召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 最終日 (中編)
次に試す召喚術は、”魂の門を叩く者”と名付けられる術式である。
「では次の召喚をしますよ!」
と最神玲の合図で、”魂の門を叩く者”による召喚が行われた。残念ながら最初の召喚では何も起きない。恐らくヘキサグラム型は外側の6つの枠の中に書かれる召喚言語を最低1回は重ね書きしないと機能しないようなのだ。そして重ね書きしてから再び玲が「召喚!」と叫ぶと、今度は機能した。ただし、
「うわわわわわわ、ま、周りが、
何も見えませんが......
エンペラールさーん、タチアナさーん、
そこに居ますかー?」
と玲は大声でそう呼びかける。それに対しエンペラールは玲の直ぐ傍で、
「私はここに居ますよー!」
と返事を返した。セラスティナも同様に返事よこした。どうやら3人共に元の場所から動いてはいないようだ。だが、
「一旦解除しますね」
と玲が叫び「召喚解除」と宣言した所で、彼らの周りを覆っていた猛吹雪が突然止んだ。そう、玲が召喚を叫んだ直後、召喚門の中から突然何かが噴き出したかと思った途端、視界が奪われたのだ。しかも単に何も見えなくなるだけでなく、冷たい雪の粒が3人を襲ったのだ。そのため玲達3人は、雪の粒で全身覆われて真っ白である。まるでネオエベレスト山の山頂にいるかのような錯覚を覚えた。この召喚術の目的は一体何なのだろうか?早速3人による検討が始まった。
「この猛吹雪が単に目くらましであれば、
少なくとも冷気は必要ない気がしますが」
と玲が感想を述べた。
「そうね。そして冷気があることで
体温が奪われ、やがては死に至る...」
とセラスティナは何か考え込んでしまい、そのまま黙ってしまった。もしかしてネオエベレストの山頂での出来事をまた思い出したのだろうか。
「ねえねえ、これをもし長時間
続けれたとしたら、
私達多分凍死しちゃうわよね」
と想像しただけで寒気で体が震え出したのか、エンペラールがブルブルと震えていた。玲は、何となく、エンペラールの言うことが正解な気がしたのだが、ではこの術式の使い方はどうすべきなのだろうか?
「例えば追っ手から逃れるための
術式だったとか、かな~」
とエンペラールが何気なくそう呟くが、それなら転移すれば済むのではないかとセラスティナが口にした。だが、
「でもね~、セラちゃん、
あの当時、もし転移がまだ
見つかってないとか、
一般的でなければ...」
この術式は非常に有用だったのではな~い?とエンペラールはそう指摘した。
「そうですね、僕もエンペラールさんの
言うことが真実かなと思ったりしますね」
と玲も同意した。確かに今のロムリアであれば、この術式はあまり意味をなさないようだが、地球に住む玲としては、もしかして何か違うことに利用できないか?と考え出していたのだ。それこそ、目の前からいきなり転移するのではなく、この術式で目くらましをしてから転移するなどが考えられた。とりあえず、2つ目の術式は今の自分にとっては何かしら役に立ちそうというのが玲の印象であった。
さて、いよいよ最後の術式の調査に移ることにした。 命脈を絶つ鎖”と言う意味を持つ召喚術である。玲はヘキサグラム型召喚門を地面に設置した。そして召喚門の中心の六角形の中に 命脈を絶つ鎖”を意味する術式を記述し、「召喚!」と叫んだ。当然周囲の降霊転移門に相当する術式を重ね書きしていないため、何も起こらない。そこで重ね書きをしてから、再び「召喚!」と叫んだ。すると、
「ちょっと、ちょっと、今度は何なのよー!」
とエンペラールが悲鳴に近い叫び声をあげたが、その原因は召喚門の中の様子が変化したためである。今3人の目の前の地面には黒い亀裂が走りだした。そしてその亀裂からが立ち上るのを目にした。そして亀裂が徐々に口を大きく開き出すに従い、中から巨大な手のようなものが現れた。すると突然、その手がエンペラールに襲い掛かり、不意を突かれたエンペラールがその手にがっちりと捕まえられてしまった。「先生!!」とセラスティナが叫びながらエンペラールに捕まろうとするが、セラスティナの手は空を切った。そして、巨大なその手はエンペラールを捕まえたまま亀裂の中に戻ろうとした。玲は急ぎ「召喚解除!!」と叫ぶと、亀裂とその手が瞬時に消えた。そして捕まえられていたエンペラールが空中で支えが無くなったため、下に落下して来たのだが、玲が急ぎ落下地点でエンペラールを無事キャッチし、そのまま尻餅をつくものの、何とか事なきを得たのだった。ただし、エンペラールは魂が抜けたように放心状態となり、その場で何やらブツブツ言い始めた。あれ?もしかして打ちどころが悪かったのか?と心配になる玲であるが、どうやらそうではなく、あの手に何やら心当たりがあるようで、そのことを只管呟いていたのだった。
「あっ、あっ、あっ、
あれ、あれ、あれは...」
「先生! しっかりして下さい!!」
「あ、あれは......
