召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 最終日 (後編)
さて、最神玲とエンペラール、そしてセラスティナの3人は、最後の最後に強烈な召喚術談議を行い、幾つか宿題が残ったものの、満足の行く成果を得て、充実した時間を過ごした。その後3人は、一旦エンペラールの執務室に戻り、暫し休憩することにしたのだった。
「ところでレイ君、
何時に帰る予定にしているの?」
とセラスティナに尋ねられた玲は、
「そうですね、こちらで夜以降であれば、
日本には午前中に帰り着きそうです」
と言うことで、それまではフリーとなった。その後玲は一度自室に戻り、帰り支度をすることにした。来るときも大荷物だったが、帰りも同じくらいの大荷物となっていた。ただし、帰りの荷物にはかなり特殊な物が含まれているのだが。例えばアーティファクトの作成で不可欠な金の地金を10キロ程持ち帰ることにしていた。勿論地球に帰ってから売ることは出来るが、そこまで玲は金に困ってはいない。それから自分とかすみ、そして神室霊華用に古い型の情報端末を譲り受けたが、これは人体スキャナーで使用するためである。そしてその人体スキャナーは、本体については創成召喚で召喚可能だが、人体組織を作るには専用の素材が必要となる。それを一式持ち帰ることにしていたのだが、重量は20キロ程になっていた。一応セラスティナから人体スキャナーと情報端末の使い方は伝授してもらったので、多分大丈夫だと思っている。まあ、念のためその時の模様はウェアラブルカメラにも録画しておいたので、後で確認することにしている。それと王宮晩餐会で来た衣装は入れたが、ブーツはそのまま履いて戻ることにした。後は地球残留組に宛てたプレゼントなどになる。まあ、でかいリュックサックにほぼ一杯になったが、何とかこれだけであれば背負って持って帰ることは出来ると踏んでいる。
とりあえず荷物の整理が終わったので、一旦部屋の外に出てエンペラールの執務室に向かうことにした。扉を開けて中に入ると、エンペラールとセラスティナが何やら腕組みをしながら難しい顔をして下を向いた状態で佇んでいた。その目線の先を見ると、何やら両手で持てるサイズの箱が置いてある。
「エンペラールさん、タチアナさん、
どうしたのですか?」
と玲は彼女達に尋ねた。そしてその箱に近づくと、箱の表にはロムリア王家の紋章が刻まれていた。そう、その箱の中身は、ロメロ5世から玲に宛てた餞別であった。
「も、もしかして、僕宛てに
王室から贈られた物でしょうか?」
と玲は恐る恐る尋ねたが、エンペラールが、「そのようね」と一言呟くだけだった。えっ、まさかこれを持って帰れじゃないよね、と半信半疑になる玲だが、実はそのまさかであった。とりえず、玲が自分で開けないと話が進まないので箱を開けることにした。すると中から、王家の紋章が刻まれた衣装を始め、何やら高価な品々が収められていた。うわー、これ全部持って帰るのは無理なんですが、と誰にともなく玲は愚痴を零すが、セラスティナが、
「まあ、無理しなくても、
ここに置いておいても問題無いわよ」
と言ってくれたので、玲も少し気持ち的に楽になった。ただし甘えてばかりはいられないので、
「一応、この箱を手に持って
召喚解除してもらうことにします。
もし問題無ければそのまま持ち帰りますし、
駄目だったら、タチアナさんの申し出に甘えて、
暫くここに置かせてください」
とセラスティナにお願いした。セラスティナは頷きながら、「うん、それでいいわよ」と言ってくれたのでとりあえずその計画で実行することにした。その後、ランチはどこに行きたいかを玲は尋ねられたので、やはり大好きな塩ラーメンを食べたくなり、再びホアンの店に行くことにした。今回はエンペラールもセラスティナもラーメンを啜りながら食べており、しっかりと塩ラーメンを堪能して楽しい時を過ごしたのだった。
それからエンペラールの私邸で最後の召喚術談議をしつつ、3人で楽しい時を過ごした。そして暫くした時、再び王室からの届け物がエンペラールの執務室に通じる転移門から送られてきた。ただし、単に荷物の配達だけでなく、そこには王室からの使者が付き添っていた。そして、
「こちらの品は国王ロメロ5世から、
ヴェレニエラ王女への
贈り物になります」
と玲は使者から直接ヴェレニエラへの贈り物を手渡された。玲は
「確かに預かりました。
こちらはヴェラ王女にしかと届けます」
と言って手渡された贈り物のその重さが少し気になったりしつつ、使者を丁重に見送った。そして使者が転移門から消えてから、改めて手渡された贈り物を眺めてみた。大きさと言い重さと言い、これって、
「短剣か何かでしょうかね~?」
