうか?
ヴェレニエラ・ロムリアーナです」
と金色の髪に青い瞳を持つ、どこかあどけなさを残すもその眼には父親譲りの芯の強さを備えた女性が画面の中で名乗った時、会場は静かな驚きに包まれていた。そしてヴェレニエラがあの日何らかの原因で地球に転移させられ今は地球に住んでいること、そして誕生日にロメロ5世からプレゼントされた王家の紋章が刻まれたブレスレットを今も大事に身に着けていることを見せながら伝えた途端、会場のあちらこちらから「ヴェ、ヴェラ王女だ。ヴェラ王女が御存命であられた!!」と言う叫びにも似た歓声が沸き上がった。玲の隣に座る第一王女も驚きで目を見開いて、開けた口元を手で覆ったまま固まってしまっていた。それ位に強い衝撃を受けたようであった。それから、ヴェレニエラは地球での生活の様子を語り、そこで映像は終了した。”この後はお子様たちが出てくるんだったけど、意図的にカットしたんだな”と玲は内容を知るだけに、そこにロメロ5世の懸念が実は現れていたのではと推測した。
そして映像が終了しても、会場の興奮が冷めやらぬ中、ロメロ5世は再び立ち上がり
「さて皆さん、娘のヴェラが
地球で無事に生活していることが
分かったが、これもレイモカミ師が
知らせくれたお陰である。
改めて礼を言わせて欲しい」
とロメロ5世は隣に座る玲に礼を伝えた。そしていよいよその時が来た。
「余はここに宣言する!
ヴェレニエラ・ロムリアーナを
ロムリアの次期国王に推挙する!」
ロメロ5世の後継者指名が宣言された途端、会場からは「ロムリアに栄光あれ!」、「ロメロ5世万歳! ヴェラ王女万歳!」などの歓声が沸き上がった。その声が大きくなるにつれて、玲の隣に座る第一王女の礼を見つめる視線は、困惑から激しい憎悪に大きく変化したことを玲は肌で感じていた。もし今何気なくそちらに振り向こうものなら、その途端に飲み物を頭から掛けられるか、頬をビンタされるだろうと言う予感をひしひしと感じていた。そのため玲は、無表情で前方をじっと見添えたままの状態を保ち続けるしかなかった。
それから程なくして、ロメロ5世は玲を伴って退席した。それに合わせて、今宵の晩餐会はお開きとなったのだった。玲はそのまま帰宅かと思ったのだが、ロメロ5世は溜息をつきながら玲をプライベート空間にある応接室に案内した。通常、その部屋は国王とその家族だけが使用するのだが、そこで2人きりで話を始めた。そしてロメロ5世の溜息は、やはり2人の子供たち、第一王子と第一王女であった。
「レイモカミ師、余の判断は
間違っていたのだろうか?」
と玲に相談を持ち掛けるが、玲はその問いに答えることは出来ない。そんな重い質問に答えられるほど玲は人生経験を積んでおらず、しかも神経が図太くない。かすみなら「まあ、良かったんとちゃう?」で済ませそうだが、これは心臓に毛が生えていると言われるかすみだから出来ることであり、玲はそんな図太さは持ち合わせていない。いや、それよりもロメロ5世のこの問い掛けは自問自答だろうと思われたので、玲はその問いには直接答えず、ただ
「僕はヴェラ王女を説得することはしませんが、
僕が持ち帰るメッセージは確実に彼女に届けます。
そして陛下の姿を目にし、陛下の言葉を耳にすれば、
ヴェラ王女も何かしら思う所があるはずです。
ヴェラ王女の判断を待ちましょう」
と言うに留めた。そして最後のシーンをカットした理由について玲は遠慮がちに尋ねたが、要するに情にされて孫に会いたさに判断を誤ったのではと言う懸念を払拭するためと言うことであった。恐らく第一王子と第一王女は、後継者指名の正当性に関して、必ずその点を突いてくることが容易に予想される訳で、そのため敢えて見せる必要はないと判断されたのだった。それから玲は、明日には地球に帰還すること、更に約束通りロムリアの暦では半年後に必ず召喚することをロメロ5世に伝え伝えて王宮を後にした。
玲はエンペラールの私邸に転移後、自室にて着替えを済ませ、そのままエンペラールの執務室に向かった。もしかしてまだ王宮に残っていることも考えられたが、果たして
「レイ君、お帰り! 疲れたでしょ?」
と扉を開けて入るやセラスティナが声を掛けて、玲を労った。そしてエンペラールも既に着替えを済ませており、いつものように執務室にあるソファーで寛ぎながら、
「レイさん、お疲れ様でした。
そして大役ご苦労様でした」
と玲を労った。そしてセラスティナから預けていたビデオカメラを渡され、退席後にロメロ5世との会話の件を2人に話した。
「まあ、確かにね、あの2人なら、
その点を徹底的に突いてきて、
ヴェラ王女の正当性を
否定しかねないわね」
とセラスティナが意見を述べたように、誰でも思いつく問題であった。だが、もし万が一ヴェレニエラが子供達と共にロムリアに帰還することになった場合、その点は公にされるため、果たしてその後どうなるのか想像できないのだが、尤も玲としてはそこに深く関与する気は全くない。後はロムリア市民が決めることでしょう、であった。その後、3人は、軽く飲み直そうとのエンペラールの提案を受け入れて、セラスティナがワインとつまみを用意して、晩餐会であった出来事を話しながら日付が変わるまで談笑した。そんなとき、エンペラールが、少し酔い気味ながら、こんなことを口にした。
「レイさん、絶対私を男に変えた奴を
見つけ出してよね!!」