召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 最終日 (前編)
最神玲のロムリア滞在もいよいよ今日が最終日となる。セラスティナによってロムリアに召喚された初日は、惑星サモナルドの重力の影響でほぼ1日中ダウンしていた。何とかその日の夜には起き上がるまでに回復したものの、車椅子での移動を余儀なくされた。そんな玲も、今は普通に生活が出来ようになっている。勿論飛んだり跳ねたり走ったりしても全く問題ない。もしこの調子で地球に戻ったら、陸上競技でそこそこ良い成績が残せるんじゃないか、と変なことに期待したりした。だがもしそんなことをかすみの前で口にしようものなら、「玲、あんた、オリンピックにでも出たいんか?」などとって来ることは目に見える。そして冗談でも「そうだねー」などと言おうものなら、次の日からかすみの本格的なトレーニングと言う名のシバキではなくシゴキが待ち受けるだろう。と、そんなことを考えていると、今日がロムリア滞在の最終日であるからだろうか、かすみどうしているかな?となぜかかすみのことが気になってしまう。いかん! ついこんなことを考えてしまうのは、セラスティナに良いようにられてきたせいである。全くあの人は...
朝から訳の分からないことを考えていた時、セラスティナが玲の部屋にやって来た。一瞬、今考えていたことを悟られたか?と警戒したが、何時もの朝食の誘いであったので、玲は彼女と一緒にダイニングに向かった。途中で
「今日でレイ君とは一旦お別れだね」
と寂しそうな表情でセラスティナはそう呟きながら歩き続ける。玲はこの14日間、毎日目まぐるしい忙しさの中で日々を過ごしたが、どんな時も何時も傍にはエンペラールかセラスティナがおり、彼女達の助けが無ければ、ロムリアで安心して生活することは出来なかっただろう。そう思うと彼女達には感謝しかない。そしてそんな彼女達と一緒に過ごしたロムリアでの生活も、今日が最終日となる。そう思うと、何とも離れがたく、そして別れに伴う感を感じたりした。だが、そんな気持ちは胸の中に仕舞っておき、今は
「そうですね、一旦お別れですが、
また直ぐに会えますよね」
と出来るだけ笑顔になってそう口にした。
「でもそう言えば、地球の正確な日付が
よく分かりましたね?」
と玲は話題を変える意味でセラスティナが正確な地球の時間を把握していたことに、今更ながら思い出して驚いたのであった。それに対し、セラスティナは左腕に嵌めている腕時計を玲に見せながら、
「これはね、地球時間で
時を刻んでいるのよ。
だからそれで分かったのよ」
ちなみに、この時計は自動巻きなので、電池交換不要で、自分が動いている間は勝手に充電して時を刻み続けるのよ、と言うことを玲に説明した。ちなみに今の時間は、ロムリアは朝の8時、パリの時間は午前11時前後だという。そうすると、日本は18時位になるようだ。だが日付はと言うと「今日が地球では8月15日みたいね」であった。確かにサモナルドの方が1日の時間は地球よりも少しだけ長く、そのためサモナルドで14日滞在しても、地球では少し伸びて15日になったということである。もっとも、地球への帰還に関して玲としては別に急ぐ必要はないのだが、確か美土路神社の神職の夏休みが16日までだったので、今日のうちに帰還できれば、日本での仕事には十分間に合うことになる。何だか、仕事第一主義のサラリーマンになった気分の玲であった。
玲は、エンペラールとセラスティナと共にする最後の朝食を済ませた後、「いよいよあの召喚術を試しませんか?」と2人に提案した。勿論、2人に異存はない。むしろエンペラールは今か今かと待ち侘びていたようだ。ただし、どこで召喚を試みるかは結構重要となってくる。玲が候補として見つけた3種類の召喚術、あれらはどれも「死」や「霊界」を連想させ、ある意味触れてはいけない禍々しさが漂う。そのような召喚術を屋敷の中で行った場合、もし不測の事態が発生しても対処できない、あるいは対処するのに時間がかかるなどの危険性が懸念される。そこで、本来なら何もないところで行うべきなのだが、そのような場所が果たしてあるのだろうか...