ヴォ、ヴォルニウスの手だ、手だー!」
とエンペラールは叫んだ。だが玲はヴォルニウスの手なる存在を聞いたことは無い。そこでセラスティナの方を振り返って尋ねようとしたところ、セラスティナも目を見開いたまま動きを止めて固まっていた。そして「ま、ま、まさか、そ、そ、そんなことが...」とエンペラール同様ブツブツと言い出したのだ。かすみだったら「あかん、これメッチャやばいやんか!!」となってマキザッパを召喚して正気に戻すようにシバキにかかるのだが、玲はそんな手荒な真似はしないし、そこまで深刻に考えてはいなかった。だが彼女達の様子に変化が見られず、やはり事態を正確に把握するには、エンペラールかセラスティナに正気に戻ってもらい説明してもらうしかない。仕方ない、かすみ方式でいくか、と玲は腹を括って、マキザッパを召喚してエンペラールとセラスティナをシバキにかかった。すると先ずエンペラールが正気に戻り、続けてセラスティナも何とか我に返った。この時の玲は「何だろう、このマキザッパのシバキ、凄くないか!!」と言う感想を持った。そして彼女達から驚くべき話を聞くことになったのだ。
「レイさん、あそこに現れた手はね、
ヴォルニウスと呼ばれる
霊界の門番が持つ手
と言われるものなのよ」
とエンペラールが先ず口にした。そしてその後をセラスティナが補足したのだが、
「そのヴォルニウスの手は、
人を災いに導くとか陥れると
ロムリアでは昔から
言い伝えられているのよ」
と言うのだが、
「そしてね、その言い伝えの始まりは、
実は古代文明の頃からではないか、
と言われているのよ」
要するにサモナルドの古代人が、召喚したあの手が霊界の門番であるヴォルニウスと思い込み、それが後世にそのまま伝えられたのではないかと、玲は推測した。差し詰め、地球の日本であれば、「閻魔大王の手」と言う感じだろうか?何れにしても、ロムリア人からするとあの手は人々を恐怖に陥れる存在であるようだ。そして玲としては、今のところこの「手」の使い道は見当もつかない。もしあの「手」に捕まえられた人が霊界に引きずり込まれたら、多分そのまま死を迎えるだろう。一方、自分やかすみであれば、霊界から降霊転移門経由で生還することができる。そして
もし万が一人を霊界に送るんだったら、
バレル型の降霊転移門を
そのまま開ければ済むけどな
である。つまりどう考えても、玲にとっては全く使い道が見当たらない召喚術なのであった。
さてこうなると、一体あの石板にはどの召喚術式が描かれていたのか、ますます分からなくなってきた。言い換えると、全ての術式が何となく当てはまるというべきであろう。例えば最初に召喚を行った 死者の宴”は、外敵の侵入に対し防御する手段として死体軍団を召喚したのではないか、という推測は十分に現実味を持つ。特に見つかった場所の特性から、洞窟の入口にあの軍団を召喚して外敵に対峙させれば、一定の防御効果は期待できる。そして、”魂の門を叩く者”については、溶岩への対策としては何となくだがあまり期待が持てないものの、洞窟の最奥部で見つかった温泉、もしあれがもっと高温であり、しかもそれが溢れ出て街まで至るとなった時、”魂の門を叩く者”による猛吹雪はその侵入を防いでくれる、あるいは温度を下げくれるという期待は持てそうであった。
そして最後の”命脈を絶つ鎖”に至っては、絶望的な状況に陥った街の人達が、楽にあの世に行けるのであれば、と考えてあの方法を選んだとしても、分からなくもない。でも何となくだが、効率が悪い気もする。それよりも、洞窟の入口に設置すれば、勝手に侵入者を霊界に連れて行ってくれる、と言う方がまだしっくりくる。でも何れの場合でも、何となくだが非効率な気がしなくもないのだった。今ではヘキサグラム型にしろ、バレル型にしろ、霊界に行く方法が分かっているが、当時、そのようなことが分からない状況であったとしたら、ヴォルニウスなる霊界の門番に頼んで連れて行ってもらう、と言う考えは出てきても不思議ではないのかもしれない。
玲はこれらの考えを推測を基に導いたが、エンペラールもセラスティナも特に異論を挟むことは無かった。いや、もしかして何かしら意見をする元気が無かったと言い換えた方が正確だろうか。ただ、エンペラールは最後に、
「レイさんの召喚術は、
本当に凄まじいインパクトを
与えてくれますね~」
これが恐らく彼女達の答えではないかと思われた。擦り切れて一部解読できない石板から、短期間でこれらの術式を導いた玲と言うかカーンフェルトの底力に脱帽したと言っても言い過ぎではないだろう。