と玲は何気なくエンペラールとセラスティナに向かってそう呟いた。だが、彼女達は答えない。なぜならそれが何なのかが分かっており、それを彼女達が口にすることはられるためである。それは、ロムリアの皇太子だけが持つことを許されている短剣であった。玲はそんなことを知る由もないが、本人も何となくだが開けるのは憚られると思ったので、それを手にしたまま自室に戻りリュックの中にしまい込んだ。
そして再び執務室に戻ると今度は新たな客人がエンペラールと話し込んでいた。あっ、お邪魔だったかな、と思い急ぎ部屋を出ようとした玲に対し、後ろから「レイさん、ちょっと待ってね」とエンペラールの声がしたので、そのまま振り返って部屋に留まった。そこには、初日に会った軍事部門のトップであるカステリアルその人が立っていたのだ。あの時も何かしらの思惑がありそうと感じたのだが、彼女の口から思いもよらぬ言葉が飛び出したのだ。
「レイモカミ師、自分を地球に
召喚してもらえないだろうか?」
えっ、冗談でしょ?と玲はぽかんと口を開けながらそんなことを呟いたようだが、どうやらカステリアル本人は至って真面目であった。そしてエンペラールはと言うと、少々、いやかなり困惑気味な表情を浮かべていた。とりあえず、なぜ地球に行きたいのかについて理由を尋ねた。すると、
「恐らく、軍事技術というか
軍隊の質としては、
地球の軍隊には敵わないと思っています。
そんな地球の軍隊について、
自分は少しでも何かを学べればと
考えた次第です」
と玲の目をしっかりと見つめながらそう説明した。何となく、覚えてきた言葉をそのまま口にしている感じがしなくもないが、でも恐らく彼女の言葉に嘘は無いだろうとも感じた。そして、うーん、どうしたものかと考えてしまった。確かに地球の軍隊は、恐らくロムリアの軍隊よりかなり強いと思われる。だが、ロムリアの軍隊には召喚術師がついており、そして転移を扱える。これは恐らく地球の軍隊が束になっても敵わないような強力な武器になると思われるのだが、それよりも多分、兵士と兵装に関する質の向上そのものに重きを置きたいようだ。まあ、玲自身、軍隊云々には最早興味はないのだが、かと言ってカステリアルの申し出を断るのも気が引けた。玲としては、別に何人召喚しても召喚エネルギーとしては全く問題ないので、後はその人の動機と言うか覚悟と言うか、それ次第なのだが。そしてエンペラールもセラスティナも、この件に関しては何も関与できないため、結局は玲が自分で決める必要がある。そこで幾つか条件を提示することにした。
「分かりました。僕としては
召喚することは問題ありません。
ただですね、幾つか守ってもらう
ルールがありまして...」
例えば街中で武器等の使用禁止と自由に転移が出来ないことの理解、そして召喚期間はエンペラールとセラスティナと同等であることを伝えた。勿論短期であれば問題ないことは言うまでもない。それに対する答えは「問題ありません」であった。では後は召喚の手続きに関してだが、エンペラールに脱脂綿を用意してもらい、そこに血液を滴らせた。そして何時もの召喚手続きを行い、召喚時の合図の確認を行った。その後、別室にて血液を採取して玲に手渡すことで、召喚手続きは完了した。なお、
「持っていける物については、
エンペラールさんか
セラスティナさんとご相談ください」
と伝えて、カステリアルを転移門から見送った。うーん、このままだと全ての大臣が来そうな気がする感じですね、と玲はを搔きながらエンペラールとセラスティナにそう愚痴を零した。
「そうなると収拾付かなくなりそうよね~」
とエンペラールが何だか楽しそうにそう呟くのだが、いやいや、こちらの身になってくださいよ、と玲はエンペラールに抗議したのだった。それよりも大臣がある時期全員いなくなったら、ロムリア問題ありですよね?とエンペラールに問い掛けるが、
「まあ、大丈夫よ、そんな簡単に
壊れる街ではないからね」
との答えが返って来た。それよりもそうなる前にやはり帰還した方が良いのかと考え直した玲は、
「何か収拾付かなくなりそうなので、
そろそろ帰還しようかと思いますが...」
とエンペラールとセラスティナにそう伝えた。まさか、まだ早いわよ!とセラスティナから猛抗議を受けるが、なぜか玲の目を見つめながら、
「あっ、そう言うことね!!」
とニヤニヤしながら何やら自分で勝手に結論を見出したようなことを言い出した。玲は首を傾げて不思議そうな表情でセラスティナを見つめるが、
「あれー、レイ君、直ぐにでも
カスミさんに会いたいんじゃないの?」
と予期せぬ答えが返って来たので、玲はあたふたしてしまった。
「い、いいえ、そ、そんなことは
ないですよ、ははは」