「そうね~、該当するところとなると、
ロムリアの裏側のあそこかな~。
セラちゃん、どう思う?」
「そうですね、そこがベストでしょうけど、
今は夜ですし、それに調査隊が入ってますから
気を付ける必要がありますね」
そうだったわね~、残念、とエンペラールが呟くが、セラスティナが
「そうすると、やはり
この屋敷の庭ですかね?」
まだあそこの方が邪魔は入りませんからね、と提案した。エンペラールも「そうね、そうしますか」と言うことで3人は屋敷の外に出ることにした。なお、エンペラールは使用人に対し庭園で大規模な実験を行うため、外に出ない様にと情報端末を通じて連絡を入れた。
「先ずは、 死者の宴”と解釈される
術式から試しますが、
宜しいでしょうか?」
と玲はエンペラールとセラスティナに伝えた。彼女達は緊張からか、黙したままうんと頷く。今3人はエンペラールの邸宅内にある庭園の中程に立っている。庭園と言っても青々とした芝生が広がる芝生広場と言う趣である。そう言えばタチアナのパリの別荘地もこんな感じの芝生広場になっていたけど、ここの庭園を思ってそうしたのかな、と玲は勘繰ったりした。さて、玲はそんなことを思いながらも直ぐに気持ちを切り替えて、ヘキサグラム型召喚門を地面に召喚し、降霊転移に関する術式を記述し、更に”死者の宴”と解釈される古代の召喚文字を真ん中の六角形に記述した。残念ながら言葉として発することが出来ないため、直接書き込んだ。そして最後に「召喚!」と叫んだ。
「......何も出ませんね...」
とはエンペラールの呟きである。だが玲としては、これで終わりとは思っていない。このヘキサグラム型と言い、バレル型と言い、同じ降霊転移に関する術式を重ね掛けすると、違う効果が表れることを知っている。そこで、ヘキサグラム型に更に降霊転移の術式を重ね書きし「召喚!」と叫んだ。すると、何やら召喚門の中から無数の声が響いたかと思うと、辺りに血の匂いが漂い始めた。そして、
「うわわわわ、ななななな、
何か、ででででで、出てきた!」
と玲は叫んだが、エンペラールとセラスティナは、目から何か飛び出すのではと思われるくらいに目を大きく見開いて、そこに現れた物を凝視した。玲が設置した召喚門の中からは、霊体か?それとも死体か?いや、死者と言うべきか?あるいは地球の映画に出てくるゾンビなのか?そのような、要するに生者ではない者達が、次から次へと湧き出てくるのであった。これが降霊召喚であれば単なる霊体が数多く召喚されただけなのだが、念のため玲が手元に石を召喚し、湧き出てきた死体軍団の中に石を投げ込んだ。するとある死体にその石が当り、そのまま手前に跳ね返された。と言うことは、これらは霊体ではなく、まさに死体そのものなのであった。
えっ、これが正解なのか?
と玲は疑問に思うのだが、それよりも、こいつらは敵なのか?それとも味方なのか?何れも直ぐに判断できない。その時、セラスティナがロムリア兵を召喚し、次から次に湧き出てくるゾンビなのか死体なのかの軍団と対峙させた。だが、
「あれ?ロムリア兵が何もしませんが...」
と玲は不思議そうに眼前に広がる光景を眺めていた。召喚したセラスティナ本人も、不思議そうというか怪訝な表情で目の前の光景を見つめていた。もし死体軍団が攻撃を仕掛けて来ればセラスティナの召喚したロムリア兵は応戦するようだが、どうやら死体軍団にはこちらを攻撃する意思はないようだ。ただし、死体軍団は次から次へと湧き出しており、遂には百体を越えるほどになった。だがそれでも湧き出し続けるので、玲は一旦召喚を解除した。すると湧き出していた死体軍団は瞬時に消え去った。
3人は今見た光景が一体何だったのか分からぬまま、暫しその場に立ち尽くしていたが、直ぐに正気を取り戻して今の召喚に関する議論を始めた。
「ねえ、レイさん、あれらは一体
何のために出てきたのでしょうか?
何かを守るためですかね」
「うーん、エンペラールさん、
僕にも分かりませんが、
こちらを攻撃する意思は
感じませんでした」
「そうすると、私が召喚した
ロムリア兵みたいな傭兵
ということでしょうかね...」
と三者三様に考えても直ぐには結論は出てこない。だが、傭兵と言う意見は何となくしっくりする。ただし、
「こちらの命令に従うのであれば、
まさしく傭兵でしょうけど...」
と言うことで、玲は今一度同じヘキサグラム型召喚門を設置して、死体軍団を呼び出した。そして玲が「その場で停止しろ」と口頭で命令するが、どうも従う気配はない。となると、予め命令を召喚言語に追加するのかと思ったりするのだが、そうなると傭兵としては使い勝手が悪すぎる。やはり口頭で命令して動いてくれないと困る。そんなときにエンペラールが
「あっ、ねえねえ、もしかして
古代語で命令しないと
ダメなんじゃな~い?」
との意見を口にした。それは十分にあり得ると玲は即座に理解した。ただし、ここに居る3人は誰も古代語を喋れない。そのため、再び召喚を解除することにした。
「古代語での命令が必要かに関する調査を
エンペラールさんとタチアナさんに
お願いすることになりますが、
宜しいでしょうか?」
と玲は2人の意見を聞くことにした。勿論彼女達は、是非こちらで調べてみる、という了解を得たので、玲はこの術式を彼女達の召喚の書に書き込んでおいた。結局、1つ目の召喚術は、成功とも失敗とも言えず、後はエンペラールとセラスティナに古代語による指示が可能かどうかを確認してもらうことになった。