と笑って誤魔化そうとするが、時すでに遅し。エンペラールも、「あらー、そうなのねー、大事な人が待っていたんでしたっけねー」と追い打ちをかけてきた。こうなると女性陣の結束力が強くなり、玲はどうにも逃れることはできなくなったのだった。
そんなことがあったりして、でも少し早いが帰還することにした。そしてエンペラールとセラスティナがそれぞれの血液の入った小瓶を玲に渡しながら、
「じゃあ、ロムリアの半年後、
地球の一年後にまた会いましょうね!!」
と言葉をかけられ玲も、
「はい、お二方は必ず召喚しますので、
ご安心ください」
勿論、ロメロ5世とカステリアルさんもですが、と口にした。そして玲は、彼女達の血液の入った小瓶を専用の箱に入れてリュックサックに仕舞った。それからエンペラールとセラスティナに対し、長期滞在に対するお礼を言ってお互いにハグをし、それから王室から贈られた箱を両手で持った。そしてセラスティナが
「じゃあ、レイ君、また後でね」
と言ってから
「召喚解除!」
と宣言した。すると、玲の姿はその場から消えていった。そして玲が手に持った箱は、そこに残されることなく彼と一緒に消えていった。
「あぁー、いっちゃいましたねー、
何だか凄く寂しいですが...」
とセラスティナが目に涙を溜めながらそう呟くと、エンペラールもやはり同様に、目に涙を溜めていたようで、
「そうねー、レイさんって
不思議な方でしたけど、
でも半年後にはまた会えますからねー」
それまで楽しみに待ちましょうよ、ね、セラちゃん?とセラスティナに言葉をかけた。
それから30分程すると、エンペラールの情報端末に連絡が入った。どうやら科学技術部門の大臣のタランダールからであった。エンペラールが通話を行うと、どうやら彼も地球に召喚して欲しいという要請であったのだが、「ごめんなさいね、タランダール師、レイさんはたった今地球に戻られましたよ」と告げると、三次元スクリーン上の彼は肩を落としてがっかりしていた。
こうして最神玲のロムリア滞在は幕を閉じたのだった。
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玲は無事地球に帰還した。彼が戻って来た所は、召喚された時と同じ場所、フランス中部にあるタチアナの別荘内のリビングである。フランスは今、午後7時辺りである。フランスはまだ外が十分に明るいため、ロムリアに居るのかと錯覚しそうだが、明らかに違う点が
「うわー、めっちゃ、体が軽いぞ!!」
であった。そう、ここが地球であることを玲は文字通り体で感じていたのだった。そして彼の両手には、ロムリア王家から贈られた品々を収めた箱を手にしていた。
「この箱だったら召喚出来たんだ...」
何やら感慨深そうに両手で持った箱を眺めているが、どうやら段ボールのような紙とは全く異なる素材で出来ているようだ。何となく革で作られている印象だが、何れにしても今度自分が向こうに召喚される時は、これを使うのもありだな、と考えたりした。そんなことを考えている場合ではなく、とりあえず早く日本に帰りたい玲は、そのまま美土路神社の神職用住宅に転移した。
日本は丁度日付が8月16日に変わったばかりの真夜中である。何時もの自分の部屋に転移した玲は、とりあえず手に持っている箱をベッドの上に置き、背負っている重たいリュックサックを足元に置いた。そして電気をつけて部屋の様子を眺めると、「あー、帰って来たんだー」と懐かしさを感じながらそんな感想を口にした。「あっ、そうだ、かすみを起こそう」と言うことで白猫のにくたまを1匹召喚し、直ぐにかすみの部屋に転移させた。それから10分程すると、扉をノックする音が聞こえたので、玲は鍵を開けた。そこにはパジャマ姿で寝ぼけ眼のかすみが立っていて、
「れ、玲、お帰り!!いつ帰ったん?」
と囁くような声でそう尋ねてきた。あれ?何時もだったら、先ず廊下を走って来て、勢いよく扉をノックするけどどうしたんだろう?と疑問を感じた。とりあえずかすみを中に入れてベッドに座らせて話を聞くことにしたが、
「玲の机の上にメッセージ
書いといたんやけど、見てへんの?」
と聞いてきたので、玲は急ぎ振り返って机の上をみた。そこにはA4のコピー用紙に
[今、隣の部屋に華蓮ちゃんが
来ているから、静かにしてや!]
と書かれていた。ん?華蓮?誰?と玲の頭の中では幾つもの「?」が立ち上っていた。そしてかすみに「華蓮ちゃんって誰?」と尋ねると、かすみは怪訝な表情になり「はぁー?あんたな、華蓮ちゃん忘れたんか?」と小声ながらも玲に対し抗議して来た。だが玲はどうしても思い出せないため、最後は両手を広げてお手上げポーズをしてしまった。かすみは仕方なく
「うちの従妹の神薙華蓮ちゃん。
どや、思い出したか?」
玲も漸く思い出した。だが、なぜ彼女がここに泊まっているのか?それをかすみに尋ねると、かすみは次のような事を話し始めた。